国際エネルギー機関の活動、及びエネルギー統計データの紹介

国際エネルギー機関(International Energy Agency,以下IEAと呼びます)は、経済協力開発機構(OECD,*1)内における機関として1974年に設立されました。OECD加盟国36ヵ国の内、IEA加盟国は30ヵ国で構成されています。加えて、中国,インドネシア,タイ,シンガポール,モロッコ,インド,ブラジル及び南アフリカがアソシエーション国としてIEAと連携しています。(*2)

IEAでは国際的なエネルギー安全保障の確保、経済成長、環境保護、世界的なエンゲージメント、とりわけ主要な新興経済国との緊密な協力による問題解決を目標にして、世界のエネルギー政策を支援しています。(*2,*3) IEAが提供する情報、及び政策提言は日本のエネルギー政策にとって有益な情報源となっています。(*2)

IEAとは

本章ではIEAの歴史、役割、メンバー国について説明します。加えて、IRENA(国際再生可能エネルギー機関)についても触れます。

IEAの歴史と役割

IEAの歴史は1973年の第4次中東戦争にさかのぼります。この戦争が原因で第1次石油危機が起こり、原油価格が高騰、経済が混乱しました。1974年にキッシンジャー米国務長官(当時)の提唱により、OECD(*1)枠内の機関としてIEAが設立されました。(*4)

IEA設立当初のメンバー国は、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、ドイツ、アイルランド、イタリア、日本、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー(特別契約)、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、イギリス、アメリカでした。当時のIEAの活動は、主に石油供給の混乱に対する各国の協調支援でした。現在では石油の他、ガス、石炭の需給、自然エネルギー技術、電力市場、エネルギー効率、エネルギーへのアクセス、需要管理などを含むエネルギー政策の全般をカバーします。またエネルギーに関する統計調査を定期的に行っており、世界のエネルギー事情を調査・分析・公表し、エネルギー政策の提唱を行っています。(*4)

IEAは主に4つの領域にフォーカスして活動しています。(*2,*3)

(1)  エネルギー安全保障の確保(Energy Security)
すべての燃料とエネルギー源に対して、多様性、効率、柔軟性、信頼性を促進します。

(2)経済成長(Economic Development)
エネルギー政策を通じて経済成長を促進します。またエネルギー不足をなくすために自由市場を支援します。

(3)環境保護(Environmental Awareness)
エネルギー生産と消費が環境に与える影響(特に気候変動と大気汚染)を調査し、環境負荷を低減する政策を提案します。

(4)世界的なエンゲージメント(Engagement Worldwide)
エネルギーと環境問題における解決策の提言、及び実現のため、パートナー国(特に主要な新興経済国)と緊密に協力します。

IEAメンバー国

IEAのメンバー国となるには、OECD加盟国であるだけでなく、下記の条件を満たす必要があります。(*5)

・前年の純輸入の90日間に相当する原油または製品を貯蔵していること。

・国内の石油消費を最大10%削減する需要抑制プログラムを有していること。

・協調的緊急時対応措置(Co-ordinated Emergency Response Measures)による備蓄放出を運用する法律と組織を有すること。

・石油会社が要求に応じて情報を報告するための法律と措置を有すること。

・IEAとしての集団行動に貢献する能力を確保するための措置を実施していること。

現在は30か国が加盟しています。なおIEA閣僚会議では、メンバー国だけでなく、非加盟国も参加します。第26回IEA閣僚理事会(平成29年11月)の場合、非加盟国9か国(ブラジル,チリ,中国,インド,インドネシア,モロッコ,シンガポール,南アフリカ,タイ)の閣僚等が出席しました。(*6)

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の概要

自然エネルギーに特化した国際機関設立(後のIRENA)の提案は、1981年にケニアで開催された国連会議にさかのぼります。その後、自然エネルギーの関心が世界的に高まり、2008年4月にドイツで、IRENA設立に関する最初の準備会議が開催されました。会議の中で、エネルギー需要の急速な増大、及び気候変動の懸念を受けて、60ヵ国によるIRENA設立の支持が表明されました。設立のための準備会議等を経て2010年7月にIRENA規約が施行、2011年4月にIRENAが正式に誕生しました。(*8) IRENAでは、自然エネルギー(太陽、風力、バイオマス、地熱、水力、海洋利用等)の普及、促進を目的としています。具体的には、主に自然エネルギー利用の調査・分析、政策上の助言、途上国の能力開発支援等を行っています。IRENA加盟国数は2019年時点で160ヵ国です。(*7,*8)

IEAとIRENAはそれぞれ独自の分析・提言を行いつつ、連携した活動も行っています。例えば、2017年に「エネルギー転換の見通し:低炭素エネルギーシステムへ向けた投資ニーズ」を共同発表しています。(*9)

本発表において、IEAは、2度目標(2015年パリ協定:世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つ)達成のため、平均気温上昇を「2100年までに66%の確率で2度以下に抑制する」という「66%2℃シナリオ」を策定しました。これは、IEAが従来から採用してきた、現状のCO2排出量の半減を目指す「450ppmシナリオ」よりも、さらにCO2排出量を4割削減するシナリオです。

引用:外務省「IEA・IRENA共同発行「エネルギー転換の見通し」に関する分析レポートの概要」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/es/page25_001139.html

 

またIRENAは、従来から提示していた「REmap(自然エネルギーシェアを2030年に倍増)」を2050年まで拡張したシナリオを提示しました。

引用:外務省「IEA・IRENA共同発行「エネルギー転換の見通し」に関する分析レポートの概要」https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/es/page25_001139.html

2019年4月、IEAとIRENAのさらなる関係強化に関する覚書が作成されました。この覚書により、両機関の統計調査の交換、政策分析に関する共同作業などがこれまで以上に加速します。これらの活動により、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に沿った、持続可能なエネルギーシステムの世界的な促進に寄与することを期待されています。(*10)

IEAと国内機関の連携

近年、アジア・太平洋地域を中心にさらなる経済発展が予想されており、同時に、エネルギー需要の増大が予想されています。需給バランスおよび見通しの精度を維持するため、エネルギー事情の急激な変化に対応した精度の高い統計調査が大切です。IEAが作成する信頼性の高いエネルギー統計や各種見通しは、加盟国がIEAに送付したデータを元に作成されています。精度の高い統計処理、及び見通しを行うため、すべての加盟国に対して正確なデータの提出が求められています。(*11_5P)

日本国内では、資源エネルギー庁の協力を得て日本エネルギー経済研究所(IEEJ)が、各種エネルギー統計データを収集・分析して、IEAに提出しています。(*10_7P) IEAにデータを提出するための作業フローは以下の通りです。(*11_6P)

IEAが発行する統計レポート

IEA加盟国がIEAに送付したデータを元に、下記のレポートが作成・発行されています。 (*11_8P)

【基本統計】

・Key World Energy Statistics…一次エネルギー供給、各燃料の生産量、輸出量、輸入量の上位10ヵ国、発電量の上位10ヵ国等

※一次エネルギー:自然界から直接得られたエネルギー。石油、石炭、天然ガス、ウラン、太陽光、水力、風力、地熱、バイオマスなど

・World Energy Balances…世界各国のエネルギーバランス表

・World Energy Statistics…世界各国のエネルギーバランス表の元データとなるエネルギー源別固有単位表

・CO2 Emission from Fuel Combustion…世界各国のCO2排出量

【燃料別統計】

・Coal Information…石炭の生産量、需給量、輸出入量等

・Oil Information…石油の生産量、需給量、輸出入量等

・Natural Gas Information…天然ガスの生産量、需給量、輸出入量等

・Electricitry Information…電力の生産量、需給量、輸出入量等

・Renewables Information…自然エネルギーの生産量、需給量、輸出入量等

・Monthly Oil and Gas report…OECD加盟国の月次石油・ガスの供給データ

・Monthly Oil and Gas Survey…OECD加盟国の月次石油・ガスの供給データ,Webでの公開のみ

・Emergency Data Questionnaire…緊急時対応審査

【価格統計】

・Energy Price Taxes…国別の各燃料(石炭、ガソリン、電力料金、ガス料金等)の小売価格・税金

【見通し】

・World Energy Outlook…長期(2040年まで)のエネルギー市場見通し

・Market Report Series:Oil…中期(5年)の石油市場見通し

・Market Report Series:Gas…中期(5年)のガス市場見通し

・Market Report Series:Coal…中期(5年)の石炭市場見通し

・Market Report Series:Renewables…中期(5年)の自然エネルギー市場見通し

・Market Report Series:Efficiency…中期(5年)のエネルギー効率見通し

・Energy Technology Perspectives…技術進展とエネルギー経済のシナリオ

【政策】

・Energy Policies of IEA Countries…IEA加盟各国のエネルギー政策とレビュー

自然エネルギー関連の統計レポート

IEAが発行するレポートの内、自然エネルギーに関するレポート(2019年度版)を紹介します。環境省の「平成24年度低炭素社会づくりのためのエネルギーの低炭素化に向けた提言」(*12)などに活用されています。

【Renewables Information Overview 2019】

詳細版は有料ですが、概要版(Overview)は無料でダウンロードできます。(*13)。概要版によると、2017年の世界の一次エネルギー供給量は、13,972メガ石油換算トンで、その内の13.6%(1,894メガ石油換算トン)が自然エネルギー源です。開発途上国では住宅の暖房および調理用に固体バイオ燃料・木炭が広く使われているため、Biofuels and wasteの比率が大きくなっています(下記Figure1)。自然エネルギー源の内、固体バイオ燃料・木炭が占める割合は60.7%を占めています。(下記Figure2)

ほかにも、自然エネルギー源によるエネルギー供給の平均年間成長率と地域別シェア、地域別消費量などが記載されています。

※1toe(石油換算トン):1トンの原油を燃焼させたときに得られる約42ギガジュールのエネルギー

引用:https://webstore.iea.org/download/direct/2665?fileName=Renewables_Information_2019_Overview.pdf

【Renewables 2019(Market analysis and forecast from 2019 to 2024)】

詳細版は有料ですが、概要版(executive summary)は無料でダウンロードできます。(*14) 概要版によると、自然エネルギーの供給容量は2019年から2024年で50%拡大し、分散型PVが陸上風力と同程度まで成長すると予想されています。今後5年間で、中国の分散型PVの容量がEUを抜いて、世界最大の成長率になる見込みです。またインドなどが新しい市場として出現してきます。

※分散型PV:太陽光発電施設を消費地域の近くに配置して電力の供給を行なう形態。

引用:https://www.iea.org/media/presentations/Renewables-2019-Launch-Presentation.pdf

まとめ

IEA設立から数十年間、IEAは世界のエネルギー情勢における進化に貢献してきました。今後は、気候変動への対応において決定的な役割を果たすため、エネルギー分析、統計データ及び分析結果の提供、グローバルなエネルギー課題における国際連携のプラットフォームの役割が期待されています。(*15_1P)

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参照・引用を見る

*1
外務省「経済協力開発機構(OECD)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page2_000009.html
*2
外務省「国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency )の概要」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/energy/iea/iea.html
*3
International Energy Agency 「Our Mission」
https://www.iea.org/about/ourmission/
*4
International Energy Agency 「History」
https://www.iea.org/about/history/
*5
International Energy Agency 「IEA Membership」
https://www.iea.org/countries/members/
*6
外務省「第26回国際エネルギー機関(IEA)閣僚理事会」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/es/page23_002304.html
*7
外務省「国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の概要」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/energy/irena/gaiyo.html
*8
International Renewable Energy Agency(IRENA)
https://www.irena.org/
「IRENA History」
https://www.irena.org/history
*9
外務省「IEA・IRENA共同発行「エネルギー転換の見通し」に関する分析レポートの概要」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/es/page25_001139.html
*10
IRENA「IRENA and IEA Strengthen Cooperation for a Secure and Sustainable Energy Future」
https://www.irena.org/newsroom/pressreleases/2019/Apr/IRENA-and-IEA-strengthen-cooperation-for-a-secure-and-sustainable-energy-future
*11
一般財団法人 日本エネルギー経済研究所
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H30FY/000210.pdf
*12
環境省「平成24年度低炭素社会づくりのためのエネルギーの低炭素化に向けた提言」
https://www.env.go.jp/earth/report/h25-01/
*13
IEA: Renewables Information 2019
https://webstore.iea.org/renewables-information-2019
*14
「Market Report Series: Renewables 2019」
https://webstore.iea.org/market-report-series-renewables-2019
「Renewables 2019 Market analysis and forecast from 2019 to 2024」
https://www.iea.org/media/presentations/Renewables-2019-Launch-Presentation.pdf
*15
第26回IEA閣僚理事会 議長サマリー加訳
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000322012.pdf

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