日本ではなぜ無電柱化が進まない? 電柱の整備状況と地中化に向けた国内外の取り組み

日本の街中至る所にある電柱。電柱は、電線を繋いで電気を送配電するだけでなく、インターネットや電話、ケーブルテレビなど様々な通信線を繋ぐ大切なインフラの一つです。

しかしながら、線をかけるための手段として電柱が設置されているだけであり、電柱がないからといって送配電できないというわけではありません。実際に海外では、電線を地上ではなく、地中に設置する無電柱化が進んでいる都市も多くあります(図1)。

図1: 欧米やアジアの主要都市と日本の無電柱化の現状
出典: 国土交通省「無電柱化の整備状況(国内、海外)」

https://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/chicyuka/chi_13_01.html

それでは具体的に、日本と海外における電柱の現状はどのようになっているのでしょうか。

また、近年では景観や防災の観点から無電柱化の取り組みが進められていますが、日本は世界の主要都市と比べて遅れているのが現状です。諸外国と比較して、日本ではなぜ無電柱化が進まないのでしょうか。

国内外の電柱の現状

世界の主要都市の無電柱化の状況を見ると、ロンドンやパリ、香港、シンガポールでは市内で100%を実現しています。一方で、東京23区と大阪市の無電柱化率はそれぞれ10%を下回っており、諸外国と比べると取り組みが進んでいないのが現状です(図1)。

それでは、国内には具体的にどれほどの数の電柱があるのでしょうか。また、海外における電柱の整備状況や、無電柱化の推進に向けてはどのような取り組みが行われているのでしょうか。

国内の電柱

街中至るところにある電柱ですが、平成30年時点で全国に約3,592万本あるとされています(図2)。

図2: 全国の電柱本数の推移
出典: 資源エネルギー庁「電力レジリエンス強化の観点からの 無電柱化の推進について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/035_04_00.pdf, p.7

高度経済成長期には年間最大50万本増加した時期もありましたが、近年は年間7万本ほどの増加に留まっており、以前と比べると増加率は緩やかとなっています[*1]。しかしながら、現在も電柱は増え続けており、世界的な無電柱化の流れとは逆行しています。

関東地域の都道府県別の電柱本数について見てみると、東京23区では平成28年から令和元年にかけて0.1万本少なくなりましたが、その他の県や多摩地域では増加しています(図3)。

図3: 関東地域の都道府県別電柱本数
出典: 資源エネルギー庁「電力レジリエンス強化の観点からの 無電柱化の推進について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/035_04_00.pdf, p.8

日本で無電柱化が進まない理由

海外、とくにEUやアジア諸国の主要都市での無電柱化が急速に進んでいる一方で、日本では電柱が増え続けています。また、国土全体で見たEUと日本の電柱の地中化率を比較すると、日本は大幅に遅れていることがわかります(図4)。

図4: 国土全体で見たEUと日本の地中化率
出典: 国立研究開発法人土木研究所 寒地土木研究所 「地中化工法と整備手法の選定ポイント(案)」
https://scenic.ceri.go.jp/pdf_manual/chichuka/chichuka201906.pdf, p.1-2

デンマークやルクセンブルク、ドイツ、イギリスでは電柱の地中化率は80%を超えています。一方で、日本の地中化率はわずか0.3%と、他国と比べて大幅に遅れているのが現状です。

無電柱化コストの高さ

日本で無電柱化が進まない理由として第一に、コストの高さが挙げられます。実際、高圧1回線当たりの地中化コストは、日本の約3,200万円に対し、パリ市では約2,600万円、ジャカルタ特別州では約1,050万円と大きな差があります[*2]。

途上国については人件費の違いなどもありますが、日本においては、コストのかかる「電線共同溝方式」が一般的に採用されていることが主な理由です(図5)。

図5:電線共同溝と直接埋設の比較
出典: 国土交通省「無電柱化の現状」
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/chicyuka/pdf03/09.pdf, p.8

電線共同溝方式とは、電力ケーブル・通信ケーブルをまとめて管路に収容して埋める手法です[*2]。ケーブルが損傷しにくく、ほかの方式に比べてメンテナンスが容易なため、都市部の大きな道路のほとんどでこの方式が採用されています。また、掘削と埋め戻し等の作業を一体的に行えるため、現場における作業工程を少なくすることができ、近隣住民への負担も抑制できるというメリットがあります。

一方で、ロンドンやパリ、ベルリン、ニューヨークなど欧米の主要都市では通常、「直接埋設方式」が採用されています。直接埋設方式とは、電力ケーブル・通信ケーブルを管路に収容せず直接埋設する手法のことで、施工の容易さから、掘削土量や資材を削減できるため、電線共同溝方式と比べてコストを抑えることができます[*2]。

日本で直接埋設方式が一般的でない理由

このように、直接埋設方式と比較してコストの高い電線共同溝方式ですが、日本ではなぜ電線共同溝方式が一般的なのでしょうか。

一つ目の理由としては、直接埋設方式はメンテナンスが難しいということです。新規の電力需要に対応する際や、障害対応時には掘り返し工事が必要になり、その都度近隣住民に負担がかかります。

前に述べたように、日本では今現在も新規の電力需要は増加しており、毎年電柱の数も増え続けています。そのため、新たな電線の設置が必要になった際、直接埋設方式で敷設されている場合だと、既に設置されたケーブルも地中から掘り起こさなければいけなくなるなど、負担が大きくなってしまいます[*2]。

一方で、電線共同溝方式であれば新規の電力需要が発生した場合は、新たに管路を設置してケーブルを延長すればよいため、掘り返し工事を抑制できます。

また、日本では災害も多く、直接埋設方式でケーブルを敷設すると損傷のリスクも高まります。直接埋設方式の採用に向けては慎重にならざるを得ないため、一般的に電線共同溝方式が採用されています。

利害関係者間の調整の難しさ

日本で無電柱化が進まない理由として、コスト以外に、利害関係者間の調整の難しさが挙げられます。

電力ケーブルと通信ケーブルを一体的に敷設する方式が主に採用されている日本においては、道路管理者が電力会社や通信会社と調整を行いながら地中に埋めていく必要があります。しかしながら、複数社と調整を行いながら無電柱化を進めていくと事業に多大な時間がかかるため、近隣住民への負担や不利益も大きくなってしまいます。

実際に、無電柱化事業実施にかかる課題について自治体にアンケート調査した結果を見ると、過半数を超える団体が「電力会社や通信会社などとの調整が困難である」ことを課題として挙げていました[*3]。

電線共同溝本体を整備する際には、その費用を地方公共団体と国が半分ずつ負担することとなっていますが、地上の変圧器やケーブルなどは電線を管理している事業者が負担することとなっており、事業者が積極的に無電柱化を進めるメリットは多くありません。

また、自治体が挙げた課題として、電線の地中化に向けて「地域の住民の協力が得られない(得られにくい)」という回答もおよそ27%ありました。

事業者のみならず、近隣住民に対する説明や調整も難しく、合意形成をしつつ無電柱化を進めることの難しさが浮き彫りになっています。

電柱に関する法的規制の国内外の違い

さらに、日本は諸外国と異なり、電線や電柱に関する規制が厳しくないことから、海外と比較して無電柱化が遅れてしまっているといえます。

例えば、日本では、国直轄管理の緊急輸送道路に新たに電柱を設置することは禁止されています。一方で、ロンドンでは、架空線の設置自体が禁止されています。また、パリでも自治体と事業者の契約によって地中化が規定されるなど、無電柱化が進む多くの都市では法的規制が存在しています(図6)。

図6: 架空線・電柱等の法的規制について
出典: 国土交通省 国土技術政策総合研究所「海外の無電柱化事業について」
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/chicyuka/pdf04/07.pdf, p.13

中心部のおよそ96%で無電柱化を達成している台湾の台北市では、法的規制自体はないものの、1992年に地中化に関する基準が制定され、電力会社・通信会社が地中化を推進したことにより、大部分で無電柱化が達成されています(図7)。

図7: 台湾・台北市の無電柱化
出典: 国土交通省 国土技術政策総合研究所「海外の無電柱化事業について」
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/chicyuka/pdf04/07.pdf, p.10

国や地方自治体が施策として法的規制やルールを制定し、事業者と一体となって無電柱化に取り組んできたことにより、他国では無電柱化が推進されています。しかしながら、利害関係者の調整等が難しく、日本では無電柱化推進の土台となる法整備が不完全であるため、無電柱化が進んでいないと言えるでしょう。

電柱の増加による問題

ここまでで、なぜ日本では他国と比べて無電柱化が進まないのか理解できたと思います。それでは、電柱が増加してしまうとそもそも何が問題なのでしょうか。

景観破壊や歩行空間の利便性

電柱が増加すると、通行人の妨げになってしまうことがあります。

例えば、電柱によって歩道の幅が狭くなると、ベビーカーや車いすの人は利用しにくいです。バリアフリーという観点からも、無電柱化は全ての人々が安全かつ快適に利用しやすくなります(図8)。

図8: 電柱の撤去により幅の広い歩道を整備(イメージ)
出典: 国土交通省「無電柱化の目的と効果」
https://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/chicyuka/mokuteki_02.htm

また、架空線が街中にはりめぐらされていると、景観が損なわれてしまうことがあり、景観の保全の観点からも問題が指摘されています。

図9: 架空線の撤去により都市景観が向上(神戸市三宮地区)
出典: 国土交通省「無電柱化の目的と効果」
https://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/chicyuka/mokuteki_02.htm

災害時のリスク

電柱の増加は、防災・減災の観点からもネックとなっています。例えば、地震や台風、大雪などの災害時には、電柱が家屋に倒れたり、道路が封鎖されて通行できなくなるなどの二次被害が発生することがあります。

実際、令和元年に発生した台風15号では、鉄塔や電柱が倒壊し、千葉県を中心に大規模な停電被害が発生しました[*4]。この台風により、電柱1,996本が倒壊・損傷したとされ、今後このような二次災害を引き起こさないよう無電柱化の推進が急務と言えます。

また、災害時の人命救助には、緊急車両の通行がスムーズであることが不可欠です。しかしながら、電柱が倒壊すると道路がふさがれてしまう恐れがあり、傷病者の搬送等の手段が限られてしまいます[*5]。

無電柱化に向けた国内の取り組み

日本は諸外国と比べて無電柱化が進んでいないのが現状ですが、一方で近年では、防災や景観の観点から無電柱化の推進が求められています。

それでは、現在日本では無電柱化に向けてどのような施策が検討されているのでしょうか。また、国内では既に無電柱化を実現している地域もあります。どのように実行したのでしょうか。

無電柱化に向けた取り組み

政府は無電柱化の推進のため、平成28年に「無電柱化の推進に関する法律」を制定しました。また、令和3年には無電柱化推進計画を策定し、防災、安全・円滑な交通確保、景観形成・観光振興の観点から、新たに4,000km分の無電柱化を目指しています。目標達成に向けて、以下8点を重点的に講ずべき施策として定めていました[*6]。

  1. 緊急輸送道路の電柱を減少
  2. 新設電柱の抑制
  3. コスト削減の推進
  4. 事業のスピードアップ
  5. 占用制限の的確な運用
  6. 財政的措置
  7. メンテナンス・点検及び維持管理
  8. 関係者間の連携の強化

計画では、緊急輸送道路における電柱の減少など、緊急性の高い場所での無電柱化の重点的な対応や、従来無電柱化のネックとなっていたコスト削減等を講ずべき施策として規定しています[*6]。

実際に、コスト削減に向けては、一元的な電線共同溝方式の導入ではなく、導入可能な地域においては直接埋設方式での電線設置や、不要になった側溝を活用した電力ケーブル、通信ケーブルの設置、下水道管路の空間へのケーブル設置など様々な手法が開発・導入されつつあります(図10)。

図10: 無電柱化に向けた低コスト手法の導入
出典: 国土交通省「無電柱化の取組について~新たな『無電柱化推進計画』の策定~」
http://www.road.or.jp/event/pdf/20210824-1.pdf, p.38

また、電線共同溝事業の事業期間は平均7年と、事業期間が長いことが課題として挙げられていますが、設計から工事、事業調整を包括して発注することなどにより、事業期間を4年まで短縮することも検討されているなど、現在は無電柱化に向けて山積する課題を一つずつ解決している段階と言えるでしょう[*6]。

無電柱化をいち早く実現した地域

他国と比べると遅れをとっている日本ですが、地域単位で見ると既に無電柱化を実現した場所も多くあります。

例えば、新潟県見附市は、平成30年に市内にある住宅地「ウェルネスタウンみつけ」において、当時全国初となる低コスト工法を適用し、同地区の無電柱化を実現しました。同事業は、国や市、電力会社、通信会社が検討会を設立して一体となって進められ、地域の条件等を精査した上で、埋設場所を浅くしたり、電線類をまとめて収容する小型ボックスを採用するなどして、低コスト無電柱化を実現しました(図11, 図12)。

図11: 見附市低コスト無電柱化概要1
出典: 国土交通省「無電柱化の推進に関する最近の取組」
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/chicyuka/pdf08/05.pdf, p.6

図12: 見附市低コスト無電柱化概要2
出典: 国土交通省「無電柱化の推進に関する最近の取組」
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/chicyuka/pdf08/05.pdf, p.7

さらなる無電柱化を推進するために

見附市のように、近年ではコストを抑えた手法によって無電柱化を推進する自治体も増えており、今後全国で無電柱化が加速すると予想されます。しかしながら、電線の地中への敷設が困難な地域や住宅の多い地域などでは、調整も難しく、事業の円滑な実施が容易ではありません。

また、財源の制約もある中で、全国全ての電線を地中に設置するのは容易ではないと言えます。今後は、行政、ケーブル事業者、地域住民が無電柱化の必要性を理解し、一体となって取り組めるかどうかが、推進のカギとなるでしょう。

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参照・引用を見る

*1
資源エネルギー庁「電力レジリエンス強化の観点からの 無電柱化の推進について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/035_04_00.pdf, p.7, p.9

*2
国立研究開発法人土木研究所 寒地土木研究所 「地中化工法と整備手法の選定ポイント(案)」
https://scenic.ceri.go.jp/pdf_manual/chichuka/chichuka201906.pdf, p.1-5, p.1-9

*3
国土交通省「無電柱化の現状」
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/chicyuka/pdf03/09.pdf, p.6, p.7, p.8

*4
経済産業省「令和元年に発生した災害の概要と対応」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/pdf/021_01_00.pdf, p.3, p.7

*5
国土交通省「無電柱化の目的と効果」
https://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/chicyuka/mokuteki_02.htm

*6
国土交通省「無電柱化の取組について~新たな『無電柱化推進計画』の策定~」
http://www.road.or.jp/event/pdf/20210824-1.pdf, p.28, p.29

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