風力発電ときいてすぐ思い描くイメージは、風車。広大な土地に何百もの風車が立ち並ぶ風力発電所の写真を目にしたことのある方も多いのではないでしょうか。
でも、最近は、洋上風力発電の推進が進んでいます。なぜでしょうか。
そもそも洋上風力発電とは? 世界の状況は? そして、日本の取り組みは……?
◆ 風力発電のメカニズム
風のエネルギーを電気エネルギーに変えるのが風力発電です。
まず、そのしくみと発電機のサイズをみていきましょう。
図1は風力発電機の構造と発電のしくみを、図2は最近の大型発電機の大きさを表しています。
図1 風力発電機の構造と発電のしくみ
出典:日本風力発電協会(JWPA)上田悦紀(2014)「風力発電の現状と今後の展望、 洋上風力発電の動向など」p.5(高知県 林業振興・環境部 新エネルギー推進課 主催 「洋上風力発電に関する勉強会(第1回)」配付資料)
http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/030901/files/2014072900029/thema1yojyofuryoku.pdf
図2 最近の発電機の大きさ(陸上)
出典:同図1 p.6
図3のように、最近はコストダウンのために大型の発電機が導入され、洋上風力発電機の中にはさらに大型なものもあります。
次に、発電所の設備と送電方法をみてみましょう。
風力発電には陸上と洋上の2種類があります。
洋上にはさらに着床式と浮体式のふたつの様式がありますが、ここでは、現在、実際に用いられている着床式で説明し、実証段階にある浮体式については後ほどお話しします。
図3 風力発電所の主要構成要素(上:陸上、下:着床式洋上)
出典:NEDO 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2014)「再生可能エネルギー技術白書 第3章 風力発電」p.7
https://www.nedo.go.jp/content/100544818.pdf
図3は風力発電所の構造を表しています。
上の陸上風力発電所の場合、風力発電機によって発電された電気は陸上変電所を経て、電力系統に送られます。
一方、下の洋上風力発電所の場合には、陸上で必要とされる構成要素の他に、海底送電線ケーブル、洋上変電所、港湾施設などが必要です。
◆ 風力発電の特徴
風力発電には優れた特徴がいくつもあります。
~陸上、洋上どちらでも発電可能~
まず、上でみたように、風力は、陸上、洋上のどちらでも発電が可能なエネルギー源です。後で詳しくお話ししますが、この特徴は日本にとって大きなメリットです。
ただし、これまで日本では陸上風力発電の設置がメインで進められてきました。
表1 日本における2030年度風力発電の発電量の導入見込み量
出典:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2018)「着床式洋上風力発電導入ガイドブック最終版」p.4 *データは経済産業省(2015)「長期エネルギー需給見通し小委員会」(第9回)資料4、資料2-2
https://www.nedo.go.jp/content/100889993.pdf
表1は日本の2030年度における風力発電導入見込み量を表しています。
日本では今後もしばらくは陸上風力発電量の方が多いことが見込まれていますが、現在、洋上風力発電の本格的な推進も計画されています。このことについては後で詳しくお話しします。
~低コスト~
風力発電の2つめの特徴は、比較的コストが低いことです。
図4は自然エネルギーの普及が進んでいる西ヨーロッパの電源別発電単価を示しています。
この表からもわかるように、西ヨーロッパでは他の電源に比べ陸上風力は低コストです。
図4 西ヨーロッパにおける電源別発電単価(2016年下半期)
出典:自然エネルギー財団(2017)「日本の風力発電コストに関する研究」p.5
*データ:Bloomberg New Energy Finance(2016)“H2 2016 EMEA LCOE Outlook”
https://www.renewable-ei.org/activities/reports/20170614.html
~太陽光発電と比べてみると~
ここで、風力発電を太陽光発電と比べてみましょう。
以下の図5は、世界の太陽光発電と風力発電のコスト推移を表しています。
図5 世界の太陽光発電と風力発電のコスト推移
出典:経済産業省 省エネルギー・新エネルギー部(2017)第1回「再生可能エネルギーの大量導入時代に
おける政策課題に関する研究会」資料3「再生可能エネルギーの大量導入時代に おける政策課
題について」p.5
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/saisei_dounyu/pdf/001_03_00.pdf
このように、太陽光発電と比べても世界レベルでは風力発電は低コストで、2014年時点では8~9円/kWhでした。
では、日本はどうでしょうか。
表2は、日本の風力発電と太陽光発電の経済性、効率性などに関する諸資料をまとめたものです。
表2 日本の風力発電と太陽光発電の経済性・効率性・環境性に係る指標の比較
出典:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2018)「着床式洋上風力発電導入ガイドブック最終版」p.8
https://www.nedo.go.jp/content/100889993.pdf
この表をみると、太陽光発電に比べ、風力発電の方が建設コストが低く、発電原価も13.9円で太陽光より安いことがわかります。風力発電は太陽光発電と異なり、夜間でも発電することができるためです。さらに、設備利用率も風力発電の方が約10%高いのです。
現在、日本の自然エネルギーの中で、太陽光は普及が進んでいますが(以下の図6)、経済性、効率性、環境面から見て、風力発電は今後ポテンシャルが高い発電手段と言えます。
ただし、後でもふれますが、風力発電にも地震や台風などの不安要素があります。
また、太陽光発電にも他のエネルギー源にはない優れた特徴がいくつもあります。大規模な発電所に限らず個人でも利用可能であること、災害時などの非常電源として使用できること、送電設備がない遠隔地でも発電ができることなどです。
このように考えると、択一的ではなく、多様なエネルギー源を組み合わせて活用することが重要だということがわかります。そして、それを可能にするのが自然エネルギーの大きなメリットなのです。
◆ 風力発電の普及状況
図6 日本の再生可能エネルギーによる発電電力量
環境省(2016)「諸外国における再生可能エネルギーの普及動向」p.12
https://www.env.go.jp/earth/report/h29-03/h28_chapt01.pdf
図6は日本の自然エネルギーの発電量をエネルギー源別に示したものですが、これをみると、日本はまだまだ風力発電に普及の余地があることがわかります。
ただし、全体に占める割合は低いものの、最近は日本でも風力発電の導入量が急速に伸びています。
図7は、日本における風力発電導入量の推移を表しています。
図7 日本における風力発電導入量の推移
出典:NEDO 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2018)「日本における風力発電設備・導入実績」
https://www.nedo.go.jp/library/fuuryoku/state/1-01.html
~世界ではもう主力に~
では、ここで、世界における自然エネルギーの割合を見てみましょう。
図8は、世界の発電設備導入率、自然エネルギーの割合の推移を表しています。
図8 世界の発電設備導入率、再生可能エネルギーの割合の推移
出典:経済産業省 省エネルギー・新エネルギー部(2017)第1回「再生可能エネルギーの大量導入時代に
おける政策課題に関する研究会」資料3「再生可能エネルギーの大量導入時代に おける政策課
題について」p.4
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/saisei_dounyu/pdf/001_03_00.pdf
このグラフをみると、2000年代に入ってから、風力発電が急速に普及し、現在、自然エネルギー源の中でもっともシェアが多いことがわかります。
IEA(国際エネルギー機関)は、このような傾向は今後も続くと予測しています。
次の図9は、IEAによる、世界の自然エネルギー発電電力量の見通しを表しています。
図9 世界の再生可能エネルギーによる発電電力量(見通し)
出典:環境省(2016)「諸外国における再生可能エネルギーの普及動向」p.4
https://www.env.go.jp/earth/report/h29-03/h28_chapt01.pdf
このグラフの緑色の部分が風力発電です。
このように、世界的にみると、今後も風力が主要発電源になることが見込まれています。
◆洋上風力発電
~洋上風力発電のメリット~
風力発電には陸上と洋上があることは先にお話ししましたが、世界的にみると現在は洋上の導入が進んでいます。それは、なぜでしょうか。
表3 洋上風力発電のメリット
洋上風力発電 | 陸上風力発電 | |
風況 | 〇風速 〇風向の安定性 | △風速 △風向の安定性 |
風車1基あたりの大きさ (定格出力) | 〇5.9 MW程度 | △2.7 MW程度 |
大型部材の輸送制約 | 〇制約小(船舶輸送のため) | △制約大(道路輸送のため) |
出典:経済産業省資源エネルギー庁 国土交通省港湾局(2018)第1回「総合資源エネルギー調査会省エネル
ギー・新エネルギー分科会再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会洋上風力
促進ワーキンググループ 交通政策審議会港湾分科会環境部会洋上風力促進小委員会 合同会議」資料
3「再エネ海域利用法の運用開始に向けた論点整理 ―促進区域指定と事業者選定について―」p.11
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/yojo_furyoku/pdf/001_03_00.pdf
表3は洋上風力発電と陸上風力発電を比較し、洋上風力発電のメリットを示したものです。
洋上風力発電のメリットはこれ以外にもあります。
陸上より広大な面積で大規模開発が可能であること、住居から離れているため騒音や景観に対する影響が少ないことなどです。
下の図10は海上風の風量エネルギー密度分布図です。
このグラフの青色が濃いほど風力が強く、風力発電のポテンシャルが高い地域です。
図10 海面上10mにおける海上風平均風力エネルギー密度分布図
出典:NASA ‘Global Ocean Wind Energy Potential’ “Earth Observatory”https://earthobservatory.nasa.gov/images/8916/global-ocean-wind-energy-potential
~日本のポテンシャルも高い~
洋上発電は日本にも大きなメリットをもたらします。
日本は国土が狭く、平坦地が少ないという地理的な制約があります。これに風況条件を加味すると、陸上風力発電所を設置する地域は限られ、その発電量にも限界があります。
その反面、日本は周囲を海に囲まれ、排他的経済水域の面積は世界第6位です。
次の表4は日本の国土と排他的経済水域の面積を表しています。
表4 排他的経済水域の面積と国土面積(単位:万km2 )
出典:防衛省海上保安庁海洋情報部「我が国の排他的経済水域」
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/initiatives3/files/meetingdata/0926_2_1.pdf
図11 洋上風況マップ(海面上80m、年平均風速)
出典:NEDO独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2017)‘NeoWins’
http://app10.infoc.nedo.go.jp/Nedo_Webgis/index.html
図11は、日本の排他的経済水域における洋上風況マップです。赤・ピンク色に寄るほど平均風速が強くなります。これをみると、日本も洋上風力発電のポテンシャルが高いことがわかります。
◆ ヨーロッパの洋上風力発電状況
~恵まれた洋上環境と積極的な導入~
ここで、既に洋上風力発電の普及が進んでいるヨーロッパをみてみましょう。
図12のように、ヨーロッパには風力発電に適した洋上環境があります。
図12 ヨーロッパ周辺海域の年平均風速と風力エネルギー密度マップ(Peterson 1992による)
出典:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2018)「着床式洋上風力発電導入ガイドブック最終版」p.18
https://www.nedo.go.jp/content/100889993.pdf
図13 ヨーロッパにおける洋上風力発電所の配置図(2015年末時点)(地図はEWEAによる)
出典:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2018)「着床式洋上風力発電導入ガイドブック最終版」p.27
https://www.nedo.go.jp/content/100889993.pdf
上の図13はヨーロッパにおける洋上風力発電所の配置図です。
風力発電に適した洋上環境を活かして、ヨーロッパでは現在、洋上風力発電が積極的に行われています。
図14 はヨーロッパにおける洋上風力発電の導入状況を年別に表したものです。
図中の濃色のバーは単年実績を、薄色のバーは累計を表しています。
この図をみると、導入量が急激に増加していることがわかります。
図14 ヨーロッパにおける年別洋上風力発電導入状況(MWベース、WindEuropeによる)
出典:経済産業省(2017)第3回「再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題に関する研究会」
資料2「欧州洋上風力発電事業入札価格の動向・背景とそこから日本が学べること」p.5
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/saisei_dounyu/pdf/003_02_00.pdffu.html
~急激な導入拡大の背景~
ヨーロッパで洋上風量発電の導入が急激に拡大している背景にはいくつかの要因があります。
1つめは、自然環境に恵まれていることです。風況がいいことは既にお話ししましたが、それだけではありません。
表5は日本とヨーロッパ諸国の洋上風力発電設置のポテンシャルを表しています。
表5 日本とヨーロッパ諸国の洋上風力発電設置可能面積
出典:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2018)「着床式洋上風力発電導入ガイドブック最終版」p.19
https://www.nedo.go.jp/content/100889993.pdf
表5をみると、日本は設置可能海域が離岸距離0-10kmの水域に集中し、20-30kmにはほとんど分布していません。一方、それとは対照的に、ヨーロッパの中には、離岸距離20-30kmの海域にも設置可能な海域面積をもつ国々があります。イギリス、デンマーク、オランダなどがこれにあたりますが、これらの国々は海底の傾斜が緩やかです。つまり、遠浅なので、着床式洋上風力発電に適した海域が広いというわけです。
2つめの要因は制度整備です。ヨーロッパ諸国では長期的な導入目標を定め、入札を行い、業者の開発リスクを低減するとともに、競争環境を創出しています。
3つめは、高い技術力です。発電機や建設インフラを大型化し、コストダウンを実現しました。
最後に4つめは、経済的な要因です。洋上風力発電プロジェクトの大型化にともない、大手重電メーカーを軸に急速な統合をはかり、財務体力をつけています。
図15は、以上のようなことによる発電コスト(COE)低減の推移を、表6は、ヨーロッパにおける最近の洋上風力発電の入札動向を表しています。
図15 ヨーロッパにおける洋上風力発電コスト低減の推移
出典:経済産業省(2017)第3回「再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題に関する研究会」
資料2「欧州洋上風力発電事業入札価格の動向・背景とそこから日本が学べること」p.23
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/saisei_dounyu/pdf/003_02_00.pdffu.html
表6 ヨーロッパヨーロッパにおける最近の洋上風力発電の入札動向
出典:経済産業省(2018)「日本でも、海の上の風力発電を拡大するために」p.4
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/yojohuryokuhatuden.html
◆ 日本の洋上風力発電を推進するためには
以上のようなヨーロッパの取り組みを参考にしながら、ここでは日本の洋上風力発電を推進するためには何が必要か考えてみましょう。
~日本の洋上風力発電導入実績~
まず、日本の洋上風力発電の導入実績を表7でみてみましょう。
この値をみると、日本はまだまだ洋上風力発電を推進する余地があることがわかります。
なお、表7の日本の発電量は、すべて国の実証事業によるものです。
表7 世界の洋上風力発電導入実績
出典:経済産業省資源エネルギー庁 国土交通省港湾局(2018)第1回「総合資源エネルギー調査会省エ
ネルギー・新エネルギー分科会再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会
洋上風力促進ワーキンググループ 交通政策審議会港湾分科会環境部会洋上風力促進小委員会 合
同会議」資料3「再エネ海域利用法の運用開始に向けた論点整理 ー促進区域指定と事業者選定に
ついてー」p.5 (データはGWEC,Global Wind Report Annual Market Update 2017、他)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/yojo_furyoku/pdf/001_03_00.pdf
~法の整備~
日本ではこれまで、海域の大半を占める一般海域に対して、海域利用に関する統一ルールがありませんでした。都道府県によってルールが異なり、しかも、その占用許可はふつう3~5年と短期間だったのです。そのため、風力発電の事業者は中長期的な事業の見通しを立てるのが難しく、資金調達が困難でした。
そうした状況を打開するために、2018年12月、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」が公布され、2019年4月に施行されることが決定しました。
この法律では、占用期間について、最大30年間が担保されています。
また、政府が公募を行い、長期的・安定的・効率的な観点から最も適切な事業実施計画を提出した事業者が選定されることも定められています。
~電力系統エリア間を結ぶ連系線の強化~
図16は、各電力会社管内における、着床式洋上浮力発電のポテンシャルと電力会社発電設備容量を表しています。
図16 着床式洋上浮力発電のポテンシャルと電力会社発電設備容量
日本風力発電協会(2014)「風力発電導入ポテンシャルと中長期目標V4.3」p.5
http://jwpa.jp/pdf/2014-06dounyuumokuhyou.pdf
この図をみると、風況のよい北海道、東北、沖縄では、青色のバーが示す発電ポテンシャルの方が、赤線が示す電力会社の設備容量を上回るというミスマッチがみられます。このままだと、風力発電で得られた電気を有効的に供給することができません。
また、電力需要は季節によっても一日の中でも変化します。風況に応じて発電量が変化する風力発電は発電量が一定ではなく、また日々の電力需要リズムとも必ずしも一致しないため、需要と供給のバランスがとりにくいという側面もあります。加えて、日本の電力系統は、以下の図のように電力会社別の大きなエリアごとに管理されており、離れたエリア間で大容量の電気を融通するには、エリアを結ぶ「連系線」容量の制約があります。。
そこでこの制約への対策として、系統エリア間の連系線の増強が検討され、実施に移されています。この連系線の増強は、自然エネルギー源から作られた電気を少しでも無駄なく使うための有効な対策の一つです。図17はその連系線の強化計画です。
図17 地域間連系線の増強計画
出典:経済産業省資源エネルギー庁(2017)「再エネの大量導入に向けて~『系統制約』問題と対策」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/keitouseiyaku.html
~国による実証事業~
日本は海底が急に深くなる地形であること、台風や地震も多いことから、こうした環境に適応するため、またコストを削減するための実証事業が軌道にのってきています。
下の図18は、そうした実証事業を示しています。
図中の「アセス中」とは、洋上風力発電の設置が環境にもたらす影響を調べる「環境アセスメント」のことです。現在、このアセスメント手続き中の案件が540万kW(5,400MW)に達しています。
図18 日本における洋上風力発電導入状況・計画
出典:経済産業省(2018)「日本でも、海の上の風力発電を拡大するために」p.4
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/yojohuryokuhatuden.html
~浮体式洋上風力発電における高いポテンシャル~
最後に、日本にとって非常にポテンシャルが高い浮体式洋上風力発電についてお話しします。
洋上風量発電には着床式と浮体式の2つの方式があることは既にお話ししましたが、先に見たとおり、日本の海底は急に深くなるという地形をしています。このような地形は、海底に発電設備を固定する着床式より、洋上に風車を浮かべる浮体式の方が適しています。
実際に、NEDOが日本近海で洋上風力発電が導入可能な海域を調査したところ、浮体式の導入可能面積は着床式の約5倍であるという結果が得られました。
そこで、日本は世界に先駆け、2011年に環境省が浮体式洋上発電の実証実験を始めました。そして、2016年3月に五島列島の福江島沖合で「崎山沖2MW浮体式洋上風力発電所」が最大出力2MWで運転を開始しました。これは日本初の商用運転です。
図19 運転中の「崎山沖2MW浮体式洋上風力発電所」
出典:自然エネルギー財団(2018)「自然エネルギー活用レポート No.10 浮体式の洋上風力発電で日本初の商用運転 -長崎県・五島市で漁業との共生を目指す-」
https://www.renewableei.org/activities/column/img/pdf/20180111/column_REapplication10_20180111.pdf
経済産業省も2011年から実証事業をはじめ、2013年に世界初の浮体洋上変電所を設置し、2016年に福島沖で本格的な浮体式洋上風力発電所を完成させました。
図20 福島沖での浮体式洋上風力発電システム実証研究事業の概要
出典:経済産業省資源エネルギー庁(2018)「福島での浮体式洋上風力発電システム実証研究事業 総
括委員会 報告書」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/new/information/180824a/pdf/report_2018.pdf
さらにNEDOも2014年から実証研究を始め、現在は浮体式洋上発電の低コスト化に向け、2030年に発電コストが20円/kWh以下になることを目指して、技術の実証研究に着手しています。
図21は、NADOの実証研究において、その実現可能性や事業性を検証する技術の一例です。
図21 浮体式洋上風力発電システムのコスト低減に向けた要素技術の一例
出典:NEDO(2018)「浮体式洋上風力発電の低コスト化に向けた実証研究に着手―2030年に発電コスト20円
/kWh以下の達成を目指す―」
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101049.html
このように、浮体式洋上風力発電の分野で、日本は着々と成果を上げつつあります。
着床式の技術は現在ヨーロッパが牽引していますが、浮体式における日本の高い技術力と実証研究が、近い将来、より本格的な浮体式発電の商用化につながることが期待されています。
以上みてきたように、洋上風力発電は日本が今後、自然エネルギーを推進していく上で、高いポテンシャルを備えた、大変有望なエネルギーといえるでしょう。今後の日本の洋上風力の動きは要チェックです。
参照・引用を見る
- 日本風力発電協会(JWPA)HP上田悦紀(2014)「風力発電の現状と今後の展望、 洋上風力発電の動向など」(高知県 林業振興・環境部 新エネルギー推進課 主催 「洋上風力発電に関する勉強会(第1回)」配付資料)
http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/030901/files/2014072900029/thema1yojyofuryoku.pdf
- NEDO 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構HP(2014)「再生可能エネルギー技術白書 第3章 風力発電」
https://www.nedo.go.jp/content/100544818.pdf
- 日本風力発電協会HP(2014)「風力発電導入ポテンシャルと中長期目標3」
http://jwpa.jp/pdf/2014-06dounyuumokuhyou.pdf
- 環境省HP(2016)「諸外国における再生可能エネルギーの普及動向」
https://www.env.go.jp/earth/report/h29-03/h28_chapt01.pdf - 自然エネルギー財団HP(2017)「日本の風力発電コストに関する研究」
https://www.renewable-ei.org/activities/reports/20170614.html
- NEDO国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構HP(2017)‘NeoWins’
http://app10.infoc.nedo.go.jp/Nedo_Webgis/index.html
- 経済産業省 省エネルギー・新エネルギー部HP(2017)第1回「再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題に関する研究会」資料3「再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題について」
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/saisei_dounyu/pdf/001_03_00.pdf
- 経済産業省(2017)HP第3回「再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題に関する研究会」
資料2「欧州洋上風力発電事業入札価格の動向・背景とそこから日本が学べること」
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/saisei_dounyu/pdf/003_02_00.pdffu.html
- 経済産業省資源エネルギー庁HP(2017)「再エネの大量導入に向けて~『系統制約』問題と対策」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/keitouseiyaku.html
- 経済産業省資源エネルギー庁 国土交通省港湾局HP(2018)第1回「総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会洋上風力促進ワーキンググループ 交通政策審議会港湾分科会環境部会洋上風力促進小委員会 合同会議」資料3「再エネ海域利用法の運用開始に向けた論点整理 ―促進区域指定と事業者選定について―」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/yojo_furyoku/pdf/001_03_00.pdf
- 経済産業省資源エネルギー庁HP(2018)「福島での浮体式洋上風力発電システム実証研究事業 総括委員会 報告書」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/new/information/180824a/pdf/report_2018.pdf
- 経済産業省資源HP(2018)「日本でも、海の上の風力発電を拡大するために」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/yojohuryokuhatuden.html
- NEDO国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構HP(2018)「着床式洋上風力発電導入ガイドブック最終版」
https://www.nedo.go.jp/content/100889993.pdf
- NEDO 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2018)「日本における風力発電設備・導入実績」
- 防衛省海上保安庁HP海洋情報部「我が国の排他的経済水域」
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/initiatives3/files/meetingdata/0926_2_1.pdf
- NASA HP ‘Global Ocean Wind Energy Potential’ “Earth Observatory”https://earthobservatory.nasa.gov/images/8916/global-ocean-wind-energy-potential
- 自然エネルギー財団(2018)「自然エネルギー活用レポート10 浮体式の洋上風力発電で日本初の商用運転 -長崎県・五島市で漁業との共生を目指す-」
https://www.renewableei.org/activities/column/img/pdf/20180111/column_REapplication10_20180111.pdf
- NEDO国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2018)「浮体式洋上風力発電の低コスト化に向けた実証研究に着手―2030年に発電コスト20円/kWh以下の達成を目指す―」
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101049.html
参考サイト一覧
- 日本風力発電協会HP事務局 部長 海津 信廣「特集:風力発電のブレークスル―を目指して 洋上風力発電の現状と今後の展望」
http://jwpa.jp/2015_pdf/88-33tokushu.pdf
- 経済産業省(2017)第3回「再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題に関する研究会」資料3「世界の風力発電動向と日本における課題」 GE Renewable Energy 大西英之
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/saisei_dounyu/pdf/003_03_00.pdf
- 経済産業省HP(2018)科学技術解説「風力発電」
http://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=1
- 経済産業省資源エネルギー庁HP(2018)「なっとく! 再生可能エネルギー」
http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/rene - 経産省HP(2018)インタビュー「将来はヨーロッパで最大の電源に~拡大する風力発電」(日本風力発電協会代表理事 加藤仁)https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/interview07katou01.html
- 経産省HP(2018)インタビュー「風力発電は大型化や広域利用も可能な再エネ、政策として産業育成を」(日本風力発電協会代表理事 加藤仁)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/interview07katou02.html
- NEDO国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構HP(2019)「着床式洋上風量発電導入ガイドブックなどの最終版を公開―千葉県銚子沖と福岡県北九州市沖の実証研究成果などを反映―
http:www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101085.html