節電を後押しする「節電プログラム」とは? その仕組みや利用者のメリットをご紹介

近年、国内における電力需給は厳しい状況を迎えています。例えば2022年には、企業や家庭に対して、2015年度以来7年ぶりとなる節電要請が行われました[*1]。

電力不足に対処するためには、電力供給を増やすだけでなく、電気を使う私たち需要家にも、節電などの対応が求められています[*2]。

そこで政府は、需要家の取り組みを促進するため、各電力会社と連携して「節電プログラム」を実施しています。

それでは、「節電プログラム」の仕組みや効果、利用者にとってのメリットはどのようなものなのでしょうか。電力需給ひっ迫の現状と併せて、詳しくご説明します。

 

国内における電力需給ひっ迫の現状

人々の暮らしに不可欠な電気の安定供給に向けては、電力需給を「同時同量」で保つことが重要です。このバランスを崩してしまうと、安全装置の発動によって発電所が停止し、予測不能な大規模停電をまねく可能性もあります[*3]。

しかしながら近年、猛暑によるエアコンの使用増加等により、電力需要が急増しており、電力需給がひっ迫しています[*4]。

2022年3月には、冒頭でも紹介したとおり、東京電力管内で「電力需給ひっ迫警報」が出され、2015年度以来7年ぶりに節電要請が行われました。また、2022年5月には、電力需給がひっ迫するおそれがある場合に節電の必要性を呼び掛けるため、経済産業省は「電力需給ひっ迫注意報」を新設しました[*1, *4]。

同注意報は6月に東京電力管内で出されるなど、これまでに複数回発令されています[*4]。

 

節電の重要性

電力需給のバランスを保つためには、供給側の取り組みのみならず、需要側が「ディマンド・リスポンス(DR)」を行うことが求められています。

ディマンド・リスポンス(DR)とは、電力需要家が電力の供給状況に応じて賢く消費パターンを変化させる取り組みのことです[*5]。

ディマンド・リスポンスは、電力需要を増やす「上げDR」と、需要を減らす「下げDR」の二つのパターンに区分されます[*5], (図1)。

図1: ディマンド・リスポンスのパターン
出典: 資源エネルギー庁「ディマンド・リスポンスってなに?」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electricity_measures/dr/dr.html

「上げDR」は、需要機器を多く稼働させたり、蓄電池に充電したりすることなどで、需要量を過剰に出力された電力量と等しくする方法です。

一方で、「下げDR」は、電気のピーク需要のタイミングで需要機器の出力を落とすことなどで電力需給のバランスを保つ方法です。

節電は「下げDR」の方法の一つであり、電力消費を抑える有効な手段であると言えます。資源エネルギー庁によると、全家庭で消費電力の1%を節電することで、毎日、コンビニ約2万店舗が消費する電力と同程度のエネルギーが削減できるとされています[*6], (図2)。

図2: 家庭における節電の効果
出典: 資源エネルギー庁「ご家庭でも省エネに取り組みましょう」
https://www.meti.go.jp/press/2023/10/20231031006/20231031006-7.pdf

 

節電を後押しする「節電プログラム」
インセンティブ型ディマンド・リスポンスの広がり

ピーク時の電気料金を値上げする「電気料金型ディマンド・リスポンス」のメニュー提供など、需要家に節電を促す電力会社もあります[*2]。

しかしながら、需要家に節電をお願いするだけだと、節電量はその時々の需要家の反応によるため、効果が不確実となってしまいます。

そこで近年、節電実施の対価としてポイント等の付与など、節電を行う需要家にもメリットのある「インセンティブ型ディマンド・リスポンス」が広がりつつあります[*2], (図3)。

図3: ディマンド・リスポンスの種類
出典: 資源エネルギー庁「『節電プログラム』で、特典をゲットしながら無理なくおトクにディマンド・リスポンス!」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/setsuden_program.html

インセンティブ型ディマンド・リスポンスの取り組みとして、2022年度に政府は電力会社と連携して「節電プログラム(電気利用効率化促進対策事業)」を実施しました。

「節電プログラム」は、需要家のインセンティブ型ディマンド・リスポンスへの参加を促し、節電等に取り組んでもらうことを意図した取り組みです。

2022年度には、約280の電力会社によって国の支援を受けた節電プログラムが提供されました。

節電プログラムの種類

節電プログラムにおける節電の方法は、大きく2種類あります[*2]。

一つ目は、「月間型」(kWh型)プログラムと呼ばれる方法です。需要家は前年の同月と比較して3%以上の電力使用量の削減を達成すると、特典を獲得できます[*2], (図4)。

図4: 「月間型」(kWh型)プログラムのイメージ
出典: 資源エネルギー庁「『節電プログラム』で、特典をゲットしながら無理なくおトクにディマンド・リスポンス!」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/setsuden_program.html

二つ目は、「指定時型」(kW型)プログラムと呼ばれる方法です。需要家は契約した「小売電気事業者」からディマンド・リスポンスを行う日時が指定され、その日時にベースラインと比べて電力使用量を削減できた場合に特典を得られます[*2], (図5)。

図5: 「指定時型」(kW型)プログラムのイメージ
出典: 資源エネルギー庁「『節電プログラム』で、特典をゲットしながら無理なくおトクにディマンド・リスポンス!」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/setsuden_program.html

ベースラインとは、基本的には直近5日のうち需要量の多い4日分の平均的な使用量のことです。

節電プログラムは、各小売電気事業者が付与している金額にプラスして商品券などの各種特典を獲得できるため、需要家の節電意欲を高める仕組みと言えるでしょう。

 

節電プログラムの実施事例
東京が実施する節電推進事業

東京都では、事業者による節電を促す取り組みとして、「企業の節電マネジメント事業」を実施しています[*7]。

2023年度冬季期間中、電気事業者から節電要請された時間帯に企業(需要家)が1日3%以上の節電を達成することで、1日2万円(最大5日分まで)のインセンティブを受け取ることができます[*7], (図6)。

図6: 「企業の節電マネジメント事業」スキーム図
出典: 東京都「『企業の節電マネジメント(デマンドレスポンス)事業』節電達成回数に応じたインセンティブ付与を可能にします!!」
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/10/27/05.html

また、東京都は、小売電気事業者や一般送配電事業者等に対し、節電マネジメント用システム構築・保守等にかかる導入補助も行っています。節電マネジメント用システム構築等については最大2,500万円(助成率10分の10)、保守については最大3,600万円(助成率2分の1)を助成しています。

民間企業が提供する節電プログラム

小売電気事業者による節電プログラムも活発化しています。例えば、出光興産株式会社では、「出光興産 冬の節電プログラム 2023」を実施し、需要家の節電実績に応じたインセンティブを提供しています[*8]。

高圧や特別高圧を契約している需要家を対象とする当プログラムでは、節電量1kWh当たり5円(税込)をインセンティブとして、翌々月の電気料金が値引きされます[*9]。

また、東京電力エナジーパートナー株式会社は、家庭における節電促進に向けた節電プログラムを推進しています[*10]。

2022年度に当社が実施した「節電チャレンジ2022」では、節電量1kWh当たり5ポイント以上を付与するとともに、節電量0.01kWh以上を達成した場合、初回成功特典として100ポイントを付与しました[*10], (表1)。

表1: 東京電力エナジーパートナー株式会社による節電促進に向けた取り組み

出典: 東京電力エナジーパートナー株式会社「家庭用DRの取り組み状況について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/setsuden_dr/pdf/003_02_02.pdf, p.3

また、それ以外にも、国の節電プログラムを活用して2,000ポイントをプレゼントするなど、インセンティブが拡充されました。

当プログラムには多くの需要家が参加しており、2022年8月には、13回の節電要請に対して約29万人の参加があったと報告されています。

 

無理なくお得に節電に取り組もう

インセンティブの内容等は異なりますが、期間によって節電プログラムを実施するなど、現在様々な事業者が節電に関連したサービスを提供しています。

先述したように、需要家一人ひとりが1%節電を実施するだけで、全体としては多くの電力需要の抑制につながります。節電プログラム等を活用しながら、無理なくお得に節電に取り組んでみるのはいかがでしょうか。

 

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参照・引用を見る

*1
NHK「電力需給ひっ迫注意報とは? 7年ぶり節電要請 私たちにできること」
https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20220607d.html

*2
資源エネルギー庁「『節電プログラム』で、特典をゲットしながら無理なくおトクにディマンド・リスポンス!」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/setsuden_program.html

*3
資源エネルギー庁「電気の安定供給のキーワード『電力需給バランス』とは? ゲームで体験してみよう」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/balance_game.html

*4
NHK「なぜ電力ひっ迫? 節電はいつまで続く? 初の電力ひっ迫注意報」
https://www3.nhk.or.jp/news/special/sakusakukeizai/20220630/501/

*5
資源エネルギー庁「ディマンド・リスポンスってなに?」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electricity_measures/dr/dr.html

*6
資源エネルギー庁「ご家庭でも省エネに取り組みましょう」
https://www.meti.go.jp/press/2023/10/20231031006/20231031006-7.pdf

*7
東京都「『企業の節電マネジメント(デマンドレスポンス)事業』節電達成回数に応じたインセンティブ付与を可能にします!!」
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/10/27/05.html

*8
出光興産株式会社「出光興産 冬の節電プログラム 2023」
https://power.idemitsu.com/dr/

*9
出光興産株式会社「出光興産 冬の節電プログラム 2023 参加条件(高圧以上のお客様)」
https://power.idemitsu.com/dr/assets/doc/dr_condition.pdf?231117a, p.2

*10
東京電力エナジーパートナー株式会社「家庭用DRの取り組み状況について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/setsuden_dr/pdf/003_02_02.pdf, p.3, p.5

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