地域が経営する分散型インフラ「シュタットベルケ」とは

地域が経営する分散型インフラ「シュタットベルケ」とは

日本では2016年に電力小売りが全面自由化され、2017年には都市ガスの自由化が始りました。

現在は多くの企業がこうしたエネルギー事業に参加し、利用者が会社を選ぶことができますが、利益の多くは地域外にある企業のものになってしまいます。

これに対し、地域でエネルギー会社を経営し、得た利益を地域に還元しようという「シュタットベルケ」という考え方が広まりつつあります。

「シュタットベルケ」先進国のドイツ

シュタットベルケはドイツ語で「町の事業」という意味です。

ドイツでは古くから存在し、19世紀後半から、ガスや電気といったエネルギー供給だけでなく、上下水道、公共交通サービスなどを行う地域企業として多くの役割を果たしています。

シュタットベルケの必要性

シュタットベルケは、主にエネルギー(電気、ガス、熱供給)と水道の分野で公共事業を同時に提供している公社です。

例えば日本の場合、地域インフラは、エネルギー事業は一般企業、交通サービスは民間の交通事業者、地域の公共施設は自治体の経営、といったバラバラの経営者が混在して構成されています。

しかしこれには、問題があります。

日本では、人口が減少する地方の場合、公共施設の経営ができなくなったり、交通事業者が不採算路線から撤退したりすることで、生活に必要なインフラの維持が難しくなっているのです。

こうした事態を解決できる方法として注目され始めたのが、ドイツに数多く存在する「シュタットベルケ」です。

ドイツのシュタットベルケ

シュタットベルケは、主に自治体が出資している「公社」です。

地元自治体が100%出資しているものもあれば、他の自治体あるいは民間企業などと共同で運営しているもの、中には株式会社として上場しているものも存在します。

公社であるものの、実際の経営は、リスクを伴う事業であっても必要性に応じて展開していくという、民間企業と似たような手法で行われています。

シュタットベルケの最大の特徴は、「地域で得た利益を、地域の事業に使う」ことです。

主にエネルギー事業で収益を上げ、地域の他のインフラ整備や交通サービスなどに回し、一括経営することで、単独では赤字になってしまう地域サービスを維持しているのです。

2018年12月現在では、1,474のシュタットベルケが存在しており*1、幅広い事業を展開するものもあります(図1)。

図1 シュタットベルケの事業範囲(出典:「持続的な地域インフラ・公共サービスのあり方に関する調査研究」国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2018/71_4.pdf

エネルギー事業、上下水道の他に、廃棄物処理、交通サービス、温水プール、カルチャースクールといった、地域生活の向上に必要な事業を一手に担っているのです。

他にも、学校や幼稚園、インターネット、図書館、劇場、博物館、病院、ケアホーム、避難所、消防、救急救命、といった、生活を幅広くサポートするサービスを提供するところもあります。

多くのシュタットベルケが本業とする電力事業では、2016年の段階で、合計発電能力が2万8546メガワットにのぼっています*2。

これは、ドイツ国内の発電設備容量の約21.5%に匹敵する容量です。
また、その電源構成にも特徴があります。


図2 ドイツ国内での地方自治体の発電能力と自然エネルギー比率(出典:VKU、2017年時点)
※円グラフ中の濃い青の部分が自然エネルギー比率。
https://www.vku.de/presse/grafiken-und-statistiken/energiewirtschaft/

シュタットベルケが有する発電能力は、自然エネルギーの比率が高く、全体では17.5%です*3。

これは大手の4電力会社よりも明らかに高い水準で、ドイツでは自然エネルギー発電の有効性を支持する人が多いということの現れでもあります。

また、シュタットベルケによる地域事業は雇用を生み出す存在でもあります。

2018年のシュタットベルケの総売上は1161億ユーロ、従業員数は26万8000人にのぼっています*4。

電力自由化の皮肉な結果

シュタットベルケがここまで大きな存在を示すようになったのは、1998年に電力が完全自由化したことがひとつのきっかけになっています。

ドイツでは、98年から電力小売の自由化が始まりました。

自由化によって、電力料金は安くなると思うかもしれません。

しかし、ドイツでは皮肉にも、電力価格が上がる結果となりました。

自由化の下で競争が激化するにつれ、新電力会社が無理な事業経営に乗り出して倒産し、結局大手に集約され、寡占化されてしまったためです。

もちろんシュタットベルケも電力会社としてその競争に晒されることになりました。

ただ、その中で生き残った理由は、信頼度の高さです。

倒産が相次いだ新電力会社への不信感が増す一方で、シュタットベルケは地域に根ざしているということと、多様な公共サービスを提供することで好感を得ていきました。

自然エネルギーが後押しする日本版シュタットベルケ

ドイツのシュタットベルケは今や地域振興にとどまらず、自然エネルギー有効利用、雇用創出という役割を果たすようになっています。

日本でも、このようなシュタットベルケを目指す自治体が出てきています。

日本版シュタットベルケの先駆者、福岡県みやま市

日本版シュタットベルケの先駆けとして有名なのが、福岡県みやま市です。

みやま市では、市と民間企業との合同出資で、2015年「みやまスマートエネルギー」が設立されました。

その目的は、エネルギーの地産地消による地域経済の活性化、地域雇用の創出などです(図3)。

図3 みやま市、みやまスマートエネルギーの狙い(出典:みやまスマートエネルギーHP)
http://miyama-se.com/company

実際、電力事業やインターネットサービスだけでなく、コミュニティスペースを運営して食品の地産地消の場所とする他、無料配布のタブレットを使って地元の業者からネットショッピングが可能な「みやま横丁」の運営、HEMS(エネルギー管理システム)を利用した高齢者の見守り、など、様々な事業を展開しています。

地域から太陽光発電を含めた電力を買い取り、地域で売電し、その利益を地域の公共サービスに充てるという、「日本版シュタットベルケ」が完成しつつあり、今後は交通サービスなどの展開も期待されています(図4)。

図4 「みやま市の地域電力事業」(出典:「エネルギー施策と連携した持続可能なまちづくり事例集」環境省)
http://www.mlit.go.jp/toshi/city/sigaiti/content/001314127.pdf

また、3年間で、地元出身者を中心とした33人の雇用の創出を実現したほか、現在は地域外の他のエリアにも電力を供給しています。

地方の自然エネルギーポテンシャル

日本国内の自然エネルギーを見渡すと、自然エネルギー発電の比率を高めていく場合、都市部の電力需要は地域内の自然エネルギーの発電力を上回っている一方で、地方では自然エネルギー発電の供給量が需要を上回る所が多数存在します(図5)。

図5 自然エネルギー発電の導入ポテンシャル(出典:平成30年版 環境白書」環境省)
http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/pdf/1_2_01.pdf

日本版シュタットベルケの形成には、この豊富な自然エネルギーを「商品」と捉えることが必要です。

実際、電力小売自由化がきっかけとなって、地元で電力会社を設立することでエネルギーの地産地消を導入する自治体は増えています。

また、自然エネルギー比率を高めるためには、今後、蓄電池を利用した自然エネルギー電力の販売も可能になっていくでしょう。

これまでとは逆に、売電によって地域外から収入を得ることもできるようになります。

自然エネルギーを「インフラ地方分権」の契機に

エネルギー事業を通じて、公共インフラの維持や雇用を生み出すのがシュタットベルケの基本です。

高齢化や人口減少によって地方が抱える問題はそれぞれですが、地域で生み出した電力という資源から得られる利益を、地域外に流出させずに最大限活用できることは大きな魅力と言えます。

大手企業だけに頼るエネルギー調達では、その料金や経営判断などに地方の事情は必ずしも反映されず、災害時などのリスクも大きなものになります。

自治体単位でインフラの運営を進めることで小回りのきく経営判断ができるというメリットもあり、地方が抱える問題を自らの手で解決できる手法として、今後の展開が期待されます。

参照・引用を見る

*参考1、4 「Zahlen, Daten, Fakten 2019」(Verband Kommunaler Unternehmen e.V.)
https://www.vku.de/publikationen/2019/zahlen-daten-fakten-2019/

*参考2、3 Wuppertal Institut (2018): Status und Neugründungen von Stadtwerken.
Deutschland und Japan im Vergleich. Inputpapier zum Projekt Capacity Building für dezentrale Akteure der Energieversorgung in Japan. Wuppertal.
https://www.jswnw.jp/pbfile/m000040/pbf20180613094727.pdf p13、p12

図1 「持続的な地域インフラ・公共サービスのあり方に関する調査研究」(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2018/71_4.pdf p54

図2 「25 Grafiken und Statistiken」(VKU)
https://www.vku.de/presse/grafiken-und-statistiken/energiewirtschaft/

図3 「会社概要」(みやまスマートエネルギーHP)
http://miyama-se.com/company

図4 「エネルギー施策と連携した持続可能なまちづくり事例集」(環境省、2019年)
http://www.mlit.go.jp/toshi/city/sigaiti/content/001314127.pdf p40

図5 「平成30年版 環境白書」(環境省)
http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/pdf/1_2_01.pdf p30

 

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