過疎化の現状と問題点とは? どんな対策ができるか

地方の「過疎化」という問題については、耳にしたことのある人も多いと思います。

都市部への人口や経済活動の集中などによって住人の減少が続き、高齢者が多くを占める過疎状態になる地域は日本各地に点在し、村や集落の存続が危ぶまれている地域もあります。

地方の過疎化は、その地域に住む人の生活だけでなく、日本全体の国民生活にも大きな影響をもたらすため、放置することのできない問題になっています。

過疎化と「限界集落」

「過疎地域」とは、過疎地域自立促進特別措置法(過疎法)によって、以下の人口要件・財政力要件を満たす地域のことです。

「過疎地域」とは

過疎法は平成12年に制定されましたが、その後も、人口や地域の年齢構成の変動などに応じて、「過疎地域」とされる要件はこれまでに5年に1度ずつ追加されています。

国勢調査の結果を反映し、平成29年の法改正では以下の要件が追加されました。

人口要件(長期要件または中期要件のいずれかに該当)
 

 

 

 

長期要件

 

 

①②③いずれかに該当。
ただし、25年間(平成2年~平成27年)の人口増加率が10%以上の団体を除く。①45年間(昭和45~平成27年)の人口減少率32%以上②45年間(昭和45~平成27年)の人口減少率27%以上で、かつ平成27年の高齢者比率が36%以上③45年間(昭和45~平成27年)の人口減少率27%以上で、かつ平成27年の若年者比率が11%以下
中期要件25年間(平成2~平成27年)の人口減少率が21%以上
財政力要件(いずれにも該当)
財政力指数0.5以下(平成25~平成27年の3か年平均)
公営競技収益40億円以下

図1  H29年過疎法改正による過疎地域の追加要件(出典:総務省資料「過疎対策の現状と課題」より作成)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000513096.pdf

 

ここでいう「高齢者」は65歳以上、「若年者」は15~29歳の人をさします。
また、「財政力指数」とは、

「基準財政収入額 ÷ 基準財政需要額」の過去3年間の平均値

で求められる、地方公共団体の財政力を表す数字です。
数値が低いほど、自治体の運営を自前の収入で補える割合は低くなっていきます。

つまり、「過疎地域」とは、人口の減少や高齢化が続き、自治体としての生産力に乏しく、かつ財政難で、地域での生活に支障が出ている自治体のことです。

過疎の現状と「限界集落」

「過疎市町村」と「過疎地域とみなされる市町村」、また「市町村合併などによって過疎地域とみなされる区域として公示された区域」の3種類を合わせて「過疎関係市町村」といいます。

過疎関係市町村は、平成の市町村合併によって数の上では一度減少したものの、平成18年以降、再び増加傾向にあります*1。

平成29年4月1日時点での過疎関係市町村の数は817にのぼり、これは全国の市町村数(1,718)の47.6%にあたります。面積では59.7%(平成27年)を占めています*2。

また、過疎関係市町村の中には、「限界集落」と呼ばれる地域もあります。

「限界集落」は、65歳以上の高齢者が地域の住人の半数を超え、地域共同体が機能しなくなっている状態です。

過疎地域全体としても高齢化は進んでおり(図2)、総務省によると、このまま地方の過疎化が進んだ場合、2050年までには現在人が居住している地域のおよそ2割が無居住化すると予測されています*3。

図2 過疎地域の高齢者比率と若年者比率の推移(出典:総務省資料「過疎対策の現状と課題」)
※高齢者=65歳以上、若年者=15~29歳。
http://www.soumu.go.jp/main_content/000513096.pdf

地方の過疎化がもたらす影響

過疎の集落や市町村では働き口が減少しているほか、耕作放棄地の増大や住宅の老朽化、空き家の増加だけでなく、獣害や病虫害等といった問題が発生しています。

また、商店やスーパーの閉鎖、公共交通の利便性の低下が進み、地域住民の生活水準の維持ができなくなっている地域も少なくありません。

過疎化の進行は、その地域に住む人が利用できるインフラや医療体制が維持できなくなるだけではなく、都市部の生活にも広く影響を及ぼします。過疎地域はそのほとんどが農林水産業の担い手であり、食料供給といった面で都市部の生活を支えています。

また、広い面積を占める農地や森林の保全を通じて、都市部も含めた環境維持や温暖化対策にとって大きな役割を果たしているため、その機能を維持することは重要課題となっています。

過疎対策の国内事例

過疎地域の中には、様々な補助や工夫によって、人口の流入や維持に成功しているところもあります。

サテライトオフィスの誘致

IT企業などのサテライトオフィスを多数誘致したことで一躍有名になったのが、徳島県神山町です。

神山町は、街の中央を流れる鮎喰川沿いに農地と集落が点在する人口約5300人の町*4で、徳島市役所から車でおよそ45分のところに役場があります。

図3 神山町の位置(神山町HPより)
https://www.town.kamiyama.lg.jp/immigration/

神山町が注目されるようになったのは、2004年に四国で初めて全戸に光ファイバーを導入し、快適なインターネット環境を整備してからです。

自然が豊富な場所に住みながら仕事ができる、という環境のもとでIT系ベンチャー企業がサテライトオフィスを構えたり、クリエイターが集まるようになりました。

図4 IT系ベンチャー企業などのサテライトオフィス(神山町HPより)
https://www.town.kamiyama.lg.jp/immigration/

その後、2007年にNPO法人が移住交流センターを開設すると、神山町への転入人数が増加傾向に転じ、わずかながら人口の社会増がプラスに転じた年もあります*5。

現在は集合住宅を新設し町外からの入居者を審査の上で受け入れたり、児童館や図書館などを備えた広場の建設も計画していて、子育て環境の整備を進めています。

「ファブラボ」導入で起業支援

もう一つの試みとしては、「ファブラボ」の設置による地域のイノベーション計画です。

「ファブラボ」とは、多様なデジタル工作機械を備えた、誰もが使えるオープンな実験的市民制作工房のことで、地域ラボの世界的なネットワークです。

誰もが色々な工作をできる環境を地元住民に提供することで、場所を選ばないものづくりや、アイデアによるビジネスや企業のチャンスを生むことができるシステムとして、全国に普及しはじめています。

また、ファブラボの特徴は、全世界どの施設でも共通の機材を揃えることで、地域による設備の格差をなくせることです。

これを過疎地域に適用したのが兵庫県佐用町です。

図5 佐用町の位置(佐用町観光協会HPより)
http://34cho.com/access/

佐用町は兵庫県の南西部に位置する、人口およそ17,000人の町です*6。
佐用町には現在、ファブラボの準備段階として「ファブラボβ西播磨」が開設されています。

ファブラボを利用することで、そのまま地元で起業してもらったり、子どもにものづくりが体験できる場所を提供することで、長期的な住人の定着を狙っています。

また、ファブラボは世界中で共通の設備を持っていますので、例えば都市部から、自然環境の良い佐用町に移住しても、同じようにものづくりを進められるメリットがあります。

また、同時に、町としても、町内での起業や創業などに対する補助金制度を設けており、技術開発を支え、かつ起業しやすい環境になることが期待されます。

各国の過疎対策

海外でも、人口減少地域に対する様々な過疎対策が取られています。

フランスのZRR認定

フランスでは、国全体として人口は増加傾向にあるものの、農村部を中心に、人口密度の低い孤立地帯が存在しています。

中でも、人口密度や経済事情などで一定基準に該当する地域を「地域活性化区域(ZRR=Les Zones de Revitalisation Rurale)」と指定し、「厳しい困難に直面し、脆くなっている地域」と定義しています。

ZRRは2014年時点で国土のおよそ3分の1を占めています*7。

図6 フランスのZZR指定地域(緑色で示された地域、2018年)(出典:フランス地域間平等政策総局)
https://www.observatoire-des-territoires.gouv.fr/outils/cartographie-interactive/#c=indicator&i=typo_zrr.zonage_zrr&s=2018&view=map26

フランス政府は、都市部と地方部の断裂を埋めるための方策として、

  • ZRR内に設立した企業に対する優遇税制
  • ZRR内での新設住宅や、賃貸のために住居を購入・改装した場合の優遇税制
  • 公職と民間職の兼業を認めることで、切れ目ない雇用の場を確保
  • 地方で博士課程研修を行う医学生への住居または交通手当

など多数の対策を取っています。

中でも、医学生に対する補助は、研修後に5年間は地方で一般医として働く場合は、研修手当も支払われるため、現地の医療体制の維持に繋がると考えられます。

自然エネルギー電力で雇用を生むドイツ

ドイツでは都市部の人口が増加傾向にある一方で、地方の人口は減少傾向にあります。

政府は、「同等の生活条件」を理念として掲げ、人口が減少している地域でも、他の地域と変わらない生活水準を維持できるようなインフラ整備を検討しています。

また、農業政策の一貫としても、農地の管理のため、農村地区に人が居住できるような取り組みが必要になっています。

そこで、政策の一つに「中心地構想」があります。

これは、地方の中心地に「上位中心地」「中位中心地」「下位中心地」「小中心地」の格付けを与え、その格付けに応じて、病院、学校などの最低数を設定し、公的施設を設置しています。

例えばバイエルン州では、

  • 病院(Ⅲ・Ⅳランク) 上位中心地に1病院
  • 地域医 上位・中位・下位・小中心地に1病院
  • 大学、専門大学校 上位中心地に1大学
  • 基幹学校 上位・中位・下位・小中心地に1学校

などの基準が設けられています。

図7 2015年12月時点での指定中心地(出典:総務省「海外の人口減少地域に対する施策に関する調査研究」)
※赤の四角マークが「上位中心地」。
http://www.soumu.go.jp/main_content/000620133.pdf

医療施設や教育施設から極度に遠い地域が生じることのないようにする対策です。

また、ドイツでは再生可能エネルギーが 17 万人の雇用を生み、160 億ユーロの収入を生んでいます*8。

農村地域ではバイオマス、風力、水力による発電が可能で、将来的にはエネルギー政策と農村振興の両立も期待されています。

過疎対策の最終目標

海外でも対策が必要になっている過疎や人口減少地域への対策ですが、こうした国々と日本が大きく違うのは、国全体の人口減少が続いているという課題も同時に存在している点です。

そこで、直接の「定住人口」でもなく、一時的な観光に来た「交流人口」でもない、その中間の形で地域に関わる「関係人口」を拡大しようという動きもあります。

これは、その地域に居住していなくても、地域と継続的な関わりを持ち、アイデアの提供で地域づくりを支援したり、その地域に関心を持つ人を増やし、支援者の裾野を拡大していこうというものです。

過疎地域に関しては、金銭的な支援だけを行っても「何に使っていいかわからない」となってしまうこともあるようです。

都市からの回帰も含め、人が積極的に関わることで関係人口を増やし、日本全体の問題として多角的な視点から過疎地域の未来を考えていく必要があります。

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Photo by Rap Dela Rea

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