グリーンサプライチェーンマネジメントとは? 環境に配慮した物流の影響を考えよう

原材料の調達から製造、消費者への供給までサプライチェーンは企業にとって重要であり、グローバル化に伴う国をまたいだサプライチェーンの構築は大きな課題となっています。

近年では、環境意識の高まりを背景に、環境に配慮したサプライチェーンの構築も求められています。それでは、環境に配慮したサプライチェーン推進に向け、国内外ではどのような取り組みがあるのでしょうか。

また、それらによる環境への影響とはどのようなものなのでしょうか。

サプライチェーンとは

サプライチェーンとは、商品や製品の原材料の調達から、製造、販売され、消費者に届いて消費されるまでの一連の流れを言います。

図1: 大和物流株式会社「用語集 サプライチェーン」
https://www.daiwabutsuryu.co.jp/useful/words/supply-chain

企業にとって、商品や製品の安定的な供給のため、サプライチェーン全体のマネジメントは欠かせません。
生産プロセスの効率化を図る生産部門と販売部門での連携のように、企業内でのサプライチェーン最適化はもちろんのこと、社外からの原料調達のように企業間での最適化も重要となります。

サプライチェーンの現状と課題

グローバル化の進展に伴い、数カ国をまたぐサプライチェーンのマネジメントが不可欠となっています。例えば日本の場合、1980年代の貿易摩擦による海外での現地生産の拡大によって、各国にまたがるサプライチェーンが構築されました[*1]。

また、新興国の経済発展に伴い、商品の販売先となるマーケットも分散化されています。
例えば、自動車産業において、中国で製造された部品が各国の工場へ供給・製造され、その後全世界の市場にて販売されています。

図2: 経済産業省製造産業局「自動車産業に係るサプライチェーン」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/pdf/008_02_00.pdf, p.16

他方、地政学リスクや政治情勢、世界的な感染症などの影響によるサプライチェーンの寸断リスクへの対処が課題となっています。

図3: 経済産業省「2020年版ものづくり白書 第1章 わが国ものづくり産業が直面する課題と展望」
https://www.meti.go.jp/press/2020/05/20200529001/20200529001-6.pdf, p.23

近年では、タイやミャンマーにおける軍事クーデター、SAASや新型コロナウイルス感染症のようなリスクへの対処が求められています。

グリーンサプライチェーンマネジメントとは

さらに、持続可能な社会の実現に向けた取り組みとして、環境に考慮したサプライチェーンの構築が求められてきています。環境保全に対する社会的な要請や消費者による環境意識の高まりを背景として、近年多くの企業が取り組みを進めています[*2]。
このような商品や製品のサプライチェーン全体における環境負荷の低減や保全に関する取り組みは「グリーンサプライチェーンマネジメント」と呼ばれます。

図4: THK株式会社「サプライチェーン・マネジメント」
https://www.thk.com/jp/csr/social/supplychain.html

図4は、機械要素部品の開発製造・販売をするTHKのサプライチェーン項目です。
調達・購買項目において環境リスク物質の調査実施や、生産部門では省エネ法への対応を行うなど、環境を意識したサプライチェーンの取り組みを実施しています。
これが「グリーンサプライチェーンマネジメント」です。

グリーンサプライチェーンが環境に与える影響

多くの企業が取り組み始めているグリーンサプライチェーンマネジメントですが、グリーンサプライチェーンの推進は、どのような環境問題の解決に貢献できるのでしょうか。
サプライチェーンは様々な環境問題と密接に関連しているため、グリーンサプライチェーンマネジメントを実践することにより様々な環境問題の解決につながります。

図5: 株式会社ファンケル「環境目標と実績推移(2019年度)」
https://www.fancl.jp/csr/env/goal.html

例えば、化粧品等を取り扱うファンケルでは、サプライチェーン全体において大気や水、ごみ問題など様々な環境問題の解決に向けた取り組みが実施されています。

また、住宅メーカーの積水ハウスは2007年から生態系の破壊につながる森林破壊をゼロにするための「木材調達ガイドライン」を策定・運用しています。

下記のような項目に従い、生物多様性や自然環境に配慮したサプライチェーン推進を実施しています。

図6: 生物多様性協働フォーラム「4. 協働のアプローチ ①企業が先導する生物多様性の持続可能なサプライチェーンの在り方」
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2018/02/201801_68.pdf, p.73

このように、グリーンサプライチェーンの推進は、気候変動や水問題、生物多様性など様々な環境問題の緩和に繋がります。

グリーンサプライチェーン推進による環境への具体的な効果

近年では、グリーンサプライチェーン推進によるCO₂などの温室効果ガスの削減効果を可視化している企業が増加しています。
例えば、Panasonicでは工場の省エネや太陽光などの自然エネルギーの活用によって、生産活動における温室効果ガスの削減を実現しています。

図7: パナソニック株式会社「環境:工場の使うエネルギーと創るエネルギー」
https://www.panasonic.com/jp/corporate/sustainability/eco/co2/site.html

Panasonicは環境ビジョン2050の実現に向けたCO₂排出ゼロの工場作りを推進しており、自然エネルギーの導入やAIによる効率的な空調エネルギーの制御など様々な取り組みを実施しています。
その結果、売上高に対するCO₂排出量を表すCO₂原単位は、2019年度には2013年度と比べておよそ30%減少するなど、環境に配慮したサプライチェーン構築を実践しています。

グリーンサプライチェーン構築に向けた先進国の取り組み

持続可能な社会の形成に向け、G7など各国政府の議論や取り組みも活発化しています。

例えば、2015年6月に開催されたG7エルマウ・サミットでは「責任あるサプライチェーン」が議題となりました。
サミット首脳宣言では、世界的なサプライチェーンにおける環境保護の促進について言及されるなど、各国一体となった持続可能なサプライチェーン構築に向けて取り組むことが宣言されました。

2017年には、2015年のG7首脳宣言を踏まえ、衣類・履物セクターにおける「OECDデュー・ディリジェンス」ガイダンス公表されています。
その中では、サプライチェーン全体における環境汚染等のリスクを管理する企業の社会的責任が明記されるなど、先進国主導の取り組みが行われています[*3]。

また、欧州委員会の環境総局は2011年から、サプライチェーンの環境負荷を定量化する「環境フットプリント」の手法の開発に取り組んでいます[*4]。
「環境フットプリント」とは、ライフサイクル全体における製品やサービスの環境負荷を定量化し、製品への表示の義務化等を行う制度です。

図8: 一般社団法人日本バルブ工業会「EUの新しい環境規制『環境フットプリント』とは」
https://j-valve.or.jp/environment/env-info/g120921-2.html

「環境フットプリント」の大きな特徴としては、定量化する環境負荷を温室効果ガス排出量のみならず、14個の項目を測定し、定量化することを要求している点です。
2018年までに試行事業が終了し、2021年までの移行期間を経て、政策への活用に向けた検討が行われるため、今後欧州市場向け製品への表示が必要となる可能性があります[*5]。

国際的なグリーンサプライチェーン構築に向けた国際機関や企業の取り組み

グリーンサプライチェーンの構築に向け、国際機関や企業が連携した取り組みも多くあります。

例えば、SBT(Science Based Targets)のように、パリ協定で定められた気温上昇の抑制を達成するために設定された温室効果ガス排出削減目標が挙げられます。

図9: 環境省「第1部 SBTの概要」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SBT_gaiyou_20210319.pdf, p.1

SBTは、CDP(Carbon Disclosure Project)やWWF(World Wide Fund for Nature)など4つの国際機関によって共同で運営されています。
企業は設定した削減目標を運営機関に申請し、認定を受けることができます。
認定を受けることで、持続可能な企業であることを対外的にアピールできるというメリットがあります。

図10: 環境省「第1部 SBTの概要」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SBT_gaiyou_20210319.pdf, p.5

企業主導の取り組みとしては、SBTだけでなくRE100(Renewable Energy 100%)と呼ばれる環境イニシアチブもあります。
RE100とは事業を自然エネルギー由来の電力で全て賄うことを目標とする企業連合のことで、気候変動問題に取り組む非営利団体のThe Climate Groupによって運営されています。
RE100はサプライチェーンにおける自然エネルギーの活用を促進することによって、気候変動を防ぐことを目的としており、2020年3月時点で229もの企業がRE100に参加しています。

海外企業によるグリーンサプライチェーンマネジメントの取り組み

環境負荷の低減に向けたサプライチェーンの構築を推進する海外企業も多くあります。
例えば、Appleは2030年までにサプライチェーンの100%カーボンニュートラルを目指す方針を発表しています[*6]。

図11: Treehugger「Apple Promises to Be Carbon Neutral by 2030」
https://www.treehugger.com/apple-promises-to-be-carbon-neutral-by-2030-5072707

カーボンニュートラルとは、サプライチェーン全体によって排出されたCO₂排出量と吸収される量を同じにするという考え方です。図11はApple全体のCO₂排出量を示しています。全体の76%が製造による排出であり、14%が製品の使用自体に係る排出、5%が輸送に係る排出、その他は社員の出張や通勤に係る排出などとなっています。

25.1百万トン分のCO₂排出量を削減するため、Appleでは既に多くの施策が実施されており、オフィスや直営店、データセンターにおける太陽光や風力など自然エネルギーの活用、低炭素製品のデザインなどを実施しています。
例えば、低炭素の製品デザインについては、リサイクル時に効率的な素材の回収が可能となるデザインの設計や、再生材料の使用などが挙げられます。

その結果、Appleは2019年には430万メートルトン分のカーボンフットプリント削減を達成したと発表しています。

国内におけるグリーンサプライチェーン推進に向けた政府の動向

国内でも政府と企業が連携してグリーンサプライチェーンを推進しています。

環境省は「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」を開設し、脱炭素化に向けた企業経営を支援しています。
具体的には、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量の測定のための基本ガイドラインの策定や、SBTに取り組む企業間でのコミュニケーション活発化に向けた「脱炭素経営促進ネットワーク」の形成を行っています[*7]。

国内企業によるグリーンサプライチェーンマネジメントの取り組み

また、環境省の基本ガイドラインに従ってサプライチェーン排出量の算定を実施する企業や、SBTやRE100へ参加する企業が年々増加しています。

図12: 環境省「第1部 SBTの概要」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SBT_gaiyou_20210319.pdfp.6

図13: 環境省・みずほ情報総研「RE100について」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/RE100_syousai_20210319.pdfp.24

グリーンサプライチェーンへの企業の具体的な取り組みとしては、セブン-イレブン・ジャパンの取り組みが挙げられます。

セブン-イレブン・ジャパンでは、環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」を定め、開発から廃棄までライフサイクル全体における環境負荷低減に係る事業を推進しています[*8]。
具体的には、輸送による環境負荷を低減するため、異なるメーカーの商品を1台のトラックで運ぶ共同配送の仕組み構築や、環境配慮型車両の導入促進、車載端末を使った「エコドライブ」を推進しています。

図14: 株式会社セブン-イレブン・ジャパン「サプライチェーンでの取り組み」
https://www.sej.co.jp/csr/environment/supply_chain.html

グリーンサプライチェーンの今後の見通し

国内外で多くの企業に浸透しつつあるグリーンサプライチェーン構築に向けた取り組みですが、SBT、RE100への参加企業数が年々増加していることからも分かるように、取り組みを行う企業が今後さらに増加していくと考えられます。
また、環境省の基本ガイドラインによって算出されたサプライチェーン排出量をもとに、様々な企業が温室効果ガス排出量削減に向けた方策を検討・実施しています。

図15: 環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム取り組み事例 花王株式会社」
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/jp2020/C2020_012_KAO_jp.pdf

図16: 環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム取り組み事例 味の素株式会社」
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/jp2020/C2020_005_ajinomoto_jp.pdf

持続可能な社会形成に向けた企業の社会的責任が大きくなる中で、グリーンサプライチェーン構築に向けた企業の取り組みがより一層推進されると予測されます。

消費者としてできること

他方、消費者としては、環境に配慮したサプライチェーンを構築する企業の商品や製品を選択することが求められています。

環境に配慮したサプライチェーンを構築しているかどうかを調べるためには、企業のHPでグリーンサプライチェーンに関する取り組みを確認するのが1つの手段になります。
また、今回紹介したSBTやRE100のような環境イニシアチブや認証制度に参加しているか否かも重要な指標になるため、商品を購入する前にチェックしてみると良いでしょう。

政府、企業、消費者が足並みをそろえて、環境に配慮したサプライチェーン構築推進のための環境を整えていくことが、持続可能な社会形成に向けた重要な鍵と言えるでしょう。

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参照・引用を見る

*1
内閣府「令和元年度 年次経済財政報告 第3章 グローバル化が進む中での日本経済の課題」
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je19/h03-04.html

*2
松野成悟、岸川善紀、朴唯新「グリーンサプライチェーンマネジメントにおける企業間連携と情報共有」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasmin/2013f/0/2013f_53/_pdf/-char/ja

*3
経済産業省製造産業局生活製品課「責任あるサプライチェーン」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/fiber/ginoujisshukyougikai/180323/6_responsible_supply_chains.pdf

*4
環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム 国際的な取組」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/intr_trends.html

*5
みずほ情報総研株式会社「平成30年度国内における温室効果ガス排出削減・吸収量認証制度の実施委託費
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H30FY/000614.pdf

*6
Apple「Apple、2030年までにサプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成を約束」
https://www.apple.com/jp/newsroom/2020/07/apple-commits-to-be-100-percent-carbon-neutral-for-its-supply-chain-and-products-by-2030/

*7
環境省「脱炭素経営促進ネットワーク会員」
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/network/index.html

*8
株式会社セブン-イレブン・ジャパン「GREEN CHALLENGE 2050」
https://www.sej.co.jp/csr/environment.html

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