再生可能エネルギーの普及のために 自然災害など「不測の事態」に備える保険の重要性

現在は再生可能エネルギーの導入が進んでいます。

一方で、再生可能エネルギーの発電には、火力発電や原子力発電と同様に、自然災害による破損など、さまざまなリスクが伴います。そのようなリスクを軽減するために、保険業界はさまざまな保険サービスを提供しており、保険は再生可能エネルギーの普及に欠かせないものとなっています。

その補償とはどのようなものでしょうか。また、課題はないのでしょうか。

再生可能エネルギー普及に向けた保険の意義と補償内容、国内外の動向についてわかりやすく解説します。

 

再生可能エネルギーの定義と普及

そもそも再生可能エネルギーとはどのようなエネルギーを指すのでしょうか。

また、どの程度、普及しているのでしょうか。

再生可能エネルギーとは

再生可能エネルギーは各法律によって複数の定義がされていますが、政令では、「太陽光・風力・水力・地熱・太陽熱・大気中の熱その他の自然界に存する熱・バイオマス」と定められています[*1]。

再生可能エネルギーは、温室効果ガスを排出せず、国内で生産できることから、エネルギー安全保障にも寄与する、重要なエネルギー源です。

エネルギー安全保障とは、「エネルギーが安定的に、また低廉な価格で供給される状態を達成しようとする取り組み」を指します[*2]。

再生可能エネルギーの普及

では、再生可能エネルギーは現在、どの程度、普及しているのでしょうか。

日本では、再生可能エネルギーの占める割合は、2010年度に総発電量の9.5%でしたが、2022年度は21.7%にまで上昇しました[*3], (図1)。

図1: 日本の発電電力量
出典: 経済産業省「2022年度エネルギー需要実績(速報)」

https://www.meti.go.jp/press/2023/11/20231129003/20231129003-1.pdf, p.4

再生可能エネルギーのうち最も発電電力量が多いのは太陽光発電で、926億kWh、総電力発電量の約9.2%を占めています。

政府は2030年度には再生可能エネルギーを総発電電力量の36%~38%、3,360億kWh~3,530億kWhにまで拡大することを目指しています[*4]。

次に、国際エネルギー機関(IEA)がエネルギー分析と予測をまとめた「世界エネルギー見通し(WEO)」2023年版によって世界の状況をみてみましょう。

世界の再生可能エネルギーの年間発電容量は、2023年には500GW(ギガワット)以上に増加し、その増加量は過去最大になるとしています[*5]。

また、今後10年のうちに、世界の総発電量に占める再生可能エネルギーの割合は、現在の約30%から50%に近づくと分析しています[*6]。

さらに、今後、太陽光発電が世界規模でさらに拡大するとの見通しから、再生可能エネルギーは、現在の各国の政策設定のもとでは2030年までに新規発電容量の80%に上るという見通しが述べられています。

 

「不測の事態」による損害と保険

再生可能エネルギーのさらなる推進を目指すにあたって、課題もあります。

「不測の事態」による被害です。特に年々激化する自然災害は、再生可能エネルギーに深刻な損害を与えています。

損害の事例

太陽光発電は、台風などによる風、雪、落雷などによってさまざまな損害を受けます。

風力発電では、落雷や風害などの自然災害以外に、機械的事故による損害もあります。

日本では、2018年7月に兵庫県で発生した集中豪雨に伴う土砂崩れで、1,300枚以上の太陽光パネルが崩落しました[*7]。

また、同年8月には同じく兵庫県で台風20号によって高さ60mの風車が倒壊、その翌月の9月には和歌山県で台風21号により高さ78mの風車がたわみ、大阪府でも1万3,000枚以上の太陽光パネルが破損するという被害が生じています。

次に、保険請求に関する資料を基に、海外の被害状況をみていきましょう。

米国では、2019年にテキサス州で発生した大規模な雹(ひょう)で、約40万枚のソーラーパネルが破損し、損害額は7,000万ドルに及ぶといわれています。

また、森林火災による損害も悪化傾向にあり、2020年はカリフォルニア州を中心に広範囲で被害が発生しています。

ドイツで太陽光発電に大きな被害をもたらした自然災害は、風災と雪災です。寒冷期の長い年では積雪荷重によってソーラーパネルが破損する事故も発生しています。

保険会社が提供するサービス

自然災害による再生可能エネルギー設備への被害に対する安全面の不安や、環境への影響をめぐって地域からの懸念も顕在化しています[*8]。

こうした懸念は、事業の継続性や再生可能エネルギーの推進に取り組む企業のブランド力に大きな影響を与えます。

このような状況を背景として、保険業界は再生エネルギーに関する新たな保険商品を開発しています。

(1)PPA事業者向け保険

まず、PPA事業者向け保険についてみていきましょう。

PPAモデルとは、自治体や企業(需要家)が保有する施設の屋根や遊休地にPPA事業者(エネルギーサービス会社)が太陽光発電設備を設置し、発電された電力を需要家が事業者から買い、施設で使うというものです[*9]。

PPAモデルは、自治体や企業にとっては、太陽光発電設備が初期費用なしで設置でき、安価に再生可能エネルギーを確保できるメリットがあるため、導入が拡大しています[*10]。

一方、デメリットもあります。PPA事業者やそれを使う需要家の他にも、融資を行う金融機関や、実際に電力を需要家に販売する小売電気事業者など、複数のステークホルダーが存在し、契約期間も長期に渡ることです。それで、運営上の様々なリスクが存在します。

こうした状況を受け、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社は2022年、「PPA事業者向け保険パッケージ」の提供を開始しました。

この保険は以下の表1にある6つのリスクに対して補償を行うというものです。

表1: 対象リスクと補償内容
出典: あいおいニッセイ同和損害保険株式会社「【国内初】「PPA事業者向け保険パッケージ」の提供を開始 ~再生可能エネルギーの導入拡大を支援し、カーボンニュートラルの達成に貢献~ 」(2022)
https://www.aioinissaydowa.co.jp/corporate/about/news/pdf/2022/news_2022110101074.pdf

(2)再生可能エネルギー発電事業者向け保険

三井住友海上火災保険株式会社は、再生可能エネルギーの発電事業者などを対象として、天候の変化や発電設備の損壊などによって発電量の実績と発電計画に問題が生じた場合、損失を補償する保険を、2022年に提供開始しました[*11]。

この保険は事業者ごとのリスク状況に応じて、オーダーメイドで提供されています。

東京海上日動火災保険株式会社は、日本に洋上風力実証機が建設された2013年から洋上風力保険への取り組みを開始し、先行する欧州洋上風力プロジェクト保険の引受を行ってきました[*12]。

現在では、10の国や地域で約50件の洋上風力プロジェクト保険の引受を行っています。

また、損害保険ジャパン株式会社は、2023年、猛暑や厳冬期に電力需要が高まることで市場価格が高騰した場合、追加調達費用の一部を補償する保険を開始しました[*13]。

(3)再生可能エネルギーの普及・拡大を後押しする商品

SOMPOグループは、再生可能エネルギー発電参入事業者などを対象に、以下のような保険やサービスを提供しています[*14]。

  • 洋上風力発電事業者向け損害保険

洋上風力発電設備の建設作業中および事業運営中の不測かつ突発的な事故により発生した発電設備の損害を補償する。

  • 風力発電事業者向けセカンドオピニオンサービス

損保ジャパンの火災保険に加入している風力発電事業者に対して、運転・メンテナンス中の各種トラブルの際に、専門家による解決策を提供する(2016年開始)。

また、以下のようなリスク分析サービスも提供しています。

  • 再生可能エネルギー・リスク診断サービス

地震、水害、落雷などの自然災害による再生可能エネルギー発電施設などの立地に関するリスク分析・診断サービス(2012年開始)。

  • 風力発電事業リスク評価サービス

計画中の陸上・洋上風力発電事業における開発・建設・運転フェーズの各種リスクを洗い出し、その結果に基づいてリスク対策を促進する。

  • 風力発電施設のリスク評価モデル

自然災害による事故や故障などのリスクを定量化して示し、事業計画策定のサポートを行う。

  • 風力発電事業を対象とした財務影響分析サービス

自然災害に伴う事故や通常の故障による損害、故障・事故時の運転停止に伴う損害を確率的に評価し、把握したリスクが事業計画の財務に与える影響を定量的に評価する。

 

再生エネルギーの保険に関する課題と対策

このように、現在、再生可能エネルギーを支えるさまざまな保険が提供されていますが、課題はないのでしょうか。

保険料の上昇

報道によると、太陽光発電向けの保険料が上昇しています[*15]。

損保各社は2022年10月、火災や災害の損害を補償する企業保険料を一斉に値上げしましたが、特に太陽光発電の保険料は3割増という大幅な値上げとなりました。損保保険ジャパンによると、太陽光発電の保険は恒常的な赤字となっており、値上げをしないと保険サービスを維持できなくなっているということです。

要因は太陽光発電所の事故件数の8割を占める自然災害の多発です。土砂崩れや洪水による浸水に加え、21年と22年は大雪で発電所がつぶれる事故が多発し、1件1億円以上の支払いが相次ぎました。

こうした傾向は海外でも同じです。

世界56か国で事業を展開する大手保険ブローカーによると、再生可能エネルギー事業は近年損害率が悪化していることから、事故状況に特別問題がない保険契約者に対しても、20%~25%の保険料率引上げが求められているということです[*7]。

解決に向けた取り組み

海外の保険会社において、スイス再保険は、自然災害の影響が大きく保険引受が困難と考えられる地域においても、計画段階からプロジェクトに参加し、リスクを評価して保険を提供してきました[*7]。

国内においては、自然エネルギー庁による令和5年度「再エネ調達市場価格変動保険加入支援事業費補助金」の募集が2023月12月に開始されました[*16, *17]。

地域新電力の小売電気事業者が固定価格買取制度の支援を受けた再生可能エネルギー電気を調達する場合、電力調達コストは卸電力市場価格と連動します。そのため、安定した事業運営のためには、市場価格の変動リスクへの備えが必要です。

この補助金は、事業規模が小さく、リスク対応が難しい地域新電力などを対象にして、民間保険への加入を促すものです(図2)。

図2: 市場変動リスクヘッジのための地域新電力向け民間保険加入促進のイメージ
出典: 一般社団法人低酸素投資促進機構「再エネ調達市場価格変動保険加入支援事業費補助金概要(令和5年度)」(2023)
https://www.teitanso.or.jp/re-energy_insurance/

補助率は2/3以内で、2023年度の募集締め切りは2024年2月29日までですが、2024年度末までに自治体が出資している地域新電力などの8割が民間の市場価格変動保険へ加入することを目指しています[*18]。

 

おわりに

これまでみてきたように、再生可能エネルギーの促進にはそれを支える保険が必要不可欠です。

一方で、自然災害の増加によって、世界の再生可能エネルギー保険の損害は年々高額化してます。

保険会社がこれまで以上に重要な役割を果たすためには、事業者や資金提供者などのステークホルダーとこうした課題を共有し、補償範囲や契約条件をリスクに応じた内容にすることや、先進技術のリスクを適性に評価することが求められています[*7]。

 

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参照・引用を見る

*1
エネルギー庁「なっとく! 再生可能エネルギー>総論 再生可能エネルギーとは>再生可能エネルギーの特徴」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/outline/index.html

*2
経済産業省自然エネルギー庁「世界と日本の『エネルギー安全保障』の変化をくらべてみよう」(2018)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/anzenhosho.html

*3
経済産業省「2022年度エネルギー需要実績(速報)」(2023)
https://www.meti.go.jp/press/2023/11/20231129003/20231129003-1.pdf, p.4

*4
経済産業省自然エネルギー庁「今後の再生可能エネルギー政策について」(2023)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/052_01_00.pdf,p.13

*5
国際エネルギー機関(IEA)World Energy Outlook 2023」
https://iea.blob.core.windows.net/assets/86ede39e-4436-42d7-ba2a-edf61467e070/WorldEnergyOutlook2023.pdf, p.85

*6
国際エネルギー機関(IEA)「The energy world is set to change significantly by 2030, based on today’s policy settings alone」
https://www.iea.org/news/the-energy-world-is-set-to-change-significantly-by-2030-based-on-today-s-policy-settings-alone

*7
損保総研主席研究員  安田昶勲「再生可能能エネルギー事業における保険市場の動向」
発行元: 損保総研レポート, 第136号, 2021年8月
https://www.sonposoken.or.jp/reports/wp-content/uploads/2021/09/sonposokenreport136_1.pdf, p.3, p.10, p.11, p.14, p.15, p.16, p.27, p.28

*8
一般社団法人新エネルギー情報センター「自然災害増加の中、保険業界が支援する持続可能な再生可能エネルギー事業」
https://pps-net.org/column/99540

*9
環境省「再生可能エネルギー導入方法>PPAモデル」
https://ondankataisaku.env.go.jp/re-start/howto/03/

*10
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社「【国内初】「PPA事業者向け保険パッケージ」の提供を開始 ~再生可能エネルギーの導入拡大を支援し、カーボンニュートラルの達成に貢献~ 」(2022)
https://www.aioinissaydowa.co.jp/corporate/about/news/pdf/2022/news_2022110101074.pdf

*11
三井住友海上火災保険株式会社「再生可能エネルギー発電事業者・アグリゲーション事業者向け 『インバランスリスク補償保険』の販売開始 」(2022)
https://www.ms-ins.com/news/fy2022/pdf/0510_1.pdf

*12
東京海上日動火災保険株式会社「統合レポート2021 社会課題解決に向けた取り組みをグループの中長期的な成長エンジンとし持続的な成長を実現していく>第4章 サステナビリティ経営」
https://www.tokiomarinehd.com/ir/download/l6guv3000000d8du-att/06_part4.pdf, p.79

*13
損害保険ジャパン株式会社(PRTIMES)「『自治体新電力』の安定経営を支援する保険商品の提供開始 ~地産地消の再生可能エネルギー安定供給・地方創生に向けた取組み~」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000313.000078307.html

*14
SOMPOホールディングス「農業事業者向け保険や再生可能エネルギーの普及・拡大を後押しする商品の提供
https://www.sompo-hd.com/csr/action/community/content4/

*15
日刊工業新聞社ニューススイッチ「算定が甘かった…上昇する太陽光発電の保険料、自然災害にケーブル盗難が追い打ち」
https://newswitch.jp/p/37037

*16
資源エネルギー庁「令和5年度『再エネ調達市場価格変動保険加入支援事業費補助金』に係る補助事業者(執行団体)の公募について」(2023)
https://www.enecho.meti.go.jp/appli/public_offer/2023/0517_02.html

*17
一般社団法人低酸素投資促進機構「再エネ調達市場価格変動保険加入支援事業費補助金概要(令和5年度)」(2023)
https://www.teitanso.or.jp/re-energy_insurance/

*18
近畿地方環境事務所「再エネ調達市場価格変動保険加入支援事業補助金」
https://kinki.env.go.jp/earth/10_%E8%, p.1

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