エネルギーを見える化する「ポテンシャルマップ」は再生可能エネルギー普及につながるのか?

2022年に入り、電力が不足しているとの報道が相次ぎ、企業や家庭にも節電要請が出されました。

これは、老朽化した火力発電所が休止中であることが原因の一つです。

さらに、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻により、発電の燃料となる石炭・石油やLNG(液化天然ガス)の調達がままならないことも影響しています。

そんな中、電力供給の柱として期待されているのが再生可能エネルギーです。石炭・石油はその99%以上を輸入に依存しているほか、発電時に大量のCO2を排出します。

世界中が脱炭素に向けて動き出している今、CO2排出量の少ない再生可能エネルギーはその重要性を増しています。

しかし、再生可能エネルギーは自然の力を利用するため、地域ごとにエネルギーの産出量が異なるという特徴があります。

この地域ごとの再生可能エネルギーに関する潜在能力をまとめたものを、「再生可能エネルギーのポテンシャルマップ」といい、国や自治体がマップを作っています。

今回はこのポテンシャルマップがどのように使われているのか、また、再生可能エネルギー普及にどのように貢献しているのか解説していきます。

 

再生可能エネルギーの特徴

世界中が脱炭素に向けて動き出している中、再生可能エネルギーは一段と知名度を上げていますが、ここで改めて再生可能エネルギーの特徴について簡単に解説します。

再生可能エネルギーは、太陽光・風力・水力・地熱・太陽熱・大気中の熱その他の自然界に存在する熱・バイオマスなど、エネルギー源として永続的に利用できるものを指します[*1]。

再生可能エネルギーは自然の力を利用しているため、化石エネルギーにはない特徴があります[*2, *3, *4]。

  • 温室効果ガスを排出しない。
  • 国産のエネルギー源であるため、エネルギー自給率の改善にも寄与することができる。
  • 再生可能エネルギーで作られた電力は送電網・配電網に空き容量がないために系統接続ができず長距離運搬できない。

再生可能エネルギーは脱炭素や日本のエネルギー自給率改善にも貢献できますが、地域によってエネルギー産出量が異なるため、向いている地域とそうでない地域があります。

 

再生可能エネルギーの地図・ポテンシャルマップ

前述の通り、再生可能エネルギーはどこでも「採れる」わけではありません。

例えば太陽光パネルを設置する場合は、設置予定場所の日射量を事前に確認する必要があります[*5]。

しかし、専門家以外の人が、再生可能エネルギーが「採れる」場所かどうか判断することは困難です。

そこで活用されるのが「ポテンシャルマップ」です。

ポテンシャルマップは直訳すれば「潜在力の地図」という意味です。再生可能エネルギーの適性の度合いを可視化した地図と言えます。

ポテンシャルマップには、再生可能エネルギーを導入する際に参考となる既存情報、留意すべき土地利用規制、配慮すべき環境情報等が掲載されています[*6]。

ポテンシャルマップは一つではありませんが、まずは環境省が公開している再生可能エネルギー情報提供システム「REPOS(リーポス)」を見てみましょう。

REPOSには太陽光、風力、中小水力、地熱、地中熱、太陽熱のそれぞれの電源について、以下の3つのポテンシャルが掲載されています[*7], (図1)。

図1: 再生可能エネルギーポテンシャルメニュー
出典: 環境省「サイトの目的と概要」
https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/22.html

  • 賦存量

技術的に利用可能で、推計時点において利用に際し最低でも得られるエネルギーの大きさ(kW)または量(kWh等)です。設置可能面積、平均風速、河川流量等から理論的に算出することができます[*7]。

  • 導入ポテンシャル

各種自然条件・社会条件を考慮したエネルギーの大きさ(kW)または量(kWh等)です。再生可能エネルギーがたくさん採れる可能性があっても、土地の傾斜、法規制、土地利用、居住地からの距離等の理由で採取・利用に制約が存在する場合があります。このような制約を考慮した値です[*7]。

  • 事業性を考慮した導入ポテンシャル

事業性を考慮したエネルギーの大きさ(kW)または量(kWh等)です。推計時点のコスト・売価・条件を設定した場合に、投資によって得られる利回りが一定値以上となり事業として成り立つのかが考慮されています[*7]。

再生可能エネルギー導入を検討する場合、エネルギー量以外にも地域情報や環境情報にも注意を払う必要があります。

また、洪水が発生しやすい地域や地盤がゆるい地域も導入は難しくなります。

REPOSの場合、再生可能エネルギー導入の際に考慮すべき地域情報・環境情報が可視化されており、ハザードマップとも連携表示が可能です[*8]。

さらに、ポテンシャルマップとは別に地域脱炭素化支援ツールも準備されており、地方公共団体が行う脱炭素事業の計画や再生可能エネルギー関連計画等の支援も行っています[*8]。

ポテンシャルマップを有効活用すれば、効率的に再生可能エネルギーの導入が進められるでしょう。

 

地方自治体も取り組む再生可能エネルギーの「見える化」

環境省が提供するポテンシャルマップ「REPOS」以外にも、自治体が独自につくるポテンシャルマップも存在します。

ここでは、いくつかの事例をご紹介します。

<東京都>

東京都では地中熱のさらなる導入拡大を目的として、都内における地中熱の採熱に必要な配管の長さや有効熱伝導率等の分布状況「東京地中熱ポテンシャルマップ」を公開しています[*9], (図2)。

図2: 東京地中熱ポテンシャルマップ
出典: 東京都 環境局「東京地中熱ポテンシャルマップ」
https://www3.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/

地中熱の累計設置件数は年々増えているものの、認知度としてはあまり高くありません[*10], (図3)。また、地中熱を利用するためには専門知識が必要になるため、一般的なエアコンと比較すると、地中熱を利用したエアコンは設計が難しく採用されにくいことが課題となっています[*9]。

図3: 地中熱ヒートポンプシステムの累計設置件数(年度による集計)
出典: 環境省「令和2年度地中熱利用状況調査の集計結果」
https://www.env.go.jp/content/900517214.pdf, p.3

そこで東京都は建物種別ごとに必要な配管の長さや本数、放採熱量の分布図をポテンシャルマップとして公開することで、設計者が空調を検討する際のサポートを行っています[*9]。

 

<長野県>

長野県は、環境保全や地球温暖化防止のために、建物の屋根での太陽光発電・太陽熱利用を推奨しています。この取組は「信州の屋根ソーラー普及事業」として実施され、事業の一環として「信州屋根ソーラーポテンシャルマップ」が公開されています。

信州屋根ソーラーポテンシャルマップは、県内の建物ごとに太陽光発電・太陽熱利用のポテンシャルを示しています。

このマップは建物ごとに屋根のポテンシャルを確認できるため、自宅、事業所等の小規模な再生可能エネルギーの導入に役立っています[*11]。

図4: 信州屋根ソーラーポテンシャルマップ
出典: 長野県「信州屋根ソーラーポテンシャルマップの使い方」(2022)
https://www.pref.nagano.lg.jp/ontai/kurashi/ondanka/shizen/solar-map/tsukaikata.html

 

<佐賀県>

佐賀県も東京都と同じく地中熱のポテンシャルマップを公開しています。一般的な戸建て住宅、医療福祉施設、屋内運動施設(体育館)、農業用ビニールハウスの4つのタイプの施設に分類して、それぞれの地中熱ポテンシャルを公開しています[*12], (図5)。

農業向けのポテンシャルマップを公開しているのは農業が盛んな佐賀県ならではと言えるでしょう。

図5: 佐賀平野の地中熱ポテンシャルマップ
出典: 佐賀県「佐賀平野の地中熱ポテンシャルマップを作成しました」(2020)
https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00369057/index.html

 

再生可能エネルギーの普及は「見える化」がカギ

再生可能エネルギーに限らず、エネルギーは目に見えません。そのエネルギーの所在を可視化したものがポテンシャルマップです。

例えば地中熱を導入する場合、ポテンシャルマップを活用すれば、一般的な一戸建てで、設置費が約100万円コストダウンできるとの報告もあります[*13]。

再生可能エネルギーを「見える化」することでこれだけの効果を得られるのであれば、活用しない手はありません。

ポテンシャルマップで調べてみると、自分が住んでいる土地にも隠れたポテンシャルが存在することに気がつくかもしれません。

2021年には、地球温暖化対策の推進に関する法律が改正されました。その中で、市町村は地域脱炭素化促進事業の対象となる区域(促進区域)を定めることが努力義務とされています[*8]。

再生可能エネルギー導入の低コスト化に貢献できるポテンシャルマップの活用事例が、今後さらに増えると予想されます。

 

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参照・引用を見る

*1
e-Gov「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=421AC0000000072

*2
資源エネルギー庁「再生可能エネルギーとは」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/outline/index.html

*3
ENEOS株式会社「水素キャリア製造技術(Direct MCH®)」
https://www.eneos.co.jp/company/rd/intro/low_carbon/dmch.html

*4
資源エネルギー庁「再エネをもっと増やすため、『系統』へのつなぎ方を変える」(2021)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/non_firm.html

*5
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO 標準気象データベースの解説書」(2015)
https://www.nedo.go.jp/content/100778067.pdf, p.1

*6
環境省「再生可能エネルギー導入ポテンシャルマップ データ公開の目的と概要」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/rep/index13.html

*7
環境省「再生可能エネルギー情報提供システム『REPOS(リーポス)』サイトの目的と概要」
https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/22.html

*8
環境省「再生可能エネルギー情報提供システム(REPOS) に係る利用解説書」(2022)
https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/doc/usermanual.pdf, p.4, p.58, p.59, p.60

*9
東京都 環境局「東京地中熱ポテンシャルマップ」
https://www3.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/

*10
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「地熱発電と地中熱:普及拡大に向けた取り組み」
https://www.nedo.go.jp/nedoforum2015/program/pdf/ts9/4/shuji_namatame_0309.pdf, p.21

*11
長野県「信州屋根ソーラーポテンシャルマップ」(2021)
https://www.pref.nagano.lg.jp/ontai/kurashi/ondanka/shizen/solar-map.html

*12
佐賀県「佐賀平野の地中熱ポテンシャルマップを作成しました」(2020)
https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00369057/index.html

*13
日本経済新聞「佐賀の地中熱 空調に活用、県が『見える化』マップ」(2019)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46505980U9A620C1LX0000/

 

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