自然エネルギーが日本に普及した社会を予想する 再エネ先進国の事例を踏まえて

再エネが普及した未来を予想する

現在世界中で普及が進みつつある、いわゆる自然エネルギーが日本に普及した場合の社会について、研究論文や最先端の報告書のレビューを踏まえて

1)いま普及が進んでいる自然エネルギーの種類
2) 自然エネルギーの普及による社会への影響と電力供給の仕組みの変化
3)国内外における自然エネルギーの普及状況

といった3つの視点から予想します。

 

1)自然エネルギーとはそもそも何なのか

石炭・火力発電所は世界の経済成長を発展させてきた基盤であった一方、エネルギー枯渇問題の懸念や地球環境、それに温暖化への負の影響が懸念されています。そのような中、代替エネルギーとして地球環境への影響が少ないとされる再生可能エネルギー、ゼロエミッションエネルギー、自然エネルギーというキーワードが普及・浸透してきました。これらの言葉は、既に新聞で見かけない日がないほどにメジャーな単語になっています。

現在では232もの文献で引用されている自然エネルギー電力に関する基盤情報を提供する論文の著者であるUlleberg氏は1998年に発表した自身のその著名な論文の中で「エネルギーは再生可能ではないので、私は自然エネルギーというキーワードの方が好きだ」*1と主張しています。

主張の内容は議論の余地があるとして、“自然エネルギー”は“再生可能エネルギー”と似通っているキーワードとして位置付けられています。実際に、Google の検索エンジンで”再生可能エネルギー”は約 9,670,000 件の検索結果が表示される一方、”自然エネルギー”は約 5,320,000 件の検索結果が表示され、その差は約半分です。

Ulleberg氏は自然エネルギーについて、自然現象を駆動する、もしくは活性化するエネルギーとして定義しており、電力の動力資源としては太陽光(光・熱)、水力、風力、バイオ、波力、地熱を列挙しています*1。要は自然界で得られる動力や動植物等の生物資源をエネルギー源とする電力を「自然エネルギー」という文言で集約できそうです。

 

2)自然エネルギーの普及による社会への影響と電力供給の仕組みの変化

自然エネルギーが普及した社会を予想するに当たって、再生可能エネルギーの国際論文誌で最も引用数の多い論文誌の一つであるRenewable and Sustainable Energy Reviewsで発表されたEllabban氏らの論文では、一般的な自然エネルギーの普及が社会に与える影響について、バイオマスを例に以下のような環境と経済に対する利点を列挙しています*2

表1 自然エネルギーの普及が社会に与える影響*2

環境的な利点➢    化石燃料や石油製品への依存度の低減とそれに伴う温室効果ガス排出量の削減

➢    スモッグと有毒化学物質の排出量の削減

➢    埋立地が必要とされる廃棄物の使用量削減

経済的な利点➢    比較的安価なエネルギー資源

➢    分散エネルギー源によるエネルギー提供の安定性と信頼性や価格安定性

➢    農村地域における雇用機会の創出

➢    技術の輸出機会の創出

➢    未利用バイオマス資源の利用

バイオマス発電については、間伐更新や補植等の緑地管理だけでなく、緑地更新による若い植物の葉緑体活性度合いの向上などによってさらなるCO2吸収量が得られる*3*4といった環境への利点も影響します。これらの利点はコベネフィット(相乗便益)になります。

上述したように、Ellabban氏らは既存電力ではこれまでに経済的な理由から電力供給地域になり得なかったような地域でも、自然エネルギーであれば分散型エネルギー源としての電力供給地域になり得ると述べています*2

したがって、電力供給の仕組みが集中型から分散型になります。これによって、火力発電所や原子力発電所等の集中型のリスクとされてきた、震災による広域への電力供給がストップしてしまうような可能性が大きく改善されます。

また、農村地域が分散型エネルギー源になることで、雇用機会や地域コミュニティの創出に繋がります。また、これまで放棄されていた樹林の土地利用も、バイオマス発電への資源供給が可能になることで、未利用バイオマス資源の利用に繋がる効果も期待できるでしょう。

再エネ先進国に学ぶ

先に述べたような利点は、実際に自然エネルギーをリードしている国々の様子からうかがい知ることができます。

3)国内外における自然エネルギーの普及状況

The Climate Reality Projectはノーベル平和賞を受賞したアル・ゴア米元副大統領が議長を務め、米議員や著名研究者、活動家が委員を構成する非営利団体で、2015年から気候変動への対策の実施結果について年次報告書を作成して公表しています。

The Climate Reality Projectの「最新の再生可能エネルギーをリードする11カ国」と題されたレポートでは、以下の11カ国に特筆すべき国として再生可能エネルギーの普及達成状況を列挙していますが、内容としては全て、再生可能エネルギーというよりはむしろ自然エネルギーの達成状況を示しています5*

表 最新の再生可能エネルギーをリードする11カ国と自然エネルギー普及の政策目標・達成状況*5

政策目標・達成状況
スウェーデン2015年、スウェーデンは2040年までに国境内で化石燃料を発電から排除するという野心的な目標を掲げ、太陽光、風力、エネルギーストレージ、スマートグリッド、クリーンな輸送への投資を増やし、スウェーデン人は世界で最初の100%再生可能な国になるためのレースに参加することを挑戦することを明言しています。
コスタリカそのユニークな地理的条件と環境へのこだわりのおかげで、コスタリカは過去4年間で水力、地熱、太陽光、風力で電力供給の95%を発電することを達成しました。2021年までに完全にカーボンニュートラルになることを目指しています。
ニカラグア2012年にニカラグアは、再生可能エネルギーの開発にGDP比で5番目に高い割合の投資を実施しました。2020年までに電力供給の90%を「再生可能エネルギー」で発電することを目指しており、エネルギー源の大半は風力、太陽光、地熱などの自然エネルギーによる発電です。
スコットランド風力発電がスコットランドの電力供給の98%の発電を達成しました。
ドイツ2018年前半に「再生可能エネルギー」で発電した電力が、一年間の全家庭部門分の電力を生産することを達成しました。2030年までに「再生可能エネルギー」から電力の65%を得るという野心的な目標も設定されました。
ウルグアイ約10年に及ぶ努力の末、2012年に電力供給の40%、2015年には電力供給の約100%(94.5%)を自然エネルギーで電力供給することを達成しました。
デンマーク国の電力供給の半分以上を風力発電と太陽光発電で賄っています。2017年において、電力供給の43%が風力発電で発電されました。国は2050年までに100%の化石燃料フリーを目指しています。
中国2017年に、世界で投資された「再生可能エネルギー」の投資額のうち45%が中国へ投資され、その結果、太陽光発電と風力発電の自然エネルギー電力が大量に導入されました。2030年までに「再生可能エネルギー」から電力の35%を発電し、大気汚染を浄化することを公約しています。
モロッコ世界最大の集光型太陽光発電所が完成間近です。それに伴う風力および水力発電所により、2020年までにモロッコの電力の半分を供給すると予想しています。
米国2014年には2分30秒ごとに新しい太陽エネルギーシステムが設置され、設置済み太陽光発電容量としては世界で5位になりました。アメリカはまた中国に次いで世界で2番目に高い設置済風力発電を保有しています。
ケニアケニアは現在、地熱発電で電力供給の約半分を賄っています。2010年ではわずか13%の供給率でした。さらにグリッドに接続されたアフリカ最大の風力発電所(310MW)を投資しています。

どの国も政府によって、いわゆる自然エネルギーの普及支援策が大きな役割を果たしていることもありますが、自然エネルギーの普及率は日本と比較して非常に高い水準にあります。

例えばウルグアイでは約10年に及ぶ努力の末、2012年に電力供給の40%、2015年には電力供給の約100%(94.5%)を自然エネルギーで電力供給することを達成しました5*

ウルグアイでは2)で述べたような社会が形成されている国として、日本における未来を反映していると考えられます。

例えば英The Guardian紙によると、ウルグアイでは国政において、自然エネルギーを普及するための明確な意思決定とそれを支える規制環境が形成されています。これにより国外からの信頼も次第に厚くなり、行政と民間の強力なパートナーシップが形成され、巨大な自然エネルギーへの投資を受ける国へと発展しました。その結果、分散型電源が実現すると同時に、各州にて巨大な雇用を生み出す産業へと自然エネルギー産業が発展しています6*

2012年時点で、ウルグアイの全供給電力に占める自然エネルギーの割合は40%でした。環境エネルギー政策研究所の自然エネルギー白書(2017年度版)によると、日本の自然エネルギーによる電力供給はエネルギー供給のうち14.8%であり、ウルグアイ以上の努力と年月が必要になることが想定されます7*

しかし同時に、国家レベルの努力によって、日本においても自然エネルギーが大きな産業となる可能性は、十分に考えられるでしょう。

そして自然エネルギーが国内外からの投資基盤となり、分散型エネルギー源によるエネルギー提供の安定性と信頼性、価格安定性の向上も期待できます。

また農村地域における雇用機会の創出、技術の輸出機会の創出、未利用バイオマス資源の利用等の経済的なパラダイムシフトを創出するといった、経済的な利点を社会にもたらす可能性も十分に秘めています。

さらに、温室効果ガス排出量・スモッグ・有毒化学物質の排出量・埋立地の削減といった、地球環境へフレンドリーな社会を形成することができるなど、その施策はわたしたちに十分な勇気を与えてくれるものになるでしょう。

再エネ先進国に学ぶ

実はアジアでも、再エネに成功している国があります。それはどこだと思いますか?

4)日本の近くにも

欧州に比べるとあまり着目されていませんが、実はモンゴルでは2020年に遊牧民世帯の100%を太陽光パネルで電力供給する国家プログラムを実施しており、2013年時点で既に84.1%を達成しています8*

モンゴルの遊牧民は太陽光パネルで発電した電力を車用のバッテリーに充電し、衛星放送や携帯電話の使用をしながら、遊牧で育てている家畜を食し、その糞を乾燥させて燃やすことで熱源として生活している自立型の生活を営んでいます9*

自然の脅威も念頭におく必要がありますが、この理想的なスローライフは成田空港からたった5時間の距離にある近隣諸国の遊牧地において実現しています。自然エネルギー100%の社会を達成するためには様々な課題がありますが、まずは「自然エネルギー100%の社会は作れる」と私たち自身が信じて、そのためにどのような具体策が必要か考えることが重要なのではないでしょうか。100%自立型のライフスタイルが、日本にとっても遠い世界ではないことを、上に挙げたモンゴルの遊牧民をはじめ、世界の様々な地域での取り組みと結果が示しています。


図1 モンゴル遊牧民のゲルにおける太陽光パネルの設置例(出典:著者撮影)

 

言葉の定義について

●自然エネルギー:Ulleberg氏の定義。自然エネルギーもしくは資源を動力として得た電気、電力。

●再生可能エネルギー:自然エネルギーを含む、再生可能なエネルギー。基本的には引用先で再生可能エネルギーと表現しているものは「再生可能エネルギー」と表示しておりますが、Climate Reality Projectの引用で調査した結果明らかに自然エネルギーとわかるものについては「自然エネルギー」と表記しています。

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参照・引用を見る

1.Ulleberg, O. (1998). Stand-alone power systems for the future: optimal design, operation & control of solar-hydrogen energy systems. NTNU, Trondheim, Norvège, 225.

2.Ellabban, O., Abu-Rub, H., & Blaabjerg, F. (2014). Renewable energy resources: Current status, future prospects and their enabling technology. Renewable and Sustainable Energy Reviews, 39, 748-764.

3.Law, B. E., Goldstein, A. H., Anthoni, P. M., Unsworth, M. H., Panek, J. A., Bauer, M. R., … & Hultman, N. (2001). Carbon dioxide and water vapor exchange by young and old ponderosa pine ecosystems during a dry summer. Tree Physiology, 21(5), 299-308.

4.国土交通省(2011)低炭素都市づくりガイドライン
&lt; <a href=”http://www.mlit.go.jp/common/001023624.pdf”>http://www.mlit.go.jp/common/001023624.pdf</a>&gt;

5.The Climate Reality Project. (2019)
&lt; <a href=”https://www.climaterealityproject.org/blog/follow-leader-how-11-countries-are-shifting-renewable-energy”><u>https://www.climaterealityproject.org/blog/</u>follow-leader-how-11-countries-are-shifting-renewable-energy</a>&gt; 2019年3月30日閲覧

6.The Guardian (2015) Uruguay makes dramatic shift to nearly 95% electricity from clean energy
&lt; <a href=”https://www.theguardian.com/environment/2015/dec/03/uruguay-makes-dramatic-shift-to-nearly-95-clean-energy”><u>https://www.theguardian.com/environment/2015/dec/03/uruguay-makes-dramatic-shift-to-nearly-95-clean-energy</u></a>&gt;

67.環境エネルギー政策研究所(2017)自然エネルギー白書2017 1.2 日本と世界のエネルギー
&lt; <a href=”http://www.isep.or.jp/jsr/2017report/chapter1/1-2″><u>http://www.isep.or.jp/jsr/2017report/chapter1/1-2</u></a>&gt;

8.Yembuu, B. (2016). Mongolian Nomads: Effects of Globalization and Social Change. In <em>Everyday Knowledge, Education and Sustainable Futures</em> (pp. 89-105). Springer, Singapore.

9.鈴木勲. (2003). モンゴル風と太陽の旅. 風力エネルギー, 27(2), 95-98.

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