エネルギー効率の鍵を握る、「送配電ロス」の最小化

エネルギー効率の鍵を握る、「送配電ロス」の最小化

電気は発電所で生まれてから、送電線を伝って何箇所もの変電所を経由し、配電線を伝わって事業所や一般家庭に届きます。

これは非常に長い道のりで、電線には電気抵抗があるため、その間に電力は少しずつ失われてしまいます。

こうして電力が失われていくことを「送配電ロス」と言います。

自然エネルギーを電力として使うことや、家庭で省エネ性能の高い家電を使うこともそうですが、この「送配電ロス」を少なくすることもまた、エネルギーの有効利用のために必要な技術です。

電気が作られ、使われるまで

発電所からの電力は、最初は超高圧で送り出されます。そこから変電を繰り返し、利用する人の使い方に応じた電圧で各所に配電されます。

そして長い長い道のりを経て、利用者の元へ届きます。

「送電」「変電」「配電」の長い道のり

電気は、その使い道によって様々な電圧で供給されています。

最初に発電所から送り出される電圧は27万5000V(ボルト)から50万という超高圧です。

図1 電気が伝わる(出典:電気事業連合会HP)
https://www.fepc.or.jp/enterprise/souden/keiro/

そこから、高電圧を必要とする大工場や鉄道、それよりも低圧のビルや中規模工場、さらに電圧の低い小工場と、電圧を下げる変電を繰り返しながら徐々に需要電圧の低い場所へ送られ、最終的には一般家庭に100Vの電力が供給されています(図1)。

なぜこのような仕組みになっているかというのは、平らな地面に、ホースで水をまく様子を想像してみると良いでしょう。

ホールから出てくる水は量も多く、水圧も高い状態ですが、地面を伝っている間に水圧は低く、遠ざかれば遠ざかるほど弱い流れの水しか届きません。地面との摩擦が「抵抗」になっているからです。

しかし、途中で水圧を上げようとすると、何らかの力を加える必要が出てきます。これではエネルギーがもったいないので、出発点から近い順に圧を下げていくのが最も効率的な方法です。

送電は、これと似たような仕組みです。超高圧で電力を送り出し、高い電圧の必要な所に送ります。その残りの電力で、低電圧で済む場所に送っているのです。

ただ、機械はどんな電圧の電気でも使用できる訳ではありません。それぞれに規格があり、規格を超える高圧の電力を送られると故障してしまいますし、電圧が足りなければ動かすことができません。

そのため、変電所でそれぞれに見合った圧に調整し、供給しているのです。

送電線の進歩で省エネは進む

このように、送配電はなるべく効率的になるように考えられていますが、先ほども述べたように、電線には「電気抵抗」があるため、どうしても送配電ロスが起こります。電線が太いほど、長いほど電気抵抗は大きくなり、利用場所に届くまでの途中で電力が失われてしまいます。この送配電ロスを少なくするためには、電気抵抗の少ない素材で電線を作ること必要です。

そこで、送配電ロスを防ぐため、電線の素材についての研究が日々進められています。そもそも日本の送配電ロスは世界と比べると少なく、5%程度と言われますが、1年間でおよそ458.07億kWhのロスが生じている計算です*1。

これは100万kW級の発電所がフル稼働して5年以上かかる電力量です。

NEDO=科学技術振興機構によれば、この電力をロスすることなく、数千キロといった距離の送電が可能になれば、地球規模での電力問題を解決できるとも言われているということです。

例えば、現在浮上している「サハラ・ソーラー・ブリーダー計画」です。

図2 サハラ・ソーラー・ブリーダー計画(出典:NEDOホームページ)

サハラ砂漠に巨大な太陽光発電施設を作り、送電ロスのない状態で世界中に電力を送ることができれば、サハラ砂漠の4分の1の面積で、世界中の電力を賄えるという計算です*2。

つまり、化石燃料が一切必要のない世界が生まれるという夢の構想です。

また、インフラ不足により電力がじゅうぶんに行き届いていない地域へも、遠い発電所から電力を送ることが可能になるでしょう。

自然エネルギーで電車は走れるか

そこで、電線の電気抵抗をなくす手段の一つとして注目されているのが、「超電導」の技術です。

超電導とは、金属などの物質を極低温に冷やすことで電気抵抗がゼロになる現象のことで、この特徴がある物質を電力ケーブルに用いて、送配電ロスを最小限にしようというのが、現在の研究の主流です。

超電導技術の開発

超電導ケーブルの素材を「超電導状態」にし、電気抵抗をゼロにするには、液体ヘリウム(-269℃)や液体窒素(-196℃)が使用されます。

低温の冷却材が必要にはなりますが、大量の電力を送るにあたっても、ケーブルのサイズがコンパクトに収まるため、実用化されれば送電線の本数が少なく済み、将来的にはコストダウンに繋がるものとして期待されています。

図3  実証実験に使われている三相同軸量超電導ケーブル(出典:NEDO)
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101132.html

すでに様々な実証実験が行われていますが、NEDOなどの研究では、従来のケーブルと比較して送電ロスを95%以上削減できると見込まれています*2。

自然エネルギー電力の本格使用に向けて

また、鉄道総合技術研究所では、JR中央本線で車両に電力を供給する「き電線」に超電導ケーブルを導入したシステムの実証実験を行っています。

き電線は、電車頭上の架線に沿うように貼られている電線で、変電所からの電気を架線に供給するものです。

電車は、き電線から架線に伝わった電力をパンタグラフで取り込むことで走っていますが、この「き電線」の電気抵抗で電力ロスが生じています。

電車用の変電所があちこちに存在するのは、電力ロスを所々で補い、電車を安定して走らせるためです。

この実験では、超電導き電システムを導入した408メートルの間で10両編成の電車を走行させ、始発点付近と終点付近で車両に供給される電圧を測定しました。

その結果、超電導のき電線では、既存のものに比べて電圧の低下がわずかであることが確認されました(図3)。

図4 超電導き電による電圧降下の比較(出典:鉄道総合技術研究所プレスリリース)
https://www.rtri.or.jp/press/2018/is5f1i0000007d1r-att/20180802_001.pdf

じつは、鉄道に超電導ケーブルを使うメリットは、従来よりも送電ロスを減らせるだけではありません。

鉄道総合技術研究所の将来的なビジョンは、電力ロスを最小限にしたき電システムを、自然エネルギーから生まれた電力と組み合わせて使う、というものです。

図5  鉄道の超電導ケーブルシステム(出典:鉄道総合技術研究所作成資料)
http://www.mlit.go.jp/common/000219688.pdf

超電導き電線での走行が可能になれば電力ロスが少ないため、現在のようなたくさんの変電所で電圧を補う必要はなくなります。

その代わり、所々に自然エネルギーで発電した電力を貯蔵しておく施設を作り、そこから電力を一定量で供給していけばじゅうぶん走り続けられるのではないか、という考え方です(図3)。

海外ではあえて「直流」での長距離送電も

さて、電気の流れには「直流」「交流」があります。

日本の電力会社が採用している電流は「交流」の形を取っていますが、この「直流」「交流」の使いわけで、ロスを最小化しながら長距離の送電を可能にする技術の研究も行われています。

直流送電と交流送電

直流はDC(Direct Current)とも表記します。電気は常に同じ方向に、同じ電圧で流れ続けています。

一方で、交流はAC(Alternating Current)とも表記し、こちらは時間によって電流の向きが周期的に変化しています(図5)。

図6 電気の直流と交流(出典:電気事業連合会HP)
https://www.fepc.or.jp/enterprise/souden/denki/index.html

一般的な電子機器は、直流で動作しています。そのため、日本では家庭のコンセントまで送られてくる交流の100V電源に接続したのち、機器本体の中で、交流を直流に変換させています。

こう聞くと、最初から直流で電気を送れば良いではないか、という考えが浮かぶでしょう。

しかし、交流には交流のメリットがあります。

一つは、電圧が「ゼロ」になる瞬間があることで、事故などによって電気を止めなければならない場合、この「ゼロ」を見計らって遮断すれば、電気系統に与えるダメージが少なく済みます。

もう一つは、交流の場合は、電流の向きの変化を利用すれば変圧しやすいこともメリットです。

直流送電が可能にする超長距離送電

しかし、直流と交流の「使い勝手」は、状況によって異なります。

例えば高圧で電気を運ぶときは、距離が長くなると交流(AC)よりも直流(DC)の方がコストメリットが高いことがわかっています(図7)。

その分岐点は、鉄橋の上に通す架空送電路線の場合は800キロメートル、海底ケーブルでは50キロメートルで、この長さを超えると、交流よりも直流の方が効率的に送電できるという計算です。

図7 電流の種類とコストの関係出典:NEDO作成資料)
https://www.nedo.go.jp/content/100893758.pdf

このような長距離の送電について研究されている背景には、自然エネルギー発電による電力の有効活用という目的があります。

例えばヨーロッパでは、風の強い北海に巨大な洋上風力発電施設を設けていて、ここで発電された電力を周辺各国に、海底ケーブルで送電しています。この距離を純粋に送電するだけであれば、直流のままの方がロスは少なくてみます。

風力発電に限らず、自然エネルギーでの発電は、発電場所と需要地が離れていることが多いため、長距離に強い直流での送電技術が注目されているのです。

また、中国でも同じようなプロジェクトが始まっています。

8 中国でのHVDCプロジェクト(出典:NEDO作成資料)
https://www.nedo.go.jp/content/100893758.pdf

西部に偏りがちな発電地域と都市部の接続を強化するため、長距離を、直流でなるべく無駄のないように送電するというものです(図7)。

自然エネルギーを「最大限」使うために

自然エネルギー発電は、「無限に電力を生み出せる」ものであることは間違いありません。

しかし、これを発電地域で使いきれないからといって無駄にするのではなく、遠方まで効率よく送ることができれば、電力需要の高い地域での化石燃料の使用を減らすこともできます。

また、超電導をはじめとする送配電ロスの最小化は、火力発電のような高い電圧を生み出せない自然エネルギー発電による電気を効率的に運び、有効利用する大きなきっかけとなるでしょう。

自然エネルギーを地球上でどこまで広く共有できるかは、こうした送電技術にかかっています。

参照・引用

図1 「送電線、変電所、配電線」(電気事業連合会HPより)
https://www.fepc.or.jp/enterprise/souden/keiro/

参考1 「送電ロスをゼロにする超電導素材」(国立研究開発法人 科学技術振興機構HPより)
https://www.jst.go.jp/seika/bt13-14.html

図2、参考2 「送電ロスをゼロにする超電導素材」(国立研究開発法人 科学技術振興機構HPより)
https://www.jst.go.jp/seika/bt13-14.html

図3、参考3 「世界初、民間プラントでの三相同軸超電導ケーブルの実証試験開始へ」(国立研究開発法人 科学技術振興機構、2019年6月)
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101132.html

図4 「き電線の電気抵抗ゼロを目指し超電導き電システムの送電試験を実施」(公益財団法人 鉄道総合技術研究所、2018年8月)
https://www.rtri.or.jp/press/2018/is5f1i0000007d1r-att/20180802_001.pdf

図5 「鉄道用超電導ケーブルの開発」(公益財団法人 鉄道総合技術研究所作成資料、2012年7月)
http://www.mlit.go.jp/common/000219688.pdf  最終頁

図6 「電気のいろいろ」(電気事業連合会HPより)
https://www.fepc.or.jp/enterprise/souden/denki/index.html

図7、図8 「直流送電技術におけるNEDOの取り組み」(国立研究開発法人 科学技術振興機構作成資料)
https://www.nedo.go.jp/content/100893758.pdf  p6、p14