温室効果ガス削減の取り組み「二国間クレジット制度」とは? そのメリットと事例を紹介

気候変動問題の解決に向けては、世界各国が団結して取り組むことが不可欠です。しかしながら、先進的な低炭素技術にはコストが高いものが多く、途上国など、資金面から独力では実施が難しい場合もあります[*1]。

この課題を解決するために日本が中心となり行われているのが、「二国間クレジット制度」という取り組みです。

二国間クレジット制度とはどのような仕組みで、メリットは何なのでしょうか。二国間クレジット制度を活用したプロジェクトの具体的な事例とともに、詳しくご説明します。

 

二国間クレジット制度とは
二国間クレジット制度の概要

二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism:JCM)とは、日本が途上国と協力して温室効果ガスの削減に取り組み、削減の成果を両国で分け合う制度のことです[*2], (図1)。

図1: 二国間クレジット制度の仕組み
出典: 外務省「二国間クレジット制度(JCM)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000122.html

ここでいう「クレジット」とは、温室効果ガスの削減量や吸収量を他の企業や国と取引するために発行されるものです[*1]。

途上国と協力して温室効果ガス削減に取り組むクレジット制度には、二国間クレジット制度のほか、「クリーン開発メカニズム(CDM)」があります。クリーン開発メカニズムは、温暖化対策の国際的な枠組みである「京都議定書」で作られた仕組みです。

これは、先進国が途上国に技術や資金を提供して温室効果ガス削減プロジェクトを実施し、そこで得られた削減分を先進国が自国の削減量にカウントできるものです。

ただ、クリーン開発メカニズムには、京都議定書締約国やクリーン開発メカニズム理事会が一括して管理しているため、各国の利害調整が難しいという課題がありました。また、プロジェクトの対象範囲は限定的で、例えば、省エネ技術については事業そのものに収益性が見込まれるため、プロジェクトとして認められるためにはより厳しい基準が求められていました[*1], (表1)。

表1: 二国間クレジット制度とクリーン開発メカニズムの比較出典: 資源エネルギー庁「『二国間クレジット制度』は日本にも途上国にも地球にもうれしい温暖化対策」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/jcm.html

これらの課題を克服する手段として、日本は二国間クレジット制度を推進しています。二国間クレジット制度は、日本と当事者の2か国が管理するため、調整が少なく、コストが少なく済むようになっています。

また、プロジェクトの対象範囲もより広くなったため、クリーン開発メカニズムと比較して簡易で、柔軟な仕組みになったと言えます。

二国間クレジット制度のメリット

二国間クレジット制度には、実施する両国にとって様々なメリットがあります。

まず、支援を受ける相手国にとっては、資金等の関係でこれまで自国だけでは実施が難しかった排出削減プロジェクトに取り組むことができるというメリットがあります。

また、日本にとっては、温室効果ガスの排出削減等に対する日本の貢献を定量的に評価することが可能になるため、日本の削減目標の達成に活用することができます[*1, *3], (図2)。

図2: 二国間クレジット制度のメリット
出典: 環境省「二国間クレジット制度 (Joint Crediting Mechanism(JCM))の最新動向」
https://www.env.go.jp/content/000129306.pdf, p.3

二国間クレジット制度等の国際貢献によって、日本は2030年度までに累積で5,000万~1億トンの温室効果ガスを排出削減・吸収することを見込んでいます[*1]。

さらには、日本企業にも大きなメリットをもたらします。二国間クレジット制度の運営等は、両国政府の代表者で構成される合同委員会によって行われており、参加者はまず、合同委員会へプロジェクトの登録申請を行います[*3], (図3)。

図3: 二国間クレジット制度のスキーム図
出典: 環境省「二国間クレジット制度 (Joint Crediting Mechanism(JCM))の最新動向」
https://www.env.go.jp/content/000129306.pdf, p.6

合同委員会では、日本の関係省庁も一体となって提案方法論が開発されるため、企業にとっては自社の技術をアピールする場になります[*4]。

また、日本が得意とする省エネ等の技術は初期投資の高さがネックですが、後述するような二国間クレジット制度の補助事業を活用することで、その弱みを補うことが可能です。

二国間クレジット制度の推進状況

日本は2011年から二国間クレジット制度に関する協議を行っており、2023年11月現在で既に28か国と二国間文書の署名を行っています[*2, *3], (図4)。

図4: 二国間クレジット制度のパートナー国一覧(2023年11月現在)
出典: 環境省「二国間クレジット制度 (Joint Crediting Mechanism(JCM))の最新動向」
https://www.env.go.jp/content/000129306.pdf, p.4

日本政府は、これらのパートナー関係を築いた国やプロジェクトを実施する事業者に対し、様々な支援を行っています[*3], (表2)。

表2: 日本政府によるパートナー国等への支援出典: 環境省「二国間クレジット制度 (Joint Crediting Mechanism(JCM))の最新動向」
https://www.env.go.jp/content/000129306.pdf, p.17

例えば、環境省が実施する「JCM設備補助事業」は、エネルギー起源CO2排出削減のための設備・機器を導入する事業に対して、初期投資費用の2分の1以下を補助するものです[*3], (図5)。

図5: 二国間クレジット制度設備補助事業
出典: 環境省「二国間クレジット制度 (Joint Crediting Mechanism(JCM))の最新動向」
https://www.env.go.jp/content/000129306.pdf, p.18

また、経済産業省では、パートナー国の脱炭素化に資する技術のうち、特に先進的な技術を技術実証としてサポートする事業を実施しています[*3], (図6)。

図6: 経済産業省による二国間クレジット制度プロジェクト支援
出典: 環境省「二国間クレジット制度 (Joint Crediting Mechanism(JCM))の最新動向」
https://www.env.go.jp/content/000129306.pdf, p.24

 

二国間クレジット制度プロジェクトの事例

これまでパートナー国で、二国間クレジット制度に基づく数多くの支援事業が行われてきました。

例えば、環境省JCM資金支援事業は、2013年度から2023年10月にかけて、全体で236件採択され、157件は既に開始しています[*3], (図7)。

図7: 環境省による二国間クレジット制度資金支援事業案件一覧(2023年10月時点)
出典: 環境省「二国間クレジット制度 (Joint Crediting Mechanism(JCM))の最新動向」
https://www.env.go.jp/content/000129306.pdf, p.22

それでは具体的に、どのようなプロジェクトが実施されてきたのでしょうか。以下、タイやラオスなどの東南アジアで実施されたプロジェクトを紹介します。

タイにおける送電ロス削減に向けたシステム導入事業

火力発電中心のタイでは、再生可能エネルギー導入拡大が求められています。一方で、既存のシステムでは送電ロス(送電系統における電力損失)が大きいため、再生可能エネルギーの導入拡大に向けて、送電設備の増強等を行う必要がありました[*5]。

そこで、日本のNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)とタイのエネルギー省は、電力系統の低炭素化等を目的とした実証事業を2020年度に開始しました。

同実証事業では、送電系統に電圧等をオンラインで制御できるシステムを導入することで、送電ロスの抑制及び既存系統設備の供給能力向上を目指しています[*6], (図8)。

図8: 送電系統における電圧・無効電力オンライン最適制御システムの実証事業
出典: 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「タイ初、送電系統の電圧・無効電力オンライン最適制御システムの実証事業を開始」
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101391.html

2022年11月には、同システムの導入が完了し、実証運転が開始されています。導入後の分析結果では、2023年2月21日から3月10日までに約200トンのCO2排出量削減効果が確認されており、今後、二国間クレジット制度のプロジェクト登録を行い、CO2の排出量をクレジットとして発行することを目指しています[*7]。

ラオスにおける水上太陽光発電システムの導入事業

二国間クレジット制度を活用した再生可能エネルギーの導入も進んでいます。例えばラオスでは、首都のビエンチャン市内にある3つの未利用ため池に、合計14MWの水上太陽光発電を導入しました[*8], (図9)。

図9: 未利用ため池を活用した水上太陽光発電
出典: 公益財団法人 地球環境センター「ビエンチャン市における14MW水上太陽光発電システムの導入」
https://gec.jp/jcm/jp/projects/17pro_lao_01/

太陽光発電を設置する場所として、水上は陸上と比較して温度が低く、発電効率の向上が見込めるというメリットがあります。また、出力遮断機能を搭載することによって、水没などによる感電リスクにも対応しています。

同設備によって年間6,838トンCO2相当の温室効果ガス削減が可能です。このように、二国間クレジット制度は、途上国における再生可能エネルギー導入拡大にもつながっています。

ミャンマーにおける廃棄物発電の導入事業

ミャンマーのヤンゴン市では、二国間クレジット制度を活用して、都市ごみの焼却処理を行う際に発生する熱を利用して発電する廃棄物発電を導入しました[*9], (図10)。

図10: 都市ごみを活用した廃棄物発電
出典: 公益財団法人 地球環境センター「ヤンゴン市における廃棄物発電」
https://gec.jp/jcm/jp/projects/15pro_mya_01/

ヤンゴン市内の廃棄物発生量は現在1日当たり約2,500トン以上で、その量は今後も人口増加に伴って増加することが想定されています。一方で、これらの廃棄物は以前は最終処分場に直接埋め立てられていましたが、強い臭気やハエなどの発生により、最終処分場近隣での環境衛生面での問題が懸念されていました[*10]。

そこで、廃棄物発電を実施することで焼却処理を行うとともに、発電した電力を利用することによって、環境に配慮した廃棄物処理を実現しています[*9]。

また、同プロジェクトの推進によって、年間4,067トンCO2相当の温室効果ガス削減が可能とされています。このように、温室効果ガス削減のみならず、途上国の環境問題にも貢献できるという点が、二国間クレジット制度の大きなメリットと言えるでしょう。

 

二国間クレジット制度のさらなる展開に向けて

以上のように、二国間クレジット制度は国際貢献につながるだけでなく、温室効果ガス削減に大きく貢献できるというメリットがあります。

日本政府は、今後も二国間クレジット制度を推進するとしており、同制度を通じて2030年度までに累計で1億トン程度の温室効果ガスの削減量・吸収量を目指すとしています[*5]。

一方で、二国間クレジット制度のさらなる導入拡大に向けては、認知度の向上やパートナー国の拡大など、課題も山積しています。また、日本政府の財源にも限りがあるため、今後は民間資金等を活用したプロジェクトを推進する体制構築も求められています。

気候変動問題は世界的な課題であり、様々な関係者が連携して解決する必要があります。二国間クレジット制度は、関係者が連携して気候変動問題に取り組むことができる仕組みとなりうるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
資源エネルギー庁「『二国間クレジット制度』は日本にも途上国にも地球にもうれしい温暖化対策」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/jcm.html

*2
外務省「二国間クレジット制度(JCM)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000122.html

*3
環境省「二国間クレジット制度 (Joint Crediting Mechanism(JCM))の最新動向」
https://www.env.go.jp/content/000129306.pdf, p.3, p.4, p.6, p.7, p.17, p.18, p.22, p.24

*4
環境省「二国間クレジット制度(JCM)に関する環境省の取組」
https://gec.jp/jcm/jp/news/gwsympo2015/1-1_MOE_Kawakami.pdf, p.4

*5
資源エネルギー庁「温暖化への関心の高まりで、ますます期待が高まる『二国間クレジット制度』」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/jcm2021.html

*6
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「タイ初、送電系統の電圧・無効電力オンライン最適制御システムの実証事業を開始」
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101391.html

*7
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「タイで送電系統の電圧・無効電力オンライン最適制御システムが完成、実証運転を開始」
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101643.html

*8
公益財団法人 地球環境センター「ビエンチャン市における14MW水上太陽光発電システムの導入」
https://gec.jp/jcm/jp/projects/17pro_lao_01/

*9
公益財団法人 地球環境センター「ヤンゴン市における廃棄物発電」
https://gec.jp/jcm/jp/projects/15pro_mya_01/

*10
鈴木永芳「ミャンマー・ヤンゴン市の廃棄物焼却発電」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mcwmr/31/1/31_16/_pdf/-char/ja, p.18, p.19

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