「コモンズの悲劇」とは? 身近な事例を確認し環境問題の本質を再確認しよう

「コモンズの悲劇」とは? 身近な事例を確認し環境問題の本質を再確認しよう

経済社会活動のグローバル化の進展に伴い、地球温暖化や水産資源の乱獲などが、世界全体で問題となっています。

例えば、水産資源は元来人類共通の資源であり、人々は自身の利益を最大化するために自由に獲ることができます。
しかしながら、好き放題に、大量に獲ってしまうと乱獲が引き起こされ、生態系の破壊などに繋がります。

このような事態は、「コモンズの悲劇」と呼ばれており、近年注目を浴びるようになっています。

それでは、コモンズの悲劇とは具体的にどのような考え方で、環境問題とどのように結びつくのでしょうか。
また、環境問題と深く関係するコモンズの悲劇を解決するために、国際社会はどのような取り組みを行っており、私たちは何ができるのでしょうか。

コモンズの悲劇とは

コモンズの悲劇とは、

「誰でも自由に利用できる(オープンアクセス)状態にある共有資源(出入り自由な放牧場や漁場など)が、管理がうまくいかないために、過剰に摂取され資源の劣化が起ること」

を言います[*1]。

1968年にアメリカの生物学者ギャレット・ハーディンが学術誌サイエンスで発表した考え方で、「共有地の悲劇」とも呼ばれています[*2]。

ハーディンは、放牧地という共有地を例に、コモンズの悲劇を論じています。通常、農家は自身の利潤を最大化するために、自由に使える共有地において一頭でも多くの家畜を放牧する選択を取ります。しかしながら、過剰な放牧となることで、共有地が適切に管理されなくなり、結果として全ての農家が共倒れとなってしまいます。

このように、自由に使える共有地では、ルールがない場合、結果として社会全体が不利益を被ることがあるという考え方がコモンズの悲劇です。

水産資源とコモンズの悲劇

コモンズの悲劇として、放牧地における畜産を挙げましたが、コモンズの悲劇は環境問題とも大きく関連することがあります。そこで今回は、水産資源の乱獲と地球温暖化という2つの環境問題について見ていきましょう。

国内外の水産資源の乱獲の現状

環境問題に発展するコモンズの悲劇の例として一つ目に、水産資源問題があります。海や川は基本的には共有地であるため、漁師が自由に魚を獲ることができます。そのため、ルールがない共有地では、乱獲に繋がることがあります。

実際、1950年代から1990年代にかけて世界の天然の漁獲量はおよそ2000トンから9000トン近くまで増加しましたが、それ以降は頭打ちとなっています(図1)。
図1: 世界の水産物漁獲量
出典: 世界自然保護基金ジャパン「持続可能な漁業の推進」
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3554.html

図2: 世界の水産物漁獲量
出典: 世界自然保護基金ジャパン「持続可能な漁業の推進」
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3554.html

天然の水産物漁獲量が頭打ちであるのに伴い、2008年には既に世界の漁獲枠のおよそ3分の1は乱獲状態となっています(図2)。

一方で、漁獲枠にまだ余裕のある水産資源は全体の10%ほどと、持続可能な水産資源の供給が危ぶまれており、海洋環境と生態系の破壊に繋がっています。

このような、海という共有地において個人や企業が自身の利益だけを追及することによって乱獲が発生し、環境に悪影響を及ぼすことが海におけるコモンズの悲劇と言えます。

また、養殖を含む日本の漁獲量は令和元年度で375万トンであり、世界でも上位の漁業国です[*3]。

しかしながら、日本の水産資源についても、乱獲によるコモンズの悲劇が生じています。

図3: 日本における漁獲資源枯渇の状況
出典: 世界自然保護基金ジャパン「持続可能な漁業の推進」
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3554.html

実際、2018年には49%の水産資源が枯渇しているとされており、まだ豊富に残っているとされている水産資源は17%と、危機的な状況に陥っています(図3)。

このように、コモンズの悲劇は、遠い国の話ではなく、日本でも現実に起こっている問題なのです。

適切な水産資源管理に向けた各国の取り組み

乱獲のような問題に対して、各国はどのように対処しているのでしょうか。

地球上には公海などどこの国にも属さない海や、公海を越えて各国の管轄する海を移動する高度回遊性魚類など、漁業においてトラブルが生じやすい要因が多くあります。そこで、国同士のトラブルを防ぐための統一的なルールとして、1994年11月に国連海洋法条約が発行しました[*4]。

国連海洋法条約では、排他的経済水域上での水産資源の適切な管理・保存を求め、漁獲可能量(TAC)を定めるよう義務付けています。TAC決定の際にはまず、持続可能な水産資源の管理・保存のため許容できる毎年の漁獲量ABC(生物学的許容漁獲量)を検討します。そこで決定されたABCに沿って、各年のTACが決められ、漁業者ごとに漁獲量が割り当てられます。

図4: TAC制度の特徴
出典: 漁業情報サービスセンター「TAC(漁獲可能量)を知る!!」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/suisin/s_tac/attach/pdf/index-110.pdf, p.2

TAC制度は水産資源の生産量を規制するアウトプットコントロールになりますが、その他にも漁業の許可制や、小型魚保護のための網目制限など、インプット/テクニカルコントロールと呼ばれる規制も国によって行われています[*5]。
図5: 各国における資源管理の概要
出典: 水産庁「TAC制度の現状と課題」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/suisin/s_yuusiki/pdf/siryo_04.pdf, p.26

また、アウトプットコントロールには図5のように、個別割当(IQ)方式(漁業者や漁船ごとに漁獲可能量を割り当てする方式)や、譲渡性個別割当(ITQ)方式(割り当てられた漁獲可能量を他の漁業者に譲渡できるようにした方式)があり、日本を含む各国で実施されています[*6]。

地球温暖化とコモンズの悲劇

コモンズの悲劇が地球温暖化に繋がることもあります。

人々は通常所有する土地や建物の中で生活や仕事を行っており、その意味では私有地と言えます。

しかしながら、日々の生活や営みの中で発生する二酸化炭素などの温室効果ガスは地球に住む全ての生き物が共有する大気に排出されます。そのため、人々が大気のことを考えずに自分の利益のためだけに行動すると、地球温暖化を引き起こし、最終的に多くの生き物が共倒れしてしまいます。

地球温暖化の現状

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次報告書によると、1880年から2012年の期間で世界平均地上気温は0.85℃上昇したとされています。また、有効な温暖化対策を取らなかった場合、21世紀末の世界平均気温は、2.6℃から4.8℃まで上昇するとされています[*7]。

地球温暖化によって、海面水位の上昇や農作物への被害、動植物への影響など様々な問題が生じているとされています。例えば、日本沿岸の海面水位は1970年から2003年において年間2mm程度上昇していると報告されています。

また、植物への影響として、中部山岳で気温の上昇によって積雪が減少したことで、ハイマツの枝先が枯れる現象が確認されるなど身の周りにおいて地球温暖化による影響が生じています[*8]。

様々な問題を引き起こす地球温暖化ですが、その原因の一つとして温室効果ガスの過剰排出があります。温室効果ガスには二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロン類がありますが、地球温暖化に影響を及ぼす排出量が最も大きい温室効果ガスは二酸化炭素です(図6)。

図6: 人為起源の温室効果ガスの総排出量に占めるガスの種類別の割合
出典: 気象庁「温室効果ガスの種類」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/p04.html

図7: 世界の二酸化炭素排出量
出典: 世界自然保護基金ジャパン「地球温暖化とは?温暖化の原因と仕組みを解説」
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/40.html

2016年の世界の二酸化炭素排出量は323億トンでしたが、半数が中国やアメリカ、インドなど一部の国から排出されています(図7)。

地球温暖化解決に向けた国際的な取り組み

二酸化炭素を過剰に排出することによる罰則はなく、取り締まること自体も困難です。

そのため、自国の経済成長や個人の利益を優先すると二酸化炭素が更に排出され、地球温暖化が進んでしまうというコモンズの悲劇が生じてしまいます。

そこで各国は、コモンズの悲劇を解消するため、国同士のルール作りや削減目標を定め、大気という共有地を適正に管理・保存することに現在取り組んでいます。

例えば、1994年3月には、温室効果ガスの濃度の安定化を目的として、気候変動枠組み条約が発効しました。

同条約では、開発途上国を含む全締約国に対して、

  1. 温室効果ガスの排出及び吸収の目録の作成と定期的更新
  2. 具体的対策を含んだ計画の作成・実施
  3. 目録及び実施した又は実施しようとしている措置に関する情報を締約国会議へ送付

を義務付けました。

また、先進国の義務としてさらに、温暖化防止のための政策措置を講じることや、途上国への技術移転等の義務も課しています[*9]。

その後、京都議定書など気候変動枠組み条約に関する議定書などが採択されましたが、米国など一部の加盟国が参加していない点や、中国やインドなど新興国には二酸化炭素削減義務が課せられていないなど、様々な課題がありました。

そこで、上記の課題を解消するための新たな国際的な枠組みとして、2016年にパリ協定が発効しました[*10]。

パリ協定では、先進国、開発途上国に関わらず気候変動対策を取るよう義務付けており、今後は同協定に沿って各国が足並みをそろえて地球温暖化に取り組んでいくこととしています。

さらに、日本では、開発途上国と協力して温室効果ガスの削減に取り組むため、削減の成果を両国で分け合う「二国間クレジット制度(JCM)」の推進や、開発途上国の緩和と適応を支援する「緑の気候基金(GCF)」を推進しています(図8)。

図8: 二国間クレジット制度(JCM)概念図
出典: 外務省「パリ協定 - 歴史的合意に至るまでの道のり」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol150/index.html

地球温暖化問題に対して、各国、個人の裁量だけではコモンズの悲劇が生じてしまうのが現実です。

そのため、各国が連携してルール作りを行い、場合によっては「二国間クレジット制度(JCM)」のように協力をしあうことが環境問題を解決するための手段になると言えます。

コモンズの悲劇をなくすため私たちができること

以上、水産資源の乱獲や地球温暖化などコモンズの悲劇の解決に向けて各国が行なっている国際的な枠組みや、協力体制について見てきました。それでは、コモンズの悲劇を解決するために、私たちは何ができるのでしょうか。

消費者にできることとして、海や大気など共有地に配慮した商品を選択するということが挙げられます。例えば、天然水産物の認証制度として、MSC認証制度があります。MSC認証は「海のエコラベル」と呼ばれ、生態系に配慮した漁業によって獲られた漁獲物や水産物を認証しています[*11]。このような認証は、環境に配慮した商品を選択するポイントになると言えます。

共有地にルールがない状態では、企業は自社の利益追求のために行動します。そのため、一人ひとりの消費者が共有地に配慮した商品を選ぶとことによって、企業の戦略も変化し、環境に配慮した取り組みが増えるでしょう。

コモンズの悲劇を解決するためには、国や企業だけではなく、消費者である私たちが自発的に行動することが不可欠です。今後は、全ての主体が一体となって取り組みを行なっていくことが、コモンズの悲劇の解決の鍵となるでしょう。

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参照・引用を見る

*1

環境イノベーション情報機構「共有地の悲劇」
https://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=3484

 

*2

地球・人間環境フォーラム「“コモンズの悲劇”の悲劇」
https://www.gef.or.jp/topic/topic-04/

 

*3

水産庁「令和2年度 水産白書 令和元年度以降の我が国水産動向」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/R2/attach/pdf/210604-11.pdf, p.52

 

*4

外務省「国連海洋法条約と日本」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000243495.pdf, p.1

 

*5

水産庁「TAC制度の現状と課題」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/suisin/s_yuusiki/pdf/siryo_04.pdf, p.1

 

*6

水産庁「個別割当(IQ)方式・譲渡性割当(ITQ)方式について」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/suisin/s_yuusiki/pdf/siryo_12.pdf, p.2

 

*7

環境省「地球温暖化の現状」
https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/ondanka/

 

*8

国立環境研究所「地球温暖化が日本に与える影響について」
http://www.env.go.jp/earth/nies_press/effect/index.html

 

*9

全国地球温暖化防止活動推進センター「気候変動枠組み条約」
https://www.jccca.org/global-warming/trend-world/unfccc

 

*10

外務省「パリ協定 - 歴史的合意に至るまでの道のり」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol150/index.html

 

*11

公益財団法人世界自然保護基金ジャパン「海を守るマーク(1)天然水産物の認証制度 MSCについて」
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3555.html