資源循環型の豊かな社会をつくる「バイオマス」

資源循環型の豊かな社会をつくる「バイオマス」

地球規模の環境問題や資源枯渇の危機、そして東日本大震災に伴う福島第一原発の事故の発生などを背景に、自然エネルギーへの注目が集まっています。ここでは自然エネルギーの一つである「バイオマス」について紹介し、バイオマス利活用によって実現できる社会の姿を考えてみます。

バイオマスってなに?

バイオマスとは、動植物に由来する再生可能な資源のうち、化石資源を除いたもののことです。一口に「バイオマス」といっても多種多様で分類方法もいくつかあるので、ここでは形態による分類に沿っておもなバイオマスを紹介します。

【乾燥系バイオマス】

水分をあまり含まない、乾燥しているバイオマスです。林地残材や製材廃材などの木質系バイオマス、稲わらやとうもろこしなどの農業系バイオマスがこれに含まれます。

【湿潤系バイオマス】

水分を多く含むバイオマスです。家畜の糞尿、食品廃棄物や水産加工品の残りかす、一般家庭から出る生ごみ、下水汚泥などがこれに含まれます。

【その他】

黒液、廃材、古紙など製紙工場系のバイオマス、廃油などがこれに含まれます。

<図1>おもなバイオマス

*図出典:資源エネルギー庁「バイオマスの分類」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/biomass/index.html

 

バイオマスを燃料とする「バイオマス発電」

これらのバイオマスを燃やし、その際に発生するエネルギーで発電する方法が「バイオマス発電」です。バイオマスは多種多様で、発熱量、比重、含水率、発生形態や発生量などが異なることから、エネルギー利用のためのさまざまな変換技術が開発されており、大きく分けると次のような3つの方法があります。

【直接燃焼法】

バイオマスを直接燃やして水を沸騰させ、水蒸気でタービンを回して発電します。木くずや建設廃材などの木質系バイオマスをはじめ、可燃ごみ、廃油などを燃料として使うことができます。

【生物化学的変換法】

微生物の働きを利用してバイオマスを発酵させ、ガスを生成して発電します。林地残材や建設廃材などの木質系バイオマス、食品廃棄物などの食品産業系バイオマス、稲わらや家畜糞尿など農業廃棄物系バイオマス、下水汚泥などを燃料にすることができます。

【熱化学的変換法】

バイオマスを高温で蒸し焼きにして生成されたガス(通称バイオガス)や液体を用いて発電する方法です。林地残材や製材廃材など木質系のバイオマスを燃料にすることができます。

 

大きな期待が寄せられるバイオマス発電

上記のような「バイオマス発電」には、今、大きな期待が寄せられています。まずはその背景からご紹介します。

深刻さを増す地球の温暖化

18世紀後半の産業革命以降、人類は石炭や石油等の化石燃料をエネルギーに利用するようになりました。これにより私たちの生活は飛躍的に便利で豊かになったわけですが、化石燃料を燃やした際に出るCO2(二酸化炭素)によって、大気中のCO2濃度が急上昇します。その影響で気温や海水温も上昇し、氷河や氷床が縮小するといった「地球温暖化」が深刻さを増してきました。

世界の平均気温は、1880年から2012年の間に0.85度上昇しています(図2)。このまま気温が上昇し続けると、「高潮や沿岸部の洪水」「大都市部への内水氾濫」「食糧不足」「生態系の変化」「熱波による死亡や疾病の増加」をはじめ、あらゆる分野でリスクが増大すると予測されています。

このような環境危機に対して、世界はCO2排出削減に向けた努力を続けています。1997年、日本のリーダーシップで「京都議定書」を採択。先進国のCO2削減目標を明確にしました。2015年には京都議定書の後継となる国際的枠組「パリ協定」が採択され、「21世紀後半に温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスをとる」などの長期目標を掲げました。パリ協定では、先進国だけでなく途上国を含めたすべての参加国にCO2排出削減の努力を求めています。地球温暖化は世界一丸となって早急に取り組まなければならない課題なのです。

<図2>上昇を続ける世界平均気温

*図出典:環境省「STOP THE 温暖化 2015」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/stop2015/stop2015_full.pdf

 

CO2削減につながるバイオマスの利活用

バイオマス発電は、「燃料を燃やして発電する」という仕組みは化石燃料を燃やす火力発電とほぼ同じですが、バイオマスの大元である植物は成長過程で光合成を行い、大気中のCO2を吸収します。この点が大きな違いです。光合成によるCO2吸収量は、燃焼時の排出量とほぼ同等。ライフサイクル全体で見ると大気中のCO2バランスは中立に保たれ、環境に大きな負荷は与えないと考えられています。このような特性は「カーボンニュートラル」と呼ばれ(図3)、バイオマスを利用する大きなメリットです。化石資源への依存を見直してバイオマスを利活用していくことは、CO2の排出削減の貢献となるのです。

また、バイオマスは生物が光合成して作る有機物ですから、地球上に生命がある限り失われることはありません。石油や石炭も生物が生成したものと考えられていますが、これらは何億年もの時間をかけて蓄積されたもの。人類のライフサイクルから見ると、消費し続ければ枯渇してしまいます。持続的に発展可能な社会を実現していくためにも、バイオマスの利活用は大きなカギを握っています。

<図3>カーボンニュートラル

(左図)化石燃料はCO2を排出し地球温暖化を進行させる
(右図)バイオマスは植物が光合成して大気中のCO2を吸収するため、ライフサイクル全体のCO2は増加しない

 *図出典:農林水産省「用語の解説」
 http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h18_h/trend/1/terminology.html

 

日本のバイオマス市場規模は拡大している

日本は国家プロジェクトとしてバイオマスの利活用を進めています。2002年から本格的に関連する法や制度の整備に取り掛かり、「バイオマス・ニッポン総合戦略」を閣議決定。バイオマスの利活用促進と地球温暖化の防止、さらに循環型社会の形成、産業の戦略的育成、農村や漁村の活性化などの実現を目標に掲げました。さらに2009年に施行された「バイオマス活用推進基本法」で、国、地方公共団体、事業者などの責務が明確化されたことを受け、関係府省が連携して、財政、技術、教育、食料、産業、交通など総合的に施策推進を行っています。

そうした流れの中、2012年に始まったのが「固定価格買取制度(FIT)」です。この制度は、バイオマスなど自然エネルギーで発電した電気を国が決めた一定の価格で買い取るよう、電力会社に義務付けたものです。自然エネルギーで発電した電気は、その他の方法で発電された電気よりも高値で買い取られることになったため、バイオマス発電にも多くの自治体や事業者が着手することとなりました。

バイオマス産業の市場規模の変化を見てみましょう(図4)。FIT導入以前の2010年は経済波及効果を含めて約1200億円規模でしたが、同制度を活用した発電を中心に市場が拡大。2015年時点で約3500億円となっています。2016年に作成された「新たなバイオマス活用推進基本計画」では、バイオマスを活用した新たな産業の創出、進展を前提に、2025年に「5000億円の市場」を実現することを目標に掲げています。

<図4>バイオマス産業の市場規模

*図出典:農林水産省「バイオマスの活用をめぐる状況」平成31年4月」
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/pdf/meguji1.pdf

バイオマス発電のメリットと課題
バイオマス発電のメリット

改めてバイオマス発電のメリットを確認しましょう。メリットの一つは、先述の「カーボンニュートラル」。バイオマスを燃料として燃やしても大気中のCO2を増やさない、という特性にあります。

日本は風土や気候がバイオマス発電に適している点も見逃せません。降雨量が多く温暖で、森林も多く、燃料となる木質系のバイオマスは豊富に存在します。また、太陽光や風力などを使った発電方法は天候に左右される可能性がありますが、一定の発電量を供給できるのも強みです。大量生産・大量消費社会への移行によりごみ問題も深刻ですが、廃棄物を燃料にできること、生ごみや家畜糞尿など臭いが発生するものを利用できるなどもメリットです。

一方では課題も

バイオマスは木材、廃棄物、農作物など多種多様ですが、それは「広く薄く存在する」ということでもあり、収集や運搬にコストがかかってしまいます。木質系バイオマスの場合は、林業従事者の高齢化による人手不足で国内での調達が難しく、燃料に適した形状に加工する手間やコストも必要です。また、生ごみ、家畜糞尿など水分を含むバイオマスは、発電効率の面で課題を有しています。

しかしこれらは見方を変えれば、新たなビジネス、技術、雇用を創出する大きな機会となり得るでしょう。

 

バイオマスでエネルギーを自給自足するドイツの村

バイオマスの利活用が進むとどのような社会が実現できるのか。内外の例を紹介します。

ドイツは、化石燃料への依存度の高さ、少子高齢化、地方の過疎化、林業の衰退など日本と似たような課題を抱えていますが、2000年から、集落内のエネルギー供給のすべてをバイオマスで賄うプロジェクト、「バイオエネルギー村」が進行しています。

そうした村の一つであるユーンデ村では、バイオマスで電力と熱を併給する施設と、地域暖房供給施設を稼働させています。併給施設の燃料には休耕地で栽培されるエネルギー作物と家畜の糞尿などが使われ、地域暖房供給施設は間伐材や剪定材などを燃料にしています(図5)。これらのバイオマスはすべて村内で調達可能で、両施設で作った電力と熱は配電網と供給管によって村内各戸に送られ、エネルギーの自給自足を実現しています。このようなバイオエネルギー村は、ドイツ国内に140か所以上(2014年時点)も存在しています。

<図5>バイオマスでエネルギーを自給自足するドイツ・ユーンデ村

 

*図出典:農林水産省「バイオマスエネルギービレッジについて」
http://www.maff.go.jp/j/biomass/b-energy/pdf/houkoku_1.pdf

 

日本のバイオマスタウン、岡山県・真庭市

日本国内でも市町村が中心となってバイオマスの利活用システムを構築する、「バイオマスタウン」の取り組みが行われています。

岡山県真庭市は面積の約8割を森林が占め、古くから林業と製材業が盛んでしたが、高度成長期以降、市の主力産業を取り巻く環境は厳しさを増しています。そこで、自然との共生、資源枯渇の危機などの観点も踏まえ、2005年に「真庭市バイオマスタウン構想」などを策定。バイオマス利活用の本格的な取り組みに着手し、2015年には、未利用材をおもな燃料とする木質バイオマス発電所が本格稼働を開始しました。出力は1万kW。木質バイオマス発電所としては国内最大級で、フル稼働した場合の発電量は一般家庭約2万2000世帯分に相当します。真庭市の世帯数が約1万7000世帯ですから、全世帯の電力を十分に賄うことができる量です。現在は、市庁舎や発電所を中心とする施設などの電力需要を賄い、余剰分は売電されています。また、市内の製材所から出るチップ、おが屑、端材もバイオマスとして利活用されている他、家庭等から出る廃油は車両燃料に、家畜糞尿はたい肥に使われるなど多方面でのリサイクルも進んでいます。

真庭市の先進的な取り組みは内外から注目され、年間約2000人が見学に訪れ、観光客増加にも貢献しています。

 

間伐材の利活用が森を生き返らせる

日本は国土の約3分の2を森林が占める〝森の国〟です。しかしその森が今、危機に瀕しています。木材利用の減少や輸入材への依存、山村の人口減少、林業従事者の高齢化などさまざまな要因が重なり、森林が手入れされずに荒廃しているのです。その結果、CO2の吸収力も弱まり、生態系のバランスも崩れてきています。

わが国の森林のうち人工林は約1035万ha、約40%を占めますが(図6)、人工林は樹木の成長に応じて立木の密度を調節する「間伐」が不可欠です。間伐することで枝葉や根がしっかり育ち、風雪害に強い森林になるのです。また林内に日光が届き、下層植生もよく育つようになります。健やかな森林は多様な動植物を育み、種の多様性が向上するなど、間伐には多くの効果があります。

ただ残念なことに、間伐されても搬出や運搬が容易ではないため森林内に捨てられたまま利用されていない残材もたくさんあります(図7)。バイオマス発電はこれらを貴重な資源に替えることができるのです。

2017年時点で、間伐材など未利用材を主燃料とする設備容量2000kW以上のバイオマス発電所は全国で54件認定され、38件が稼働しています。今後のさらなる拡大が望まれます。

<図6>人工林は日本の森林の約4割を占める

*図出典:林野庁「森林・林業・木材産業の現状と課題」
http://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/ontai/pdf/siryou3.pdf

<図7>未利用間伐材の利活用がカギ

*図出典:林野庁「森林・林業・木材産業の現状と課題」
http://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/ontai/pdf/siryou3.pdf

資源循環型の豊かな社会を目指して

いま私たちには、大量生産、大量消費、大量廃棄のライフスタイルを見直し、限りある資源と豊かな地球環境を次世代に残すために、早急に循環型社会へと移行していくことが求められています。バイオマスは化石燃料に替わりうるクリーンな燃料であり、森林を適切に管理して育てれば半永久的に再生産することができます。また、低質材もエネルギーとして利用できること、さらには廃材ですらエネルギー源となりうる点においても、非常に優れた循環資源です。

循環型社会の形成においては、地域で循環可能な資源はできるだけその地域で循環させることが大切です。輸送の必要がなくなるため、それが経済的にも有効で、環境負荷も小さく抑えることができます。先にバイオマスタウンの例を紹介しましたが、各地域に存在するバイオマスを効率的かつ総合的に利用するシステムを積極的に構築し、全国津々浦々へと広げていくことが、豊かで活力あふれる循環型社会構築の大きなヒントになるのではないでしょうか。

参照・引用を見る

[1]
●資源エネルギー庁「バイオマスの分類」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/biomass/index.html

[2]
●農林水産省「用語の解説」
http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h18_h/trend/1/terminology.html

●資源エネルギー庁「企業のためのバイオマス導入AtoZ」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/new_energy/pdf/baiomasu.pdf

●国立環境研究所「環境技術解説」
http://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=2

●独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
「NEDO 再生可能エネルギー技術白書 第2版」
https://www.nedo.go.jp/content/100544819.pdf

[3]
●気象庁「地球温暖化問題とは」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/p01.html

●環境省「STOP THE 温暖化 2015」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/stop2015/stop2015_full.pdf

●環境省「気候変動の国際交渉」
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/cop.html

●環境省「地球温暖化対策推進法と地球温暖化対策計画」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/domestic.html

●農林水産省「バイオマス・ニッポン総合戦略」
http://www.maff.go.jp/j/biomass/pdf/h18_senryaku.pdf

●同省「バイオマス活用推進基本法(概要)」
http://www.maff.go.jp/kinki/kikaku/baiomass/pdf/gaiyou_091218.pdf

●資源エネルギー庁「固定価格買取制度」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/surcharge.html

●農林水産省「バイオマスの活用をめぐる状況」平成31年4月
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/pdf/meguji1.pdf

[4]
●資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/biomass/02.html#netsu

[5]
●農林水産省「ドイツにおける再生可能エネルギーの発展と課題」
http://www.maff.go.jp/primaff/kanko/project/attach/pdf/120331_23cr04_04.pdf

●NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク「バイオマス白書2014」
http://www.npobin.net/hakusho/2014/trend_01.html

●農林水産省「バイオマスエネルギービレッジについて」
http://www.maff.go.jp/j/biomass/b-energy/pdf/houkoku_1.pdf

[6]
●総務省「バイオマス構想の実現状況等」
http://www.soumu.go.jp/main_content/000102160.pdf

●農林水産省「真庭市バイオマス活用推進計画」
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/b_kihonho/local/pdf/maniwa.pdf

●農林水産省「バイオマスタウン加速化戦略」
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/b_town/council/pdf/bt_senryaku.pdf

[7]
●林野庁
http://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/ontai/pdf/siryou3.pdf

●農林水産省
http://www.rinya.maff.go.jp/j/sanson/kassei/pdf/shishin_s2-1.pdf

●NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク「バイオマス白書2018」
http://www.npobin.net/hakusho/2018/topix_01.html

[8]
●環境省「循環型社会への新たな挑戦」
https://www.env.go.jp/recycle/circul/keikaku/pamph.pdf