「日本版CCRC」で高齢化対策と地方回帰を両立するために

「超」高齢化が進む日本では、高齢化の問題は地方のものだけでなく、いずれ大都市圏でも高齢者の割合が大きくなっていくと考えられています。

そこで各地で研究が進んでいるのが、「日本版CCRC」の構想です。

CCRCとは「高齢者が健康で元気に輝き暮らし続けることのできるコミュニティ」のことで、主に高齢者の生活の充実をはかるものです。

また、成功すれば地方への人口回帰も促進できる可能性があります。

CCRCの取り組みが先行しているアメリカから、日本は何を学ぶことができるでしょうか。

「CCRC先進国」アメリカの国内事情

「CCRC」は「Continuing Care Retirement Community」の略で、「高齢者が健康で元気に輝き暮らし続けることのできるコミュニティ」と定義されています。

具体的には、まだ健康なうちにその地方や地域に移住・入居し、慣れた場所で最後まで暮らし続けられるような居住区のことです。

いざ体が不自由になった時に慌てて施設探しをしたり、高齢になってから慣れない環境に移り住んだりするのではなく、早い段階から終の住処を決め、そのまま過ごすという考え方です。

アメリカで進む高齢化

アメリカは、CCRC先進国とも言われています。

図1 世界の高齢化率の推移(出典:「平成30年版高齢社会白書」内閣府)

高齢化は世界的にも進んでいて、アメリカでは2010年代から高齢化が加速し、このまま行くと2060年には全人口の25%ほどが65歳以上になると推計されています(図1)。

アメリカでは、高齢者の9割は基本的に自宅で生活しています*1。

日本の介護保険にあたる制度がアメリカには存在しないため、高齢で体が不自由になっても、国に頼ることができないという現状も一因になっています。

老人ホームに当たる入居施設はありますが、全体的に高額なため、利用できる人は限られていて、高齢者の割合が増える中で介護の在り方や、高齢者の生活を豊かにすることは課題のひとつになっています。

そこで、アメリカで広がってきたのが「CCRC」です。ベビーブーマーを中心に関心が高く、拡大が続いていて、その市場規模は3兆円にのぼっているとも言われています*2。

アメリカの高齢者住宅とCCRCの違い

アメリカの高齢者住宅には、いくつかの種類があります。

順に紹介していくと、以下のようなものです。

1)インディペンデント・リビング(IL=自立型高齢者住宅)

衣食住の身の回りのことができる、まだ「介護」が必要でない高齢者を主に対象にした集合住宅、あるいは戸建を集合させたコミュニティです。

入居者は自室で独立した生活を送りますが、一般の住宅と違うのは広い共用リビングルームを設けたり、食事サービスやイベントを実施したりするなど、高齢者が活動に参加しやすい環境も備わっていることです。

基本的には個人の生活を尊重しつつ、同時に孤立を防ぐための配慮がなされています。

2)アシステッド・リビング(AL=支援型高齢者住宅・軽介護施設)

食事や入浴といった日常生活に介護が必要で、インディペンデント・リビングでの生活が難しい高齢者向けの施設です。

自立に必要な介護を受けながら、外出支援の利用やイベントなどにも可能な限り参加できるようになっている所が多く、また、ハード面ではトイレに呼び出し用のブザーを備えるなど、緊急時の対策がなされている所もあります。

入居者の大半は、費用を私費か民間介護保険で支払っていますが、多くの州が近年、低所得者に費用を支給するようになっています。

3)ナーシング・ホーム(NH)

ALでは対応できない医療的なケアを必要とする、重度の要介護状態にある高齢者向けの施設です。

日本での特別養護老人ホームのイメージに一番近いのがこのナーシング・ホームでしょう。

24時間介護や、病院にほぼ近い医療の体制を備えています。また、地域住民に対するデイサービスを提供しているNHもあります。

ただ、費用が高額で負担しきれなくなる入居者も多くいます。

費用や制度の面ではまだ未確立な部分もありますが、上記のIL、AL、NHに共通しているのは、「予防」「防止」が意識されていることです。

ILでは健康維持のためのプログラムを提供し、要介護の状態になるのを防ぐ目的があり、次いでAL、NHでは、寝たきりの防止に重点が置かれています。

そして、これら全ての機能を1か所に集約したのがCCRCです。

転居を考える必要がなく、健康状態に応じた支援を受けながら、老後の生活を一貫して同じ敷地の中で送り続けられるハード・ソフトの両方を兼ね備えています。

早い段階から入居することで、活動の習慣や周囲との人間関係も構築でき、老後の精神的負担を軽減できることが最大の特徴です。

CCRCのサービス

アメリカのCCRCの一例として、ワシントン郊外の「ヴィンソンホール」があります。

図2 ヴィンソンホール(米バージニア州)

ヴィンソン・ホールには、IL、AL、NH、認知症の高齢者を対象とするMemory Support(MS)と、その人の健康状態に合わせたサービスを提供する部屋があります。

また、食事を提供するための共用のダイニングルームのほか、バーカウンター、シアタールーム、美容・理髪店、トレーニングルーム、図書館、チャペルなど、生活を充実させる多くの施設が揃っています。

また、買い物のための定時バスで外出を支援するサービスもあるほか、居住者や家族で構成される自治会が存在しており、居住者の困りごとの報告など、経営側とのコミュニケーションの場となっています。

CCRCの中には、大学との連携で生涯学習の場を提供するところも増加しています。

CCRCには、複数の契約方法があります。
入居金と月々の管理費の支払いで、生涯に渡り介護・看護・医療サービスを受けられる包括契約の他、サービスの日数を限り別途支払いで追加できる契約方法、あるいは介護・看護・医療サービスを全てその都度の費用で賄い、初期費用を抑える契約に分かれています。

日本版CCRCの試み

日本でも、CCRCの構築が進められています。

主な目的は、高齢者の豊かな老後を提供することだけでなく、地方への人の流れの推進、今後進むと考えられる東京圏の高齢化問題への対応、という3本柱です。

東京一極集中の現状と見通し

地方の高齢化と、それに伴う福祉サービスの質の低下は以前から話題にのぼっていますが、今後は東京圏でも高齢化が進み、医療や介護施設が不足すると考えられています。

図3 東京圏への転入、転出、転入超過(出典:「『地方への新しいひとの流れをつくる』現状と課題について」内閣府)

東京圏への人口の流れを見ると、1996年以降再び転入超過が続き、その数は2017年では約12万人となっています(図3)。

転入者がそのまま高齢化していくと、1都3県の75歳以上の人口は2015年から2030年までの間に、

・東京都で   2015年より 51.8万人
・神奈川県で  2015年より 53.8万人
・埼玉県で   2015年より 50.2万人
・千葉県で   2015年より 41.9万人

増えると推計されています*3。合計すると、1都3県で197.7万人の増加で、東京圏で高齢者を受け入れる介護や医療施設の拡充が急務であることがわかります。

また、人口の地方回帰を進めることも、課題として残っています。

これらを両立させるために、各地にCCRCを作り、移住した人が高齢になった時でも充実した生活を送り、かつ社会活動への参加で地方活性化の担い手にもなってもらおうというのが「日本版CCRC」が目指すところです。

日本CCRCの先進例

現在、国内で構築されているCCRCの先進例がいくつかあります。

これらの例では、先に挙げた3本柱に加え、現在日本が抱えている他の課題も解消しようという試みがなされています。

ひとつは、千葉市の「スマートコミュニティ稲毛」です。

団塊の世代をターゲットにしたマンションが随時開設され、12万㎡を越える敷地面積を持ち、現在では7棟、1000戸が分譲されています。

敷地内のクラブハウスにはレストラン、フィットネスクラブ、カラオケルームなどが完備されている他、テニスコート、ゴルフ練習場といったグラウンド施設も利用できるようになっています。

原則50歳以上で、ある程度自立した生活のできる人を入居対象としていますが、現在は近隣の事業所の協力で提供している介護サービスを自社で提供できるように、順次切り替えの準備が進められているところです。

先に挙げたアメリカのCCRCに似た施設の構築とも言えるでしょう。

スマートコミュニティ稲毛のもう一つの特徴は、撤退した大規模商業施設をリノベーションして利用している、いわゆる「建築物ストック」の活用でコストを抑えていることです。

空き家や空きビルなどの再利用は国内の大きな課題のひとつであり、その一つの事例として注目されています。

もうひとつは、「日本版CCRC構想」というよりもそれ以前に存在している高齢者の居住区ですが、愛知県・長久手市の「ゴジカラ村」があります。

高齢者のための各種介護福祉施設(特養老人ホーム、ケアハウス、訪問看護ステーション、ショートステイ、デイサービス)と、幼稚園、子育て支援施設、看護専門学校が敷地内に併設されているという珍しい居住区です。

また、敷地内に設けたレストランを住民に開放し、町で評判の料理店に運営してもらうことで食事の質を上げ、広く利用を促進しています。

イベントだけでなく、日頃から多くの人が集まる場所になるような仕掛けを作ることで、自然と地元住民と時間をともにすることが増えていくようになっています。

地域の高齢者が子供達の面倒をみる託児所があったり、入居者が職員の子供の話し相手になり、ともに食事をする姿が見られたりもします。

図4 「ゴジカラ村」インスタグラムより
https://www.instagram.com/p/BzNteG9BTfB/?utm_source=ig_web_copy_link

子育てを支援する環境にもなっているのが大きな特徴です。

日本へのCCRC輸入を成功させるために

ここまで、CCRCの考え方と事例について見てきました。

アメリカではすでに広がりを見せているCCRCですが、同じ手法を単純に真似ただけでは、リスクは残ると考えられます。

施設の充実、敷地内コミュニティも必要ではありますが、医療とのさらなる連携強化、特に人手不足に陥っている地方では医療や介護の体制そのものの再構築が必要な場合もあります。

また、敷地内に多様なサービスを展開するのは好ましいことですが、その一方で、高齢者しかいない敷地の中に閉じこもってしまっては意味がありません。

長久手市の例のように、自然と色々な人が集まり、地域の若者や子供との交流が自然と生まれるような仕組みづくりについては、アイデアが必要なところでしょう。

そして、「早めの移住」と言っても、現代は定年が伸びたことなどによって65歳あるいはそれ以上でも職場に止まる人が少なくありません。

より具体的なライフプランが立てられ、無理のない資金計画でいかに質の高いサービスを提供できるかも一つの鍵になりそうです。

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参照・引用を見る

図1 高齢化の国際的動向(「平成30年版高齢社会白書」内閣府)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/html/zenbun/s1_1_2.html

図2 「シルバー産業の国際展開に向けた課題の整理・分析」(早稲田大学電子政府・自治体研究所、2016年3月)
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000446.pdf p108

図3 「地方への新しいひとの流れをつくる」現状と課題について(内閣府、2018年2月)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/wakuwaku_kaigi/h30-02-14-shiryou2.pdf p13

図4 ゴジカラ村インスタグラム
https://www.instagram.com/p/BzNteG9BTfB/

参照1 「アメリカの高齢者住宅とケアの実情」(国立社会保障・人口問題研究所、2008年)
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18879307.pdf p66

参照2 「シルバー産業の国際展開に向けた課題の整理・分析」(早稲田大学電子政府・自治体研究所、2016年3月)
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000446.pdf p106

参照3 都道府県別75歳以上人口と指数(「日本の地域別将来推計人口」国立社会保障・人口問題研究所、2018年)
http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson18/6houkoku/houkoku.pdf p69

 

Photo by Jeff Sheldon on Unsplash

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