現在、使用する電力においてCO2排出量をゼロにする、といったとき、大きく分けて2つの方法があります。
一つは、太陽光などの自然エネルギー発電設備を自分で用意し、自家発電で電力をまかなう方法です。
そしてもう一つは、自然エネルギー発電施設を保有している事業者に「電気料金+付加価値分」の支払いをする、もしくは発電者から「グリーン電力証書」を購入するなどして自社のCO2排出量を「実質ゼロ」とみなす方法です。
しかし、世界的なCO2排出量削減の方法は、前者のように直接発電が好ましい、という考え方が広がっています。その対策の一つとして「オンサイト発電」の導入が始まっています。
大企業が牽引する自然エネルギー電力の需要
パリ協定の締結以降、グローバル企業が相次いで「将来的に、使用電力の100%を自然エネルギーでまかなう」と宣言し、実行に移しています。
背景にあるのは、「RE100」という国際イニシアチブの存在です。
「RE100」というイニシアチブの存在
「RE100」は2014年に結成されました。環境国際NGOであるThe Climinate Groupと、同じく国際NGOであるCDP(Carbon Disclosure Project)によって運営されており、年々参加企業は増え(図1)、2019年9月現在、参加要件を満たした世界の193社が参加しています。
図1 RE100への参加企業(出典:東京都作成資料)
RE100はグローバル企業や、国内での認知度によって「影響力の高い」企業を対象とし、さらに参加条件として、遅くとも2050年までに自然エネルギー電力100%への切り替え方法を設定し公表することと、進捗状況を毎年報告することなどを義務付けています。
企業がRE100に参加するメリットは、取り組みを宣言することによるイメージの向上だけではありません。
RE100を運営している国際NGO「CDP」は、多くの機関投資家から、その活動に対する同意を得ています(図2)。
図2 CDPに参加する機関投資家(出典:東京都作成資料)
よって、RE100への参加は、これらの投資家に対するアピールという、実際的な動機も含まれているのです。
「オンサイト発電」と「オフサイト発電」
RE100が「自然エネルギー電力」として認定しているのが、「オンサイト発電」と「オフサイト発電」の2種類です。
両者の違いは以下のようなものです。
オンサイト発電 | 敷地内(オンサイト)に再エネ電源を設置し、自家消費 |
オフサイト発電 | 敷地外または需要地から一定の距離を置いた場所(オフサイト)に設置された再エネ電源から供給を受ける |
図3 オンサイト発電とオフサイト発電(経済産業省資料より)
言ってみれば、オンサイト発電が自然エネルギー発電設備から電力を直接融通しているのに対し、オフサイト発電は、他者が発電した電力に対して「付加価値」を支払うことで、直接の電力融通がなくても「CO2ゼロを名乗る権利がある」という違いがあります。
文字通り「On-Site」なのか、「Off-Site」なのかということです。
オンサイト発電が注目される理由
現在のところ、国内でオンサイト発電を導入する場合は、専門業者に自社の敷地内への発電システム設置を発注し、初期工事、燃料調達から保守点検も含めて専門業者に委託するという形が取られています。
発電システムそのものは専門業者の持ち物です。
大きなメリットは、
- 発電システムを自社で購入する初期費用がかからない
- 燃料の調達方法や発電システムの保守に関する知識がなくても、専門業者がまとめて引き受けてくれる
という点です。
また、長期的に見れば、化石燃料に依存し続けるよりも、こうした自然エネルギーを利用した方がエネルギーコストは下がる、という見方もあるほか、消費地で発電を行うことで、災害時などのリスクにも備えられる可能性も期待されています。
オンサイト発電の具体的事例
国内での大規模なオンサイト発電の導入事例として、以下のようなものがあります。
ひとつはSUBARUです。
図4 SUBARU大泉工場 太陽光発電設備完成予想図(出典:株式会社SUBARUプレスリリース)
群馬県の大泉工場の敷地内に年間5,000Mwhの大規模な太陽光発電設備を導入(図4)し、発電システムの設置と、燃料調達からシステムメンテナンスまでを外部委託することを決めています。
そして、もう1つはイオンです。
こちらは、イオンタウン湘南の屋根スペースに専門業者が太陽光発電システムを設置し、その専門業者がシステムの運用とメンテナンスを担当します。
そして、そのシステムで発電した電気をイオンタウン湘南で消費するというものです。
サプライチェーンにも求められる責任
また、RE100に参加している企業は、多くのサプライチェーン企業を抱えていることから、サプライチェーンに対する自然エネルギーの導入の必要性も訴えています。
このため、RE100参加企業を中心に、部品供給などの取引先にも自然エネルギー電力での活動を求める動きがあり、自然エネルギー電力の取り入れは大企業だけの話ではなくなりつつあります。
また、中小企業にこそ、初期費用の不要なオンサイト発電の導入が有利とする見方もあります。
Appleがあえて選んだ巨額投資
RE100の中でも、対策の早さや規模において群を抜いているのが、米Appleの取り組みです。
パリ協定の締結以前から行動に出ていたAppleは、すでに全世界の自社電力を、100%自然エネルギー電力で賄っています。
25億ドルの巨費を投入
Appleは世界中に巨大な太陽光発電施設を作り続けるなどの投資を続け、パリ協定以前の2014年から、世界の全データセンターを、太陽光を中心とした自然エネルギー電力で100%賄っています。
図5 クパティーノ(カリフォルニア州)にあるApple新社屋の屋上太陽光パネル(出典:Appleプレスリリース)
また2018年4月には、世界43カ国にある直営店、オフィス、データセンターを含む自社電源を100%自然エネより調達していると発表しました。
同時に、世界44社のサプライヤーから、100%自然エネで稼働する約束を取り付けています。日本ではイビデン(岐阜県大垣市)がその中の1社で、イビデンはすでに製造に使う電力の100%を自然エネルギー発電で賄っています。
Appleがこれまで自然エネルギーに投入した資金は25億ドルにのぼります。1ドル=100円と計算しても、2500億円という金額です。
図6 イビデンの水上太陽光発電システム(出典:Appleプレスリリース)
「付加価値の買取」に対する厳しい指摘
Appleがここまでオンサイト発電にこだわった背景には、自然エネルギー電力の流通のあり方に対する厳しい指摘がありました。
自然エネルギー電力の価格は、世界的にも「電気代+付加価値」となっています。
そして各国、RE100も含めて、付加価値を発電者に支払うことで、自社が自然エネルギーを利用している、とみなすことを許しています。
しかし、付加価値を現金で支払ったとしても、化石燃料を使っているという事実は変わりません。
すると、こうした間接取引(オフサイト発電)を普及させたところで、実際には化石燃料が使われるという事実は変わらない、という本質が欧米で議論されるようになったのです。
この議論に対するAppleの答えが、オンサイト発電を増やすことでした。
「本気の脱・化石燃料」が問われる時代に
もちろん、全ての企業がいきなりAppleのような対策を取れるわけではありません。ただ、Appleが現実的に目指すべき姿を描いてみせたのは事実です。
自然エネルギーによる発電は、その初期でこそ、短期間で達成しやすく、かつ意識付けのしやすい「付加価値の購入」という形を取ってきましたが、これをいつまでも許容していては設備の増加ペースは限られます。
また、付加価値を購入し続ける企業にとっても、長期的に見ればむしろコストが高くつく可能性もゼロではありません。
「企業イメージ」「公的補助」という側面から早期に卒業し、気候変動を、企業の規模に関係ない目前の大きなリスクとして認識すること、あるいはそのような意識を広めることが、今もっとも必要なことでもあります。
そして、その危機感が生む行動に対する投資体制も、出来上がりつつあることを知るべきでしょう。
参照・引用を見る
- 図1,図2 「RE100(再エネ100%目標)について」(東京都、2018年9月)
http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/climate/large_scale/overview/after2020/kentokai/30-6.files/sankou03.pdf p9とp15 - 図3「 再生可能エネルギーの自立に向けた取組の加速化(多様な自立モデルについて)」(資源エネルギー庁、2018年11月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/010_02_00.pdf - 図4 「SUBARU大泉工場に国内最大級の自家消費型の太陽光発電設備を導入」(株式会社SUBARUプレスリリース、2018年11月), https://www.subaru.co.jp/press/news/2018_11_27_6557/
- 図5,図6 「Apple、再生可能エネルギーで世界的に自社の電力を100%調達」(Appleプレスリリース、2018年10月), https://www.apple.com/jp/newsroom/2018/04/apple-now-globally-powered-by-100-percent-renewable-energy/
<Photo: American Public Power Association>