再生可能エネルギーの導入拡大のカギとなるか? 鉄道架線を活用した送電のメリットと導入に向けた課題は?

2023年5月、国土交通省は2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、鉄道分野における取り組みをとりまとめた「鉄道分野のカーボンニュートラルが目指すべき姿」を公表しました[*1]。

本とりまとめでは、CO2排出削減に向けた取り組みの一つとして、鉄道架線を活用した再生可能エネルギーの送電を進めていくとしています。

鉄道架線の活用に向けては、静岡鉄道が2023年3月から事業化のための調査を開始するなど、具体的な取り組みも始まりつつあります[*2]。

それでは、なぜ再生可能エネルギーの送電に鉄道架線を活用する取り組みが注目されているのでしょうか。鉄道架線で再生可能エネルギーを送電するメリットや課題について、詳しくご説明します。

 

日本における再生可能エネルギーを取り巻く状況
再生可能エネルギー導入の現状とそのポテンシャル

資源エネルギー庁によると、2020年度の日本における再生可能エネルギー由来の発電設備容量は世界第6位となる一方で、発電電力量に占める再生可能エネルギー電力比率は約19.8%にとどまり、国内には再生可能エネルギー導入の余地がまだまだあると言われています[*3]。環境省の試算によると、2019年度の電力供給量の最大2倍の再生可能エネルギーの導入ポテンシャルが存在するといいます[*4], (図1)。

図1: 日本における再生可能エネルギーのポテンシャル
出典: 環境省「我が国の再生可能エネルギー導入ポテンシャル」
https://naso.jp/potential&fit/renewable_ene_potential/potential_gaiyou.pdf, p.3

再生可能エネルギーのさらなる導入に向けた課題

一方で、再生可能エネルギーの導入拡大に向けては、課題もあります。

例えば、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、その発電量が天候によって左右されるため、コントロールが難しいという課題があります。電力需給のバランスが崩れてしまうと周波数が乱れ、発電所の発電機や工場の機器に悪い影響が及び、大規模停電が発生してしまう可能性があります[*5]。

そこで現在は、火力発電等の発電量を減らしたり、揚水発電の動力に再生可能エネルギーの電気を使用して電力需要を増やしたりすることで、電力需給を調整しています。

それでも電気が余る場合には、各エリアを結ぶ「地域間連系線」を使って、他のエリアに電気を融通することもあります[*5], (図2)。

図2: 地域間連系線とは
出典: 資源エネルギー庁「再エネの大量導入に向けて ~『系統制約』問題と対策」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/keitouseiyaku.html

再生可能エネルギーの電力供給が多い九州エリアや北海道エリアなどと、電力需要の多い地域を地域間連系線で結ぶことで、再生可能エネルギーのさらなる導入につながります。そのため、地域間連系線の送電できる量を増やす増強工事が各地で積極的に行われています。

一方で、新たな送電設備を作るには、コストや時間が多くかかるため、効率的な増強工事等の実施が求められています。

 

鉄道架線を活用した再生可能エネルギーの送電

再生可能エネルギーのさらなる導入を促進するため、先述したように、2023年5月に国土交通省は、「鉄道分野のカーボンニュートラルが目指すべき姿」をとりまとめました[*1]。

同とりまとめでは、水素を用いた車両の導入等により鉄道事業そのものの脱炭素化を進めるとともに、鉄道架線などの鉄道アセット(資産)を活用し、鉄道による脱炭素化を目指すとしています[*6], (図3)。

図3: 鉄道分野のカーボンニュートラルが目指すべき姿(概要)
出典: 国土交通省「鉄道分野のカーボンニュートラルの目指すべき姿(概要)」
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001611770.pdf, p.2

先述したように、新たな送電設備を作るには、コストや時間が多くかかります。これらの課題を克服するために、既存の鉄道架線を活用して再生可能エネルギーを送電する取り組みが注目を集めています[*1]。

鉄道架線を活用するメリット

再生可能エネルギーを送電する手段として鉄道架線を活用することで、様々なメリットを享受できます。

一つ目は、送電網の整備費用の抑制につながる可能性があるという点です[*7]。

現在、国内の送電線は約21,700kmですが、さらなる整備を行うとなると、多くの費用がかかります。電力広域的運営推進機関の試算によると、国内の主要送電網を整備するのに必要な投資額は約6~7兆円とされています[*1]。

一方で、国内の鉄道路の総延長は約24,000kmであり、このうち、電気を流す架線が張られている電化区間は約15,000kmです。これらの電化区間を活用して、効率的に送電網を整備することで、整備費用の抑制につながる可能性があります[*7]。

二つ目は、駅舎や車両基地、鉄道架線などの鉄道アセットを有効活用することで、鉄道会社の新たな収入につながる可能性があるという点です[*1]。

太陽光や風力などの再生可能エネルギーが多く設置される北海道や九州の在来線のなかには、不採算に陥っている路線が多くあります。電力会社が鉄道架線を活用して新たな送電網を構築することで、鉄道会社の新たな収入源になれば、路線維持の期待も高まります。

鉄道会社が保有する鉄道アセットをエネルギー分野で活用し、収入を得るケースも増えてきています。例えば、JR東日本は、常磐線の上下線に挟まれた場所のうち、これまで未利用であった土地を活用して「内原第一・第二太陽電池発電所」を設置し、売電を行っています[*8]。

JR東日本は、同発電所のほか、新城館トンネル上部太陽電池発電所など各地で売電を行っており、鉄道アセットを有効に活用することで、新たな収入源確保につながると言えます。

三つ目は、鉄道架線の活用によって、再生可能エネルギーのさらなる導入につながる可能性があるという点です。

近年、JR東日本のように未利用地等の鉄道アセットを活用して再生可能エネルギーの導入を進める鉄道会社も増えています。国土交通省の試算によると、全国の線路沿線に1メートル幅の太陽光電池を設置し、保有する鉄道林(なだれ、ふぶき、土砂崩壊などから鉄道を守るための林)全てに風力発電設備を設置すると、年間80万世帯分に相当するCO2排出量が削減できるとされています[*9, *10]。

鉄道架線の活用によって、沿線地域で発電した電力を需要地に送電することが可能になるため、再生可能エネルギーのさらなる導入につながると言えるでしょう[*11]。

鉄道架線の活用に向けた課題

鉄道架線の活用には様々なメリットがある一方で、普及に向けた課題もあります。

例えば、鉄道架線は系統電力と比較して送電電圧が低いため、長距離になるほど電圧降下への対策が必要となり、設備投資が必要となります[*11]。

鉄道の電化方式には、交流電化と直流電化がありますが、大都市圏では主に直流電化が採用されています。また、地方では交流電化が採用されていますが、交流電化の路線を走行できる電車は限定されているため、現在、直流電化に見直す動きがあります[*1]。

そのため、鉄道架線送電においても直流電化を前提とした構築が求められます。しかしながら、直流電化(600V、750V、1500V)の路線は、電圧が一般的な配電線(6600V)より低くなっています。

電気には、電圧が高いほど送電線による電力損失を抑えることができるという性質があります。また、日本では一般的に、発電所から家庭まで交流の送電が行われていますが、これは変圧器で容易に電圧を変えることができるためです[*12]。

一方で、直流送電を推進すると、直流から交流に変換する変換器の設置が不可欠になります。また、電気を遠くへ送るためには電気を送る力である電圧を上げる必要があるため、変電所の増設が必要となります[*13]。

また、電気の需要先の近くに変電所がない場合、電柱を借りるか、需要施設まで送電する自営線を自前で設置するかの対策を講じるなどが必要です[*1]。

 

鉄道架線の活用に向けた取り組み事例

鉄道架線を活用して再生可能エネルギーを送電する取り組みはまだ構想段階と言えますが、事業化に向けた調査等は既に進んでいます[*2], (図4)。

図4: 「清水静岡レイルグリッド構想」概要
出典: 国土交通省「参考資料集~鉄道分野における脱炭素化の取組事例等~」
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001611771.pdf, p.13

例えば、静岡鉄道は、鉄道沿線で発電された再生可能エネルギーを、鉄道架線を活用して沿線施設等へ配電する「清水静岡レイルグリッド構想」を計画しています。

構想の実現に向けて、静岡鉄道は国土交通省の補助制度を活用して現在、静岡清水線11km及び沿線エリアを対象とした事業化のための調査を実施しています[*14]。

 

鉄道架線活用に向けた今後の動向

鉄道架線を活用した再生可能エネルギーの送電に向けては、メリットがある一方で、設備投資などの課題も山積しています。

国土交通省は必要な設備投資を負担するとしていますが、現段階ではまだ調査段階のため、必要投資額も不明瞭です[*1]。

しかしながら、先述したように、従来の送電網の整備費用は2050年までに約6~7兆円かかるとされ、大きな負担と言えます。鉄道架線を活用した送電が低コストで実現できれば、整備費用の抑制および、再生可能エネルギーのさらなる導入につながるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
一般財団法人 新エネルギー財団「国土交通省のカーボンニュートラルを目指した取り組み―鉄道架線を活用した再エネ送電―」
https://www.nef.or.jp/keyword/ka/articles_ko_10.html

*2
国土交通省「参考資料集~鉄道分野における脱炭素化の取組事例等~」
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001611771.pdf, p.13

*3
資源エネルギー庁「日本のエネルギー エネルギーの今を知る10の質問」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/pdf/energy_in_japan2022.pdf, p.13

*4
環境省「我が国の再生可能エネルギー導入ポテンシャル」
https://naso.jp/potential&fit/renewable_ene_potential/potential_gaiyou.pdf, p.2, p.3

*5
資源エネルギー庁「再エネの大量導入に向けて ~『系統制約』問題と対策」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/keitouseiyaku.html

*6
国土交通省「鉄道分野のカーボンニュートラルの目指すべき姿(概要)」
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001611770.pdf, p.2

*7
読売新聞「鉄道架線で再生可能エネルギー送電検討…コスト削減や赤字路線維持への期待も」
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20230701-OYT1T50258/

*8
株式会社日経BP「常磐線沿いのメガソーラーに見る、JR東日本の『こだわり』」
https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/feature/00001/00122/?ST=msb

*9
読売新聞「廃線跡や線路脇で再エネ発電…鉄道会社の未利用地活用、『脱炭素』を後押し」
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220626-OYT1T50151/

*10
東日本旅客鉄道株式会社「鉄道林の今後の取り組みについて」
https://www.jreast.co.jp/press/2008/20080404.pdf, p.1

*11
鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会「鉄道分野のカーボンニュートラルが目指すべき姿」
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001611767.pdf, p.15

*12
金沢工業大学「送電による損失」
https://w3e.kanazawa-it.ac.jp/math/physics/high-school_index/

*13
東芝エネルギーシステムズ株式会社「世界のエネルギー事情を変える技術 『直流送電』は何がすごい?」
https://www.global.toshiba/jp/company/energy/topics/transmission/hvdc.html

*14
静岡鉄道株式会社「『COOL CHOICE 2022 in しずおか』の効果検証結果と脱炭素社会へのさらなる貢献を目指す『静鉄沿線』での取り組みについて」
https://www.shizutetsu.co.jp/media/pages/news/2022/230331/b66cb25b16-1680243109/hp20230331.pdf, p.2

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