小規模多機能自治による住民主体のまちづくり

総務省統計局の発表によると、2019年7月1日時点の日本の人口は1億2626万5千人、65歳以降の人口比率は28.4%です。(*1) 今後人口減少や高齢化が進み、2060年には約9,300万人まで減少(*2_20P)、65歳以上の人口比率は2052年に35.6%まで上昇する見込みです。(*2_22P)

一方、市町村の合併による行政範囲の広域化により、特に地方では地域全域で一律公平な行政運営を行うことが困難になりつつあります。

そこで、小規模な地域で、多くの機能を持った、住民自治のあり方の検討・実践が始まりました。小規模多機能自治と呼ばれ、様々な課題を共有するためのネットワークも形成されています。本記事では、小規模多機能自治の特徴や事例を紹介します。最後に今後の普及に必要なポイントをまとめます。

日本の人口推移

2013年から2018年にかけて、0~14歳の人口が98万人減少、15~64歳の人口が356万人減少しています。一方、65歳以上は368万人増加しています。(*2_3P)。

引用:内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「将来の人口動向等について」 3P
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/senryaku2nd_sakutei/h31-04-22-shiryou3.pdf

人口の増減に直結する出生率、出生数は、1970年代半ばから長期的に減少しています。人口置換水準(人口規模が維持される出生率2.06~2.07)と比較して、2017年は1.43と大きく下回っています。2005年の1.26からは僅かながら増加していますが、人口置換水準には程遠い状況です。(*2_4P)

引用:内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「将来の人口動向等について」 4P
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/senryaku2nd_sakutei/h31-04-22-shiryou3.pdf

人口減少には次の3つの段階があり、段階が進むほど人口減少が進んでいる状態を示します。

・第1段階:老年人口増加、年少・生産年齢人口減少

・第2段階:老年人口維持、年少・生産年齢人口減少

・第3段階:老年人口減少、年少・生産年齢人口減少

東京圏や大都市などは第1段階ですが、地方は「第2・3段階」になっています。つまり、地方ではより、人口減少・高齢化が進んでいます。(*2_18P)

【東京都区部、中核市・特例市は第一段階】

引用:内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「将来の人口動向等について」 18P
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/senryaku2nd_sakutei/h31-04-22-shiryou3.pd

【人口5万人以下の市町村は第二段階、過疎地域市町村は第三段階】

引用:内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「将来の人口動向等について」 18P
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/senryaku2nd_sakutei/h31-04-22-shiryou3.pdf

小規模多機能自治とは

特に地方での人口減少・高齢化が進む中、市町村の合併による行政範囲の広域化により、地域全域で一律公平な行政運営を行うことが困難になってきています。そこで、地域内の課題を「自ら考え、決定し、実行する組織」を形成し、福祉の向上や住みよい地域の形成を行っていく取り組みが検討・実施されています。このような仕組みを「小規模多機能自治」と呼びます。

具体的には、概ね小学校程度の地域(小規模)で、PTA、消防団、自治会など様々な機能を結集し、組織化します。(*3_1P, *3_5P)

引用:小規模多機能自治推進ネットワーク会議(代表・事務局/雲南市)「小規模多機能自治の状況と制度上の課題」 5P
https://www.soumu.go.jp/main_content/000459163.pdf

小規模多機能自治の進展において重要なポイントは「地域住民自身がまちづくりの当事者」であることです。住民自身が強く自覚することが大切です。例えば、新たな公共サービスに対して「行政がやってくれない」ではなく、「やらしてくれない」と思うような意思の変化が求められます。市町村は地域づくりのパートナーとして、人材面、資金面等を支援するとともに、持続的な取組体制の構築が必要です。

各地で小規模多機能自治が実践されるにつれ、自治組織のあり方についての課題が明らかになってきました。自治組織が拡大するにつれて、被雇用者が増え、会計規模が大きくなり、経済活動も増えます。つまり、雇用責任や事業責任の明確化や税制上の対応が求められ、法人格の取得が必要になります。(*3_17P)現制度での法人化の指針が内閣府から示されています。(*4)

そのような中、現在、NPO法人、認可地縁団体、一般社団法人、株式会社、合同会社などの法人制度がありますが、小規模多機能自治の機能に完全にマッチした「地縁型の法人格」が求められています。 (*3_18P, *5_2P)

引用:小規模多機能自治推進ネットワーク会議(代表・事務局/雲南市)「小規模多機能自治の状況と制度上の課題」 18P

https://www.soumu.go.jp/main_content/000459163.pdf

 小規模多機能自治推進ネットワーク会議

小規模多機能自治を検討・実施を進めていく過程で発生する様々な課題を共有するため、2015年に雲南市、伊賀市、名張市、朝来市の4市が発起人となり「小規模多機能自治推進ネットワーク会議が設立されました。メーリングリスト、Facebookによる情報交換、全国各地でのブロック会議による課題への対応策共有、政府への提言などが行われています。(*3_13P~16P) 2020年1月14時点の会員数は317(260市町村、42団体、15個人)です。(*6)

引用:内閣府 「小規模多機能自治推進ネットワーク会議の取組(第3回有識者会議)」
https://www.cao.go.jp/regional_management/doc/effort/experts/final_report_12.pdf

エリアマネジメントとは

小規模多機能自治は、地域課題を共有、解決方法検討、及び実践を行う地域運営組織の一つの形態です。概ね小学校区の地域単位で、多くの機能を結集して地域運営組織を形成します。(*7_95P)。一方、事業関連区域の中での地域運営に特化して、住民のマネジメントによる地域まちづくりの仕組みとして「エリアマネジメント」という仕組みもあります。(*7_93P)

エリアマネジメントは、「地域における良好な環境や地域の価値を維持・向上させるための、住民・事業主・地権者等による主体的な取り組み」と定義されています。(*8_2P) 従来のまちづくりは、行政による都市計画や公共施設整備が中心に実施されてきました。しかし、近年、市民・企業・NPO等による地域価値向上活動が活発になってきています。 (*8_2P)

2016年7月11日、全国のエリアマネジメント組織の情報共有及び普及啓発を行い行政との連携によるエリアマネジメントの発展を支える組織として、「全国エリアマネジメントネットワーク」が設立され、情報交換や行政への提言が行われています。(*9)

エリアマネジメントに関する海外事例

小規模多機能自治とエリアマネジメントは、「住民主体のまちづくり」という点では共通しています。本章ではエリアマネジメントの海外事例を紹介します。

イギリス グレーブセンド

郊外型ショッピングセンターの開業により地元市街地が衰退する事例は、日本だけでなくイギリスでも各地で起こっていました。イギリスでは地元市街地の活性化を目的に、「タウンセンターマネジメント」と呼ばれる活動が80年代から始まり、90年代から活発化しました。1990年、タウンセンターマネジメント協会(The Association of Town Centre Management)が設立され、イギリス全土で500ケ所以上のタウンセンターマネジメント活動団体が所属しています。

1989年、ロンドン近くの人口9.2万人の都市であるグレーブセンドでは、近隣15km圏内に大型ショッピングセンターが開業しました。これがきっかけとなり、地元市街地に買い物に来てもらう活動として、官民が協力して「タウンセンターマネジメント」と呼ばれる活動を開始しました。

グレーブセンドのタウンセンターマネジメントでは、お客さんに親しみを持ってもらうエリアを構築しました。具体的には、道路、公園等の清掃を徹底し、色彩の統一や花による演出を行い、気持ちよく過ごしてもらうエリアを構築しました。また時間帯を区切って交通規制を実施し、標識案内板を設置することにより、歩きやすい環境を整備しました。

イギリスでは街一番の目抜き通りの事をハイストリートと呼びます。1998年頃のグレーブセンドのハイストリートでは35%くらいが空き店舗で、人通りがほとんどない状況でしたが、人が集まる通りにするために空き店舗のリノベーションや取り壊しを実施し、2006年頃には人通りが見られるようになりました。(*10_1P~4P)

引用:千葉大学大学院 工学研究科「エリアマネジメントと道路空間の関係」 3P
http://www.jice.or.jp/cms/kokudo/pdf/reports/committee/roads/muraki.pdf

小規模多機能自治に関する国内の事例

国内の事例として、小規模多機能自治推進ネットワーク会議事務局が設置されている島根県雲南市を紹介します。

島根県 雲南市

平成16年に6町村が合併して雲南市が誕生しました。平成27年時点で、人口3万9千人、高齢化率が36.5%の市です。合併をきっかけに、集落機能を保管する新たな自治組織の確立と、地域の主体性に基づく組織化が進むような環境づくりが進められ、平成20年にまちづくり基本条例が施行されました。条例の中で「まちづくりの原点は、主役である市民が、自らの責任により、主体的にかかわること」が記載されています。この条例に基づき、下記の地域自主組織がつくられました。(*11_1P)(*11_9P)

引用:島根県 雲南市 政策企画部地域振興課「小規模多機能自治による住民主体のまちづくり」
http://www.pref.kyoto.jp/nosei/vision/documents/06siryou44.pdf

次に、その地域自主組織の1つ「波多コミュニティ協議会」の活動事例を紹介します。波多地区は人口323人、世帯数147、高齢化率50.46%の地区です。地域づくりの方針として、防災、買い物、交通、産業、交流を重要課題に設定し、各々の活動が進められました。

買い物が課題に設定された理由は、地区にあった唯一の店舗が2014 年 3 月に閉店したためです。市からの紹介で、地域自主組織の拠点である波多交流センター内に店舗を設置する案が浮上しました。その後、開店資金調達のため、ふるさと島根定住財団への補助金申請、住民からの寄付、日本政策金融公庫からの融資も受け、2014年10月に「はたマーケット」が開業しました。なお、コミュニティ協議会職員 5 名が交代で販売を担当し、人件費が発生しないようにしており、経営負担を小さくしています。売場面積約 50m2,取扱品目約 800 品目,利用者数 1 日平均 34.6 人であり、買い物の課題を住民主体で解決しています。(*12_70P~72P)

引用:佛教大学社会学部論集 第67号(2018年9月) 『 雲南市の「地域自主組織」について 』 72P
https://archives.bukkyo-u.ac.jp/rp-contents/SO/0067/SO00670L065.pdf

まとめ

今後人口減少や高齢化が進み、2060年には人口は約9,300万人まで減少し、65歳以上の人口比率は2052年に35.6%まで上昇することが見込まれます。特に地方での人口減少や高齢化が早く進み、地域全域で一律公平な行政運営を行うことが困難になりつつあります。

そこで、地域内の課題を「自ら考え、決定し、実行する組織」を形成し、福祉の向上や住みよい地域の形成を行っていく取り組みである小規模多機能自治の必要性が高まっています。

小規模多機能自治を成功させる重要なポイントは、以下の5つです。

・地域住民がまちづくりの当事者であることを住民自身が自覚する

・地域住民が主体的に活動できる組織作りを行う

・市町村はまちづくりのパートナーとして、人材面、資金面等を支援する

・他の地域で明らかになった課題や対策の情報共有を行い、自らの地域に反映する

・小規模多機能自治の機能に完全にマッチした「地縁型の法人格」の法的整備を行う

人口減少と高齢化により、人とのとの絆も加速度的に減少してしまいます。絆の再構築という観点からも、小規模多機能自治の導入が拡大しています。今後の日本、特に地方での持続可能なまちづくりのあり方として注目していく必要があります。

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参照・引用を見る

*1
総務省統計局
人口推計(令和元年(2019年)7月確定値,令和元年(2019年)12月概算値) (2019年12月20日公表)https://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/201912.pdf

*2
内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局
将来の人口動向等について
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/senryaku2nd_sakutei/h31-04-22-shiryou3.pdf

*3
小規模多機能自治推進ネットワーク会議(代表・事務局/雲南市)
小規模多機能自治の状況と制度上の課題
https://www.soumu.go.jp/main_content/000459163.pdf

*4
内閣府
「地域運営組織の法人化」「地域運営組織の法人化ガイドブック」
https://www.cao.go.jp/regional_management/rmoi/index.html

*5
内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局
地域の課題解決を目指す地域運営組織 -その量的拡大と質的向上に向けて- 最終報告
https://www.cao.go.jp/regional_management/doc/effort/experts/final_report_ov.pdf

*6
小規模多機能自治推進ネットワーク会議 Facebookページ
https://www.facebook.com/ShoukiboJichi/

*7
日本福祉大学経済論集 第55号 2017年9月
「マネジメント・アプローチによる地域まちづくりの展開」
https://nfu.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=2871&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1&page_id=4&block_id=73

*8
内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局
「地域再生 エリアマネジメント負担金制度 ガイドライン」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/about/areamanagement/h310328_guideline1.pdf

*9
全国エリアマネジメントネットワーク
https://areamanagementnetwork.jp/

*10
千葉大学大学院 工学研究科
「エリアマネジメントと道路空間の関係」
http://www.jice.or.jp/cms/kokudo/pdf/reports/committee/roads/muraki.pdf

*11
島根県 雲南市 政策企画部地域振興課
「小規模多機能自治による住民主体のまちづくり」
http://www.pref.kyoto.jp/nosei/vision/documents/06siryou44.pdf

*12
佛教大学社会学部論集 第67号(2018年9月)
雲南市の「地域自主組織」について
https://archives.bukkyo-u.ac.jp/rp-contents/SO/0067/SO00670L065.pdf

 

Photo by Hannah Busing on Unsplash

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