環境問題のソリューションにつながる! 同業他社によるコンソーシアムのポテンシャルとは

同業各社は日々しのぎを削り、競争を繰り広げています。

ところが最近、商品販売ではライバル関係にある同業他社が、共通の目的・目標を掲げたコンソーシアムを次々に立ち上げています。
例えば、ビール会社や食品会社大手などの同業他社が協力し合ってそれぞれの業界が抱える課題の解決に向けて取り組んでいるのです。

その中には、共同輸送のシステムを構築し、モーダルシフトを達成したケースやペットボトルのリサイクルに向けた先進的な取り組みなどがあります。そうした取り組みが、トラック運転手不足などの業界における課題だけでなく、CO2排出などの環境問題をも改善しつつあります。

本記事では、同業他社によるコンソーシアムの事例を取り上げ、特に環境問題において目覚ましい成果を挙げている取り組みを紹介し、その意義について考えます。

コンソーシアムとは

コンソーシアムの定義

コンソーシアム(Consortium)とは、特定の目的のために集まった協会、組合などの企業連合です[*1]。行政機関や財界団体などが参画することもあります。

国公立大学、私立大学、行政、財界団体などから成る大学コンソーシアム[*2]、IT関連企業110社以上が参画するITコンソーシアムなど、様々な連携形態のコンソーシアムが存在しています。

今回は、上述のとおり、本来は競争関係にある同業他社が共通の課題解決に向けて結成したコンソーシアムに注目します。

コンソーシアムの目的

コンソーシアムの目的は、各業界が抱える課題に応じて様々です。

個々の企業がもつリソースを共有したり、イベントを共同開催したり、ときには共通のゴールを目指して共に新事業を立ち上げたりもします。

本稿では、環境問題のソリューションにつながるコンソーシアムの取り組みを紹介していきます。

共同配送に関する事例

ビール会社によるコンソーシアム

2017年9月、アサヒ、キリン、サッポロ、サントリーのビール会社大手4社が連携し、北海道における共同モーダルシフト・共同配送を開始しました。2019年7月には、関西・中国から九州方面への共同モーダルシフトも開始しています[*3]。

ライバル関係にあるビール会社がこのようなコンソーシアムを結成した背景には、人手不足の深刻化、頻発する災害対策、大規模イベント開催時の対応、そして環境負荷の低減といった課題があります[*3]。

4社のコンソーシアムが立ち上がる前は、4社が別々の物流拠点間をそれぞれのトラックで陸上輸送していました。

ところが、トラックドライバーの高齢化は全産業平均以上のペースで進行しており、(図1-a)、トラック業界の年齢構成も2015年時点ですでに50歳以上が37%を占めていました[*4], (図1-b)。

このような業界の高齢化に加え、働き方改革や労働法規制といった社会環境の変化が、長距離輸送のトラックドライバー不足に拍車をかけ、既存の物流サービスの維持は困難になっていました。

折しも2016年11月には温室効果ガス削減等のための国際枠組み「パリ協定」が発効し、日本全体のCO2排出量の2割弱を占める運輸分野は、低炭素化の面でも対策を迫られることとなりました[*3]。

図1 -a: トラックドライバーの平均年齢      図1-b: トラック業界の年齢構成
出典: 国土交通省総合政策局物流政策課「物流の効率化に向けた取組について」
https://www.mlit.go.jp/common/001180308.pdf, p.2

ビール会社4社はまず、2017年9月、北海道道東エリアでの共同物流の仕組みを構築しました。

ここでポイントとなるのが、各社ごとに行っていた輸送を共同で行う「共同配送」と、トラック輸送から大量輸送できて環境負荷の少ない鉄道・船舶を活用した輸送方法へ切り替える「モーダルシフト」です。

ビール会社4社は、JR札幌の貨物ターミナルにある倉庫を4社の共同拠点としたうえで、荷物を集約、届け先別に仕分けした後、混載して配送する共同配送を導入しました。

さらに、JR札幌からJR釧路までの輸送は、トラック輸送から鉄道コンテナ輸送に切り替え、モーダルシフトを実現しました[*5], (図2)。

図2: 北海道道東エリアでの共同物流の仕組み
出典: アサヒビール株式会社他4社「ビール4社『配送効率化』取組み事例」
https://www.gs1jp.org/forum/pdf/2018_beergroup.pdf, p.5

さらに、2018年7月に開始した関西・中国~九州間の拠点間共同モーダルシフトでは、運休中の列車や空コンテナの返送といった潜在的輸送力を4社が共同利用することで、大型トラック2,400台分の輸送力を鉄道コンテナで確保できるようになりました[*5], (図3)。

図3: 関西・中国~九州間の拠点間共同モーダルシフトの仕組み
出典: アサヒビール株式会社他4社「ビール4社『配送効率化』取組み事例」
https://www.gs1jp.org/forum/pdf/2018_beergroup.pdf, p.9

2019年には、ビールメーカー4社の関東・関西間の陸上輸送をRORO船による海上輸送に切り替えるモーダルシフト事業が認定されています[*6]。

鉄道のみならず海上輸送も取り入れることで、さらなる効率化とCO2排出量削減を推進しています。

食品会社によるコンソーシアム

ビール業界と同様に、食品業界でも持続可能な物流体制の構築に向けたコンソーシアムの動きがあります。

大手食品メーカーの味の素、カゴメ、日清オイリオ、日清フーズ、ハウス食品、ミツカンは、2015年2月、「共同配送」「共同幹線輸送」「製配販課題」をテーマに掲げ、F-LINEプロジェクトを立ち上げました。2019年4月には、同6社でF-LINE株式会社を設立、物流企画の立案、物流資産の共有、物流子会社3社の統合といった活動を展開しています[*7]。

従来は、北海道地区における物流体制は、カゴメ、ミツカン、日清オイリオの3社が共同で、日清フーズ、ハウス食品、味の素が、それぞれ独自の物流ルートで輸配送を行っていましたが、6社のコンソーシアムが立ち上がったことで、物流拠点の統一と共同配送が実現しました。

新たな物流体制が整えられてからは、各社の生産工場から2箇所の在庫拠点に荷物を集め、そこから北海道各地の納品先へと共同配送できるようになりました[*4], (図4)。

図4: 新たな物流体制
出典: 国土交通省総合政策局物流政策課「物流の効率化に向けた取組について」
https://www.mlit.go.jp/common/001180308.pdf, p.9

コンソーシアムによるメリット

競争関係にある同業他社が、物流システムにおける共通課題の解決を目指して立ち上げたコンソーシアムは、人手不足解消や災害時の対策、配送の効率化だけでなく、大幅なCO2排出量削減にも貢献しています。

中でも、トラックによる長距離輸送から鉄道や海運を最大限活用した輸送に切り替えたモーダルシフトによるインパクトは見逃せません。

本記事で紹介したビール会社4社のコンソーシアムによって見込まれるCO2排出量削減は以下のとおりです。

  • 北海道道東エリアの共同物流による効果:330トン(28%)削減[*5]。
  • 関西・中国~九州間の拠点間共同モーダルシフトによる効果:1,500トン(74%)削減[*5]。
  • 関東~関西間の海上輸送へのモーダルシフトによる効果:1,648.7トン(59.3%)削減[*6]

また、F-LINEプロジェクトによるCO2排出削減量は、144.6トン(15%)です[*8]。

物流システムそのものが転換期を迎えている今、運輸分野でCO2排出量削減を進める最大のチャンスが訪れているといっても過言ではありません。そのためには、同業他社が共同配送やモーダルシフトを実現するためのプラットフォームであるコンソーシアムの存在が不可欠といえるでしょう。

ペットボトルのリサイクルを促進するコンソーシアム

ペットボトルのリサイクルを促進するコンソーシアムも立ち上げられています。

日本では、年間約244億本のペットボトルが生産されており、国内のペットボトル回収率は約92%、海外輸出を含めたペットボトルリサイクル率は約85%にのぼります(2018年度時点)[*9]。

これは、2018年の欧州における回収率56.1%、リサイクル率36.3%、米国における回収率28.9%、リサイクル率20.3%と比較しても、世界最高水準の回収率・リサイクル率です[*10]。

国内のペットボトルリサイクル率は、2019年度には85.9%、2020年度には88.5%と、年々伸び続けています[*11], (図5)。

図5: 国内再資源化と海外再資源化
出典: PETボトルリサイクル推進協議会HP「リサイクル率の算出」
https://www.petbottle-rec.gr.jp/data/calculate.html

現状のペットボトルリサイクル状況でも、リサイクルが全くされなかった場合と比べて、すでに年間1,469千トン(約42%)のCO2排出量が削減されています(2019年度データ)[*12]。

このように、世界トップレベルのペットボトルリサイクル率を誇る日本ですが、新しく作られるペットボトルのうち、使用済みペットボトルをリサイクルして作られる割合は約1割にすぎません。残りの9割は、新たに石油資源を使って作られています[*9]。

現状他の製品へとリサイクルされているものを、再びペットボトルの原料として利用できれば、新たなペットボトルを作るための石油資源は大幅に節約され、CO2排出量も削減することができます。

そこで立ち上げられたのが、「BRING BOTTLEコンソーシアム」。

使用済みペットボトルを再びペットボトルへとリサイクルする「ボトル to ボトル」の割合を拡大し、ペットボトルの国内完全循環を目指すコンソーシアムです。

「BRING BOTTLEコンソーシアム」は、「あらゆるものを循環させる」というビジョンのもと、「使い終えたモノをごみでなく資源として循環する取り組み」を企画・運営してきた日本環境設計が発起人となり、2021年4月に設立した企業間連携コンソーシアムです[*13]。

共にペットボトルの国内完全循環を目指す“仲間”として、イオン、セブン&アイ・ホールディングス、小田急電鉄、ファミリーマートなど、小売業界でしのぎを削る同業他社が参画しています。

同コンソーシアムでは、参画企業の運営施設で集められた使用済みペットボトルのうち、現状ではペットボトルへとリサイクルすることが困難なものを対象に回収します。

そして、日本環境設計のグループ会社であるペットリファインテクノロジーが、独自のケミカルリサイクル技術を用いて、これまではペットボトルへとリサイクルできなかった使用済みペットボトルをペットボトルへと再生、循環させようという試みです。

今後の課題と展望

政府の掲げる「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、分野ごとの課題と脱炭素社会実現に向けたロードマップが示されています。

これによると、物流分野では、ようやく同業他社間の共同輸配送やモーダルシフトの取り組みが進んできましたが、今後はさらにサプライチェーン全体の「タテ」の連携による輸送効率化や、物流施設自体の低炭素化などが求められます[*14]。

ペットボトルのリサイクル関連では、未だ開発フェーズに留まっている廃プラスチックの活用に続き、今後、導入拡大やコスト低減フェーズが待ち受けています[*14]。

海外の物流システムの動向に目を向けると、デジタル技術を活用して、事業者やサプライチェーンの枠を超えた効率化と最適化を図る「スマート物流」が進められています。

スマート物流を社会に実装するには、高速インターネット接続環境と近代化された「デジタルシステム」をベースに、物流データの形式や管理方法を統一する「データの標準化」と、データ提供に伴うコストや懸念を払拭しつつ企業のデータ提供を促す「データ共有を巡る意識」が重要な課題となります[*15]。

「標準化」や「意識の共有」は、当然ながら、個々の企業では実現できません。スマート物流の例からも分かるとおり、低炭素化社会の実現には、競争から“共走”への発想の転換が不可欠です。

共通の目的に向けて知恵を出し合い、新たな仕組みを構築するためのプラットフォームとして、コンソーシアムが担う役割は今後より大きなものになっていくことでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
「コンソーシアム」『広辞苑 第七版』(電子版)岩波書店
*2
公益財団法人大学コンソーシアム京都HP「加盟会員」
https://www.consortium.or.jp/info/menbership
*3
国土交通省 共同物流等の促進に向けた研究会「連携による持続可能な物流に向けて(提言)~事例から見る物流生産性向上のポイント~」
https://www.mlit.go.jp/common/001294296.pdf, p.5-7,p.6,p.11
*4
国土交通省 総合政策局物流政策課「物流の効率化に向けた取組について」
https://www.mlit.go.jp/common/001180308.pdf, p.2,p.9
*5
製・配・販連携協議会 アサヒビール株式会社他4社「ビール4社『配送効率化』取組み事例」
https://www.gs1jp.org/forum/pdf/2018_beergroup.pdf, p.4,p.5,p.8,p.9
*6
国土交通省「157.ビールメーカー4社のRORO船モーダルシフト」
https://wwwtb.mlit.go.jp/kanto/content/000172834.pdf, p.1
*7
国土交通省「食品メーカーによる物流関連の連携の動き(F-LINEプロジェクト、SBM会議)」
https://www.mlit.go.jp/common/001242561.pdf, p.1
*8
国土交通省「物流効率化に資する標準化の取り組み」
https://www.mlit.go.jp/common/001347055.pdf, p.8
*9
BRING BOTTLEコンソーシアムHP「FACT ペットボトル循環の事実」
https://bringbottle.jp/
*10
PETボトルリサイクル推進協議会HP「日米欧のリサイクル状況比較」
https://www.petbottle-rec.gr.jp/data/comparison.html
*11
PETボトルリサイクル推進協議会HP「リサイクル率の算出」
https://www.petbottle-rec.gr.jp/data/calculate.html
*12
PETボトルリサイクル推進協議会HP「PETボトルのリサイクルによるCO2排出量の削減効果算定」
https://www.petbottle-rec.gr.jp/more/reduction_co2.html
*13
PR TIMES「ペットボトルの国内完全循環を目指した企業間連携コンソーシアム BRING BOTTLEコンソーシアム設立のお知らせ」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000030.000031188.html
*14
経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005-4.pdf ,p.62,p79
*15
経済産業省「平成30年度商取引・サービス環境の適正化に係る事業(海外における物流・サプライチェーンの動向調査事業)報告書」
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H30FY/000034.pdf, p.52

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