走行時にCO2等を排出しない自動車「ゼロエミッション・ビークル」 普及に向けた国内外の取り組み

脱炭素化実現のため、自動車のCO2排出量ゼロに向けた取り組みが国内外で進んでいます。例えば、欧州委員会は2035年までに新車のCO2排出量を100%削減するという目標を掲げた環境政策パッケージ「Fit for 55」を2021年に発表し、走行時にCO2等の排出ガスを出さない自動車「ゼロエミッション・ビークル(ZEV:Zero Emission Vehicle)」の更なる普及を目指すとしました[*1, *2]。

また、東京都は2018年に開催した国際会議「きれいな空と都市東京フォーラム」において、2030年の都内の乗用車新車販売に占めるゼロエミッション・ビークル割合を50%まで高めるという目標を掲げています。[*2]。

ゼロエミッション・ビークルと呼ばれる自動車には、どのような種類があり、それぞれどのような特徴があるのでしょうか。また、国内外でゼロエミッション・ビークル推進の動きが加速する中、具体的な取り組みについて詳しく解説します。

 

ゼロエミッション・ビークルとは

ゼロエミッション・ビークルとは、冒頭でも紹介したように、走行時にCO2等を排出しない自動車を指します[*3], (図1)。

図1: ゼロエミッション・ビークルとは
出典: 東京都環境局「ZEVの導入」
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/air/air_pollution/torikumi/clearsky/5.html

電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド自動車(PHV)、燃料電池自動車(FCV)など様々な種類があり、これらは、次世代自動車として国内外で導入が進められています。

日本では、2030年までに電気自動車とプラグインハイブリッド自動車の新車販売の普及割合を20~30%、燃料電池自動車を3%まで引き上げる目標を掲げています[*4], (表1)。

表1: 日本における次世代自動車の新車販売実績と普及目標

出典: 環境省「電気自動車(EV)は次世代のエネルギー構造を変える?!」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/ev.html

現状の普及割合は、2022年の新車販売台数のうち、電気自動車は1.4%、プラグインハイブリッド自動車は1.7%、燃料電池自動車に至っては0.1%未満に留まり、今後さらなる普及に向けた取り組みが求められています[*5]。

電気自動車 EV(Electric Vehicle)

電気自動車は、ガソリンではなくバッテリーに貯めた電気でモーターを動かし、走行します。バッテリーを搭載し、電気のみで走行する電気自動車は、バッテリー式電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)とも呼ばれます。走行中はCO2が発生しない環境に優しい自動車と言われています[*6, *7, *8], (図2)。

図2: 電気自動車の仕組み
出典: 経済産業省 自動車課、電動車活用社会推進協議会「電動車活用促進ガイドブック」
http://www.cev-pc.or.jp/xev_kyougikai/xev_pdf/xev_kyougikai_xEV_katsuyou_sokushin_guidebook.pdf, p.3

ガソリン車は、ガソリン燃焼時に発生するエネルギーのうち、タイヤを動かす動力として使用する割合は約4割と言われています。一方で、電気自動車は、電気を動力に変えるときの効率が9割を超えているため、無駄になるエネルギーが少なく、効率的であるというメリットがあります[*6]。

また、電気自動車はガソリン車と比較して充電一回あたりの走行距離が短いというイメージをよく持たれますが、ガソリン車とそん色ない電気自動車も発売されています。例えば、トヨタ自動車株式会社が販売する電気自動車「bZ4X」は、一充電走行距離が559kmとロングドライブも安心してできるモデルとなっています[*9], (図3)。

図3: トヨタ自動車株式会社が販売する電気自動車bZ4X
出典: トヨタ自動車株式会社「bZ4X」
https://toyota.jp/bz4x/?padid=from_bz4x_feature_nav_top

電気自動車は大きなバッテリーを搭載しているため、駐車場に停めている間など走行時以外にも蓄電池として活用することができ、様々なメリットを持つゼロエミッション・ビークルです[*6]。

 

プラグインハイブリッド自動車 PHV(Plug-in Hybrid Vehicle)

プラグインハイブリッド自動車は、電気自動車とハイブリッド車両方の機能を持つエミッション・ビークルです[*7, *10], (図4)。

図4: プラグインハイブリッド自動車の仕組み
出典: 経済産業省 自動車課、電動車活用社会推進協議会「電動車活用促進ガイドブック」
http://www.cev-pc.or.jp/xev_kyougikai/xev_pdf/xev_kyougikai_xEV_katsuyou_sokushin_guidebook.pdf, p.3

基本的には電力を消費しモーターで走行しますが、電気が尽きるとガソリンを消費してハイブリッド車としてエンジンで走行することもできます。また、貯めたガソリンを使って自ら発電できるため、バッテリーを充電しながら電気自動車として走行を続けることも可能です[*10]。

通常のハイブリッド車との違いとしては、外部から充電可能であるという点が挙げられます。また、補助的に電気モーターで走行可能なハイブリッド車と異なり、プラグインハイブリッド自動車はほぼ電気自動車の機能で走行するため、排気ガスは限りなくゼロに近いとされています。

 

燃料電池自動車 FCV(Fuel Cell Vehicle)

燃料電池自動車とは、搭載する燃料電池で発電し、モーターを動力にして走る電気自動車です。水素と酸素を化学反応させて水にする段階で発生させた電気エネルギーを使って走行します[*7, *11], (図5)。

図5: 燃料電池自動車の仕組み
出典: 経済産業省 自動車課、電動車活用社会推進協議会「電動車活用促進ガイドブック」
http://www.cev-pc.or.jp/xev_kyougikai/xev_pdf/xev_kyougikai_xEV_katsuyou_sokushin_guidebook.pdf, p.3

水素ステーションから供給された水素を使ってエネルギーを取り出し、反応後には水のみが排出されるため、電気自動車などと同様に環境に優しいといった特徴があります。

走行性能についても、トヨタ自動車株式会社が開発した世界初の量産燃料電池自動車「MIRAI」だと、1回の水素充填に対する走行距離は約650kmであり、1回当たりの充填時間は約3分となっています[*12]。

 

国内外におけるゼロエミッション・ビークル推進に向けた取り組み

2020年度における日本のCO2排出量のうち、運輸部門からの排出量は1億8,500万トンと、全体の17.7%を占めています。特に、自家用乗用車によるCO2排出量は運輸部門全体の45.7%を占めており、従来のガソリン車から、ゼロエミッション・ビークルへの移行が求められています[*13], (図6)。

図6: 日本における運輸部門CO2排出量(2020年度)
出典: 国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

実際に、ゼロエミッション・ビークルの普及に向けて国内外の官民様々な主体が取り組みを進めています。具体的な事例を見ていきましょう。

国内におけるゼロエミッション・ビークル推進

例えば、経済産業省と一般社団法人次世代自動車振興センターは、自動車メーカー、エネルギー企業、電動車活用を積極的に進める企業や地方自治体等と連携し、「電動車活用社会推進協議会」を立ち上げました[*20]。

協議会では、「災害時における電動車の活用促進マニュアル」や「電池性能見える化ガイドライン」の公表、電動車を導入している人が受けられる優遇措置事例の募集などの取り組みを実施しています[*21]。

また、冒頭で触れた「きれいな空と都市 東京フォーラム」を皮切りに、地方自治体による取り組みも広がっています[*2]。

東京都では具体的に、ゼロエミッション・ビークルおよび外部給電器等の導入補助金の交付や、マンション充電設備普及促進に向けた連携協議会、カーシェアリング等におけるゼロエミッション・ビークル化促進事業などが行われています。

また、横浜市では、2050年までに温室効果ガスの実質排出量ゼロを目指す「Zero Carbon Yokohama」を策定し、公用車への次世代自動車導入および実証等を推進しています。具体的には、EV公用車を活用したV2G(Vehicle to Grid:電気自動車の蓄電池に蓄積されている電気エネルギーをスマートグリッドと呼ばれる次世代電力網に送ることで、電力をほかの場所でも使えるようにすること)実証へ参画しています。V2Gの普及によって、電気自動車によるエネルギー需給調整や、災害時の電力供給が可能になることが期待されています[*7]。

2019年12月末時点で、電気自動車の公共用充電器は約3万台設置されているとされますが、利用者の利便性向上のため、民間企業による設置も増えつつあります。

例えば、三菱自動車工業株式会社は、従業員が職場で利用できる充電設備を全国で約1,400基導入し、ゼロエミッション・ビークル通勤者を支援しています。

さらには、充電器の導入を検討する事業者・個別宅に向けた支援サービスを開始する事業者も増えており、例えば、リコージャパン株式会社では、充電設備の販売から施工・運用・保守までをサポートするサービスを提供しています。

 

海外におけるゼロエミッション・ビークル推進

冒頭でも紹介したように、EUでは欧州委員会が環境政策パッケージ「Fit for 55」を発表し、2035年までに全ての新車をゼロエミッション化する目標を設定しました。規則案では、2035年以降はハイブリッド車も含め、ガソリンなどの燃料を燃焼させてエネルギーを得る内燃機関搭載車の生産を実質禁止とするとしています[*1]。

また、ゼロエミッション・ビークルの普及に向けては、電気自動車充電インフラの整備・拡充が欠かせません。EUは、2019年に発表された「欧州グリーン・ディール」において、2025年までに「充電ポイントを100万カ所に拡充する」と目標を掲げています[*14, *15], (図7)。

図7: EU及びイギリスにおける充電ポイント設置推移
出典: EUROPEAN COURT OF AUDITORS「Infrastructure for charging electric vehicles: more charging stations but uneven deployment makes travel across the EU complicated」
https://www.eca.europa.eu/Lists/ECADocuments/SR21_05/SR_Electrical_charging_infrastructure_EN.pdf, p.21

2014年時点では約34,000カ所であった設置数が、2020年9月時点で約25万カ所まで増加しています。各国における設置数を見ると、オランダが最も多く61,406カ所、次いでフランスが45,246カ所、ドイツが44,464カ所と続いています[*15], (図8)。

図8: 各国の充電ポイント設置数と100平方キロメートル当たりの充電ポイント割合
出典: EUROPEAN COURT OF AUDITORS「Infrastructure for charging electric vehicles: more charging stations but uneven deployment makes travel across the EU complicated」
https://www.eca.europa.eu/Lists/ECADocuments/SR21_05/SR_Electrical_charging_infrastructure_EN.pdf, p.23

オランダやドイツは、100平方キロメートル当たりの充電ポイント設置数が10を超えており、EU域内でも両国が特に積極的に推進しています。日本における2021年時点の設置台数は、29,233基でした。100平方キロメートル当たりに換算すると、約7.7台となるため、日本と比較して設置台数が多いことが分かります[*16]。

実際に、ドイツは2030年までにバッテリー式電気自動車を国内で少なくとも1,500万台普及させ、公共充電器などの充電インフラについても100万基を設置する目標を掲げています[*17]。

また、ドイツにおける交通・運輸部門のCO2排出量の約3割は、トラックなどの重量物輸送によるものです。自家用乗用車のみならず、トラックやバスのゼロエミッション化に向けた取り組みも広がっています。

2022年、ドイツ自動車大手ダイムラーから分社化したダイムラー・トラックは、スウェーデンのボルボ・グループなどと、欧州で電動トラック・バス向け充電インフラを整備する合弁会社「CV Charging Europe」の設立を発表しました[*18]。同社は、設立後5年間で再生可能エネルギー由来の電気を供給する公共高圧充電施設を、少なくとも1,700カ所整備するとしています[*18, *19]。

 

まとめ

以上のように、ゼロエミッション・ビークルは次世代自動車として、政府や民間企業によって積極的に導入が図られています。

ガソリン車をゼロエミッション・ビークルに代替することで、CO2排出量の削減にもつながります。ゼロエミッション・ビークルの更なる普及に向けては、EUや国内で既に行われているように、充電設備や水素ステーションなど充電インフラを一層拡充し、より利用しやすい環境を整備することが引き続き求められます。

 

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参照・引用を見る

*1
日本貿易振興機構(ジェトロ)「欧州委、2035年までに全ての新車のゼロエミッション化提案」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/07/d870a9cd8282f522.html

*2
東京都環境局「ゼロエミッション・ビークルの普及に向けて」
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/vehicle/sgw/promotion/index.html

*3
東京都環境局「ZEVの導入」
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/air/air_pollution/torikumi/clearsky/5.html

*4
環境省「電気自動車(EV)は次世代のエネルギー構造を変える?!」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/ev.html

*5
一般社団法人 日本自動車販売協会連合会「燃料別メーカー別台数(乗用車)」
http://www.jada.or.jp/wp-content/uploads/62160d31c016d59c2c9cbbd90299807c.pdf, p.5

*6
日産自動車株式会社「電気自動車とは?」
https://www3.nissan.co.jp/first-contact-technology/whats-ev.html

*7
経済産業省 自動車課、電動車活用社会推進協議会「電動車活用促進ガイドブック」
http://www.cev-pc.or.jp/xev_kyougikai/xev_pdf/xev_kyougikai_xEV_katsuyou_sokushin_guidebook.pdf, p.3, p.42, p.44, p.59, p.70

*8
資源エネルギー庁「『電気自動車(EV)』だけじゃない?『xEV』で自動車の新時代を考える」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/xev.html

*9
トヨタ自動車株式会社「bZ4X」
https://toyota.jp/bz4x/?padid=from_bz4x_feature_nav_top

*10
兵庫県三菱自動車販売グループ「PHEV(PHV)とは?-wikipediaより分かりやすい解説-」
https://www.hyogo-mitsubishi.com/news/car20150923000000.html

*11
チューリッヒ保険会社「燃料電池自動車(燃料電池車・FCV)とは。しくみや補助金」
https://www.zurich.co.jp/car/useful/guide/cc-fuelcell-vehicle-fcv/

*12
株式会社キャタラー「燃料電池自動車(FCV)って1回の水素(H2)充填でどれくらい走れるの?」
https://www.cataler.co.jp/train/qa/vehicle/02.php

*13
国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

*14
日本貿易振興機構(ジェトロ)「欧州会計検査院、EV充電インフラ整備に関する報告書公表」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/04/d26e54d68e4e3abb.html

*15
EUROPEAN COURT OF AUDITORS「Infrastructure for charging electric vehicles: more charging stations but uneven deployment makes travel across the EU complicated」
https://www.eca.europa.eu/Lists/ECADocuments/SR21_05/SR_Electrical_charging_infrastructure_EN.pdf, p.21, p.23

*16
NHK「電気自動車の充電スタンド なんで減ってるの?」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210719/k10013147001000.html

*17
日本貿易振興機構(ジェトロ)「経済省と交通省、充電インフラ拡大に向けた省横断組織を発足」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/09/1aa67b4c1a8ee3e1.html

*18
日本貿易振興機構(ジェトロ)「ダイムラー・トラック、他社と共同で電動トラック向け充電施設を拡充」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/12/3a8c304adeb6c6b2.html

*19
株式会社日経BP「欧州トラックメーカー3社、充電インフラ整備に700億円を投資」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/18/13288/

*20
電動車活用社会推進協議会「電動車活用社会推進協議会とは」
http://www.cev-pc.or.jp/xev_kyougikai/about.html

*21
電動車活用社会推進協議会「活動内容・成果」
http://www.cev-pc.or.jp/xev_kyougikai/activity/

 

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