環境負荷が非常に大きいアパレル産業 世界と日本が始めた対策とは

シーズン毎に目まぐるしく品揃えを変える衣服。
ライフスタイルによっては、その流行に合わせて次々と衣服を買い替えることも珍しくはありません。
しかし、衣服の生産と消費には多大な環境負荷が掛かっており、衣服を次々と変えるライフスタイルをこのまま続けていくことはできません。

今回の記事では、衣服の生産と消費による環境汚染について解説すると共に、持続可能なファッションに向けた様々な取り組みについてご紹介します。

繊維産業による環境汚染

繊維産業は、衣服の素材となる繊維の生産から衣服の製造、販売までを行う産業ですが、その過程や消費から廃棄までの間に生じる環境汚染が問題となっています。

そのCO2排出量は、石油産業に次いで第2位と報告されており、世界全体の温室効果ガスの8~10%を生み出しています。[*1, *2]
それらは、主にアジアに集中する衣類の製造部門から排出されており、石炭や天然ガスなどで作られた電気や熱を利用していることが原因の一つとして挙げられています。
そして、このような生産プロセスが見直されない限り、繊維産業の温室効果ガス排出量は、2030年までに50%近く増大すると報告されています。[*3]

繊維産業は、世界の水問題にも大きな影響を与えています。
この産業では、毎年9,300億立方メートルの水が使用されており、それは500万人の生存を可能にする量です。[*3]
特に染色段階の水使用量が多く、1トンの生地を染色するのに1〜25万リットル(1m3=1000リットル)もの水を必要とします。(下表)
それに伴う廃水の量も莫大で、全世界における廃水の20%を生み出しています。[*2]


図1:ベトナムにおける染色の水使用量(1m3=1000リットル)
*出典:環境省「ベトナム繊維産業の環境問題ー機会と課題ー」(2013)
https://www.env.go.jp/air/tech/ine/asia/seminar/files/H251220/2_VT.pdf p15

また、衣服は、生物由来の天然繊維や石油を主な原料とする化学繊維を素材としていますが、これらの繊維に起因する環境問題も生じています。

化学繊維に特有の環境問題

ポリエステルやナイロン、アクリルといった主要な化学繊維は、そもそもプラスチックからできています。

そのため、プラスチック対応の焼却炉で燃やさないと、人体に有害な物質が発生することがあります。
また、生分解性ではないものが多く、埋め立てた際に中々分解されないことも問題です。[*4]

さらに、化学繊維は繊維片として剥離しやすく、洗濯槽一杯分の化学繊維の衣類の洗濯によって、約70万個の微小繊維(マイクロファイバー)が流出します。
その一部が排水処理施設で捕捉されず、近年問題視されているマイクロプラスチックによる海洋汚染の一因となっています。[*5]

なお、下図は、マイクロプラスチックが海洋で微細化して化学物質を吸着した後、海洋生物によって捕食される様子が示されています。
化学繊維は、微細化の過程を経ることなく海洋へ溶け込み、海洋生物によって捕食されます。
そして、化学物質が吸着したマイクロプラスチックは、海洋生物を通して人の口に入る可能性があります。


図2:海洋生物がマイクロプラスチックを捕食する様子
*出典:経済産業省「プラスチック資源循環の推進に向けた汎用プラスチック代替素材・再生材市場等の調査」(2020)
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000053.pdf p62

天然繊維に特有の環境問題


図3:コットンの原料となる綿花
*出典:国際連合広報センター「「持続可能なファッションのための国連アライアンス」とは?」(2019)
https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/33203/

しかし、化学繊維だけでなく、実は生分解性の天然繊維も、その生産過程で環境を汚染しています。
最も身近なコットンは、その原料である綿花の栽培において大量の水を必要とし、たくさんの化学薬品を使用します。

綿花栽培では、Tシャツ1枚分で約2,700リットル、ジーンズ1本分で約7,500リットルの水が必要です。[*3, *6]
これは、人間が一日生活するのに最低限必要な量である20リットルで換算すると、それぞれ135日分と375日分になります。[*7]

また、近年減少傾向にあるものの、化学薬品の使用量が多いことも問題です。
2008年の報告では、綿花栽培の栽培面積は麦や米などを含めた全耕作地の2.5%に過ぎないにも関わらず、農薬は世界の使用量の6.8%に及び、特に殺虫剤は世界の使用量の15.7%に達しています。[*8]

持続可能性を模索し始めた世界のファッション


図4:持続可能な開発目標(SDGs)
*出典:外務省「持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた日本政府の取組」(2018)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo/18_hakusho/topics/topics03.html

このような状況を受け、国連は2019年、持続可能な開発目標(SDGs)にファッション部門も加えるべく、「持続可能なファッションのための国連アライアンス」を立ち上げました。
このアライアンスでは、衣料だけでなく、皮革や履物などの産業も含むファッション業界全体が対象で、原材料の生産や製品の製造、流通、消費、処分に至るまでの幅広い範囲がターゲットです。
アライアンスは、SDGsの12番目の目標「つくる責任・つかう責任」はもちろん、6番目の目標「安全な水とトイレを世界中に」、CO2排出量の削減を目指す13番目の目標「気候変動に具体的な対策を」を中心に、全てのSDGsの目標に関わります。そして、温室効果ガスの排出量削減や水質汚染の改善、廃棄物の削減などに向けた取り組みを後押しすると共に、労働者の作業条件・環境に関係した社会問題の解決も目指しています。[*2]

同様の危機感から、世界的なファッション関連企業43社が名を連ねる「ファッション業界気候行動憲章」が発表されています。
その中では、2030年までに温室効果ガスの排出量を30%削減することなどを約束すると共に、2050年までに廃棄物を完全循環させ、CO2排出量を正味でゼロにする「ゼロ・エミッション」を達成するというビジョンが盛り込まれています。[*9]

個々の企業も、持続可能性の原則を事業戦略に取り入れ、環境問題の解決を目指した取り組みを始めています。
具体的には、衣料品を回収する制度を導入して再利用やリサイクルを行えるようにした企業や、ペットボトルからジャケットを生産したり廃棄タイヤから靴を作ったりしている企業などが挙げられます。[*3]

また、フランスでは、ファッションを持続可能なものとするための国を挙げた取り組みが進んでいます。
2019年には、衣料品などの売れ残りの廃棄処分を禁止する法律を制定し、在庫や売れ残り品のリサイクルや寄付を義務付けることを発表。非食品の在庫の廃棄を世界で初めて規制することを決定しました。[*10]
また、化学繊維が原因で生じるマイクロプラスチックの汚染対策となる法律も整備しています。
その法律の中では、2024年までに新規洗濯機へマイクロプラスチックの捕捉フィルターを取り付けることが義務付けられています。[*11]

日本国内の持続可能なファッションへの取り組み

日本でもファッション関連企業の複数社がファッション業界気候行動憲章への参加を表明しています。

また、独自に持続可能なファッションへ向けた活動に取り組んでいる企業もあります。
例えば、日本のアパレル製造小売最大手は、製造を委託している取引先工場の労働環境や環境対策に配慮するため、各工場のモニタリングを実施してその結果を公表。
透明性を確保することで、エシカル(倫理的)な生産に取り組んでいます。[*12]

化学繊維の中で最も生産量が多いポリエステルのリサイクルに取り組んでいる企業もあります。
この企業は、ペットボトルや衣料品に含まれるポリエステルのみを溶かし出して精製し、石油から新規生産した樹脂と同品質のポリエステル樹脂を製造する技術を持ちます。(下写真)
さらに、企業と消費者とで連携し、中古衣類を回収するプロジェクトも開始。繊維製品を廃棄せず、完全循環させる取り組みを行っています。[*12]


図5:衣料廃棄物(左)とそのリサイクルによるポリエステル製のTシャツ(右)
*出典:内閣府大臣官房政府広報室「古着をリサイクルする新たな技術」(2020)
https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202008/202008_03_jp.html

自治体による取り組みも始まっています。
日本有数の繊維織物の産地である福井市が、市内の繊維産業を環境低負荷産業へシフトさせるための取り組みを2020年から開始しています。
同市は、大学等の学術機関と連携して生分解性繊維やリサイクル繊維を開発すると共に、水を使わない染色技術の開発にも着手。
エシカルファッションといった高付加価値の製品への応用を進めます。[*13]

持続可能なファッションのために消費者・生産者ができること

しかし、日本は衣服消費に伴うCO2排出量が1人当たり約270kgと最も多い国で、その量は世界平均である約50kgの約5倍にもなります。[*14]

また、容器包装や家電などのリサイクル法が整備されている中、繊維を対象とするリサイクル法は現状ありません。
それを反映してか、衣服のリユース・リサイクル率は20%程度(下表)と、ドイツの回収率80%に比べると極めて低い水準に留まっています。[*15, *16]


図6:衣料廃棄物のリユース・リサイクルの割合
*出典:国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) 「衣類の消費と廃棄・循環の実態と課題」(2010)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mcwmr/21/3/21_140/_pdf p13

このような現状を変えていくためには、様々な取り組みに併せてファッションについての文化そのものを転換することが必要となります。

まず、ファッション業界は、国連が述べているように、衣服の頻繁な買い替えと廃棄を促すビジネスモデル「ファストファッション」からの転換が必要です。[*3]
さらに、上述した企業の様々な取り組みを進めていくと共に、リサイクルしやすい製品の開発なども着手していかなければなりません。

このような生産者の動向に合わせて、消費者も流行によって服を変えるファッション文化を転換していかなくてはなりません。
それは、3Rのリデュースに対応しますが、リサイクルとリユースのさらなる実践も行っていく必要があります。
具体的な取り組みとしては、例えば、不要な服のリサイクルが挙げられます。
日本では現在、中古衣類を回収してリサイクルする「BRING」プロジェクトが展開されており、多くのアパレル小売店で衣服の店頭回収が可能です。[*12]

そして、日本政府は、フランスで始まっている生産者に廃棄やリサイクルの義務を負わせる「拡大生産者責任」の考えに基づいた規制を考慮する段階に来ています。
それは、衣類の価格にリサイクルコストが上乗せされることを意味しますが、持続可能なファッションのためには必要不可欠なものとなる可能性があります。

 

\ HATCHメールマガジンのおしらせ /

HATCHでは登録をしていただいた方に、メールマガジンを月一回のペースでお届けしています。

メルマガでは、おすすめ記事の抜粋や、HATCHを運営する自然電力グループの最新のニュース、編集部によるサステナビリティ関連の小話などを発信しています。

登録は以下のリンクから行えます。ぜひご登録ください。

▶︎メルマガ登録

\ 自然電力からのおしらせ /

かけがえのない地球を、大切な人のためにつないでいくアクション。
小さく、できることから始めよう!

▶︎ぜひ自然電力のSNSをフォローお願いします!

Twitter @HATCH_JPN
Facebook @shizenenergy

参照・引用を見る
  1. 学校法人駒沢大学「衣服のサステナブル経営」(2019)
    https://www.komazawa-u.ac.jp/~kazov/2020/present/A-sogo-sustainable.pdf p3
  2. 国際連合広報センター「「持続可能なファッションのための国連アライアンス」とは?」(2019)
    https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/33203/
  3. 国際連合広報センター「国連、ファッションの流行を追うことの環境コストを「見える化」する活動を開始」(2019)
    https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/32952/
  4. 日本化学繊維協会「「化学せんい」は、環境にやさしいの?」
    https://www.jcfa.gr.jp/about_kasen/kids/kodomo_hyakka/page06.html
  5. 一般財団法人環境イノベーション情報機構「フランス環境省、洗濯機のマイクロプラスチック汚染対策のため洗濯機メーカーと会合」(2020)
    https://www.eic.or.jp/news/?act=view&serial=43579&oversea=1%20?iframe
  6. World Wildlife Fund (WWF)「The Impact of a Cotton T-Shirt」(2013)
    https://www.worldwildlife.org/stories/the-impact-of-a-cotton-t-shirt
  7. 独立行政法人 国際協力機構(JICA)「世界の水問題」(2007)
    https://www.jica.go.jp/publication/monthly/0711/pdf/01.pdf p23
  8. NPO法人 日本オーガニックコットン協会「綿花栽培に農薬はどれほど使われているのか?」
    http://joca.gr.jp/column7/
  9. 国際連合広報センター「ファッション業界、画期的な気候行動憲章を発表」(2019)
    https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/32117/
  10. 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)「非食品の売れ残り製品の廃棄禁止法案を準備(フランス)」(2019)
    https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/06/2474b881a7206ca6.html
  11. 一般財団法人環境イノベーション情報機構「フランス環境省、洗濯機のマイクロプラスチック汚染対策のため洗濯機メーカーと会合」(2020)
    https://www.eic.or.jp/news/?act=view&serial=43579&oversea=1%20?iframe
  12. 経済産業省「繊維産業の課題と経済産業省の取組」(2019)
    https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/fiber/pdf/190116seni_kadai_torikumi.pdf p112-113
  13. 内閣官房内閣広報室「地域再生計画」(2020)
    https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/tiikisaisei/dai5501nintei/plan/a283.pdf p4-6
  14. 国連広報センター ブログ「ファッション発―気候変動への取り組み ~1人当たりの衣服消費に伴うCO2排出量が最大の国、日本で私たちに何ができるのか~」(2019)
    https://blog.unic.or.jp/entry/2019/09/18/171025
  15. 国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) 「衣類の消費と廃棄・循環の実態と課題」(2010)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/mcwmr/21/3/21_140/_pdf p12-13
  16. 一般社団法人 日本繊維機械学会「循環型社会と繊維」(2012)
    http://tmsj.or.jp/labo/recycle/data/01.pdf p14

メルマガ登録