2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました[*1]。
また、2021年4月には、2030年度に2013年度比で温室効果ガス46%削減を目指すことを表明し、様々な方策や方向性をまとめています[*2]。
例えば、2021年10月に閣議決定された「エネルギー基本計画」では、2030年度の電源構成として再生可能エネルギー導入目標を36~38%としています。そのうち、太陽光は14~16%となっており、この目標を達成するためには、累積導入量を103.5~117.6 GW まで増やす必要があります。
現在、広い土地や住宅の屋根の上に多く設置されている太陽光発電ですが、近年では、駐車場を活用した「ソーラーカーポート」と呼ばれる手法が注目を集めています[*3]。
ソーラーカーポートとは、どのようなものなのでしょうか。導入のメリットや、設置する際の注意点と併せて詳しくご説明します。
ソーラーカーポートの概要
ソーラーカーポートとは
ソーラーカーポートとは、駐車場の屋根を活用して太陽光発電を行うものです[*3], (図1)。
図1: ソーラーカーポートとは
出典: 環境省「駐車場を活用したソーラーカーポートの導入について」
https://www.env.go.jp/earth/solarcarport.pdf, p.1
具体的には、カーポートの屋根として太陽光発電パネルを用いる「太陽光発電一体型カーポート」や、屋根上に太陽光発電パネルを設置する「太陽光発電搭載型カーポート」があります。
ソーラーカーポートの設置主体としては、主に企業や家庭、公共施設など駐車スペースを有する需要家が想定されます。
ソーラーカーポート導入のメリット
ソーラーカーポートには、大きく3つのメリットがあります[*3], (図2)。
図2: ソーラーカーポート導入のメリット
出典: 環境省「駐車場を活用したソーラーカーポートの導入について」
https://www.env.go.jp/earth/solarcarport.pdf, p.2
一つ目のメリットは、駐車場の上部空間を有効活用できるという点です。自動車の日よけになるほか、再生可能エネルギー導入の取り組みが目につきやすいため、企業などの需要家にとってはPRにもつながります。
二つ目のメリットは、再生可能エネルギー自給率のさらなる向上につながるという点です。一般的に太陽光発電パネルは建物の屋根上に設置されますが、駐車場にも導入することで施設全体でより多くの太陽光発電を行うことができるようになります。
三つ目のメリットは、防災性の向上につながるという点です。ソーラーカーポートによって発電した電気を敷地内で自家消費することで、災害時等に停電が発生した場合でも、一定の電気を使用することが可能になります。
都市公園等の駐車場に設置するソーラーガレージとは
ソーラーカーポートのほか、都市公園等の駐車場に設置するソーラーガレージと呼ばれる手法も、その普及が期待されています[*4], (図3)。
図3: ソーラーガレージとは
出典: パナソニック株式会社「都市公園へのソーラーガレージ設置」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20220221/220221energy03.pdf, p.3
現在、都市公園法に基づき、国または地方公共団体が設置する都市公園は全国に11万か所以上存在すると言われています。そのうち、65,000か所にソーラーガレージの設置が可能とされており、ソーラーカーポートと同様に、ソーラーガレージも大きなポテンシャルを有していると言えます[*5]。
ソーラーカーポートの設置規制
「建築物」に該当するソーラーカーポート
ソーラーカーポートは、地上設置型の太陽光発電設備と異なり、建築基準法上の「建築物」に該当します[*6], (図4)。
図4: 建築物に該当するソーラーカーポート
出典: 豊通ファシリティーズ株式会社「ソーラーカーポートの導入と注意点について」
https://www.env.go.jp/earth/20211004env_06.pdf, p.4
また、太陽光発電設備を構成する受変電設備等は、建築基準法上「建築設備」に該当しています[*6], (図5)。
図5: 建築基準法上の用語の定義
出典: 豊通ファシリティーズ株式会社「ソーラーカーポートの導入と注意点について」
https://www.env.go.jp/earth/20211004env_06.pdf, p.5
さらに、ソーラーカーポートは太陽光パネルの下に駐車場用途があるため、危険度が高い「特殊建築物」に該当します。そのため、通常より厳しい規制の対象となることに留意が必要です。
建築物に関連する法規等
建築物に関連する法律や規制、条例、手続きは多岐にわたります[*6], (図6)。
図6: 建築物に関連する法規等
出典: 豊通ファシリティーズ株式会社「ソーラーカーポートの導入と注意点について」
https://www.env.go.jp/earth/20211004env_06.pdf, p.8
例えば、ソーラーカーポートの設置には、基準風速や垂直積雪量、地盤条件等を踏まえた建築基準法上の構造安全性の確保が求められます。詳細は自治体によって異なりますが、例えば名古屋市の場合、垂直積雪量として30cm、基準風速として秒速34mに対応できるソーラーカーポートが要件となっています。
また、ソーラーカーポートは建築物であるため、農地や緑地の保全等が優先され、住宅や商業施設の建築が制限される「市街化調整区域」では原則建てられません。また、主として住居を建築、整備する地域である「住居系用途地域」においても、その規模によっては建築できない可能性があります[*6], (図7)。
図7: ソーラーカーポートを建築する区域等に関する条件
出典: 豊通ファシリティーズ株式会社「ソーラーカーポートの導入と注意点について」
https://www.env.go.jp/earth/20211004env_06.pdf, p.11
このように、ソーラーカーポート設置の際には様々な法規等を遵守する必要があり、申請手続きに関連する業務や費用が需要家の負担になるなど課題があります[*3], (図8)。
図8: ソーラーカーポートの導入を促進するための政府の取り組み
出典: 環境省「駐車場を活用したソーラーカーポートの導入について」
https://www.env.go.jp/earth/solarcarport.pdf, p.2
ソーラーカーポートの導入を促進するため、政府は近年法令等を改正しています。例えば、カーポートに多く用いられているアルミニウム合金造の小規模な建築物については、審査省略制度の対象に追加するなど、手続きの一部簡略化を進めています。
また、杭と基礎が一体化した低コストの杭基礎工法については、建築確認時に基礎がないものと判断される可能性がありましたが、建築基準法上の基礎に該当する旨を明確化しました。
ソーラーカーポート導入事例
オンサイトPPA方式による導入
現在、企業をはじめとして、様々な需要家による自社の敷地内駐車場等へのソーラーカーポート導入が進んでいます。
例えば、プロダクションプリンターやインクジェットヘッド等を生産するリコーインダストリー株式会社は、東北事業所にソーラーカーポートを設置しています[*7]。
同社は、2050年までにCO2排出量をゼロにすることを宣言しており、東北事業所において、更なる取り組みとしてソーラーカーポートを導入しました[*7], (図9)。
図9: リコーインダストリー(株) 東北事業所 ソーラーカーポート
出典: リコーインダストリー株式会社「リコーインダストリー(株)東北事業所ソーラーカーポート導入事例発表」
https://www.env.go.jp/content/000161646.pdf, p.8
2022年2月から運用を開始し、パネル枚数は375枚、CO2削減量は年間約90トンとなっています。また、同設備はオンサイトPPA方式で、需要家の設備投資及びメンテナンス費用がゼロとなっています。
オンサイトPPA方式は、発電事業者が、需要家の敷地内に太陽光発電設備を設置し、所有・維持管理したうえで電気を需要家に供給する仕組みです[*8], (図10)。
図10: オンサイトPPA方式の仕組み
出典: 環境省「初期投資0での自家消費型太陽光発電設備の導入について~オンサイトPPAとリース~」
https://www.env.go.jp/earth/kankyosho_pr_jikashohitaiyoko.pdf, p.1
企業にとっては設置のハードルが低い反面、太陽光発電設備は発電事業者の所有であるため、自由に交換・処分ができないといったデメリットもあります。
自社購入による導入
車載用リチウムイオン電池の製造等を行うプライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社は、2030年までのカーボンニュートラル実現を目指し、加西工場にソーラーカーポートを導入しました[*9], (図11)。
図11: プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社 加西工場 ソーラーカーポート
出典: プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社「工場におけるソーラーカーポートの導入に関する事例発表」
https://www.env.go.jp/content/000194882.pdf, p.7
同設備における太陽光パネル枚数は3,162枚、年間予測発電量は2,100,000kWhとなっています。また、CO2削減効果は年間1,200トン、電力代削減効果は年間5,000万円が見込まれています。
なお、導入にあたり、同社はオンサイトPPA方式か自社購入かを検討した結果、投資回収想定年が短い自社購入での設置を選択しています。
自社での購入の場合、オンサイトPPA方式と異なり、初期投資が大きい、維持管理等への手間と費用がかかるといったデメリットがあります。一方で、発電事業者へのサービス料がかからないため長期的に見ると投資回収効率が良い場合もあり、自家消費しなかった分は売電できるメリットもあります[*8]。
今後の展望
ソーラーカーポート導入には、建築物にかかる法規など様々なハードルがありますが、国による法改正も進むなか、設置する企業も増えつつあります。
また、政府はさらなる普及に向けて、設置への補助も行っており、2024年度、ソーラーカーポートを導入する事業に対して3分の1までの費用を補助する「新たな手法による再エネ導入・価格低減促進事業」を実施しています[*10]。
太陽光発電のさらなる普及に資することが期待されるソーラーカーポート。これを機会に注目してみてはいかがでしょうか。
参照・引用を見る
*1
環境省「カーボンニュートラルとは」
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/
*2
環境省「太陽光発電の導入支援サイト」
https://www.env.go.jp/earth/post_93.html
*3
環境省「駐車場を活用したソーラーカーポートの導入について」
https://www.env.go.jp/earth/solarcarport.pdf, p.1, p.2
*4
パナソニック株式会社「都市公園へのソーラーガレージ設置」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20220221/220221energy03.pdf, p.1, p.3, p.8. p.9
*5
再生可能エネルギー規制総点検タスクフォース「道路・都市公園における再生可能エネルギーの導入拡大に関する提言」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20220221/220221energy04.pdf, p.2
*6
豊通ファシリティーズ株式会社「ソーラーカーポートの導入と注意点について」
https://www.env.go.jp/earth/20211004env_06.pdf, p.4, p.5, p.6, p.7, p.8, p.9, p.10, p.11
*7
リコーインダストリー株式会社「リコーインダストリー(株)東北事業所ソーラーカーポート導入事例発表」
https://www.env.go.jp/content/000161646.pdf, p.3, p.7, p.8
*8
環境省「初期投資0での自家消費型太陽光発電設備の導入について~オンサイトPPAとリース~」
https://www.env.go.jp/earth/kankyosho_pr_jikashohitaiyoko.pdf, p.1, p.2
*9
プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社「工場におけるソーラーカーポートの導入に関する事例発表」
https://www.env.go.jp/content/000194882.pdf, p.3, p.6, p.7
*10
地球環境局地球温暖化対策事業室「環境省補助事業の概要」
https://www.env.go.jp/content/000195973.pdf, p.4