プランクトンが世界を救う? プランクトンと環境問題の深い繋がりを詳しく見てみよう

プランクトンという言葉を聞いて、皆さんはどのようなイメージをするでしょうか。
一般的には、ミジンコなどの小さい生物が頭に浮かぶかもしれません。

実は地球上には様々な種類のプランクトンが存在します。プランクトンは生態系を維持するのに重要な存在です。
例えば、植物プランクトンの場合、光合成により二酸化炭素を吸収してくれるなど、地球温暖化を食い止める働きがあります。
さらに近年、プランクトンはバイオ燃料や、栄養価の高い食料としても注目を集めています。

それでは、プランクトンとは一体どのような生物なのでしょうか。
また、現在プランクトンに関わるどのような問題があるのか、どのように活用されようとしているのか見ていきましょう。

プランクトンとは

プランクトンとは、浮遊生物という意味であり、海中や淡水中などを漂って生活する生物の総称です[*1]。

プランクトンの多くは自力で泳ぐことができず、また泳げたとしてもその力はほとんどなく、水の流れによって浮遊してしまいます。そういった点から、微小な珪藻類や小型の甲殻類、クラゲなどもプランクトンの一種です。

プランクトンの種類の分類方法はいくつかありますが、一般的なものとして、栄養摂取の形態による分類があります。その分類によると、プランクトンは「動物プランクトン」と「植物プランクトン」に分けられ、動物プランクトンは植物プランクトンを餌として生活しています。

図1: 生態系の食物連鎖
出典: 日本海事広報協会「海の生態系」
https://www.kaijipr.or.jp/mamejiten/shizen/shizen_4.html

海の中では、バクテリアなどを摂取した植物プランクトンは動物プランクトンの餌になり、動物プランクトンが小魚等の餌となります。そして、小魚は大型の魚に捕食されます。このような海の食物連鎖を支えているのがプランクトンと言えます(図1)。

植物プランクトンの役割

植物プランクトンとは、光合成によってエネルギーを生産する独立栄養生物(生きていくために他の生物を餌として食べる必要がなく、無機物のみによって生きることのできる生物)の総称で、藻類などが植物プランクトンに当てはまります[*1]。

植物プランクトンは、海洋における生態系の食物連鎖を支えるという存在だけではありません。
光合成を行うので、大気中のCO2を海へ取り込むことができ、温暖化の進行を食い止めてくれる重要な存在でもあります。

海洋によるCO2の吸収は、大気と海洋のCO2濃度差によって発生します。例えば、大気の方が海洋に比べて濃度が高いと、海洋へCO2が多く取り込まれます。大気と海洋の濃度要が生まれる要因としては、海水温や風速などが挙げられますが、植物プランクトンの光合成によっても海中の濃度が下がるため、更なる炭素吸収を促進します[*2]。

1990年から2020年までで、海洋は大気から1年あたり平均21億トンの炭素を吸収しています。河川における吸収量も加味すると平均28億トン炭素吸収しており地球上のCO2の約3割を毎年吸収しています[*3]。

植物プランクトンの光合成だけがCO2吸収要因ではありませんが、海中にある植物プランクトンによる光合成が、CO2吸収に大きく貢献していると言えます。

温暖化と植物プランクトンの関係

温暖化を食い止めるために役に立ってくれている植物プランクトンですが、温暖化の急速な進行によって減少してしまうという問題も生じています。

温暖化によって海水も暖められると、海面の水温も上昇してしまいます。実際、20世紀の日本近海の海面水温は、年々上昇しています(図2)。

図2: 日本近海の海面水温
出典: NHK「「”海の温暖化”なにが起きる?」(みみより!くらし解説)」
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/451760.html

暖かい海水は上昇し、冷たい海水は下降する性質から、海面温度が上昇すると、海水内の循環が弱まってしまいます。すると、深層にある栄養塩類が海面表層部へ供給されにくくなってしまいます[*4]。

栄養塩類は植物プランクトンを生み出すために不可欠な物質のため、温暖化の進行は、植物プランクトンの減少につながります。

例えば、アメリカのカリフォルニア沖では、温暖化の影響により植物プランクトンは毎年1%の割合で減少しており、1950年と比べてその量は40%も減少したことが報告されています[*5]。

D Boyceら研究チームの推定によると、植物プランクトンの減少が激しい地域として、高緯度、赤道地域、外洋性海域(沿岸部から離れた海域)が挙げられており、一刻も早く温暖化の進行に歯止めをかける必要があると言えます[*6]。

温暖化と赤潮

一方で、温暖化によって植物プランクトンが異常に大量発生してしまい、海面が真っ赤に染まって見える赤潮が発生することもあります。赤潮の発生により、植物プランクトンが魚のえらにふれることで魚の呼吸障害を引き起こしたり、プランクトンが大量に酸素を消費するため海水の酸素が欠乏したりなどの問題が生じます[*7]。

赤潮はどのように発生するのでしょうか。そもそも海中には、窒素やりんなど植物プランクトンの栄養となる物質が溶け込んでおり、植物プランクトンはそれらの栄養素を摂取して生きています。通常生物のふんや死骸から栄養素が生まれ海洋の生態系の中で生物の個体量がバランス良く維持されていますが、窒素やりんなどが含まれている工場排水が流れ出すと、植物プランクトンの餌が過剰に供給されてしまいます。その結果、植物プランクトンの大量発生につながり、赤潮が発生してしまいます[*8]。

工場などからの排水による赤潮の発生は、日本では高度経済成長期に頻発していましたが、現在では赤潮の発生件数は3分の1にまで減少しています[*7]。しかしながら近年、プランクトンが増える要因の一つである水温上昇が温暖化によって引き起こされることで、赤潮が発生するという問題が生じています。

例えば、赤潮を引き起こす藻類の1つとして、アレキサンドリウム・カテネラという藻類がありますが、ワシントン州にあるピュージェット湾では、温暖化がさらに進むと異常発生し赤潮が発生する可能性が指摘されています[*9]。

最近では、2021年9月に北海道東沖で過去最大規模の赤潮が発生しました。この赤潮は、西日本で被害をもたらしてきたカレニア・ミキモトイというプランクトンが海水面温度の上昇により北上したことにより発生しました[*10]。

このように、温暖化によって海水温度が上昇する地域が増えることによって、植物プランクトンの大量発生に繋がり、海洋環境の悪化を引き起こすケースもあります。そのため、プランクトンをただ増やせばいいということではなく、生態系のバランスに適したプランクトンの維持が重要といえます。

植物プランクトンを環境問題の解決に活用する取り組み

二酸化炭素を吸収し酸素を増やす働きのある植物プランクトンですが、近年環境問題の解決に向けて、様々な分野で植物プランクトンを取り入れようとする動きが出てきています。

バイオ燃料として活用しようとする取り組み

例えば、植物プランクトンの一種である藻類を使ったバイオ燃料は、とうもろこしや大豆など穀物系のバイオ燃料と異なり面積当たりの収量が高く、食用穀物の耕作地を減らす必要もないなど、様々な利点があります(図3、図4)。

図3: 藻類バイオマスの特徴
出典: 藻類産業創成コンソーシアム「藻類バイオマスとは」
https://algae-consortium.jp/about_algaebiomass

図4: 各種作物・微細藻類のオイル生産量と面積収量比較
出典: 藻類産業創成コンソーシアム「藻類バイオマスとは」
https://algae-consortium.jp/about_algaebiomass

また、オイル生産量も他のバイオマス原料と比較して高く、藻類はバイオ燃料として高いポテンシャルを誇っています。

さらに近年では、北極海でガソリン、軽油、重油といった石油製品と同じ成分を作り出して体内に蓄える植物プランクトンを発見したと海洋研究開発機構から発表されました[*11]。この植物プランクトンを活用できれば、新たなバイオ燃料の開発につながる可能性もあります。

具体的な実用化に向けては、様々な取り組みが行われています。例えば、スペインのアリカンテ郊外にあるセメント工場では、植物プランクトンを活用してバイオ燃料を作り出す事業が実施されています。工場の隣に微細藻類(植物プランクトン)で満たされた筒を設置し、工場から排出される二酸化炭素を供給します。二酸化炭素を利用して光合成が行われ、バイオ原油が作り出される仕組みとなっています[*12]。

藻類バイオ燃料の商業化に向けて、藻類培養施設のスケールアップや低コスト化の必要性など課題も山積していますが、商用化によって将来的にはエネルギー問題や温暖化など様々な環境問題の解決に貢献できると言えるでしょう[*13]。

食料として活用しようとする取り組み

世界的な人口増加や健康志向の高まりの中で植物プランクトンである藻類を食料として活用しようとする動きも出てきており、世界の化粧品・食品・飲料向けの海藻抽出物の市場規模は、2020年の9億4541万米ドルから、2028年末までに15億8398万米ドルに達するとされるなど、今後も成長が見込まれる市場です[*14]。

例えば、植物プランクトンの一種であるユーグレナという藻類は栄養価が高く、食料問題を解決する手段として難民キャンプなどで活用されつつあります。株式会社ユーグレナは、国連世界食糧計画と連携して、バングラデシュでロヒンギャ難民の食料支援を行っています。事業では、現地の小規模農家に対してユーグレナが配合された緑豆の栽培を支援し、難民キャンプへ届けることによって、現地生産と供給を行っています[*15]。

栄養価の高い植物プランクトンを食料として活用することで、紛争地域や途上国の貧しい人々に、効率的に食料支援を行うことができるとされ、将来的な普及が見込まれます。

また、藻類は栄養価が高いとされるため、栄養補助食品としても使われています。例えば、藍藻類の一種であるスピルリナは、たんぱく質、ビタミン、ミネラルなど健康や美容に効果的な栄養素を多く含み、消化吸収率も高いとされます[*16]。

このように、植物プランクトンは人々の健康を維持する食品としても高い可能性を有しているといえるでしょう。

人々の生活に欠かせないプランクトン

植物プランクトンは、過剰に繁殖してしまうと海洋環境に悪影響を与えてしまうこともありますが、バランスよく維持することで、温暖化の影響を止めたり、海洋環境を綺麗に保ったりなど自然界や人の生活に欠かせないものとなります。

また、植物プランクトンはバイオ燃料や食料などで活用されており、様々な分野で活躍しつつあります。一方で、研究施設の拡大や低コスト化などの課題に対応するための研究開発には多額の費用がかかります。温暖化などの環境問題の解決に向けて、植物プランクトンは高いポテンシャルを秘めています。植物プランクトンの更なる利活用に向けて、官民一体となったプランクトンの研究開発の促進がカギとなるでしょう。

\ HATCHメールマガジンのおしらせ /

HATCHでは登録をしていただいた方に、メールマガジンを月一回のペースでお届けしています。

メルマガでは、おすすめ記事の抜粋や、HATCHを運営する自然電力グループの最新のニュース、編集部によるサステナビリティ関連の小話などを発信しています。

登録は以下のリンクから行えます。ぜひご登録ください。

▶︎メルマガ登録

ぜひ自然電力のSNSをフォローお願いします!

Twitter @HATCH_JPN
Facebook @shizenenergy

参照・引用を見る

*1
日本埋立浚渫協会「海の基本講座#16 プランクトン」
https://sp.umeshunkyo.or.jp/207/260/index.html

*2
国立環境研究所「コラム「海洋のCO2吸収メカニズム」」
https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/06/07.html

*3気象庁「海洋による二酸化炭素吸収量(全球)」
https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/shindan/a_2/co2_flux_glob/co2_flux_glob.html

*4
農中総研 調査と情報 2009.5(第12号)「地球温暖化と漁業」
https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/nri0905re2.pdf, p.5

*5
AFPBB News「植物性プランクトンの減少で海の食物連鎖が崩壊する恐れ、研究成果」
https://www.afpbb.com/articles/-/2744035

*6
Nature「環境:減少する植物プランクトン」
https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/26979

*7
農林水産省「赤潮(あかしお)はなぜ発生するのですか。」
https://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0207/09.html

*8
東京都環境局「赤潮とは?」
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/water/tokyo_bay/red_tide/about.html

*9
日経ナショナルジオグラフィック「地球温暖化が生み出す3つの意外な弊害」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/3878/

*10
NHK「なぜ北海道で赤潮が 道東太平洋沿岸で深刻な漁業被害」
https://www.nhk.or.jp/hokkaido/articles/slug-n602bd490e613

*11
読売新聞「石油と同じ成分作る植物プランクトン、北極海で発見…バイオ燃料開発に期待」
https://www.yomiuri.co.jp/science/20210811-OYT1T50098/

*12
AFPBB News「植物プランクトンから作る「未来の燃料」、CO2も吸収 スペイン」
https://www.afpbb.com/articles/-/2796951

*13
城内智行、宇野潔、大井和之「藻類バイオ燃料は化石燃料の代替となるか?」
https://keea.or.jp/pdf/knakyokanri/42/vol_42_09.pdf, p.52

*14
株式会社グローバルインフォメーション「化粧品・食品・飲料向け海藻抽出物の世界市場 -実績と予測:2016年~2028年」
https://www.gii.co.jp/report/qyr1004237-global-seaweed-extracts-cosmetics-food-beverage.html

*15
Sustainable Times「日本企業初となる国連世界食糧計画(WFP)との連携までの道のり」
https://www.euglena.jp/times/archives/14420

*16
株式会社わかさ生活「スピルリナ」
https://himitsu.wakasa.jp/contents/spirulina/

 

メルマガ登録