現在の国内の電力網は大規模設備による一極集中・広域電力系統の形態であり、地震や災害発生時に大規模停電が発生するリスクがあります。
また電力需要変動に対応したピーク時供給力を確保する必要があり、発電設備が大規模になる一因となっています。
一方、国や地域ごとに電力系統の信頼性確保、離島での自立した電力システム構築、自然エネルギーの普及、地域資源の活用、電化率の向上などの課題があります。これらの解決のため、分散型電力システムの開発が進んでいます。
本記事では、分散型電力システムの内、電力会社からの電力網に接続されていない電力システム(オフグリッド型)による自然エネルギーの活用について説明します。
オフグリッドの特徴
最初にオフグリッド型に関連する用語について説明します。
グリッド
送電系統(電力会社から家や事務所などに送られる電力網)をグリッドと呼びます。下図では「上位系統」、「下位系統」が共にグリッドにあたります。
引用:資源エネルギー庁「再生可能エネルギーの自立に向けた取組の加速化」https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/010_02_00.pdf
オングリッド型
電力会社からのグリッドに接続されており、かつ地域内に独自の発電設備と電力網を整備している電力システムを指します。災害時などで発電所等に異常が発生した場合は電力網の切り離しを行い、独立して家や事務所に電力供給を行います。上図の左側が平時(オングリッド型)、右側が災害時(オフグリッド化)になります。
オフグリッド型
元々電力会社からの電力網に接続されておらず、地域内に独自の発電設備と電力網を整備している電力システムを指します。
一例として、送電線に繋がっていない離島での電力システムが挙げられます。なお、家や店舗の単位で発電・消費を行う形態もオフグリッド型と呼ばれます。本記事では特別に記載のない限り、地域単位で独立したオフグリッド型電力システムを扱います。
オングリッド型、オフグリッド型によらず、太陽光などの自然エネルギーによる発電の普及が推進されています。
ご存じの通り、自然エネルギーは発電量を調整することができません。なお、オフグリッド型の場合、電力会社からの電力網による電力のバックアップがありません。
そのため、ガスエンジンによる制御可能な発電設備や電力貯蔵設備と連動した運用による電力供給の安定化、地域内での需給バランスの管理方法を考える必要があります。さらに設備投資や技術開発による料金上昇の可能性などの課題があります。
マイクログリッドとは?オフグリッド型との関係は?
ある一定の需要地域内で、自然エネルギーを利用した発電(変動電源)やガスエンジンなどの発電(制御可能電源)、及び電力貯蔵設備を組み合わせて、電力の安定供給を可能とする小規模な電力網をマイクログリッドと呼びます。(*1_9P)
引用:NEDO 新エネルギー等地域集中導入技術ガイドブック_9P
https://www.nedo.go.jp/content/100083461.pdf
マイクログリッド導入の意義は国によって違いがあります。
米国では1996年や2003年の大停電に象徴されるように電力系統の信頼性が課題となっており、この課題解決方法の一手段としてマイクログリッドが考えられています。欧州では自然エネルギーの普及や、離島での自立した電力システム構築が主な目的です。日本では自然エネルギーの普及、省エネ、CO2削減、地域資源の活用が重要視されています。 (*1_11P)
地域的な観点、または発電規模の観点でマイクログリッドと呼ばれ、電力会社からの電力網との接続有無で「オングリッド型」と「オフグリッド型」に分類されます。次に「オフグリッド型」の形態について、国内外の普及状況を説明します。
オフグリッド型マイクログリッドの普及状況(国外)
電化率の低い発展途上国の場合、グリッド延伸による接続が技術的に困難な場合が多いため、太陽光発電等と電力貯蔵設備を利用したオフグリッド型が多くみられます。
一方、電化率が高く技術面の課題が少ない先進国ではオングリッド型が採用される傾向があります。最近は技術レベルの向上により、途上国でもオングリッド化が進んでいます。(*7_14)
しかしながら、国別の電化政策にあわせたオフグリッド型も、電力率向上に有効なシステムであることは変わりません。
例えば、まずはオフグリッド型で段階的に電化を進め、将来的にグリッドを延伸してオングリッド化するケースもあります。(*7_18P)
ルワンダの電力状況
国外の事例として、ルワンダの電力状況を説明します。ルワンダ(ルワンダ共和国)は東アフリカに位置しており、面積は2.63万平方キロメートル、人口は1,220万人(2017年)の国です(外務省HPより)。
1994年に民族間の対立にる大量虐殺(ルワンダ虐殺)が発生した歴史があります。しかし現在は政治的に安定し、治安もよくて衛生環境も整ったな国に生まれ変わっており、「アフリカの奇跡」と呼ばれています。世界銀行の調査によると、アフリカの中で3番目にビジネスがしやすい国とされています。(*8)
ルワンダはフリカの中で人口密度が最も高い国ですが、ルワンダ国内に集落などが分散しており、送電電の延伸にはコスト面の問題があります。また、港から遠く、軽油などの輸送コストも無視できません。そこでルワンダ政府は、グリッドの拡大による電化とオフグリッド地域における分散型電源の活用等の両面から、電化率向上を目指しています。(*9_11P)
ルワンダの発電量は2017年時点で210.9MW(発電方式の内訳:水力48%、火力32%、太陽光5.7%、メタンガス14.3%)です。同年の電気への接続率は40.5%(グリッド接続:29.5%、オフグリッド型:11%)です。(*2_78P)
2023~2024年までに512MWの発電量を目標としており、グリッド接続:52%、オフグリッド型:48%で計100%の接続率を想定しています(*2_78P)。特にオフグリッド型による電力供給拡大を目指しているため、太陽光や水力のようなオフグリッド向け電源ニーズが高まると考えられています。(*2_79P)
しかし一方で、現時点で様々な課題が確認されています。目標通りの電力需要が見込めない可能性、ルワンダ政府による家庭用太陽光発電システムの配給(電力にアクセスできない人に対して無償)により民間企業の潜在顧客の減少、オフグリッド型電力を供給する顧客層での料金未支払いなどです。(*2_83P)
なお、ルワンダに対するアメリカの格付け機関であるムーディーズの格付けはB2です。これは「投機的とみなされ、信用リスクが高いと判断される債務に対する格付」の中で中位であるこを示します。
引用)ムーディースSFジャパン 格付記号と定義
https://www.moodys.com/sites/products/ProductAttachments/MoodysJapan/ratingsdefinitions_msfj.pdf
投資に対するカントリーリスクプレミアムは7.82%、投資のトータルリスクプレミアムは13.51%と非常に大きい状況です。よって、高い投資リターンが必要になり、これも課題の1つと言えます。ちなみに日本の格付けはA1、カントリーリスクプレミアムは1.00%、投資のトータルリスクプレミアムは6.69%です。(*3_20-21P)
オフグリッド栽培システム(オランダ企業)
住宅や事務所等への電力供給ビジネスではありませんが、オフグリッド型の栽培システムを紹介します。オランダのスタートアップ企業「ソルホ」では、太陽の熱を貯蔵システムで蓄熱し、施設内の空調や照明、汚水浄化、海水の淡水化などに利用するシステムを開発しました。
太陽エネルギーは太陽熱収集器によって熱の形で蓄積されます。海水も専用タンクに集められます。蓄積された熱を利用して温室の温度調整を行う他、電気、淡水、CO2を生成・供給します。2019年3月2日のニュースによると、同システムがフランスで検証されました。1週間の試運転の後、現在は無人で稼働しています。(*4)
引用:オランダ「ソルホ」ホームページ
http://www.solho.eu/technology
オングリッド型マイクログリッドの普及状況(国内)
国内での地域を対象としたオフグリッド型電力供給の事例は数少ない状況です。そのため、ご紹介できる事例は類似の事例を含めても非常に僅かです。本記事では、宮城県東松島市で進められているスマート防災エコタウンを紹介します。
2011年に発生した東日本大震災は、地震、及び津波による被害に加え、福島第一原子力発電所事故による災害を引き起こしました。東松島市でも市面積の45%(市街地面積の65%)の浸水被害を受けました。震災から7年を経て、防潮碇の建設、集団移転地や災害公共住宅の整備が完了し、生活再建に一定の目途が着いています。(*11_2P)
これからの東松島市を構築するため、産学民間が連係した「一般財団法人東松島みらいとし機構(HOPE)」と東松島市が両輪となり、まちづくりに関する様々な取り組みを行っています。
その1つが「スマート防災エコタウン」で、全国でスマートタウンを開発している積水ハウスと東松島市の官民一体プロジェクトです。自治体が自営線PPS(Power Producer and Supplier,特定規模電気事業者)を整備し、災害による広域停電が発生しても、グリッド内にある社会インフラへの電源供給を継続する仕組みです。(*11_3P)
引用:一般財団法人 東松島みらいとし機構「スマート防災エコタウン」
http://hm-hope.org/ecotown/
平成30年度における市内の太陽光発電量は、震災前と比較して29倍であり、自然エネルギーの活用も進んでいます。(*11_3P)
引用:宮城県東松原市 「東松島市 SDGs未来都市計画 全世代グロウアップシティ東松島」http://www.city.higashimatsushima.miyagi.jp/index.cfm/21,12588,c,html/12588/20181019-133016.pdf
平時はエリア内でエネルギーを地産地消する環境負荷の小さい電力システムです。万が一の際は、住居に加え、近隣の社会インフラ事業(病院、公共施設、事業者等)に電気を供給します。利益を地方創生に活用し経済の活性化を図る「モデル都市」としての展開が期待されています。(*10)
まとめ
オフグリッド型による分散型電力システムは、離島での自立した電力システム構築、自然エネルギーの普及、地域資源の活用等に有効です。しかし電力会社からの電力網による電力のバックアップがありません。そのため、ガスエンジンによる制御可能な発電設備や電力貯蔵設備と連動した運用による電源供給の安定化、地域内での需給バランスの管理方法を考える必要があります。さらに設備投資や技術開発による料金上昇の可能性などの課題があります。
アフリカのルワンダの場合、地方での電化率を上げる方法としてオフグリッド型の電力システム導入が進められています。しかし、ルワンダの諸事情が開発に与える影響を注視する必要があります。
国内の場合、現時点ではオフグリッド型による事例が少ない状況です。東松島市のスマート防災エコタウンのような、災害に対応したオングリッド型の技術を活用しつつ実績を積み上あげ、自然エネルギー普及における課題の解決事例を広めることが大切です。
参照・引用を見る
- NEDO 新エネルギー等地域集中導入技術ガイドブック
https://www.nedo.go.jp/content/100083461.pdf - 野村総合研究所「平成29年度アジア産業基盤強化等事業」
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H29FY/000578.pdf - 北海道大学「ルワンダの地方電化経営モデルと国際広報」https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/71104/1/02_Yamada.pdf
- オランダ「ソルホ」ホームページ
http://www.solho.eu/technology
http://www.solho.eu/news - 環境省 再エネ加速化・最大化促進プログラム 個別施策説明資料集(2019年度閣議決定版,平成30年12月)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/lca/saiene2019.pdf - 環境省「再生可能エネルギー電気・熱自立的普及促進事業」
http://www.env.go.jp/earth/earth/ondanka/energy-taisakutokubetsu-kaikeir02/matr02-01-01.pdf - 独立行政法人 国際協力機構(JICA) 「開発途上国向け太陽光発電技術の導入・普及に関する総合分析報告書(プロジェクト研究)
http://open_jicareport.jica.go.jp/pdf/12151007_01.pdf - 外務省「ルワンダ人自身が創る情報通信技術の戦略計画の実施~ 国づくりとビジネスの両面からICTの基盤づくりを支援 ~」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo/13_hakusho/column/column07.html - 北海道大学「ルワンダの地方電化経営モデルと国際広報」
https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/71104/1/02_Yamada.pdf - 一般財団法人 東松島みらいとし機構「スマート防災エコタウン」
http://hm-hope.org/ecotown/ - 宮城県東松原市 「東松島市 SDGs未来都市計画 全世代グロウアップシティ東松島」
http://www.city.higashimatsushima.miyagi.jp/index.cfm/21,12588,c,html/12588/20181019-133016.pdf