CO2濃度の上昇による気候変動の影響への対策方法としての緩和策・適応策の重要性

4) 気候変動に適応する「適応策」の動向と自然エネルギーへの適応技術

国連では、例えばUNFCCCにおいてAC(適応委員会、Adaptation Committee)と呼ばれるグループが適応策のアプローチをまとめています。また同時に国連環境計画(UN Environment)では、日本の環境省が参画している世界適応ネットワーク(GAN, Global Adaptation Network)が世界各地域の適応状況や政策・ビジネスの状況を収集し、組織や人的ネットワークの構築を進めています。

このような国際的な動きのなかで、適応策を実施しなかった場合の異常気象や災害、気候変動による人間の健康、インフラ、農業への影響を含めた被害額が推定される動きもようやく出てきました。まずは米国において、3)の気候変動による被害のうち、どの程度インフラ等の整備が必要になるのか、大規模にまとめた論文が2019年、Nature Climate Change誌上で発表されました。それによれば、例えば米主要部門22のうち、沿岸、道路、鉄道の3部門だけでもそこで挙げられている緩和策を行うことで、RCP4.5シナリオにおいて約1000億ドルもの被害額緩和が見込まれると推定されています。すなわち3)で示された、緩和策によって削減された被害額(3000億ドル)をさらに約3割削減することが可能になります。14 それでも2000億ドル程度の被害額が想定されてしまうといった言い方もできる状況です。

日本ではまだこのような適応策に対する被害額の削減効果は試算されていない状況です。しかし、2018年に気候変動適応法が成立し、各分野および各地方自体が気候変動に対する適応計画「地域気候変動適応計画」を策定努力することが義務付けられました15。そのために、地域の適応情報収集・提供等を行うセンター機能を担う体制を確保する必要があることが決まっています。さらに、災害の多い日本において、気候変動下でこれまで体験したことのないような被害が想定されることも、国土交通省の委員会で認められました。そのため、日本でも徐々に気候変動による被害想定額、緩和策と適応策に必要な投資額が都道府県レベルで推定されるようになると想定されます。具体的な緩和策・適応策としての技術や政策の議論が活発化していくことが期待されます。

それに向けて民間においても、これまでに体験したことのない異常気象や災害等に備えて、自然エネルギー源の発電システムについて、適応策やレジリエンスのような大きな概念に至らないまでも、個別の適応技術やレジリエントな運用体制を構築することが必要です。

世界でも日本でも、気候変動に対するビジネスはブルーオーシャンです。緩和策としてのインフラ・コンサル技術の構築や展開だけでなく、適応技術等の導入によって少なくとも気候変動による被害額の緩和が各企業で必要になってきます。今現在において積極的に適応技術構築の事例を持つことは、受けるはずだった自社の経済的な打撃を緩和できるだけでなく、ESG投資を受けるために必要な気候変動の影響が少ないことを開示できます。さらに、他企業よりも一歩先へ進んだ適応ノウハウを持つことでさらなるビジネスチャンスを掴める可能性が得られるでしょう。

CO2濃度の上昇によって影響を受ける気候変動の緩和策・適応策は研究者や一部の行政官・政治家レベルの対応が中心でした。それが現在では上述のように、ビジネスレベルの対応へフェーズが移りつつあります。これらの気候変動に対する緩和策・適応策は、私たちにとってどこか遠い世界のテーマではなく、民間レベルで取り組む必要のある非常に重要な位置付けとなってきているのです。

 

引用文献

1.Mohanty, Manasi & Pal, Bhatu. (2015). Modeling & Simulation of Fluid Flow Behaviour during CO2 Sequestration in Coal Structure Using Comsol Multiphysics. Volume-4.

2.丸山 茂徳(2008) 科学者の 9 割は 「地球温暖化」 CO2 犯人説はウソだと知っている.

3.IPCC(2018) Global Warming of 1.5 ºC
<https://report.ipcc.ch/sr15/pdf/sr15_spm_final.pdf>

4.European Aviation Safety Agency(2019) 2nd European Aviation Environmental Report (EAER)
<https://www.easa.europa.eu/eaer/>

5.Zhu, Z. et al. (2016) Greening of the Earth and its drivers. Nat. Clim. Chang. 6, 791-796.

6.Evich, Helena Bottemiller; Johnson, Geoff (2017). “The great nutrient collapse. The atmosphere is literally changing the food we eat, for the worse. And almost nobody is paying attention”. Politico.
<https://www.politico.com/agenda/story/2017/09/13/food-nutrients-carbon-dioxide-000511>

7.Landschützer, P., Gruber, N., Bakker, D. C. E., Stemmler, I. & Six, K. D. (2018) Strengthening seasonal marine CO2 variations due to increasing atmospheric CO2. Nat. Clim. Chang. 8, 146–150.

8.S. Department of Energy Office of Science (2008) Carbon Cycling and Biosequestration
<https://public.ornl.gov/site/gallery/originals/Pg002_CCycle08.jpg>

9.Peng, Q., Xie, S.-P., Wang, D., Zheng, X.-T. & Zhang, H. Coupled ocean-atmosphere dynamics of the 2017 extreme coastal El Niño. Nat. Commun. 10, 298 (2019).
< https://www.nature.com/articles/s41467-018-08258-8>

10.Tonui, J. K., & Tripanagnostopoulos, Y. (2008). Performance improvement of PV/T solar collectors with natural air flow operation. Solar energy, 82(1), 1-12.

11.IPCC(2018) Global Warming of 1.5 ºC
<https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/sites/2/2019/02/SR15_Chapter4_Low_Res.pdf>

12.Warren, R., Price, J., Graham, E., Forstenhaeusler, N. & VanDerWal, J. (2018) The projected effect on insects, vertebrates, and plants of limiting global warming to 1.5°C rather than 2°C. Science, 360 (6390), 791-795.

13.地球変動研究プログラム, 第4回気候評価(Fourth National Climate Assessmen:NCA4)https://nca2018.globalchange.gov/downloads/NCA4_Ch29_Mitigation_Full.pdf

14.Martinich, J. & Crimmins, A. Climate damages and adaptation potential across diverse sectors of the United States. Nat. Clim. Chang. 9, 397–404 (2019).

15.環境省<https://www.env.go.jp/press/105165.html>

 

注記

*国立環境研究所<https://www.nies.go.jp/whatsnew/20181121/20181121.html>の値を参照