海洋のもうひとつの自然エネルギー「波力発電」とは

海洋のもうひとつの自然エネルギー「波力発電」とは

海上での発電、というと風力発電のイメージが強いかもしれませんが、海には、他にも発電に利用できるエネルギー源が存在しています。

そのうちのひとつが、風によって引き起こされる「波」の力です。

波の力を利用する「波力発電」は、世界的に研究が続けられています。

特に日本の地形に合う方法と期待されていて、実用化に向かっています。

波力発電とは

海上を吹く風によって海面が上下する、これが「波」の姿です。

波が引き起こす海水の上下運動で生まれるエネルギーを動力にして発電器を動かし、電力に変換するのが波力発電の原理です。

波力発電の仕組み

強風の日は、海上で大きな波やうねりが発生します。波は数十センチといった高さでも、大人が足を取られるほどのエネルギーを持っています。

水、とりわけ密度の高い海水が上下する、この膨大なエネルギーを発電に使うための仕組みは、いくつかのタイプがあります。

主には以下のようなものです。

①振動水柱型


図1 振動水柱型波力発電システムの仕組み(出典:「再生可能エネルギー技術白書」NEDO)

振動水柱型のシステム(OWC)では、装置内に空気室が設けられています(図1)。

海面が上下すると、水の力によって「空気室」にかかる圧力が変化します。この圧力差を利用してタービンを回転させ、発電するのが振動水柱型の発電システムです。

構造がシンプルなため台風などへの対策がしやすく、安全な形式とされていて、国内で開発されてきた波力発電装置で多く採用されている方式でもあります。

1965年には海上保安庁でこの振動水柱型発電装置(最大出力30W~60W)が採用されました。

航路標識の灯りをつける電力を供給するもので、国内では1000基以上の航路標識ブイに使われているほか、世界でも広く導入されています(図1 右)。

また、岸に直接発電装置を設置するタイプもあり、イギリス・アイラ島で産業用電力を供給している装置が一例です(図2)。出力は500kWです。


図2 沿岸固定式の振動水中型発電装置の一例、LIMPET(出典:「海洋開発工学概論」国土交通省)

②可動物体型

可動物体型のシステムの発電装置には、文字通り「可動物体」が取り付けられています。

水面、あるいは水中に設置された可動物体が波を受けると揺れ動くようになっていて、この運動エネルギーを原動力にして装置内の油圧ピストンを動かし、電気エネルギーに変換するという仕組みです。

可動物体型の波力発電装置には、可動物体の形と波の受け方によって2種類あります。

ひとつは「並進動揺型」と呼ばれるものです(図3)。


図3 並進動揺型発電装置の一例、パワーブイ(出典:「海洋開発工学概論」国土交通省)

可動物体の海面に接する部分が円形になっていて、360°あらゆる方向から波を受けています。

その一例がアメリカで開発された「パワーブイ」(図3)で、40kW級の試験機で実証実験に成功し、ニュージャージー州で2008年から稼働しています。

そして、可動物体型発電装置のもうひとつのタイプは「屈曲動揺型」と呼ばれるものです。

こちらは、可動物体が横長のV字型の形状担っていて、一方向からの波の力を広く受ける仕組みです(図4)。

図4 屈曲動揺型発電装置の一例、Pelamis(出典:「海洋開発工学概論」国土交通省)

図4はニュージーランドで開発されているペラミス(Pelamis)という発電装置で、全長108mの可動物体で波を受けています。

可動物体は4つの筒が連結された構造になっていて、波を受けると関節(筒の連結部分)の角度が変化します。

この角度の変化を動力とするもので、発電能力は1基あたり0.75MWです。

屈曲動揺型の装置の中には人工筋肉を使ったものもあり、アメリカでの開発に日本のベンチャー企業が参加しています。

 

③越波型

次いで、「越波型」と呼ばれるシステムです(図5)。


図5 越波型電力システムの仕組み(出典:「再生可能エネルギー技術白書」NEDO)

波は護岸や防波堤に衝突すると、海面より高く打ち上がり、その後、引き波として海に戻っていきます。

越波型の発電装置ではまず、防波堤を越えてきた海水を一旦貯水池や貯水槽に入れます。

そして貯水面と海面との高低差で生まれる水の流れの途中に設置したタービンを動かし発電する、というものです。

これら以外の発電方式についても、様々な研究・開発が進められています。

波力発電の国内実証例

波のエネルギー密度は、太陽光の約20倍、風力の約4倍になると言われています*1。

国内でも波力発電の実験が進んでおり、実用化している例もあります。

国内での実験例

岩手県久慈市では、文部科学省の「東北復興次世代エネルギープロジェクト」の一貫として、日本初の波力発電設備が完成し、稼働しています(図6)。


図6 久慈波力発電所(出典:久慈市HP)

防波堤の外に設置された発電器には、海中に「ラダー」という波受け板が繋がっていて、ラダーが受ける波の力で油圧ポンプを動かしています(図7)。

図7 久慈波力発電所の仕組み(出典:「国内外の海洋エネの動向」千葉県資料)

この他、NEDO(=新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、山形県酒田港の堤防で、波力発電の実証実験を行なっているほか、東京都の離島である利島村や沖縄県なども波力発電の導入に向け、検討を始めています。

また、神戸市で実証実験を進めていた日本企業、Wave Energy Technology社は、2018年から商用の波力発電装置を製造するプロジェクトを開始しました。

日本近海の波力発電ポテンシャル

波力発電の発電量に影響する重要な要素のひとつに、波力エネルギー密度というものがあります。

下の図6は、日本近海の波力エネルギー密度(1年平均)を示したものです。

図8 日本近海の波力エネルギー密度1年平均(出典:海洋状況表示システム)

緑色に近い部分、房総半島沖や伊豆諸島、琉球諸島の海域で波力エネルギー密度が高いことがわかります。

地形によっては局所的に効率良く発電できる場所もある可能性は高く、今後の詳細な調査が期待されます。

海外での展望

波力エネルギー密度の高い地域は世界的に広く分布していて、波力発電の技術開発は欧米を中心に進められています。

世界の波力エネルギーポテンシャルと開発

下の図9は、世界の波力エネルギー分布の試算です。


図9 世界の波力エネルギーの分布(出典:「再生可能エネルギー技術白書」NEDO)

北大西洋、北太平洋、南米の南海岸、南オーストラリアの海域に大きな波力エネルギーが存在しているのがわかります。

偏西風の影響を受けるため、一般的に大陸の西海岸に高い波力エネルギーが存在する傾向にあります。

波力エネルギーは、理論的には世界で8,000~80,000TWh/年とされていて*2、技術開発とより詳細な分布図を描くことができれば、開発の余地は大きくなると言えます。

冒頭にも紹介した通り、欧米を中心に様々な種類の波力発電装置の開発を競っている状況です。

ただ、ポーランドでは世界で始めて波力発電の商用化に成功したものの、その後運転停止に追い込まれた例があります。

コストの高さが主な理由で、現在の技術開発にあたっては低コスト化や資金調達先の確保といったことも重要視されています。

波力発電の本格導入に向けて

日本では波力発電技術の開発は進みつつも、実際の波力エネルギー分布について、局所的な詳しいデータ収集はこれからといった状況にあります。

また、コストを始め、大型の台風などで起きる極端な海象への対策や漁業との関係性など、調査が必要な項目は多岐に渡ります。

ただ、四方を海に囲まれた島国である日本、とりわけ島しょ部では、有効な自然エネルギーになり得るだけでなく、地域で独立した電源が確保できるという視点からも注目される分野です。

引用

図1、5、9「波力発電の原理・種類」(「NEDO再生可能エネルギー技術白書 第2版」)
https://www.nedo.go.jp/content/100544821.pdf p4、p5、p17

図2、3、4 「海洋開発工学概論 海洋再生可能エネルギー開発編」(国土交通、2018年)
http://www.mlit.go.jp/common/001235504.pdf p145、p147、p148

図6 久慈波力発電所(「日本初・久慈波力発電所が発電開始」(久慈市HPより)
https://www.city.kuji.iwate.jp/sangyouka/sangyou-g/haryokuhatuden_start.html

図7 「国内外の海洋エネの動向」(千葉県資料)
https://www.pref.chiba.lg.jp/sanshin/ocean-re/conference/documents/reference1.pdf p10

図8 海洋状況表示システム(海上保安庁)
https://www.msil.go.jp/msil/Htm/TopWindow.html
※表示方法は下記

参照

参照1 「波力発電検討会報告書」(東京都資料、2012年)
http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/climate/renewable_energy/tousyo_renew/conference/index.files/haryoku_houkokusyo.pdf p22

参照2 「波力発電のポテンシャル」(「NEDO再生可能エネルギー技術白書 第2版」)
https://www.nedo.go.jp/content/100544821.pdf p17

※図8の表示方法
海洋状況表示システムトップ→「入口」をクリックして地図画面へ
https://www.msil.go.jp/msil/Htm/TopWindow.html

地図右側の「全てのレイヤー」部分で、「波力」と検索


上に「波力」の項目が3つ並びます。
一番上が「波力エネルギー密度(1年平均)です。クリックすると地図が表示されます。


あとは透過率などを見やすい条件に設定してください。

 

Photo by Todd Turner on Unsplash