知れば広がる次代のエネルギー源「メタン発酵エネルギー」

2011年の東日本大震災以降、皆さんのエネルギー供給に対する関心が高まったのではないでしょうか。
しかし「エネルギー」とはなんでしょうか。
辞書では「仕事量」と表記されますが、いまいちピンときません。
私たちが動くことができるのも、火が灯るのも、電気が付くのも、全てエネルギーが姿を変えて「仕事」をしているからです。

例として最も身近なのは電気ではないかと思います。
電気は発電所で、熱などのエネルギーを電気に変換して私たちの元に届いています。
そして電気は様々な方法で生み出されています。

日本におけるエネルギーの供給源は主に石油、天然ガスなどの化石燃料で、2017年時点では化石燃料が87%、次いで自然エネルギー、水力、原子力の順に構成されています。
2010年と2017年で比較すると、原子力発電によるエネルギー供給が9.8%減少していますが、その反動で化石燃料によるエネルギー供給が6.4%増加しています。

また日本では天然資源が採れないため、化石燃料は海外へ依存する他になく、石油、石炭、天然ガスのいずれも97%以上を海外から輸入しています。*1

日本のエネルギー供給において、化石燃料への高い依存度と低い自給率は国際情勢の影響を受けやすく、供給源を安定して確保することが困難です。東日本大震災後、原子力発電による電力を補うために化石燃料による火力発電が増加しました。石油輸出国である中東・北アフリカ諸国の情勢により、原油価格は安定しておらず、結果電気代の値上がりを招いています。事実、東日本大震災以降電力不足による電気代の値上がりが起こっています。オイルショックのようなことが再び起こらないとも限らないのです。

出典)経済産業省 資源エネルギー庁
「2019—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2019.html

出典)経済産業省 資源エネルギー庁
「2019—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2019.html

出典)経済産業省 資源エネルギー庁
「2019—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2019.html

また、昨今の環境問題に対して課題もあります。
日本は化石燃料の削減と気候危機対策の両課題のクリアが求められています。
気候変動問題へ取り組むためのパリ協定に日本も批准し、2030年には2013年度比で温室効果ガスを26%削減することを目標としました。
決して不可能な目標ではありませんが、容易に達成できる数値ではないでしょう。*2

出典)経済産業省 資源エネルギー庁
「2019—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2019.html

限りある資源を削減し、エネルギー自給率を高め、持続可能な循環型なエネルギー供給を行うため、これらの問題に挑むためには、代替となる自然エネルギーの導入、普及が不可欠です。

自然エネルギーは、太陽光に代表される温室効果ガスを排出しない、国産の低炭素エネルギーで、資源調達及び環境への配慮に対して有効な、安定かつ持続可能なエネルギーです。日本でのエネルギー比率としては2017年度では約8.5%程度ですが、2030年度には13.2〜14.8%とする目標がたてられています。*2

なかでもメタン発酵エネルギーは、石油代替エネルギーとしてオイルショック以降研究が進んでおり、太陽光とともに既に実用化されています。新たなエネルギー供給であるメタン発酵エネルギーの可能性に触れたいと思います。

自然エネルギーとは

現在自然エネルギーで最も普及しているのは、太陽光エネルギーによる発電で、次いでバイオマスによる発電です。バイオマスというのは生物資源のことで、家畜の排泄物や食品廃棄物、汚泥、木材などを指します。
2014年から2018年での全電源量における自然エネルギー比率は4.1%から9.6%に増加しており、そのなかで太陽光エネルギーによる発電量は4.6%、バイオマスは0.7%増加しています。しかしながら太陽光エネルギーは時間帯や季節によって変動があるため、自然エネルギーの需給の安定化は大きな課題の一つです。
バイオマスによるエネルギー供給は安定供給が可能であることから、その利用拡大への期待が数字から読み取れます。*3

メタン発酵エネルギーはバイオマスを原料としたエネルギー生産の手法のことです。

メタン発酵エネルギーとは

メタン発酵は、バイオマスからエネルギーを取り出す過程で用いられる技術で、エネルギー源となるバイオマスの種類を選ばないことから汎用性高く利用可能であるとされています。
バイオマスによるエネルギー生産は、季節によらない安定供給ができる、廃棄物を利活用できる、さらに一次産業との関係が密接であるために地方創生に貢献できるという点で、高いポテンシャルがあるとされています。

出典) 認定NPO法人環境エネルギー政策研究所
「2018年(暦年)の国内の自然エネルギー電力の割合」
https://www.isep.or.jp/archives/library/11784

メタン発酵についてすこしだけ掘り下げててみます。
メタン発酵エネルギーとは、「微生物が発酵した時に発生したメタンガスを利用するエネルギー」のことです。
発酵は耳馴染みがあるかと思います。ヨーグルトや納豆は発酵食品とカテゴライズされていますが、これらは微生物の働きで元々の食品を発酵させて得られる食品です。
ヨーグルトなら乳酸菌、納豆なら納豆菌に分類された微生物が、決まった環境で糖質などの有機物を栄養源として代謝を行うことが発酵であり、その副産物としてアルコールやメタンガスなどのガスが生じます。そしてメタンガスというのは、化石資源の一つである天然ガスの主成分です。
つまりメタン発酵とは、メタン生成菌がバイオマスを原料にしてメタンガスを発生させるプロセスを指します。「廃棄物を天然ガスのようなものに変換する」と言い換えても間違いではありません。

出典)環境省「メタンガス化が何かを知るための情報サイト」
https://www.env.go.jp/recycle/waste/biomass/whatisbiogass.html

出典)環境省「メタンガス化が何かを知るための情報サイト」
https://www.env.go.jp/recycle/waste/biomass/whatisbiogass.html

メタン発酵によるエネルギー生産には以下の4つの特徴が挙げられます。*4

①環境負荷低減
②地産地消・循環型社会の形成
③小規模施設によるエネルギー回収
④固定価格買取制度による費用削減

①環境負荷低減
メタン発酵によって廃棄物の焼却量を削減することができ、焼却量1トンに対して約0.32 t-CO2の温室効果ガスが削減可能です。
また、畜産排泄物などのバイオマス資源は堆肥化されているものもありますが、堆肥化にも電力が必要です。メタン発酵の過程で使用する電力は堆肥化に必要な電力の半分以下で済み、かつ、発酵の残渣は肥料として利用可能です。

②小規模施設によるエネルギー回収
小規模な焼却施設では、焼却を行うのみで生じたエネルギーの活用を行うことができませんでした。メタン発酵施設を導入することで、エネルギー回収が可能となり温室効果ガスの排出を抑えることが可能となります。

③地産地消・循環型社会の形成
上記で触れましたが、メタン発酵の残渣は肥料として利用可能です。
メタン発酵施設が農地が近くにある場合は肥料として、都市部にある場合は焼却施設で燃料として利用が可能とされています。

④固定価格買取制度による費用削減
メタン発酵を行うにあたり、設備投資や維持費などの費用が必要になりますが、循環型社会社会形成推進交付金や固定価格買取制度を適用して売電することで、新規に焼却施設を建設するよりも費用を抑えることも可能です。
固定価格買取制度は2019年を境に価格の改定がありました。太陽光発電では、1kWあたり18円から14円への値下げが行われましたが、メタン発酵では39円のまま価格変更はなく、高単価に設定されています。

出典)環境省
「メタンガス化が何かを知るための情報サイト」
https://www.env.go.jp/recycle/waste/biomass/whatisbiogass.html

国内のメタン発酵エネルギー施設

国内のメタン発酵施設の分布は下記のようになっています。

出典)環境省
「メタンガス化が何かを知るための情報サイト」
https://www.env.go.jp/recycle/waste/biomass/whatisbiogass.html

国内でのメタン生産施設は44箇所あり、北は北海道、南は宮崎まで全国に点在しています。また、京都市、鹿児島市にも建設の予定があり、京都では「京都バイオサイクルプロジェクト」というバイオマス資源の利用及びエネルギー回収技術を柱とした研究が進められており、集約型ではなく分散型としての導入計画が窺えます。*5

国内のメタン発酵エネルギーへのアプローチ

日本国内の自然エネルギーの全発電量に占める割合は、2018年で9.6%です。
大部分が太陽光と水力が占めており、メタン発酵が利用されるバイオマスは2.2%に留まっています。*3
日本のエネルギー政策においては、2030年までに自然エネルギーの目標値を22~24%と定めており、射程圏内に入っています。*2 しかしながら、世界的には既に全発電量の30%を自然エネルギーで賄っている国もあり決して高い水準とは言えません。

メタン発酵がさらに拡大するための課題もいくつか挙げられています。
一つ目は、バイオマス資源を運搬・集約・処理を行う場所の確保です。焼却施設とメタン発酵施設の両方が必要になるため、新規での建設にはハードルが上がります。すでに稼働している焼却施設に併設しての導入や、地方創生を目的とした農畜産地との密接な関係形成を経た建設導入が今後のキーとなっています。

二つ目は、コストです。イニシャルコストの他に製造コストやランニングコストが必要です。売電によりある程度賄うことは可能ですが、生産エネルギー量によっては賄いきれないこともあります。技術課題としては、製造コストの削減が望まれています。
例えば発酵に必要な時間が削減されれば、単位あたりの施設管理費は減少し、単位時間あたりのエネルギー生産量は増加します。また、発酵残渣の有効利用を安定流通させることも必要です。肥料としても燃料としても使用されない場合、処分せねばならず、結果として廃棄コストが発生します。

国外のメタン発酵エネルギーへのアプローチ

2018年度では温室効果ガスの排出国としては日本は8位で、1位から順に、中国、アメリカ、EUとなっています。

出典)経済産業省 資源エネルギー庁
「今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/pariskyotei.html

欧州では自然エネルギーの普及が進んでいます。メタン発酵によるエネルギー生産も盛んに行われており、ドイツ、スウェーデン、オランダには、合わせて200箇所ほどのメタン生成施設があります。
特にドイツでは自然エネルギーの利用が高く、全体の37%を占めています。メタン発酵はその50%以上を占めているバイオマスに用いられているため、日本よりも遥かに進んでいると言えます。*6

出典)在日ドイツ商工会議所
「ドイツの再生可能エネルギー」
https://japan.ahk.de/jp/infothek/japan-im-ueberblick/motto-doitsu/2019/042019-energie/

出典)在日ドイツ商工会議所
「ドイツの再生可能エネルギー」
https://japan.ahk.de/jp/infothek/japan-im-ueberblick/motto-doitsu/2019/042019-energie/

 

最大の温室効果ガス排出国である中国は、化石燃料エネルギーから自然エネルギーへと転換を進めています。2018年度では石炭火力発電が約70%、自然エネルギーはおよそ25%と高い水準となっています。しかしその大部分は水力によるもので、メタン発酵は分散型導入として山間部の農村などへの導入が行われています。日本企業も中国へメタン発酵プラントを輸出しています。*7
一方でアメリカは、パリ協定からの脱退を表明しています。実際に脱退するのは最速でも2020年11月以降になりますが、中国に次ぐ温室効果ガス排出国であるアメリカが脱退することは影響があると言えるでしょう。ただ、アメリカでも自然エネルギーの拡大は進んでいます。州ごとに差はありますが太陽光と風力を主軸に、2017年で自然エネルギーが全体の18%を占めています。*8
バイオマス分野では、メタン発酵技術よりも、トウモロコシを原料としたバイオエタノールの研究が昔から盛んでした。需要を超えた生産によるトウモロコシの価格の安定化や石油への依存を脱却する試みから研究が進められ今日に至ります。*9 近年では、食料となるトウモロコシを使用しなくてもいいように草本系を材料としたバイオエタノール製造の技術開発が積極的に行われています。*10 *11

これからのメタン発酵エネルギー

日本政府は、メタン発酵の推進を進めています。
経済産業省エネルギー庁はもちろんのこと、環境庁、文部科学省、農林水産省もそれぞれが抱える問題を解決する糸口として広く発信しています。また科学技術振興機構ではメタン発酵に関する実用化や反応プロセスの合理化を研究テーマと設定したり、新エネルギー・産業技術総合開発機構はバイオマスエネルギーの地域自立システム化実証事業の一環としてメタン発酵に関する研究テーマを採択しています。まさに国を挙げた事業の一つとなっています。
現状では収益性の観点で事業としての評価が高くありませんが、分散型である点を踏まえた雇用増加や地域産業への貢献を踏まえた評価が行われることで、事業性が高まるのではないかと考えられます。
太陽光発電のように、自宅でメタン発酵によって発電し、自給自足を行い、余剰売電するようになるのもそう遠くないのかもしれません。

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参照・引用を見る

*1 経済産業省 資源エネルギー庁
「2019—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2019.html

*2 経済産業省 資源エネルギー庁
「今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/pariskyotei.html

*3 認定NPO法人環境エネルギー政策研究所
「2018年(暦年)の国内の自然エネルギー電力の割合」
https://www.isep.or.jp/archives/library/11784

*4 環境省
「メタンガスに関する基本事項」
https://www.env.go.jp/recycle/waste/biomass/foundation.html

*5 環境省
「メタンガス化が何かを知るための情報サイト」
https://www.env.go.jp/recycle/waste/biomass/whatisbiogass.html

*6 在日ドイツ商工会議所
「ドイツの再生可能エネルギー」
https://japan.ahk.de/jp/infothek/japan-im-ueberblick/motto-doitsu/2019/042019-energie/

*7 一般社団法人 電気学会
「再生可能エネルギー大国への道を歩む中国 一方で課題克服に向けた取り組みも」
https://eneken.ieej.or.jp/data/8443.pdf

*8 公益財団法人 自然エネルギー財団
「自然エネルギー最前線 in U.S. 米国の電力市場に革新的な変化」
https://www.renewable-ei.org/activities/reports/img/pdf/20180704/REI_US_RE_Report_JP_180704.pdf

*9 農林水産省
「米国のバイオエタノール政策 見直しの行方」https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_rep/monthly/201504/pdf/20_monthly_topics_1504.pdf

*10 公益財団法人 土木学会
「再生可能エネルギー開発の現状と課題」
http://committees.jsce.or.jp/enedobo01/system/files/再生可能エネルギー開発の現状と課題_報告書_改訂版_ver2.pdf ,P80

*11 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
「NEDO 再生可能エネルギーエネルギー技術白書 バイオマスエネルギーの技術の現状とロードマップ」https://www.nedo.go.jp/content/100107272.pdf ,P203

 

Photo by Megumi Nachev on Unsplash

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