私たちは何歳まで生きられる?究極の格差とも言える平均寿命 世界の実態について

私たちは何歳まで生きられる?究極の格差とも言える平均寿命 世界の実態について

調査の度に長くなる我が国の平均寿命。他の国も同様に平均寿命は伸びているのでしょうか。国の情勢や課題によって、長くもなれば、短くもなる平均寿命。それはまるで、その国や時代を映す鏡のようでもあります。

平均寿命とは

生まれたばかりの子どもが、平均何年生きられるかを示した年数が「平均寿命」です。主要国の平均寿命(図1)を見てもそこには差があるように、世界の国々の平均寿命には大きな開きが存在します。そして、その背景には衛生問題や食料事情、社会情勢など様々な要因が絡んでいます。ここからは先進国、発展途上国の平均寿命がどうなっているのか、いくつかの国の事例を紹介します。

図1 主な国の平均寿命の年次推移
出所)厚生労働省HP「平均寿命の国際比較」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life18/dl/life18-04.pdf

低下を続けるアメリカの平均寿命

多くの先進国で平均寿命が伸びているなか、アメリカの平均寿命は2014年以降、連続して低下しています。この要因には薬物の過剰摂取やアルコール中毒、自殺の増加があげられ、労働参加率低下の理由とも重なると指摘されています。*1
また、昨今アメリカ国内では中年層の白人の死亡率が著しく上昇しています。*2

中年の死亡率


図2「中年の死亡率」
出所)ニューズウィーク日本版「トランプ現象の背後に白人の絶望──死亡率上昇の深い闇」
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/06/post-5278.php

白人中年層の「絶望死」が増加

ノーベル経済学賞を受賞したアンガス・ディートン氏は、アメリカ国内では海外からの労働力の増加やAIの発達などにより職を失った、非ヒスパニック系の白人中年層の「絶望死」が増加していると述べています。*2

ディートン氏は、グローバリゼーションやテクノロジーの発展は本来、人々に富を与えるべきもので、人々を貧困におとしいれるものではないとし、絶望の淵に立たされている人々が利益を受けられるような方策を見つけなければならない、と民主主義の真髄について説いています。*2

この一例からも平均寿命には、その国や社会の状況の一面が映し出されているとも言えるでしょう。

オランダの「脱福祉国家」政策。今後は参加型社会に

「従来型の福祉国家は終わった」として国民自らが健康増進に努める「参加型社会」に舵を切ったオランダ。*3

平均寿命が80歳を超え、福祉に力を入れてきたオランダでは、経済の伸び悩みや財政悪化が背景にありました。しかし、医療水準の高い同国ではICT技術を導入した「eHealth」に注力し、健康寿命の延伸に取り組んでいます。*3

高品質で低コストな eHealthケア

通信技術を使ったシステムeHealthでは、患者が自宅で測定するバイタルデータの情報共有や自分の医療記録へのオンラインアクセスが可能です。取り組みのひとつである「Remoto Care」では、ビデオコミュニケーションによって24時間、医師への相談ができる体制になっています。夜間介護においては、同じ地域内にある5つの組織が相乗りした共同モニタリングセンターを設置し、センターにコールが入ると介護者に最も近い場所にいる介護士を検索し、派遣される仕組みを導入しています。*4

このシステムを開発しているeCARE社は、クラウドでシステム構築することにより、高い品質の介護サービスを他業者の半分のコストで提供しています。*4
取り組み開始後のオランダの平均寿命は徐々に伸びています。こうした仕組みの導入は、コストを抑えながらも国民の健康寿命の延伸につながる、新しい取り組みの一例ともいえるでしょう。

発展途上国の平均寿命


図3 2019年平均寿命
出所)Our World in Date HP 「Life expectancy, 2019」
https://ourworldindata.org/grapher/life-expectancy?tab=map

世界全体の平均寿命マップを見ると、日本や欧州など先進国を含む国々は80歳以上を示すところが多い一方、アフリカなどの発展途上国では20〜30年ほど平均寿命の短い国が少なくありません。ここではその背景や課題について考察してみます。

紛争と飢餓の関係性

平均寿命を下げる要因には貧困問題、飢餓や紛争、衛生面の問題などが複合的に絡んでいます。
なかでも紛争は食料問題、異常気象の影響、自然資源をめぐる争いの3大要因を含め、様々な原因が影響して起きていると考えられています。*5(p.54)

アフリカの飢餓の状況は厳しく、飢餓蔓延率が世界で最も高い地域となっています。また、世界の飢餓人口が3年連続で増加していることについて、国連の5つの機関が警鐘を鳴らしています。*6
また、飢餓と紛争の関係性を示すグラフには、飢餓人口と紛争や内戦の頻度は比例していることが示されています。


図4 飢餓人口と紛争・内戦の関係
出所)国連食糧農業機関HP「飢餓人口と紛争・内戦の比較」
http://www.jiid.or.jp/files/04public/02ardec/ardec35/key_note1.htm

異常気象で増加する紛争

また、エチオピアとソマリアの研究からは、降水量が少ないと紛争が発生する確率が高まるとのデータが報告されています。*5(p.55)
近年、気候の変動に伴って異常気象のリスクが高まっており、このまま対策がとられなければ、紛争の発生リスクは今後ますます大きくなることが予想されています。*5(p.56)
下記の表からもわかるように、異常気象や大きな気候変動はそこに住む人々に飢餓や紛争といった大きなダメージを与えます。


図5 「2016 年に食料危機を引き起こした紛争と気候関連ショック」
出所)国際農林業協働協会HP「紛争、食料安全保障、栄養―持続可能な平和の必須要件」(p.40)
https://www.jaicaf.or.jp/fileadmin/user_upload/publications/FY2018/SOFI2017-J.lpdf

また、海外の危険地域マップを見ると、アフリカの多くの国が武力衝突やテロ、凶悪犯罪などの理由から危険区域に指定されています。

図6 アフリカ(北部)地域海外安全情報
出所) 外務省HP 「海外安全ホームページ」(2020年5月)
https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcareahazardinfo_14.html

戦闘員だった青年に希望を与える、職業訓練プログラム

紛争に関わる若者の多くは農村部の青年です。彼らに、農業で生計を立てるためのスキルなどを提供することは彼らの未来の展望を開くためにも重要です。
実際にリベリアで職業訓練プログラムを実施したところ、紛争に参加する青年が減少したと報告されています。雇用が、武装により保ってきた本人のアイデンティティや収入に代わるものとなるのです。*5(p.66-67.)

世界で最も命の短い国、シエラレオネで教育と雇用を

世界で最も命の短い国、シエラレオネで、教育や雇用の創出をビジョンに様々な貧困削減プロジェクトを実施している「NPO法人 アラジ」。

日本人女性が代表として率いるこの団体では、災害孤児の里親宅を毎月訪問し、教育費を支給したり、家を失くした女性たちが制作した洋服や雑貨を販売するプロジェクトなどを実施しています。商品を継続的に発注することで彼らと対等なビジネスをし、彼らの生計を立てることを目的としているのです。*7

これらの例のように、途上国に住む人々が職業を持って所得を得られるよう、持続可能な仕組みを構築することが大切です。雇用が若者たちに明るい未来を与えることで紛争が減少し、平均寿命の延伸にも繋がることが期待されます。

日本はなぜ、世界有数の長寿国になったのか

日本の平均寿命の推移を見ると、明治時代には40歳台だった平均寿命が昭和の前半には50歳台に、そして後半には70歳台にまで上昇しています。戦後80年ほどで約40年、平均寿命が長くなっていますが、これは他の先進国を見ても例がない伸び率です。


図7 わが国の平均寿命の推移
出所)みずほ情報総研HP「『人生100年時代』を検証する」
https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/report/2019/mhir18_life_01.html

 

世界から評価されている「国民皆保険」

平均寿命の伸び率の背景にあるのは、医療の発達や国民全員が公的な医療保険に加入する国民皆保険制度の成果とされ、健康の到達度や費用負担の公正さなどはWHOからも高い評価を受けています。
また、イギリスの世界的な医学雑誌ランセットでも、日本はこの保険制度があったから短期間で世界一の長寿国となり、高い健康水準を実現していると述べられています。*8

日本人の死因の推移

この100年間の日本人の死因の経年変化のグラフからは、医療の発達によって感染症や肺結核で死亡する人が減り、がん、脳卒中、心疾患のいわゆる三大成人病で命を落とす人が半数を超えていることがわかります。


図8 我が国における死因別死亡割合の経年変化(1899−1998)※視認性向上のため一部改変
出所)厚生労働省「健康日本21(総論)」
https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/s0.html

脳卒中を起こすと約8割の人に後遺症が残り、約3割の人は重度の要介護者になります。認知症の要因にもなる脳卒中は高齢化が進む社会の課題になっています。*9

平均寿命とともに重要なのが、健康で自立して暮らせる「健康寿命」を伸ばすことです。ここからは、長く長寿県としてトップの座にあった沖縄で平均寿命の順位が下がってきた背景、そしてその打開策について見ていきましょう。

平均寿命の転落。沖縄の「26ショック」

1995年に世界長寿地域宣言を行った沖縄県は長寿県として知られる存在でしたが、2003年の平均寿命調査で、男性の平均寿命が全国26位に転落。女性は1位だったものの、この結果は「26ショック」と呼ばれるほどのニュースになり、県民に大きな衝撃を与えました。*10

食生活の変化がもたらしたもの

米軍の統治期からアメリカの食文化の影響を受けてきたた沖縄では、アメリカ型の食事が生活習慣病を増加させ、平均寿命を短くしているとの考え方が一般的な見解です。

ただし、食の欧米化は沖縄に限ったことではなく、程度の差はあれ日本全国の他の自治体にも見られることです。3大生活習慣病の増加をはじめ、乳癌や子宮癌といった婦人科系の疾患の上昇から考えても、日本の食生活の課題は全国共通のものと言えるでしょう。

日本一長い平均寿命を記録した、最低所得の村

昭和の末に琉球大学の医学教授が実施した調査では、沖縄県内で最低所得だった大宣味村が、日本全国で最も平均寿命が高い自治体であるとの結果が示されました。*11
大宜味村では、ゴーヤやモズク、今やスーパーフードとも言われるグアバやパパイヤ、薬草としても知られるフーチバー、島豆腐(木綿豆腐)、根菜類、昆布などをよく摂ります。
加えて塩分の摂取量が少ない沖縄食が受け継がれていたこともあり、これらの食文化が長寿に繋がっているものと考えられています。*12

平均寿命延伸への第一歩は、食生活の意識改革

平成を迎えた辺りから、沖縄の平均寿命は低下が見られるようになり、食と健康の知識を持つボランティア、食生活改善推進員を県が養成する事業が始まりました。早い時期から食生活の大切さを伝えることが重要であると考え、小学校で調理実習など実施し子どもたちに食べることの大切さを伝えるためです。

食への意識を向上させる様々な取り組みの結果、食育への関心が高まり、平成29年には「食への関心がある」と答えた人の割合は全国平均を大きく上回る結果となっています。

沖縄の平均寿命延伸への第一歩は成功したと言えるでしょう。


図9 食育への関心
出所)沖縄県食育推進計画HP「食育への関心」(p.25)
https://www.pref.okinawa.jp/site/hoken/kenkotyoju/kenko/documents/dai3jisyokuikusuisinnkeikaku_1.pdf

健康・長寿復活に向けたソーシャルキャピタルの醸成
◆学生が健康増進の牽引役に

食とは別の分野から、沖縄の平均寿命が下がっていく状況を打破しようと立ち上がったのが、人間健康学部を持つ名桜大学とそこで学ぶ学生たちです。

大学では、スポーツ健康学科と看護学科の学生が主となり、学んできた専門知識を「健康支援」という形で貢献したいと考え、健康活動支援団体を設立しました。沖縄県北部の12市町村に健康支援活動を行なっています。


図10 名桜大学「健康・長寿プロジェクト」
出所)名桜大学HP「健康・長寿復活に向けたソーシャルキャピタルの醸成」
https://www.meio-u.ac.jp/healthsupport/

◆沖縄県最北端、過疎の島での健康プロジェクト。「踊る!話す!盛りあがる!」

県最北端の離島、伊平屋村は少子高齢化や深刻な過疎化にくわえ、村民の健康状態の悪化という複数の課題を抱えた島ですが、ここで学生たちが2つのプロジェクトを立ち上げました。

1、「踊る!話す!盛りあがる!」で健康支援

学生たちはこの島で、「踊る」「話す」「盛りあがる」をテーマとしてプログラムを企画し、「脳トレエクササイズ」「カラオケ元気体操」「椅子プログラム」など個々の運動能力に合わせてセレクトできるプログラムを実施しています。
対象年齢は幅広く「ゆんたく」と呼ばれる座談会を取り入れることでコミュニティの活性化も図ってきました。*13

2、ウォーキングで心身を健康に

美しい海や山という豊かな自然を活かした活動も見逃せません。
村民を対象としたウォーキングイベントを開催し、ここでも地域コミュニティの活性化から健康意識の向上を目指し、伊平屋村に住む人たちの信頼関係、ソーシャルキャピタルを構築しています。

図11 健康・長寿復活に向けたソーシャルキャピタルの醸成
出所)名桜大学HP 「「健康問題を改善する活動」+「地域の人と人がつながる」プロジェクトとは?」
https://www.meio-u.ac.jp/healthsupport/

この伊平屋村のプロジェクトは、厚生労働省の主催する「健康寿命をのばそう!スマートライフプロジェクト」で、優良賞を受賞しています。
学生たちのアイデアとエネルギーで健康増進の輪を広げていく取り組みには、健全な未来が広がる予感がします。*13

学生たちの取り組みに共通しているのは、コミュニティを取り入れていることです。人が持つ前向きな力は、周囲に行動を起こさせる原動力になるのかもしれません。

平均寿命の未来予想図。2060年には90歳に到達

今後も日本の平均寿命は延伸すると予想され、2060年の国内の平均寿命は、男性が 84歳、女性が90歳になると見込まれています。*14

国連人口基金では、「高齢期が人生の恐れるべき時期ではなく、むしろ社会に貢献できる時期であり、高齢者を功労者、および参加者として政策過程に含めていくべきである。また、高齢化の課題と高齢者の社会参加の両方に取り組むことが、高齢化の進む社会で゙成功をおさめる最良の処方箋である」と述べています。*15

誰しも年老いていくものですが、高齢になっても充実した人生を送れるよう、健康寿命を延ばすとともに、高齢者に対する周囲の意識を高めることで、成熟した社会が形成されていくのです。

アフリカをはじめとする途上国でも、そこに住む人たちが安心して人生を送れる社会をつくるために、私たちには何ができるのでしょう。

世界規模で問題となっている飢餓や水不足、それに伴う紛争により途上国に住む人たちが命を落とすような世界には、歯止めをかけなければなりません。

この要因のひとつにもなっている地球温暖化にブレーキをかけることは、アフリカから遠く離れた地に住む私たちにも取り組めることではないでしょうか。一人ひとりがエシカルな商品やエネルギーを選ぶことは、CO2の削減や飢餓の減少にも繋がります。

先進国の経済活動や豊かな生活が、途上国に住む人たちの暮らしや寿命にダメージを与えることなく、持続可能な社会へ導いていくことが必要です。これは、先進国に住む私たちだからこそできることのひとつなのかもしれません。

参照・引用を見る

*1
出典)日本経済研究センターHP「アメリカでも人口は減少するのか」
https://www.jcer.or.jp/j-column/column-saito/20191118-5.html
*2
出典)日本経済新聞HP 「『米国が直面する、民主主義の失敗』ノーベル経済学者ディートン教授夫妻が警鐘」
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO23589920X11C17A1000000?s=4

*3
日経BP HP「『さらば福祉大国』、PHR先進国を目指すオランダ」
https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/feature/15/327442/040300121/
*4
総務省HP「諸外国におけるeHealthの取り組みと日本モデルの海外展開」p.6-7,14.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000286328.pdf
*5
出所)国際農林業協働協会HP「世界の食料安全保障と栄養の現状 2017年報告」
https://www.jaicaf.or.jp/fileadmin/user_upload/publications/FY2018/SOFI2017-J.pdf
*6
出所)世界食糧計画HP「世界の飢餓人口は3年連続で未だ減少せず、肥満は依然増加傾向-国連の報告」
https://ja.wfp.org/news/sofi_report_2019
*7
出所)特定非営利活動法人Alazi Dream Project HP
https://alazi.org/
*8
出所)日本医師会HP「日本の医療の現状」
https://www.med.or.jp/people/info/kaifo/currently/
*9
出典)先進医療.net HP「脳卒中の今」
https://www.senshiniryo.net/stroke_c/10/index.html
*10
出所) J−STAGE HP 「健康長寿へ向けた沖縄の課題と取り組み」(日健教誌 2016年 第24巻 第4号)p.245
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kenkokyoiku/24/4/24_245/_pdf
*11
出所)明治鍼灸医学HP「我が国の長寿研究と長寿における心理的要因について」p.85
http://www.meiji-u.ac.jp/research/files/shinkyuigaku15_83.pdf
*12
出所)農林水産省HP「栄養面から見た日本的特質」p.14
https://www.affrc.maff.go.jp/docs/ibunya/kakubunyakentoukai/pdf/2shiryo3-2.pdf
*13
名桜大学HP「北部地域の活性化を導く!新しいスタイルのヘルスサポートとは」https://www.meio-u.ac.jp/healthsupport/
*14
出所)内閣府HP「将来推計人口でみる50年後の日本」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2013/zenbun/s1_1_1_02.html
*15
出所)国連人口基金HP「21世紀の高齢化」p.1,7
https://www.unfpa.org/sites/default/files/pub-pdf/executive%20summary%20%20Aging%20%28JP%29.pdf