国際連系線により自然エネルギーの普及が進むか

電力を発電所から需要者へ送り届けるには、発電・変電・送電・配電が必要となります。そして、それらの要素を一つのシステムとしてまとめたものが「系統」と呼ばれています。国内では、10の大手電力会社が各々担当する地域を一つの「系統」とし、その系統間をつなげる線が「連系線」と呼ばれます。

これら連系線は、電力の需給管理に大きな役割を果たし、自然エネルギー普及と深いかかわりを有します。そして、この連系線の国際版が「国際連系線」となり、ヨーロッパや北米など大陸国家間では広く普及しています。地域全体での自然エネルギー普及に大きな影響を与える為、自然エネルギー開発を行う際に、非常に重要になる仕組みです。

国際連系線とは

「国際」とつくとあまり馴染みがないものに聞こえてしまいますが、「国際」がつかない「連系線」は日本に多く存在します。

かつて日本では、各地域を担当する電力会社が一つだけであり、当該電力会社一社が域内電力需要の全てを賄う事が当初の想定でした。

出所)資源エネルギー庁「3-(2) 都道府県別電力需要実績」を基に作成
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/electric_power/ep002/results.html

しかし、北海道では冬季に年間最大電力需要を迎えるのに対し、本州では夏季に最大需要を迎えます。この最大需要に対応するため、発電所を建設するより各電力会社が自社の余剰電力を融通する方が経済的です。

さらに、台風や地震等の自然災害により突発的に、ある地域内の電力需給バランスが崩れ、隣接している地域から融通する必要が発生することもあるでしょう。このような時にも、「連系線」は地域間の電力需給の調整に大いに役立ちます。

2019年現在、日本においては、次の13の主要連系線が存在し、現在更なる連系線の容量増強が検討されています。

区間連携線名
北海道⇔青森間北海道・本州間連系設備(北本連系線)
東北⇔関東東北・東京間連系線
東日本⇒西日本新信濃周波数変換設備
佐久間(さくま)周波数変換設備
東清水(ひがししみず)周波数変換設備
中部⇔北陸中部・北陸間連系設備
北陸⇔関西北陸・関西間連系線
中部⇔関西中部・関西間連系線
関西⇔中国関西・中国間連系線(2本あります)
10
11関西⇔四国関西・四国間連系線
12中国⇔四国中国・四国間連系線
13中国⇔九州中国・九州間連系線

 

日本における連系線及び増強計画図

経済産業省総合資源エネルギー調査会基本政策分科会電力需給検証小委員会第9回会合資料6「地域間連系線の増強について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/kihon_seisaku/denryoku_jukyu/pdf/009_06_00.pdf

一方で、「国際連系線」とは国家間にある連系線を指し、地域間の電力融通ではなく、国家間での電力融通をするために設置されています。日本のような島国ではあまり想像できませんが、ヨーロッパや北米等、大陸国家間では多くの国際連系線が敷設されています。

 

欧州の国際連系線図

出所:ENTSO-E「ENTSO-E Statistical Factsheet 2017」
https://docstore.entsoe.eu/Documents/Publications/Statistics/Factsheet/entsoe_sfs_2017.pdf

国際連系線には、電力需給の安定の他にもう一つ重要な役割があり、市場原理の導入です。

電力需要が高く、供給が少ない場合、電力価格は上昇しますが、隣国から安く電力を輸入することができれば、輸入する分だけ国内の電力価格も下がります。これにより、発電業者間で市場原理が働き、効率の良い発電設備への投資が積極的に行われることが期待できます。

このようにして、より安定した安全な電力インフラを維持することが可能になります。

国際連系線と自然エネルギーの関係

国際連系線は、各国の電力需給バランスの安定化に大きな役割を果たすと説明しましたが、これは、「電力」という「商品」の特性が大きく関わっている側面もあります。

電力の「同時同量」の原則

電力の消費は季節だけでなく、一日の中でも、消費量の波があります。

夏季の最大電力発生日における電気の使われ方の推移

出所)電気事業連合会「FEPC INFOBASE2018」
https://www.fepc.or.jp/library/data/infobase/index.html

この図を見ると、電力需要が少ない時間に発電した分を貯蔵し、需要が多い時間にそれを開放すれば、わざわざ連系線を建てて地域間で電力を融通しなくてもいいのではないかと思われるかもしれません。

しかし、電気の特性上、貯蔵が非常に困難で、大容量の電気を大きな電池で貯蔵するとなると、現状では経済効率が悪くなります。例えばスマホ等で使用されているリチウムイオン電池で蓄電しようとする場合、1kWhあたり5~10万円かかり、寿命も10年~15年程度*1しかありません。電力会社が販売する電力の価格、約15円~20円/kWh*2に比べると遥かに高い金額になります。

そのため電力は、需要に応じた時に、同量の電力を発電する必要があります。需要が瞬間的に域内の発電能力を超えてしまうと、他の地域から電気を輸入しない限り停電が起きるため、「同時同量」の原則と言われています。

自然エネルギーと「同時同量」原則

この同時同量の原則は、自然エネルギーを導入する際、大きな影響を与えます。

自然エネルギーは、設置場所を選びます。風がないところに風力発電所を建てたり、陽が差さない所に太陽光発電を設置することはできません。各自然エネルギーの発電所は、入念な適地調査を必要とし、例えば太陽光発電であれば、数十年の日射量を日単位でデータを収集・分析し、その土地が発電所設置に適しているか判断する必要があります。

風力発電所設置検討の際に使用される日本の陸上風力の賦存量分布図

出所)環境省「風力発電の賦存量および導入ポテンシャル」
https://www.env.go.jp/earth/report/h23-03/chpt4.pdf

その結果、自然エネルギーの発電所が、ある地域または国に集中する事があります。もしその場所に電力会社が発電所を建てたいと思っても、自社の管轄区域内ではないかもしれません。この場合、発電所自体は別の地域に設置し、その発電所から自社担当地域内に送電する必要があります。これが国を跨ぐ場合、国際連系線が必要になります。

このような連系線で電力を融通する仕組みを作ることができれば、自然エネルギーを効率よく活用できるでしょう。

また自然エネルギーによる発電は、人工的にコントロールすることができず、風が吹いたり、陽が射せば射すほど発電してしまいます。もちろん、電気が不要であれば発電量を減らすことはできますが、連系線を通じて他国に電気を輸出・販売できれば理想です。経済効率も上がり、化石燃料等の消費量を下げることも期待できるでしょう。

ヨーロッパにおける国際連系線の実情

国際連系線が最も発展している例として上げられるのはヨーロッパです。ヨーロッパには大小40以上の国が存在し、それぞれ別々の電力地域とされています。

しかし、ソ連が崩壊し、EUが東欧諸国へ拡大した結果、域内の電力市場は統合が進み、国際連系線の増設も進んでいます。

そして欧州は、自然エネルギー先進地域でもあります。

EU域内の燃料別発電量

出所)欧州連合「EU energy in figures – Statistical pocketbook 2018」
https://publications.europa.eu/en/publication-detail/-/publication/99fc30eb-c06d-11e8-9893-01aa75ed71a1/language-en/format-PDF/source-77059768

発電技術、特に自然エネルギーによる発電技術の向上が著しく、ヨーロッパでは2000年代からそれらの技術を積極的に取り入れ、その結果、1990年には全体の発電量の12.6%でしたが、2016年には30.2%*3へ増加しました。

しかし、前述の通り、電力は貯蔵が難しく、自然エネルギーは立地が重要です。そのため、自然エネルギーによって作られた電力を輸出する必要があります。

ヨーロッパ域内の電力輸出入量

出所)European Network of Transmission System Operators for Electricity「ELECTRICITY IN EUROPE 2016」
https://docstore.entsoe.eu/Documents/Publications/Statistics/electricity_in_europe/entsoe_electricity_in_europe_2016_web.pdf

例えば、デンマークや英国の北海沿岸では多くの洋上風力発電があり、南部フランスやスペインでは太陽光・太陽熱発電があり、スイスやその周辺地域では水力発電があります。これらの発電所で作られた電気を国際連系線を介してヨーロッパ全体に配給することによって、欧州全体の化石燃料への依存度を下げる効果があります。

そして、国際連系線を介することにより、例え自然エネルギーによる発電に適した地域でなくとも、自然エネルギーの恩恵を受けることができます。

日本における国際連系線設置構想と自然エネルギー普及に対する影響

日本では、島国である関係から国際連系線ではなく原料を輸入するという形で電気を作ってきました。

2016年に電力小売全面自由化が実現し、様々な発電事業者や新電力会社が市場に参加しつつありますが、未だ国内電力の約78%*4が化石燃料によるもので、そのほとんどを輸入に依存しています。

しかし、日本は自然エネルギーに恵まれており、地熱や水力、太陽光に風力、さらには潮力発電等多くの可能性に満ちています。これらの自然エネルギーを活用することによって、化石燃料の乱高下に影響を受けず、安定した電力供給が可能になります。

ただし、自然エネルギーによる電力を無駄なく活用し、投資回収を効率的に行うには、余剰電力を国外に販売できる体制を構築する必要があります。

過去、長距離の海底高圧連系線の敷設は困難でしたが、既に英国⇔ドイツ間*5の海底連系線やスコットランド⇔アイスランドといった長距離の国際連系線が存在し、それらの敷設に日系企業が多く関わっています*6。

そして、日本から隣国への国際連系線を設置するルートやそのコスト試算を行っている組織もあります。*7。

特に、2011年の東日本大震災とその後の福島原発事故の時に発生した電力不足、化石燃料の価格高騰等を踏まえ、今までの国内で全需要を賄うというシステムに対し、レジリエンス上疑問が投げかけられる状況が起こりました。

自然エネルギー財団のレポートによると国際連系線を導入することによって、リスクを低減し、再生可能エネルギーの普及を進められるのではないかと考えられています。これらの調査を基に、日本をロシアや韓国といった隣国とつなぎ、自然エネルギーによる発電の後押しに発展していく可能性も高まってくるでしょう。

日ロ連系線ルート案

出所)公益財団法人自然エネルギー財団「アジア国際送電網研究会 第2次報告書」
https://www.renewable-ei.org/activities/reports/img/20180614/20180614_ASG_SecondReport_JP.pdf

日韓連携線ルート案

出所)公益財団法人自然エネルギー財団「アジア国際送電網研究会 第2次報告書」
https://www.renewable-ei.org/activities/reports/img/20180614/20180614_ASG_SecondReport_JP.pdf

まとめ~国際連系線は、日本を純エネルギー輸入国からエネルギー輸出国へ転身できる可能性

これらの国際連系線が実現した場合、純エネルギー輸入国であった日本が、その自然という財産を活かし、エネルギー輸出国に変わる可能性をも秘めています。また輸出によって獲得できた外貨とともに、これまでのエネルギー調達コストを別の用途にも転用できるでしょう。

政府や各電力会社も、今後の方向性として、国際連系線を設置する可能性が高いと思われます。もし実現した場合、自然エネルギーの活用に大きな後押しとなるでしょう。

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参照・引用を見る
  1. 出所)経済産業省「エネルギー関係技術開発ロードマップ」
    http://www.enecho.meti.go.jp/category/others/for_energy_technology/pdf/141203_roadmap.pdf
  2. 出所)資源エネルギー庁「平成29年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2018)」
    https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2018html/2-1-4.html
  3. 出所)欧州連合「EU energy in figures – Statistical pocketbook 2018」
    https://publications.europa.eu/en/publication-detail/-/publication/99fc30eb-c06d-11e8-9893-01aa75ed71a1/language-en/format-PDF/source-77059768
  4. 出所)認定NPO法人環境エネルギー政策研究所「2018年(暦年)の国内の自然エネルギー電力の割合(速報)」
    https://www.isep.or.jp/archives/library/11784
  5. 出所)日本経済新聞「関西電力、「ノイコネクト英独連系線」プロジェクトへ参画」
    https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP473001_Y8A220C1000000/
  6. 出所)公益財団法人自然エネルギー財団「アジア国際送電網研究会 第2次報告書」
    https://www.renewable-ei.org/activities/reports/img/20180614/20180614_ASG_SecondReport_JP.pdf
  7. 一般社団法人エネルギー情報センター「2GWの国際連系線コストは日韓2000億円、日露6000億円で回収可能との試算に」
    https://pps-net.org/column/60536
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