V2Gとは? EVを活用した新たな電力調整技術とそのメリット

近年、再生可能エネルギー(再エネ)の大量導入に伴い、電力需給のバランス維持や系統の安定化など様々な課題が顕在化しています。そのような課題を克服するために注目されているのが、「V2G」と呼ばれる技術です。

V2G(Vehicle-to-Grid)とは、電気自動車を「蓄電池」として活用し、電力会社の電力系統に接続し相互に利用する技術のことです。具体的な仕組みやメリットについて、国内外で進む実証事業と併せて詳しくご説明します。

 

V2Gとは

V2Gとは、EV(電気自動車)の蓄電されている電気エネルギーを次世代送電網であるスマートグリッドに送ることで、EVを乗り物としてだけでなく、電力需給バランスを助けるインフラとして活用する技術です[*2]。

一般財団法人 日本エネルギー経済研究所(IEEG)によると、V2Gの導入は再エネの電力需給バランスや電力系統の安定化、EV保有者のコスト削減など様々なメリット得られます[*3]。

電力需給のバランス維持と系統安定化

近年、太陽光や風力などの再エネ設備が国内外で積極的に導入されていますが、再エネは天候によって発電量が変動しやすいため、電力需給のバランスを保つことが難しいという課題があります[*4]。

需給量のバランスが崩れて電力供給量が需要量を下回ってしまうと、発電機や工場の機器に影響を与え、最悪の場合、大規模停電につながってしまうこともあります。一方で、電力供給量が需要量を上回ることが予測される場合、発電量を減らして調整することが求められます。

電力が余る場合、ヨーロッパのように電力が不足する国や地域に送電することも一つの方法として考えられますが、日本の場合はエリアごとに需給バランスを管理しているため、大量の電力を送ることは容易ではありません。現状では送電容量に限界があり、新たに送電設備を建設するにも費用や時間がかかります。

V2Gは、分散型電源やエネルギー貯蔵など電力量の調整役として上記の課題を解決することができます。具体的には、発電量が過剰な場合はEVに蓄電し、発電量が少ない場合は放電するなどの対応を取ります。また、停電のような緊急時には、EVから電力供給を行うことも可能です[*3]。

 

発電事業者やEV保有者にとってのメリット

発電事業者が再エネ設備の導入をさらに増やしたいと考えても、先述したように現在の送電設備では送電できる容量に限界があり、新たに送電設備を建設するとしても、多大なコストがかかってしまいます[*4]。

しかしながら、V2Gを活用すればインフラ整備や発電容量の拡大にかかるコストを抑えることができ、増える電力需要に対して対応が可能です。

また、V2G事業へ参加するEV保有者にもメリットがあります。現在、V2G事業の展開に向けてドイツの大手電力会社E.ONと日産自動車株式会社は、欧州で電力需要のピークと底を予想できるような充電データの集計とマーケティングを行うためのソフトウェア開発などを行っています[*5]。

日産では、電力が逼迫していないオフピーク時にEVバッテリーを充電して、電力網に負荷がかかっている時にV2G機能によりEVバッテリーに蓄積した電力を売り戻すことで、実質的に無料で充電が可能となると考えています。

このように、V2Gは電力産業全体だけでなく、EV保有者にとってもメリットがある仕組みです。

 

国内外におけるV2G普及への取り組み

まだまだ一般的な普及には至っていないV2Gですが、実用化に向けて研究開発や商業運転が国内外で進んでいます。

EVが普及する欧米の事例

V2Gの実証事業等は、EVが普及している欧米で特に進んでいます。例えば、BMWと電力供給等を行うPG&Eは、V2Gの実用性の調査のため一般のEV保有者を集い、ディマンドリスポンス(DR)の実証事業を実施しています[*3]。DRとは、電力供給側等の要請に応じてEV保有者が電力需要の抑制等を行う仕組みです。

2015年7月から2016年12月にかけて行われた当プロジェクトでは、計209回(19,500kWh分)のDRが発動され、BMWはそのうちの約90%(189回)で対応できたと報告されています。

また、2016年8月にはデンマークで世界初のV2G商業運転が開始されました。当事業では、デンマークの公益事業Frederiksberg Forsyningが、日産EVを10台、イタリアの電力会社EnelのV2G用充電設備を10基、アメリカのベンチャー企業NuvveのV2G充放電制御システムを購入し、商業運転を行っています。運転期間中はデンマークにおける周波数調整市場に約14ヶ月間参加し、1,600米ドルの収入があったと報告されています。

さらに、イギリスでもV2Gの実証事業が積極的に行われており、政府研究機関CENEXが中心となり2018年4月からEV保有者320世帯にV2Gユニット(6kW時)を設置しています。専用アプリを使って充電・売電データを長期に渡って収集し、分析結果を用いて家庭用V2Gインフラのビジネスモデルを構築しようと試みています[*6]。

家庭用V2Gユニット(7kW時)を活用することによって、1カ月約16,000円から64,000円ほどの収益を得ることができると試算されており、2030年までにはユニットの価格が現状の1/4の約16万円にまで低下する見込みです。このように欧米では、実用化に向けた期待が高まっています。

 

国内におけるV2G事例

欧米と比べるとV2Gの商業化について遅れをとっている日本ですが、近年、発電事業者や電力小売事業者、自動車製造業者などが連携して、V2Gの実証事業を行っています。

例えば、東京電力ホールディングス株式会社は、株式会社日立システムズパワーサービス、三菱自動車工業株式会社、静岡ガス株式会社などと連携して「EVアグリゲーションによるV2Gビジネス実証事業コンソーシアム」を組み、V2G制御メニューの整理やV2Gに使用するEVの活用ニーズなどの現地実証を行っています[*7], (図1)。

図1: コンソーシアムによる実証サイトの概要
出典: EVアグリゲーションによるV2Gビジネス実証事業コンソーシアム「『EVアグリゲーションによるV2Gビジネス実証事業』報告書」
https://sii.or.jp/vpp30/uploads/B_2_2_tepco.pdf, p.9

本実証事業で得られた成果及び課題を踏まえて、同コンソーシアムはオンラインでの制御や複数サイトでの同時制御など実証事業のさらなる展開を図るとしています。

また、日産自動車株式会社は、三井物産株式会社や東北電力株式会社などと共同で2018年から実証プロジェクトを開始しており、カーシェアや観光施設、事業所など幅広い場面でのV2G活用を目指しています[*8], (図2)。

図2: 日産などによる実証事業の全体像
出典: 日産自動車株式会社、三井物産株式会社、三菱地所株式会社、リコージャパン株式会社、東北電力株式会社「V2G実証プロジェクトの概要について」
https://www.nissan-global.com/PDF/191023-05-j_V2G.pdf, p.4

 

V2G普及に向けた今後の展望

このように、国内外で実証実験や商用運転が開始されているV2Gですが、一方で、普及に向けた課題も山積しています。例えば、V2Gの展開にはEVの普及が前提となりますが、国内においてEVの普及台数は全自動車のうちおよそ1%と伸び悩んでいます[*9]。

また、EVの普及には充電設備などインフラ整備が重要ですが、短時間で充電が可能な国内の急速充電設備は、2018年5月時点で約7,300ヶ所とあまり多くないのが現状です。

普通充電設備は2016年時点で全国に27,835基設置されていますが、充電に多くの時間がかかるのが欠点です。EVの更なる普及に向けては、急速充電設備の拡大が不可欠ですが、設置にかかる費用が普通充電と比べて高いため、設置が伸び悩んでいます[*3], (表1)。

表1: 日本におけるEV充電設備
出典: 一般財団法人 日本エネルギー経済研究所「Vehicle-to-Grid導入の利点と課題」
https://eneken.ieej.or.jp/data/8438.pdf, p.2

今後は、急速充電設備をはじめ、EV普及にかかるインフラ整備を官民が一体となって推進させるとともに、発電事業者や自動車製造業者、EV保有者などの主体がメリットを感じられるようなビジネスモデルの設計を行うことが、V2G発展のカギとなるでしょう。

 

参照・引用を見る

*1
環境ビジネス「スマートグリッド」
https://www.kankyo-business.jp/dictionary/000181.php

*2
株式会社日立製作所「V2G」
https://www.hitachi.co.jp/rd/glossary/en_v/v2g.html

*3
一般財団法人 日本エネルギー経済研究所「Vehicle-to-Grid導入の利点と課題」(2019)
https://eneken.ieej.or.jp/data/8438.pdf, p.1, p.2, p.5, p.6

*4
資源エネルギー庁「再エネの大量導入に向けて ∼『系統制約』問題と対策」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/keitouseiyaku.html

*5
REUTERS「焦点:EV充電コスト無料化も、日欧企業が狙うV2G電力供給」
https://jp.reuters.com/article/ev-v2g-jp-europe-idJPKCN1PH04W

*6
環境ビジネス「『V2G』先進国イギリスの取り組みとは?(後編)」
https://www.kankyo-business.jp/column/e370b7a7-52fe-454b-be22-19380d5f533d

*7
EVアグリゲーションによるV2Gビジネス実証事業コンソーシアム「『EVアグリゲーションによるV2Gビジネス実証事業』報告書」(2019)
https://sii.or.jp/vpp30/uploads/B_2_2_tepco.pdf, p.1, p.5, p.9, p.13

*8
日産自動車株式会社、三井物産株式会社、三菱地所株式会社、リコージャパン株式会社、東北電力株式会社「V2G実証プロジェクトの概要について」(2019)
https://www.nissan-global.com/PDF/191023-05-j_V2G.pdf, p.4

*9
国土交通省、経済産業省「EV/PHV普及の現状について」
https://www.mlit.go.jp/common/001283224.pdf, p.1

メルマガ登録