太陽光パネルを使った夜間発電とは? 研究・開発が進む太陽光発電の進化系パネルの数々

公共施設や住宅の屋根、広い遊休地など様々な場所で設置されている太陽光発電。国内での導入量は着実に伸びており、広く普及してきています。

ただ一方で、「夜間は発電できない」「設置場所に限りがある」といった課題もあります。

そんな中で近年、太陽光発電が更なる普及に向けて、新たな進化を遂げつつあります。どのような新技術の研究・開発が進んでいるのでしょうか。

 

既存の太陽光発電の仕組み

新技術を理解するためには、まずは一般的な太陽光発電の仕組みや現状について理解する必要があります。

太陽光発電とは、シリコン半導体などを用いて、太陽の光エネルギーを太陽電池によって電気に変換する発電方法です[*1]。

エネルギー源が太陽光であるため、基本的に設置する地域に制限がなく、屋根や壁など未利用スペースを活用できるというメリットがあります。また、1kW当たりのシステム価格は年々安価になっているため、国内における太陽光発電導入量は増加傾向にあります[*1], (図1)。

図1: 太陽光発電の国内導入量とシステム価格の推移
出典: 資源エネルギー庁「なっとく!再生エネルギー 太陽光発電」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/solar/index.html

現状の課題

普及の進む太陽光発電ですが、一方で課題も山積しています。例えば、気候条件や時間帯により発電出力量が左右されることです[*1]。

同じ太陽光パネルでも、日照時間の長さによって発電量は変化します。また、日照時間のほか、気温によっても発電効率が変化します。一般的に太陽光パネルは高温に弱いとされ、結晶系の太陽光パネルは1度上昇で発電効率が0.4%低下してしまいます[*2]。

また、季節によって発電量は変動し、晴れの日が続きやすく気温が10度から20度の3月~5月は発電量が高くなる時期ですが、晴れの日に比べて曇りの日は発電量が50%ほどに低下してしまうため、梅雨の時期は発電量が減少する傾向にあります。その他、秋は春と同様に一定の発電量を確保できるとされますが、冬は春や夏場より発電量が減少するとされています。

さらに、夜間には太陽の光エネルギーが得られず、発電施設を稼働させることができません[*3], (図2)。

図2: 太陽光発電所の1日の発電量推移
出典: スマートジャパン「夏の電力需要と太陽光発電に共通する1日の変化」
https://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1208/31/news026.html

図2を見ると、太陽が出ている午前6時から午後17時ごろまでは発電していますが、それ以外の時間帯は発電していません。24時間稼働が可能な火力発電とは異なり、発電出力を自由に調整できないという点は大きな課題です。

また、前述のように1kW当たりのシステム価格は年々低下しているとはいえ、国内における太陽光発電のシステム費用は諸外国と比較すると高く、更なるコスト低減が求められています[*4], (図3)。

図3: 日欧の太陽光発電(非住宅)システム費用比較
出典: 資源エネルギー庁「再エネのコストを考える」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/saienecost.html

非住宅向け太陽光発電の費用は欧州と比較すると2倍近くの差があります。国内での更なる普及に向けて、パネルの低コスト化が求められています。

さらに、再生可能エネルギーの他の電力源と比較して発電効率が低いことも課題の1つです[*5], (図4)。

図4: 再生可能エネルギーの発電効率
出典: 北海道エナジートーク21「13新春フォーラム『再生可能エネルギーの可能性と課題』【第二部】座談会『再生可能エネルギーの可能性と課題を探る』」
http://www.enetalk21.gr.jp/kouenroku/20130130_shinsyun2_05.html

図4に挙げる再生可能エネルギーの中では、水力発電の発電効率が最も高く、その後にバイオマス発電や風力発電が続きます。一方で、太陽光発電は15%程度に留まり、火力発電の発電効率の半分以下の数字です。発電量当たりのコストを下げるためにも、発電効率の向上が求められています。

 

進化系パネルによる新しい太陽光発電

以上のように、発電設備の有効活用やコスト、発電効率など様々な課題がある太陽光発電ですが、近年、課題の解決に向けて様々な新技術の研究・開発が進んでいます。

放射熱を利用した夜間発電

海外の様々な研究機関では、夜間ソーラー発電の研究が行われています。

例えば、スタンフォード大学の研究者は、2022年4月に、市販のソーラーパネルに改良を加え、夜間の発電に成功したと発表しました。物体が夜間に空を向いていると、宇宙空間に熱を放射するため、気温と物体に温度差が生まれます。この放射冷却の性質を利用してエネルギーを作り出すことによって、発電を行うことに成功しました[*6]。

改良したパネルの夜間の発電量は1平方メートルあたり50mW(ある市販のソーラーパネルが日中に発電できる量は、概算で1平方メートルあたり約200W)と、現段階では少量ですが、夜間の照明や機器の充電、センサーなど低出力密度の用途には有効とされ、夜間に必要な電力を一定程度賄うことができると期待されています。

また、オーストラリアの研究チームも、放射冷却を利用した夜間発電と同様の原理で、地球から宇宙に放たれる地表の熱を利用した夜間ソーラー技術の実験に成功したと発表しています[*7]。

地表の熱は夜間に赤外線の形で宇宙に向けて放出されます。この研究では、赤外線を検出する素材を使って「サーモラジエイティブ・ダイオード」という半導体素子を開発し、素子を通じて赤外線を電力に変換しています。

発電出力はソーラー発電の10万分の1と弱い規模に留まり、発電効率も低いとされていますが、半導体素子を改善することで将来的にはソーラー発電の10分の1ほどにまで出力を高めることができると期待されています。

 

反射光を利用した両面発電

夜間における太陽光発電以外にも、両面発電や水上太陽光発電など様々な太陽光発電の研究・開発が進んでいます。

一般的な太陽光パネルは、片方の面で太陽の光エネルギーを受けて発電します。しかしながら、前述のとおり太陽光発電の発電効率は低く、設置場所も限られているため、いかにして発電効率を上げるかがカギとなっています。

近年では、パネルの両面を活用した両面発電が普及してきました[*8]。

例えば、太陽光発電パネルを手掛けるメーカーのトリナ・ソーラーは、表面で太陽光を受けて発電し、裏面で散乱光や地表からの反射光を電力に変換するパネルを製造・販売しています[*9], (図5)。

図5: 両面発電のイメージ図
出典: トリナ・ソーラー「両面発電モジュールという選択」
https://www.trinasolar.com/jp/resources/blog/fri-09132019-1800

両面発電パネルは、垂直に設置することもできるため、フェンスなどへの設置も可能です。また、地表が白いほど強い反射光が得られるため、積雪地帯や砂地での設置も可能となっています。

実際、北海道清水町で稼働する太陽光発電所では、両面発電パネルによる大規模発電が行われており、通常タイプと比較して年間で7%ほど発電量が増えた結果がでています[*10]。

 

水上に設置できる太陽光発電

既存の太陽光パネルは屋根や地表など地上設置型が一般的でしたが、普及が進む中で、太陽光発電に適した用地などの確保が難しくなってきています。そこで近年、水上にも設置できる水上太陽光発電という新たな発電形態が普及しつつあります[*11, *12], (図6)。

図6: 遊水地における水上太陽光の設置
出典: 三井住友建設「水上太陽光発電用フロートシステム」
https://pv-float.com/

水上太陽光は遊休池やため池、貯水池などを有効活用できるほか、水面の冷却効果による発電の高効率化や、地上設置と比べて草刈りなどのメンテナンスが軽減するなど様々なメリットが見込めます[*12], (図7)。

図7: 水上太陽光発電のメリット
出典: 三井住友建設「水上太陽光発電用フロートシステム」
https://pv-float.com/

世界銀行とシンガポール太陽光エネルギー研究所によると、2014年末には世界でわずか10MWの設備容量であった水上太陽光発電は、2018年9月には1.1GWと100倍以上に拡大しており、都市や需要の大きい地域の近くでの発電が期待されています[*13]。

 

太陽電池の発電効率を高める取り組み

カメレオン発光体の応用

ここまで、夜間ソーラーや水上太陽光発電など新たな発電形態について紹介してきましたが、太陽電池の発電効率を向上させる取り組みも加速しています。

例えば、北海道大学は2015年に、温度変化によって発光色が変わる「カメレオン発光体」の技術を太陽電池に応用し、発電効率を向上させることに成功したと発表しました[*14], (図8)。

図8: 紫外光を効率よく赤色光へ変換するカメレオン発光体
出典: 北海道大学「カメレオン発光体を太陽電池へ応用-シリコンの変換効率2%アップ!-」
https://www.hokudai.ac.jp/news/151008_eng_pr.pdf, p.2

カメレオン発光体を含んだフィルムを従来型の太陽電池に貼ることで発電効率を向上させることができます。

既に普及しているシリコン系太陽電池は、長く研究されており、近年は0.2%程度の発電効率の改善に留まっている現状です。そうした中、本研究では2%もの改善を達成しており、さらに耐久性も向上することがわかりました。火力発電や原子力発電と比べて発電効率が低いという太陽電池の課題改善に大きく寄与すると期待されています[*15]。

 

有機系太陽電池

現在主流の太陽電池は、シリコンなどの無機物を利用するため製造工程のどこかで高温にする必要や、真空装置を使う必要があります。しかしながら、常温・常圧で製造できれば、その分コストダウンが可能になります[*16]。

そこで研究が進んでいるのが、有機物を用いた太陽電池です。光を吸収する色素と電解質の層を持つ色素増感太陽電池や、「ペロブスカイト」と呼ばれる結晶構造を持つ材料を用いたペロブスカイト型太陽電池など様々な開発が進んでいます。

例えば、色素増感太陽電池は色素の可視光を吸収する作用を利用して発電する独立型電源です。製造が比較的簡単で、無機物で構成された太陽電池よりも安価に量産できるとされています[*16, *17], (図9)。

図9: 色素増感太陽電池
出典: 産業技術総合研究所「有機系太陽電池」(2018)
https://unit.aist.go.jp/rpd-envene/PV/ja/about_pv/types/Organic2.html

現在、株式会社リコーでは、色素増感太陽電池の量産化に向けた研究開発を行っており、発電効率の向上や生産工程プロセスの構築を進めています。色素増感太陽電池は、屋内照明といtt低照度の光環境においても効率よく発電できるとされ、実用化が期待されています[*17]。

 

まとめ

太陽光発電の新たな展開として、夜間発電や両面発電、カメレオン発光体を使った太陽光パネルなど様々な事例を紹介してきました。

これらの新技術は省エネを導き、世界中で使用可能になれば、昨今のエネルギー問題に大きく寄与することが期待されます。

水上太陽光発電や両面発電など、既に実用化が進む技術もある一方で、今回紹介してきたものの多くはまだまだ試作段階なのが現状です。コスト削減や発電効率の向上など、普及に向けた今後の動向が注目されます。

 

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参照・引用を見る

*1
資源エネルギー庁「なっとく!再生エネルギー太陽光発電」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/solar/index.html

*2
株式会社和上ホールディングス「太陽光発電に向いている地域や条件を分かりやすく解説!」
https://wajo-holdings.jp/media/3320

*3
スマートジャパン「夏の電力需要と太陽光発電に共通する1日の変化」(2012)
https://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1208/31/news026.html

*4
資源エネルギー庁「再エネのコストを考える」(2017)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/saienecost.html

*5
北海道エナジートーク21「13新春フォーラム『再生可能エネルギー』の可能性と課題【第二部】座談会『再生可能エネルギーの可能性と課題を探る』」
http://www.enetalk21.gr.jp/kouenroku/20130130_shinsyun2_05.html

*6
CNET Japan「夜間に発電できるソーラーパネル、スタンフォード大が開発」(2022)
https://japan.cnet.com/article/35186544/

*7
Newsweek「『夜間ソーラー発電』が出力実験に成功 ソーラーの逆の原理で電力を生成」(2022)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/05/post-98769.php

*8
日刊工業新聞「太陽光パネル、両面発電じわり浸透−反射光利用で雪国に最適」(2017)
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/433749

*9
トリナ・ソーラー「両面発電モジュールという選択」(2019)
https://www.trinasolar.com/jp/resources/blog/fri-09132019-1800

*10
メガソーラービジネス「積雪地での『両面ガラス・両面発電』の効果は? 十勝の地場企業によるメガソーラー」(2020)
https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/feature/00001/00064/?ST=msb&P=2

*11
REX「太陽光発電拡大につながる『水上ソーラー』」(2022)
https://www.j-rex.jp/column/floating-solar

*12
三井住友建設「水上太陽光発電用フロートシステム」
https://pv-float.com/

*13
日経XTECH「『水上太陽光は4年未満で100倍以上に拡大』、世銀など報告」(2018)
https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/news/16/110811669/

*14
北海道大学「カメレオン発光体を太陽電池へ応用-シリコンの変換効率2%アップ!-」(2015)
https://www.hokudai.ac.jp/news/151008_eng_pr.pdf, p.1, p.2

*15
京都大学「太陽電池のさらなる進化と紫外光」(2015)
https://sci.kyoto-u.ac.jp/ja/academics/programs/scicom/2015/201511/02

*16
産業技術総合研究所「有機系太陽電池」(2018)
https://unit.aist.go.jp/rpd-envene/PV/ja/about_pv/types/Organic2.html

*17
株式会社リコー「完全固体型色素増感太陽電池」
https://jp.ricoh.com/technology/tech/066_dssc

 

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