自治体が進める「電気の共同購入」とは? そのメリットと国内自治体による導入事例を紹介

2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガス排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。カーボンニュートラル実現に向けては、様々な取り組みが求められていますが、特に再生可能エネルギーの導入が不可欠です[*1]。

一方で、日本における再生可能エネルギーの発電コストは国際水準と比較してまだまだ高いなど、普及に向けた課題は山積しています[*2]。

そこで近年、販売数量をまとめることで、消費者が安価に購入できるようにする「電気の共同購入」という仕組みが東京都や大阪府吹田市などでスタートしています[*3]。

それでは、電気の共同購入とはどのような仕組みなのでしょうか。詳しくご説明します。

 

再生可能エネルギー導入の現状と課題

国内における再生可能エネルギー導入の現状

  
2050年カーボンニュートラルの実現に向け、政府は電力部門における再生可能エネルギーの主力電源化を推進しています[*4], (図1)。

図1: 2050年カーボンニュートラル実現に向けた取り組み
出典: 一般財団法人 日本原子力文化財団「日本のエネルギー政策 〜2030年、2050年に向けた方針〜」
https://www.jaero.or.jp/sogo/detail/cat-01-04.html

2019年度時点の再生可能エネルギー割合は18%程度でしたが、2021年度には20%にまで上昇しています。各種部門の取り組みによって、2030年度の電源構成における再生可能エネルギーの割合は、36~38%程度まで上昇すると見込まれています。 [*4, *5]。

 

再生可能エネルギーの更なる普及に向けた課題

導入が拡大する再生可能エネルギーですが、更なる普及に向けてはコストなどの課題もあります[*6]。

コスト負担を軽減する制度として、政府は2012年からFIT制度(固定価格買取制度)を実施(2022年4月からFIP制度に移行)しています[*2, *7]。

FIT制度とは、再生可能エネルギー設備から発電された電気を、あらかじめ決められた価格で買い取るよう、電力会社に義務付けた制度のことです。一方で、FIP制度は、FIT制度のように固定価格で買い取るのではなく、再生可能エネルギー発電事業者が卸市場などで売電したとき、その売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せして買い取る制度です。

再生可能エネルギーの買い取り費用の一部は、電気料金を通じて賦課金として国民が負担しています。再生可能エネルギー設備導入の増加に伴って、賦課金負担も増加しており、全体の買い取り費用は2022年度には約4.2兆円にのぼりました[*2, *5], (図2)。

図2: FIT制度導入後の賦課金の推移
出典: 資源エネルギー庁「日本のエネルギー エネルギーの今を知る10の質問」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/pdf/energy_in_japan2022.pdf, p.4

また、電気料金自体も、東日本大震災以降上昇傾向にあります。2010年度の家庭向けの電気料金平均単価は21.39円/kWhでしたが、2021年度には28.09円/kWhまで上昇しました[*5], (図3)。

図3: 電気料金平均単価の推移
出典: 資源エネルギー庁「日本のエネルギー エネルギーの今を知る10の質問」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/pdf/energy_in_japan2022.pdf, p.3

 

電気の共同購入とは

再生可能エネルギーの更なる普及に向けては、消費者が安価に再生可能エネルギー由来の電気を購入できる仕組みが求められています[*3]。

そこで近年、国内外で再生可能エネルギー電力を対象とした「電気の共同購入」という仕組みが導入されつつあります。

電気の共同購入とは、自治体などが再生可能エネルギー電力の購入希望者を募り、一定量の需要をまとめることで価格低減を実現し、再生可能エネルギー電力の購入を促す取り組みのことです[*8, *9], (図4)。

図4: 電気の共同購入とは
出典: 東京都「本キャンペーンについて」
https://group-buy.metro.tokyo.lg.jp/energy/tokyo/info/what-is-this-program

電力会社にとっては、各家庭への営業活動をせずに、まとまった量の販路を確保できるため、コストダウンが図れるというメリットがあります。また、競争入札によって選ばれた電力会社であるため、価格低減を実現しています[*10]。

海外で進む共同購入

  
海外では既に、再生可能エネルギー由来の電気や太陽光発電設備の共同購入事業が進んでいます[*10]。

オランダで創業したアイチューザー社が2009年にオランダで電気の共同購入事業を開始して以降、オランダ、ベルギー、イギリスの3か国での累計参加登録数は約463万世帯にのぼっています(2020年1月時点)。

また、アイチューザー社は自宅の屋根に太陽光パネル設置を希望する住民向けの共同購入サービスも手掛けています。同サービスは、希望者を募ったうえで、割安な価格で設備を提供する施工販売会社を紹介するというものです。

施工販売会社にとっては、まとまった量の工事を獲得できるため、低価格でサービスを提供できるというメリットがあります。2012年に開始した同サービスでは、オランダ、ベルギー、イギリスの3か国で既に設置件数が約4万6,000世帯に達しています。

消費者にとっての共同購入のメリット

 
共同購入は、施工販売会社にとってだけでなく、消費者にとっても様々なメリットがあります。

例えば、先述したように、共同購入することによって、電気代が安くなったり、蓄電池をお得に購入できるなどのメリットがあります[*11, *12], (図5)。

図5: 共同購入のメリット
出典: 京都府、京都市「共同購入参加登録者募集!」
https://www.city.kyoto.lg.jp/kankyo/cmsfiles/contents/0000309/309669/flyer.pdf, p.2

実際、東京都や神奈川県など首都圏自治体が2020年冬に実施した電気の共同購入キャンペーンでは、電気代が総務省「家計調査」に基づく4人世帯の平均的な電力使用量と比較して9%安くなりました[*12]。

自治体による取り組みのため、信頼性が高い点も大きなメリットと言えるでしょう。実績のある販売施工業者による施工が期待できます[*10, *11]。

 

国内自治体で行われる共同購入

東京都等が実施する電気の共同購入事業

  
国内でも、既に様々な自治体が共同購入事業を開始しています。例えば、東京都は、神奈川県や千葉県など首都圏の自治体と連携して「『みんなでいっしょに自然の電気』キャンペーン」を実施しています[*9]。

同キャンペーンにおいて東京都は、アイチューザー株式会社と協定を締結し、都民に対し再生可能エネルギー電力の共同購入を促しています[*9], (図6)。

図6: 「みんなでいっしょに自然の電気」キャンペーン概要
出典: 東京都環境局「『みんなでいっしょに自然の電気』キャンペーン」
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/climate/renewable_energy/saienegroupkonyu.html

料金メニューとして、再生可能エネルギー電気の割合が30%以上と100%のプランを用意しており、購入者の希望に応じてプランを選択できるようになっています。

2020年冬に実施された第3回キャンペーンでは、約6,900世帯がキャンペーンに参加し、「消費者にとってのメリット」でも紹介したように、30%以上メニューで電気代が平均9%削減、100%メニューでも平均6%削減されました。

電力切り替え手続きまでの流れとして、希望者はまず、指定の期間内に専用WEBサイトから参加登録を行います。その後、事務局がオークションにより電力会社を選定し、参加登録者へ見積りを送付します[*12], (図7)。

図7: キャンペーンの流れ
出典: 東京都「首都圏のみなさま 電気の共同購入はじまります」
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/climate/renewable_energy/saienegroupkonyu.files/a4_ic_miiden_chirashi_tokyoto.pdf, p.2

参加登録者は見積りを確認したうえで切り替え判断ができるため、想定される電気代をあらかじめ把握しながら手続きを進めることができます。

京都府等が実施する太陽光パネルや蓄電池の共同購入事業

  
電気の共同購入だけでなく、太陽光パネルや蓄電池の共同購入事業も行われています[*13]。

例えば、京都府は、京都市と連携して、太陽光パネルや蓄電池の購入希望者を広く募り、まとめて発注することで価格の低下を図る共同購入事業「みんなのおうちに太陽光」を実施しています。

本キャンペーンでは、太陽光パネルのみの購入、太陽光パネルおよび蓄電池の購入、蓄電池のみの購入の3つの購入プランが用意されています[*11], (図8)。

図8: 「みんなのおうちに太陽光」における購入プラン
出典: 京都府、京都市「共同購入参加登録者募集!」
https://www.city.kyoto.lg.jp/kankyo/cmsfiles/contents/0000297/297171/flyer.pdf, p.1

太陽光パネルのみ購入するプランの場合、市場価格より27.7%も安く購入できるなど、グループパワーを活かした価格低減を実現しています。

本事業も東京都等の共同購入事業と同様に、参加登録後に見積りを確認したうえで購入を決断できるため、安心して手続きを進められるようになっています。

 

まとめ

2016年4月に電力小売が一般家庭を含めて全面自由化されたものの、2020年8月時点で新電力への契約切り替えを選択した低圧部門の需要家は全国で16.5%と、低い水準にとどまっています[*10, *14]。

再生可能エネルギーの更なる普及に向けては、共同購入のような仕組みを推進しながら、コスト面の課題を克服することが求められています。

 

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参照・引用を見る

*1
環境省「カーボンニュートラルとは」
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/

*2
資源エネルギー庁「再エネのコストを考える」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/saienecost.html

*3
株式会社日経BP「自治体で拡大の兆し、太陽光発電と再エネ電力の『共同購入』」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/04461/

*4
一般財団法人 日本原子力文化財団「日本のエネルギー政策 〜2030年、2050年に向けた方針〜」
https://www.jaero.or.jp/sogo/detail/cat-01-04.html

*5
資源エネルギー庁「日本のエネルギー エネルギーの今を知る10の質問」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/pdf/energy_in_japan2022.pdf, p.3, p.4, p.9

*6
資源エネルギー庁「再エネの主力電源化を実現するために」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/shuryokudengen.html

*7
資源エネルギー庁「再エネを日本の主力エネルギーに!『FIP制度』が2022年4月スタート」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/fip.html

*8
東京都「本キャンペーンについて」
https://group-buy.metro.tokyo.lg.jp/energy/tokyo/info/what-is-this-program

*9
東京都環境局「『みんなでいっしょに自然の電気』キャンペーン」
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/climate/renewable_energy/saienegroupkonyu.html

*10
株式会社東洋経済新報社「オランダ発、『電気の共同購入』は普及するか」
https://toyokeizai.net/articles/-/324776
https://toyokeizai.net/articles/-/324776?page=2
https://toyokeizai.net/articles/-/324776?page=3

*11
京都府、京都市「共同購入参加登録者募集!」
https://www.city.kyoto.lg.jp/kankyo/cmsfiles/contents/0000309/309669/flyer.pdf, p.1, p.2

*12
東京都「首都圏のみなさま 電気の共同購入はじまります」
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/climate/renewable_energy/saienegroupkonyu.files/a4_ic_miiden_chirashi_tokyoto.pdf, p.1, p.2

*13
京都市「みんなのおうちに太陽光 第3回キャンペーン参加者募集!」
https://www.city.kyoto.lg.jp/kankyo/cmsfiles/contents/0000297/297171/kouhou.pdf, p.1

*14
電力・ガス取引監視等委員会「(参考資料 13)電力市場における競争状況」
https://www.emsc.meti.go.jp/info/activity/report_05/20210122_15.pdf, p.1

 

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