次世代パワー半導体とは? その種類やメリット、課題を紹介

物質には、電気を通す「導体」と、電気を通さない「絶縁体」があります。また、導体と絶縁体の中間の電気的性質を備えた物質を「半導体」と言います[*1]。

半導体は、温度によって抵抗率が変化し、低温時には電気を通しませんが、温度が上昇するにつれて、電気が通りやすくなります。この性質は、電気の制御を行う上で役立ちます。そのため、半導体は多くの電化製品に利用されています。

半導体のなかでも、電力制御に必要な高電圧や大電流に対応できるものを「パワー半導体」と言います[*2]。

主なパワー半導体の材料としては、シリコン(Si)が利用されています。しかしながら近年は、電子機器の大容量化が進んだことによって、Siパワー半導体では対応できなくなりつつあります[*3]。

そこで、シリコン以外の材料を使った次世代パワー半導体の研究開発が進んでいます。

それでは、次世代パワー半導体とはどのようなものなのでしょうか。また、次世代パワー半導体が普及した場合、どれほど省エネに貢献できるのでしょうか。詳しくご説明します。

 

半導体とは

半導体とは、一定の電気的性質を備えた物質のことです。冒頭でも紹介したとおり、半導体は、電気を通す「導体」と電気を通さない「絶縁体」の中間に位置する物質です[*1], (図1)。

図1: 導体、半導体、絶縁体の違い
出典: 株式会社日立ハイテク「1. 半導体の性質」
https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/knowledge/semiconductor/room/about/properties.html

炭素やゲルマニウム、シリコンなどの物質が半導体に相当します。シリコンなど単一の元素からなる半導体は「元素半導体」と言います。一方で、2種類以上の化合物からなるものは「化合物半導体」と呼ばれ、発光ダイオード(LED)等に使われています。

 

パワー半導体とは

パワー半導体とは、スイッチング動作により各種の電力変換を行うデバイスのことです[*4]。

パワー半導体の内部において、高速でスイッチのオンとオフを繰り返すことで、電流の直流と交流を変換します。また、パワー半導体を活用することで、周波数を変換したり、電圧を変換したりすることもできます。

パワー半導体は、従来の抵抗器(電気の量を制限したり調整したりする電子部品)が使われる変換方式よりも、熱エネルギーによるエネルギーロスが少なく、省エネに貢献できます。そのため、現在では電車やEV、家電製品、コンピューターの電源部品など様々な場面で使われています。

 

Si(シリコン)パワー半導体とは
Si(シリコン)パワー半導体の概要と市場規模

現在、半導体で最も多く使われている素材であるSi(シリコン)は、地球上で酸素の次に多い元素です[*5]。

しかしながら、自然の中にあるシリコンは、酸素やアルミニウムなどと結びついているため、シリコン元素を抽出する際には純度を高めるための精錬が必要となります[*5], (図2)。

図2: シリコンを抽出するまでの過程
出典: 株式会社日立ハイテク「3. 半導体材料 シリコンについて」
https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/knowledge/semiconductor/room/about/silicon.html

特に、IC(集積回路)などの半導体に使われるシリコンには高純度のものが要求されるため、抽出後に各種の製造過程を経て精製されます[*5, *6], (図3)。

図3: IC(集積回路)に使われるシリコン
出典: 株式会社日立ハイテク「5. IC(集積回路)について」
https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/knowledge/semiconductor/room/about/ic.html

近年、自動車や情報通信機器等の需要拡大に伴い、世界におけるSiパワー半導体の市場規模も拡大しています[*7]。

富士経済によると、2023年におけるSiパワー半導体の市場規模は、前年比11.0%増の2兆7,833億円となる見込みです。また、2035年には2022年比3.2倍の7兆9,817億円規模にまで成長すると予測されています。

Si(シリコン)パワー半導体が抱える課題

加工しやすく、半導体の基板を高品質かつ安価で製造できるため、現在広く活用されるSiパワー半導体ですが、課題も山積しています[*8]。

例えば、シリコンは電気抵抗が高く電力ロスが生じてしまうため、大電力を流す材料として最適とは言えません。

鉄道車両用インバーター(直流電流を交流電流に変換する装置)において、Siパワー半導体は後述するSiCパワー半導体と比較すると、電力ロスが大きくなっています[*2], (図4)。

図4: 鉄道車両用インバーターにおけるIGBT(Siパワー半導体)とSiCパワー半導体の電力ロス比較
出典: 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代の電力社会を担う『SiCパワー半導体』が、鉄道車両用インバーターで実用化」
https://webmagazine.nedo.go.jp/practical-realization/articles/201706sic/index.html

これは、Siパワー半導体では、電力を流した際に一部が熱になることで発生する電力ロスが大きくなってしまうためです。この損失を抑えるために、これまで半導体の構造を見直すなどの改良が行われてきましたが、物理的な限界からこれ以上の改善が困難なところまできています。

 

次世代パワー半導体とは

以上のような理由から、近年、シリコン以外の新しい材料でのパワー半導体の研究開発が進んでいます。

SiC(シリコンカーバイド)半導体とは

シリコンよりも電気を通しやすく、電力損失が発生しにくい材料として実用化が進んでいるのが、シリコンと炭素の化合物であるSiC(シリコンカーバイド)です[*4]。

SiCパワー半導体は、従来のSiパワー半導体よりも高い圧力に耐えられるなどの特性を持っています。

SiCのメリットは、既存のSi半導体プロセス装置の多くをそのまま活用して製造できるという点です。また、先述したように、Siパワー半導体と比べて電力ロスが少ないというメリットもあります[*2, *4]。

さらに、SiCパワー半導体は、電気抵抗が生じる主な場所であるドリフト層の厚さをSiパワー半導体の10分の1ほどに抑えることができます[*2], (図5)。

図5: Siパワー半導体とSiCパワー半導体との構造比較
出典: 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代の電力社会を担う『SiCパワー半導体』が、鉄道車両用インバーターで実用化」
https://webmagazine.nedo.go.jp/practical-realization/articles/201706sic/index.html

これにより、インバーターに電気が通るときや電流のスイッチング時のエネルギー損失の低減を実現しています。

SiCパワー半導体は、現在様々な機器に導入されています。例えば、小田急電鉄では2014年にリニューアルされた通勤車両のインバーター装置において世界で初めて「SiCパワー半導体」が採用されました。

SiCパワー半導体は電力のオンオフ時の電力損失が少ないため、従来のSiパワー半導体と比べて約40%の省エネ高価があることが確認されています[*2], (図6)。

図6: 鉄道車両用インバーターの解説図
出典: 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代の電力社会を担う『SiCパワー半導体』が、鉄道車両用インバーターで実用化」
https://webmagazine.nedo.go.jp/practical-realization/articles/201706sic/index.html

一方で、SiCウエハ(集積回路の重要な材料)製造の難しさやコスト高などの課題もあります。

また、SiCには制御部分と電流が流れる部分に「欠陥」が多く存在しており、電流が阻害され、抵抗が増加してしまうという課題を抱えています。欠陥とは、固体結晶において、規則的な原子配列や化学結合を乱す不完全性を総称したものです[*9, *10]。

SiCパワー半導体のさらなる普及に向けては、これらの課題の解決が求められると言えます。

GaN(窒化ガリウム)パワー半導体とは

半導体の材料となる化合物として、GaN(窒化ガリウム)も近年注目を集めています[*8]。

GaNは、従来のSiパワー半導体では実現できなかった、省エネ化や高効率化が期待される半導体です。これまではコストや技術面で量産が難しく、普及が進まなかったGaNですが、近年の技術進歩により普及が期待されています。

また、GaNはSiCと比べるとスイッチングが早いため、ACアダプターなど小型軽量化が求められる分野での活用が進んでいます[*11]。

例えば、モバイル充電器については、中国のAnker社やアメリカのRAVPower社などがGaNパワー半導体を搭載したモデルを既に発表しています[*12]。

さらに、EVのモーターや充電器、5G(第5世代移動通信システム)分野などでの活用も期待されています[*8]。

GaNは発熱量が少なく、放熱性に優れているため、冷却ファンなどの部品が不要となり、製品を小型化できるというメリットがあります。また、Siと比較して10分の1程度エネルギー損失を抑えられるとともに高温に耐えられる性質があるため、ACアダプター等に搭載すると急速充電が可能であることもメリットと言えます。

一方で、GaNには、SiCと同様に欠陥が多く、高品質なものを安定的に製造することが難しいという課題もあります。また、高品質なものを作るには複雑なプロセスが必要で、高コストとなってしまうという課題もあります。

GaNパワー半導体の普及に向けては、 SiCパワー半導体と同様に、これらの課題を解決する必要があると言えます。

 

次世代パワー半導体の今後の展望

次世代パワー半導体には、SiCやGaNよりも耐電圧が高く、安いという特徴を持つGa2O3(酸化ガリウム)や、優れたパワー半導体特性を持つC(ダイヤモンド)などがあります[*11]。

これらは、現在は開発段階であるため、実用化には時間がかかるとされていますが、実現すればパワー半導体市場のさらなる活性化につながると言えます。

また、既に実用化が進んでいるSiCやGaNなどの次世代パワー半導体の2035年の世界市場規模は、2022年比で31.1倍の5兆4,485億円になると予測されています[*7]。

そのため、日本政府は半導体戦略を策定し、半導体工場へ補助金を投じるなどの施策を実施するなど、半導体普及に向けた取り組みを加速させています[*11]。

日本が次世代パワー半導体の国際競争を勝ち抜くためには、国全体での連携を強めていくことが求められていると言えるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
株式会社日立ハイテク「1. 半導体の性質」
https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/knowledge/semiconductor/room/about/properties.html

*2
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代の電力社会を担う『SiCパワー半導体』が、鉄道車両用インバーターで実用化」
https://webmagazine.nedo.go.jp/practical-realization/articles/201706sic/index.html

*3
国立研究開発法人 産業技術総合研究所「高効率、高速で耐久性に優れたハイブリッド型パワー半導体を開発」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20221012.html

*4
国立研究開発法人 産業技術総合研究所「パワー半導体(パワーデバイス)とは?」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20230517.html

*5
株式会社日立ハイテク「3. 半導体材料 シリコンについて」
https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/knowledge/semiconductor/room/about/silicon.html

*6
株式会社日立ハイテク「5. IC(集積回路)について」
https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/knowledge/semiconductor/room/about/ic.html

*7
アイティメディア株式会社「パワー半導体市場、2035年には13兆4302億円規模に」
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2304/12/news052.html

*8
沖電気工業株式会社「GaNパワー半導体とは? 特徴やSiCとの棲み分け、メリットや課題を解説」
https://www.oki.com/jp/showroom/virtual/column/c-20.html

*9
日本ポリマー株式会社「次世代パワー半導体素材SiC(シリコンカーバイド)について」
https://nihon-polymer.co.jp/2022/02/07/3062/

*10
京都大学「環境に優しい手法でSiC半導体の性能倍増に成功」
https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/embed/jaresearchresearch_results2020documents200908_201.pdf, p.6

*11
沖電気工業株式会社「次世代パワー半導体とは?急速充電や燃費向上できる理由、課題を解説」
https://www.oki.com/jp/showroom/virtual/column/c-21.html

*12
毎日新聞出版株式会社「急速充電で用途が広がる GaNパワー半導体=津村明宏/44」
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200714/se1/00m/020/061000c

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