再生可能エネルギー導入に向けてどのような支援メニューが提供されている? 事業者や個人が活用できる支援制度をご紹介

2050年カーボンニュートラルの実現に向け、政府は2030年度温室効果ガスの排出量を2013年度と比較して46%削減することを目指しています。目標の達成のためには、企業による脱炭素経営の推進やCO2の利活用など、地域・暮らしを支えるサプライチェーン全体の脱炭素移行が欠かせません[*1]。

特に、再生可能エネルギーの導入促進はさらに求められており、こうした社会的要請を受け、政府は自治体や事業者、個人に対し、補助金や税制優遇をはじめとする支援制度を提供しています。

それでは具体的に、どのような再生可能エネルギー支援メニューが提供されているのでしょうか。本記事では、国や自治体による種々の支援制度および活用例を紹介します。

 

カーボンニュートラル達成に向けた再生可能エネルギーの役割

2050年までにカーボンニュートラルを実現するためには、温室効果ガス排出の8割以上を占めるエネルギー分野における取り組みが重要です。特に、電力部門においては、再生可能エネルギー設備の導入を積極的に進めていくことで、脱炭素化を進める必要があります[*2]。

政府が発表した「第6次エネルギー基本計画」では、2030年度までの温室効果ガス排出削減目標として、2013年度から46%削減することを目指しています。電源構成についても、再生可能エネルギーによる電力の供給割合を大きく引き上げています[*2], (図1)。

図1: 第6次エネルギー基本計画で見直された2030年度における電源構成
出典: 一般財団法人 日本原子力文化財団「日本のエネルギー政策 〜2030年、2050年に向けた方針〜」
https://www.jaero.or.jp/sogo/detail/cat-01-04.html

具体的には、再生可能エネルギーの電源構成を36〜38%程度まで引き上げており、主力電源化を徹底し、最優先に取り組むとしています。

 

再生可能エネルギー導入に係る各種支援制度

再生可能エネルギーの更なる普及に向けては、自治体や再生可能エネルギー事業者、国民一人ひとりによる主体的な取り組みを促すことが不可欠です。

そこで政府は、補助金や税制優遇をはじめとする様々な支援制度を提供しており、それらを「再生可能エネルギー事業支援ガイドブック」に掲載し、情報を一元化しています[*3]。

 

自治体への支援メニュー

ローカルSDGs(地域循環共生圏)実現に向けた支援事業

自治体向けの支援事業としては例えば、「脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業」が実施されています[*4]。

地域循環共生圏とは、各地域が地域資源を最大限活用しながら自立・分散型エネルギーシステムを形成することによって地域でのSDGs(ローカルSDGs)の実践を目指すものです[*5]。

本事業は、再生可能エネルギーを活用した地産地消の自立・分散型エネルギーシステムの構築や、温泉熱等を利活用した発電の導入支援など先導的モデルを創出することを目的としています[*4], (図2)。

図2: 脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業イメージ
出典: 環境省「脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業(一部 経済産業省 連携事業)」
https://www.env.go.jp/content/000097262.pdf

令和元年度から実施されており、既に様々な自治体や事業者が採択を受けて再生可能エネルギー設備を導入しています。例えば、令和2年度に採択された群馬県川場村は、人口減少や村内主要施設の老朽化、村内の経済活性化等の課題解決に向けた取り組みとして、木質バイオマスや太陽光発電などの再生可能エネルギーの自立的・分散的導入を推進しました[*6, *7], (図3)。

図3: 川場村の目指す地域循環共生圏のイメージ
出典: 環境省「川場村新拠点地域の自立・分散型エネルギーシステム構築に係る計画策定事業」
https://www.env.go.jp/press/files/jp/115104.pdf, p.1

具体的には、間伐材を地域内の木質バイオマス発電や木質バイオマスボイラーにおける燃料として活用する林業との連携や、太陽熱や余剰熱を利用する農業施設の設置等を推進しました。

 

地域レジリエンス・脱炭素化の実現に向けた支援事業

脱炭素化と災害等に対する強靭性の向上の実現を目指した自治体への支援事業として、例えば、「地域レジリエンス・脱炭素化を同時実現する公共施設への自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業」が行われています[*8]。

災害・停電時に公共施設へエネルギー供給が可能な再生エネルギー設備等の導入支援を目的とした本事業では、再生可能エネルギー設備のほか、電力と熱を同時に回収し、利用できる「コージェネレーションシステム」や、工場排熱や冷暖房排熱など有効に利用できるにも関わらず利用されてこなかった「未利用エネルギー」を活用する設備等を導入する際の費用の一部が補助されます[*8], (図4)。

図4: 自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業イメージ
出典: 環境省「地域レジリエンス・脱炭素化を同時実現する公共施設への自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業」
https://www.env.go.jp/content/000097260.pdf

令和3年度から実施されている本事業においても、既に様々な自治体が支援を受けています。例えば、岩手県宮古市は、宮古新電力株式会社、NTT アノードエナジー株式会社と連携して、初期費用が不要のオンサイトPPAの仕組みを活用した太陽光発電設備を市内の公共施設に設置しています[*9]。オンサイトPPAとは、需要家が発電事業者から再生可能エネルギーの電力を長期に購入するコーポレートPPAと呼ばれる契約の一形態で、発電設備と同一敷地から配線を介して需要家へ送電するモデルを指します。

 

事業者への支援メニュー

再生可能エネルギー由来の水素活用推進事業

事業者が活用できる支援メニューも多く整備されています。その一つが、水素を地域の再生可能エネルギーから製造し、貯蔵・運搬、利活用することを支援する「脱炭素社会構築に向けた再エネ等由来水素活用推進事業」です[*10], (図5)。

図5: 地域水素サプライチェーン構築事業イメージ
出典: 環境省「脱炭素社会構築に向けた再エネ等由来水素活用推進事業(一部経済産業省、国土交通省連携事業)」
https://www.env.go.jp/content/000097314.pdf, p.2

具体的には、再生可能エネルギー由来の水素を活用した自立・分散型エネルギーシステムの構築支援や、水素需要の拡大につながる設備導入支援をしています。

様々な事業者が支援を受けて実証を行っており、例えば、大阪ガス株式会社は、再生可能エネルギー由来の水素と生ごみ由来のバイオマスを活用したメタネーション(水素とCO2からメタンを合成する技術)による水素サプライチェーン構築・実証事業を行い、東芝エネルギーシステムズ株式会社は、北海道において小水力由来の水素の導入拡大や地域特性に適した水素活用モデルの構築実証を行っています[*11]。

 

法人税等の税制優遇

再生可能エネルギーの導入に伴い、事業者は設備投資を行う必要がありますが、それらは大きな負担にもなりかねません。こうした費用負担の軽減のため、事業者は「地域未来投資促進税制」などの税制優遇を受けることが可能です[*3]。

「地域未来投資促進税制」とは、都道府県による「地域経済牽引事業計画」の承認を受けた事業者が、同計画に従って建物・機械等の設備投資を行う場合、法人税等の特別償却又は税額控除を受けることができるという制度です。

全ての再生可能エネルギーが対象の本税制は、機械装置や器具備品については、原則特別償却40%、税額控除4%を受けることができます。また、建物・附属設備・構築物に係る設備投資に対しては特別償却20%、税額控除2%を受けることができます。

 

個人への支援メニュー

戸建住宅ネット ・ ゼロ ・ エネルギー ・ ハウス(ZEH)化等支援事業

自治体や事業者だけでなく、個人でも再生可能エネルギー導入時に活用できる制度は多くあります。例えば、「戸建住宅ネット ・ ゼロ ・ エネルギー ・ ハウス(ZEH)化等支援事業」です[*3]。

「ネット ・ ゼロ ・ エネルギー ・ ハウス(ZEH)」とは、建築物、設備の省エネ性能の向上や、住宅での再生可能エネルギーの活用等により一次エネルギー消費量が正味ゼロまたは概ねゼロとなる建築物のことです[*12]。ここで言う一次エネルギーとは、自然界に存在しているエネルギー源のことで、石油や石炭などの化石燃料や、太陽光や太陽熱などの再生可能なエネルギーを指します。

戸建住宅を購入する個人が本支援制度を活用でき、太陽熱利用システムや蓄電池等が補助対象となっています。

 

所得税の税制優遇

太陽光発電設備の設置を含む一定の省エネ改修工事を行った場合に、工事費の一定割合をその年の所得税額から控除できる制度があります[*13]。

具体的には、工事に係る標準的な工事費用相当額(上限250万円まで)の10%分を控除することができます。また、250万円を超える額と標準的な工事費用相当額以外の一定の増改築等の費用に要した額の合計額については、5%分を控除(合計の上限1,000万円まで)できるようになっています。

令和5年12月31日まで適用可能な本制度では、窓の断熱改修工事のほか、太陽光発電装置や太陽熱利用システムの設置工事など再生可能エネルギー導入に係る費用も控除対象となっています[*14], (表1)。

表1: 省エネ改修に係る所得税額の特別控除対象範囲

出典: 国土交通省「省エネ改修に係る所得税額の特別控除
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001487615.pdf, p.1

 

自治体が実施する再生可能エネルギー導入支援事業

国からの導入支援のみならず、地域の特性に合わせた自治体による再生可能エネルギーの導入支援も積極的に行われています。

例えば、長野県では、身近な里山資源である薪の更なる普及及び里山の利活用を促進するため、「薪によるエネルギーの地消地産推進事業」を行っています[*15]。

2018年度から実施されている本事業は、県内自治体や事業者が行う地域における薪の需要量調査や薪割機などの購入、普及啓発活動などへの補助を行うもので、既に様々な自治体や団体が薪を活用した地産地消を推進しています[*16]。

例えば、売木村では、若者を中心とする村内在住者から構成される任意団体「うるぎ焚きもんくらぶ」が、森林整備後の林地に残った残材から薪を作り、村内で消費する仕組みを構築しています[*17], (図6)。

図6: 売木村林地残材活用プロジェクトイメージ
出典: 長野県「『ずくだせ 伐りだせ 使いだせ』林地残材活用推進プロジェクト」
https://www.pref.nagano.lg.jp/mokuzai/documents/r02urugi.pdf, p.2

補助金は、薪生産に必要な機材の購入にあてられるとともに、取り組みの普及啓発等に必要な物品の製作・購入に利用されています。また、薪を生産する仕組みづくりとして、安全講習会の実施や先進事例地への視察など、幅広い用途のため補助金が活用されました。

 

まとめ

以上、様々な支援事業を紹介してきましたが、今回紹介した以外にも、令和5年度当初に予算化されている再生可能エネルギー導入等に係る支援事業や各自治体による支援事業は数多くあります。

事業者、個人として再生可能エネルギーの導入等を検討する際には、国や自治体の提供する支援メニューが活用できないか確認してみるのが良いでしょう。

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参照・引用を見る

*1
環境省「エネルギー対策特別会計を活用した環境省の温室効果ガス削減施策」
https://www.env.go.jp/content/000099070.pdf, p.1, p.2, p.3, p.4, p.5

*2
一般財団法人 日本原子力文化財団「日本のエネルギー政策 〜2030年、2050年に向けた方針〜」
https://www.jaero.or.jp/sogo/detail/cat-01-04.html

*3
資源エネルギー庁、環境省「再生可能エネルギー事業支援ガイドブック」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/guide/pdf/guidebook.pdf, p.1, p.115, p.132

*4
環境省「脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業(一部 経済産業省 連携事業)」
https://www.env.go.jp/content/000097262.pdf

*5
環境省「環境省ローカルSDGs~地域循環共生圏づくりプラットフォーム~」
http://chiikijunkan.env.go.jp/

*6
一般社団法人 地域循環共生社会連携協会「令和2年度年度 自立・分散エネ、脱炭素交通事業 公募結果」
https://rcespa.jp/r02tanso_2/r02tanso_2-no1/r02tanso_2-no1-adopt

*7
環境省「川場村新拠点地域の自立・分散型エネルギーシステム構築に係る計画策定事業」
https://www.env.go.jp/press/files/jp/115104.pdf, p.1, p.2

*8
環境省「地域レジリエンス・脱炭素化を同時実現する公共施設への自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業」
https://www.env.go.jp/content/000097260.pdf

*9
岩手県宮古市、宮古新電力株式会社、NTT アノードエナジー株式会社「宮古市公共施設における蓄電池付きオンサイト太陽光 PPA による追加性のある再生可能エネルギー電力の導入開始について」
https://www.city.miyako.iwate.jp/data/open/cnt/3/13837/1/ppa_pressrelease.pdf?20230215144732, p.1, p.3

*10
環境省「脱炭素社会構築に向けた再エネ等由来水素活用推進事業(一部経済産業省、国土交通省連携事業)」
https://www.env.go.jp/content/000097314.pdf, p.1, p.2

*11
環境省「環境省における水素実証事業について」
https://www.expo2025.or.jp/wp-content/uploads/220726_1-7.pdf, p.2

*12
独立行政法人 中小企業基盤整備機構「ZEB、ZEHって何?」
https://j-net21.smrj.go.jp/development/energyeff/Q1188.html

*13
資源エネルギー庁「税制」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/support/business2.html#ze2

*14
国土交通省「省エネ改修に係る所得税額の特別控除
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001487615.pdf, p.1

*15
長野県「『薪によるエネルギーの地消地産推進事業』の募集を開始します」
https://www.pref.nagano.lg.jp/mokuzai/04maki.html

*16
長野県「薪によるエネルギーの地消地産推進事業活動事例」
https://www.pref.nagano.lg.jp/mokuzai/190529makijirei.html

*17
長野県「『ずくだせ 伐りだせ 使いだせ』林地残材活用推進プロジェクト」
https://www.pref.nagano.lg.jp/mokuzai/documents/r02urugi.pdf, p.1, p.2

 

 

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