都市の抱える課題を解決 スマートシティの実現にセンシング技術はどのように貢献する?

自動車の安全機能向上、自動運転の開発、橋や道路などインフラの異常診断など、様々な分野で活用されるセンシング技術[*1]。

近年、世界各国で、持続的な経済的発展等を目指す「スマートシティ」の取り組みが進んでいますが、センシング技術はスマートシティ実現に向けて重要な役割を果たしています[*2]。

それでは、センシング技術は具体的にどのような技術なのでしょうか。また、スマートシティの実現に向けて、センシング技術がどのように役立っているのでしょうか。詳しくご説明します。

 

センシング技術とは
センシング技術の概要

センシング技術とは、センサーを使って様々な情報を数値化し、その状態を「見える化」する技術のことです。これらの技術を活用することによって、人間が五感で認知している情報を定量的に把握することができます[*3]。

センシング技術は、「スマートセンシング」と「リモートセンシング」の2種類に大別されます。

まず、スマートセンシングとは、センサーを対象物付近に設置し、測定する技術を指します。例えば、温度センサーを使って物体の温度を測定する、光電センサーを使って製品が通過した回数をカウントするなどは、スマートセンシングに分類されます。

一方で、リモートセンシングとは、対象物に触れることなく遠隔で測定する技術のことです。人工衛星などを使ったセンシング技術は、リモートセンシングに分類されます。

現在、様々な情報を数値化する際にセンシング技術を活用したセンサーが利用されています[*3], (表1)。

表1: 主なセンサーの種類出典: 東京エレクトロンデバイス株式会社「IoTにおけるセンシング技術とは何か。課題と活用事例を解説」
https://esg.teldevice.co.jp/iot/azure/column/column44.html

例えば、温度や圧力、対象物の有無や、電力、物体の速度などの情報が、センサーを用いて測定されています。

センシング技術を活用するメリット

センシング技術を導入することで、次のようなメリットが期待できます[*3]。

まず、目視など人間の主観とは異なり、同じ基準をもって判断できるため、製品等の品質管理レベルの向上が期待できます。

また、データの活用によるコスト削減も可能です。例えば、工場内における設備ごとの電力の使用量と実際の稼働状況を比較することで、待機電力を可視化することができ、使用量の削減につなげられます。

さらに、センシング技術を活用することで、環境負荷の低減も期待できます。例えば現在、農業分野において、ドローン等を使ったセンシング技術の導入が進んでいます。センシング技術を活用して土壌や生育状況を把握することで、状況に応じた適切な肥料の散布量を算出することができ、土壌の環境負荷低減に寄与できると言えます[*4]。

 

スマートシティの実現に不可欠なセンシング技術
スマートシティとは

人口集中による交通渋滞や環境問題、自然災害に対するぜい弱性など、現代の都市は様々な問題を抱えています。これらの課題に対処するため、世界各国の都市で「スマートシティ」の取り組みが進められています[*5]。

スマートシティとは、都市が抱える様々な課題に対して、ICTやIoTなどの新技術を活用することによって、最適化が図られる持続可能な都市または地区のことを指します。

スマートシティの実証実験は、2010年ごろから、世界各国の都市で行われるようになりました。例えば、アラブ首長国連邦は、砂漠の中に再生可能エネルギーを利用してCO2排出量や廃棄物ゼロを目指す人工都市「マスダール・シティ」を建設しました。

また、日本でも、福岡県北九州市の「北九州スマートコミュニティ」や千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」など、各地で実証実験が行われています[*5], (図1)。

図1: 柏の葉スマートシティ
出典: 環境省「まち全体を最適化! 国内外で進むスマートシティの取組」
https://ondankataisaku.env.go.jp/decokatsu/kaiteki/topics/20210226.html

都市におけるセンシング技術

ICT等の新技術を活用して都市内でのデータを利活用することで、エネルギー、水、廃棄物等の資源の最適管理や、交通の効率性の確保など、様々な分野でのサービスの向上が期待できます[*6], (図2)。

図2: スマートシティの推進によって期待される諸課題の解決
出典: 内閣府、総務省、経済産業省、国土交通省、スマートシティ官民連携プラットフォーム事務局「スマートシティガイドブック」
https://sbircao02-my.sharepoint.com/:b:/g/personal/kagisoukatsu1_sbircao02_onmicrosoft_com/EQS83cyjo_RMrdgIvxZ5_gEBPP5tTmL3MHF1LosQ0dVGGg?e=oB0GNr, p.12

そして、このようなスマートシティ実現に向けて、冒頭でも紹介したとおり、センシング技術は重要な役割を果たします。

例えば、大気汚染や騒音、臭気などの社会課題に対処するためには、環境に関する詳細な情報を把握する仕組みが必要です[*7]。

神奈川県藤沢市では、PM2.5や紫外線、温度、気圧、湿度等などの環境情報を測定するセンサーを、毎日市内を走行する清掃車に搭載しました。

測定されたデータは藤沢市役所内や藤沢市環境事業センター内で可視化され、市政等で活用されるなど、センシング技術がスマートシティ化を推進しています[*7], (図3)。

図3: 藤沢市における環境センシングデータの可視化例
出典: 一般社団法人 情報処理学会「ユニバーサルセンサネットワークと清掃車を活用した藤沢市のスマート化」
https://www.ipsj.or.jp/dp/contents/publication/S0803-S07.html

 

センシング技術に関する最新の動向
AIを組み合わせた信号制御システム

その他にも、スマートシティの実現に向けて開発・実証が進められているシステムには、様々なセンシング技術が活用されています。

例えば、日本の交通信号機は、中央の交通管制センターと通信回線でつながっており、高度に制御されています[*8]。

一方で、そのシステムの維持管理には、車両感知器や大規模な中央制御装置等が必要なため、膨大なコストがかかるという課題があります。また、地域によっては中央の交通管制センターとつながっておらず、十分な交通制御ができていない信号機も多くあります。

そこで、NEDO(新エネルギー・産業技術総合研究所)や東京大学等は、AIとセンシング技術を組み合わせた自律・分散型の信号制御による交通管制システムの開発に取り組んでいます[*8], (図4)。

図4: プロジェクトの概要
出典: 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合研究所「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」
https://webmagazine.nedo.go.jp/pr-magazine/focusnedo88/sp1-3.html

同システムでは、交差点に設置したレーダーや画像情報から、歩行者や車両の動態を把握します。その後、収集した情報を過去の渋滞状況等と組み合わせて、AIが交通情報を分析し、自律的に信号の制御を行うことで、交通渋滞等の削減を目指しています。

2022年3月から、静岡市の12カ所の交差点において同システムの実証実験が行われています。同システムの導入によって、現状より平均移動時間を約20%短縮でき、年間約550万トンのCO2排出量の削減が見込まれると報告されており、環境問題の解決に資する取り組みとも言えるでしょう。

湿度センサーを活用した「湿度変動電池」の開発

スマートシティの実現に向けては、身の回りのモノの情報をインターネットに接続するIoT(Internet of Things、モノのインターネット)の活用が不可欠とされます。一方で、その活用に向けては、IoT機器を稼働させるための電力供給についても考慮する必要があります[*2, *9]。

そこで、産業技術総合研究所は、湿度センサーの技術を活用して、空気にさらしておくだけで昼と夜の湿度差を用いて発電することができる「湿度変動電池」を開発しました[*9], (図5)。

図5: 湿度変動電池と湿度を変化させたときの湿度変動電池の電圧
出典: 国立研究開発法人 産業技術総合研究所「空気中の湿度変化を利用して発電する『湿度変動電池』を開発」
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2021/pr20210602/pr20210602.html

湿度とは、大気中の水蒸気量を表す数値です。開発された湿度変動電池は、低湿度環境にさらされると開放槽から水分が蒸発して電解液の濃度が上昇しますが、閉鎖槽は密閉されているため濃度変化は生じません。一方で、高湿度環境下では、逆に開放槽の濃度が減少します[*9], (図6)。

図6: 湿度変動電池の動作原理
出典: 国立研究開発法人 産業技術総合研究所「空気中の湿度変化を利用して発電する『湿度変動電池』を開発」
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2021/pr20210602/pr20210602.html

このように、開放槽と閉鎖槽の濃度差が発生することで、電圧が発生し、電気エネルギーを取り出すことができます。

空気中の湿度は、昼夜の温度変化などによって一日の中で数十パーセントの変動があるため、湿度変動電池は置いておくだけでどこでも発電できる再生可能エネルギーと言えます。

湿度変動電池には、出力向上や長時間使用時の耐久性などの課題もあります。しかしながら、適用範囲が広く汎用性が高いため、IoT機器等を多く活用するスマートシティ実現に資する技術と言えるでしょう。

 

まとめ

以上のように、スマートシティ実現に向けた様々な取り組みにおいて、センシング技術が有効活用されており、あらゆる場面で私たちの暮らしを支えています。

情報の定量化を可能にするセンシング技術は、エネルギーの効率的な活用やCO2排出量の削減にも大きく貢献し、持続可能な社会の実現に不可欠な技術としてますます期待が寄せられています。

 

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参照・引用を見る

*1
国立研究開発法人 産業技術総合研究所「産総研にはどんなセンシング技術があるの?」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20200901.html

*2
エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社「スマートシティとは? 現状・事例や課題を解説」
https://www.ntt.com/business/sdpf/knowledge/archive_87.html

*3
東京エレクトロンデバイス株式会社「IoTにおけるセンシング技術とは何か。課題と活用事例を解説」
https://esg.teldevice.co.jp/iot/azure/column/column44.html

*4
農林水産省「スマート農業の環境への貢献④」
https://www.maff.go.jp/tohoku/seisan/smart/attach/pdf/forum2021-11.pdf, p.15

*5
環境省「まち全体を最適化! 国内外で進むスマートシティの取組」
https://ondankataisaku.env.go.jp/decokatsu/kaiteki/topics/20210226.html

*6
内閣府、総務省、経済産業省、国土交通省、スマートシティ官民連携プラットフォーム事務局「スマートシティガイドブック」
https://sbircao02-my.sharepoint.com/:b:/g/personal/kagisoukatsu1_sbircao02_onmicrosoft_com/EQS83cyjo_RMrdgIvxZ5_gEBPP5tTmL3MHF1LosQ0dVGGg?e=oB0GNr, p.12

*7
一般社団法人 情報処理学会「ユニバーサルセンサネットワークと清掃車を活用した藤沢市のスマート化」
https://www.ipsj.or.jp/dp/contents/publication/S0803-S07.html

*8
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合研究所「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」
https://webmagazine.nedo.go.jp/pr-magazine/focusnedo88/sp1-3.html

*9
国立研究開発法人 産業技術総合研究所「空気中の湿度変化を利用して発電する『湿度変動電池』を開発」
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2021/pr20210602/pr20210602.html

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