世界人口の4割が水不足に直面、水資源問題の現状と対策

地球は、その3分の2が水で覆われた「水の惑星」とも言われます。

しかし、直接飲み水や農業用水として使うことのできる淡水はごくわずかで、世界では多くの人が水不足による貧困や、劣悪な環境での生活を強いられています。
また、水資源をめぐる紛争も後を絶ちません。

命の源である世界の水を、どのようにしたら守れるのでしょうか。

世界の水分布と水紛争

地球には約14億k㎥の水があると言われていますが、このうち約97.5%は海水で、飲み水や灌漑にそのまま使える淡水はわずか2.5%程度です(図1)。

また、淡水のうち大部分は南極や北極の氷や氷河であり、地下水や河川、湖沼などの淡水は地球全体の約0.8%です。
しかもその大部分は地下水で、人が利用しやすい状態にあるのは地球の水全体のわずか約0.01%、約0.001億k㎥にすぎません。

図1 地球上の水の量(出典:「令和元年版 日本の水資源の現況」国土交通省)
http://www.mlit.go.jp/common/001316355.pdf p1

世界で勃発する水紛争

このわずかな水をめぐって、世界では対立や紛争が古くから続いています(図2)。

日本は島国なのであまり実感はありませんが、大陸では河川で接する国同士、あるいは一つの国の中でも水の所有権などをめぐる対立・紛争が、2010年以降だけでも世界で大小450件以上発生しています*1。

図2 2010年以降の水資源をめぐる対立・紛争(出典:「Water Conflict Chronology」THE WORLD WATER)
http://www.worldwater.org/conflict/map/

 

中東、アフリカを中心に紛争やデモによる死傷者が出たり、そして武力攻撃に発展したりするケースも相次いでいます。

近年では、

・武装勢力による、中東での度重なる水パイプラインの破壊や水源占領(マリ、バグダッド、イラクのバビル、ナジャフなど中東で2010年代前半を中心に相次ぐ)
・土地と水資源をめぐる紛争で5万人が住居を追われる(マリ、2019年)
・紛争で35人が死傷、60箇所近くの施設が破壊される(ウクライナ、2019年)

など、死傷者だけでなく、多くの人を難民化させている争いもあります。また、戦争状態にある地域では、多くの水インフラが攻撃を受けているほか、井戸に毒物が投入されるといった事件も度々起きています。

水の所有権をめぐるものだけでなく、水資源の開発と配分の問題、河川上流での過剰取水や汚染物質排出も対立の原因になっています。

水質汚染によって、水資源を利用できなくなっている地域もあるのです。

水不足の現状

このような紛争が絶えない大きな理由は、地球上の水資源が極端に偏在していることです(図3)。

図3 一人当たりの年間降水量と水資源量(出典:「世界の水資源」国土交通省HP)
http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/mizukokudo_mizsei_tk2_000020.html

 

カナダやニュージーランド、オーストラリアのように、1人あたりの水資源が豊富な地域もあれば、降水量の極度に少ない中東では、一人当たりの水資源はごくわずかに限られていて、人口分布の実態と水資源量の分布は大きくかけ離れています(図4)。


図4 地域別水資源長と人口分布(出典:「世界の水資源」国土交通省HP)
http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/mizukokudo_mizsei_tk2_000020.html

そして現在、世界で「安全な飲料水を継続的に利用できない」人は世界全体で約6.6億人*2、地域別ではオセアニアで人口の44%、サハラ以南のアフリカでは32%にのぼっています(図5)。


図5 安全な飲料水を継続的に利用できない人の割合(出典:「令和元年版 日本の水資源の現況」国土交通省)
http://www.mlit.go.jp/common/001315700.pdf p111

また、トイレなどの基本的な衛生施設を継続的に利用できない人は世界で約24億人*3、地域別ではサハラ以南のアフリカでは人口の70%、オセアニアでは65%、南アジアでは53%と、改善傾向にあるものの、依然として高い水準にあります(図6)。


図6 基礎的な衛生施設を継続的に利用できない人の割合(出典:「令和元年版 日本の水資源の現況」国土交通省)
http://www.mlit.go.jp/common/001315700.pdf p111

世界人口の4割が水不足になる可能性

このような環境にあるなか、人口の増加に伴い、水の使用量は増加の一途をたどっています。
1950年から1995年の間で世界での水の使用は約2.74倍になっています。特に生活用水の使用量が6.76倍と急増しています*4。

国連によると今後、世界の人口は2050年には約97億3000万人になると予測されています(2015年では約73億5000万人)*5。

そしてOECDの予測では、人口増加に伴う水の使用量は、世界全体で2000年から2050年の間に55%増加し(図7)、2050年には深刻な水不足に陥る河川流域の人口は39億人、世界人口の40%を越える可能性があるともされています*6。


図7 世界の水需要予測(出典:「水資源問題の原因」国土交通省HP)
http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/mizukokudo_mizsei_tk2_000021.html

 

気候変動もまた、水資源に影響を与えます。

大雨、干ばつといった異常気象は、すでに水の利用可能量に大きな影響を及ぼしています。

そして、IPCCの「第5次評価報告書」では将来予測やリスクとして、

・降水量の地域差が激しくなる
・ほとんどの乾燥亜熱帯地域において再生可能な地表水及び地下水資源を著しく減少させる
・水不足を経験する世界人口の割合及び主要河川の洪水の影響を受ける割合は、今世紀の温暖化水準の上昇に伴って増加する

といったことが挙げられています*7。

世界の水不足と日本

世界の水不足として人口の増加や気候変動がありますが、日本も世界の水資源バランスに影響を与えています。
大量の水を輸入している、というものです。

バーチャルウォーターの大輸入国、日本

1990年代以降注目されているのが、「バーチャルウォーター」の考え方です。

農産物や工業製品を生産するのには水を使用します。その量の水を、農産物や工業製品を購入した人が間接的に消費したという考え方です。

例えば、トウモロコシを1kg生産するには、灌漑用水として1800リットルの水を必要とします。そして、こうした穀物を餌として牛肉を生産すると、牛肉を1kg生産するのにはその約2万倍もの水が必要になる、という計算です。


図8 日本のバーチャルウォーター輸入量(出典:「平成22年版 環境・循環型社会・生物多様性」環境省)
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h22/pdf/1-4.pdf p112

日本は食料自給率が低いこともあり、主に食料を通じてこうした「バーチャルウォーター」を大量に輸入している国です(図8)。

2005年に海外から輸入されたバーチャルウォーターは約800億㎥で、これは日本で使われる生活用水、工業用水、農業用水を合わせた年間の総取水量と同程度に匹敵しています*8。

つまり、国内で消費された食料、工業製品など全てを含めると、日本は、本来であれば倍量の水を使用しなければならなかった、とみなすこともできるのです。

日本が一見、世界的に深刻な水不足と無縁に見えるのは、ある意味では海外の水資源に支えられているためです。
世界的な水不足についてだけでなく、日本の食料生産の安定をはかる上でも、なんらかの形で解消していく必要があるでしょう。

日本の水収支と地下水問題

その日本でも、水資源の問題は存在しないわけではありません。
地下水についての課題が古くから表面化しています。


図9 日本国内の年間水使用量(出典:「日本の水収支」国土交通省HP)
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/mizukokudo_mizsei_tk2_000012.html

2016年に日本で使用された水の量は797億㎥で、琵琶湖3杯分です。
水源の内訳は、89%にあたる708億㎥が河川・湖沼からのもので、残り11%、89億㎥は地下水です(図9)。

地下水は主に工業用水として有力な資源ですが、一方で工業化以降の過剰な取水で地盤沈下が進んでいます(図10)。


図10 日本国内の地盤沈下の状況(出典:「 平成29年度 全国の地盤沈下地域の概況」環境省)
https://www.env.go.jp/water/jiban/gaikyo/gaikyo29.pdf p9

現在では、主要地域では地下水採取に関する規制で対策をはかっていますが、地域によってはいまだ地盤沈下が進んでいるところもあります。

また、水資源は一方では産業の発達にも欠かせないものとして、国交相が全国7水系について、需給の見直しや施設の建設、資源開発を強化に向けた水資源開発基本計画を決定しているところです。

水不足解消に向けた技術開発

さて、世界の水不足の解消に向けては、様々な技術開発が進んでいます。

大型プロジェクトの一つとしては、ドバイでの下水再利用があります。
採用されているのは日本で開発された「MBR-RO」という技術で、これはMBR(膜分離活性汚泥法)という、微生物によって下水の汚れを分解し、その後ROと呼ばれる膜でろ過し、人体に有害な微生物やウイルスを除去して水を浄化するというものです。

ドバイでは各所で利用されています。
世界一際高層ビルとして知られる「バージ・カリファ(ブルジュ・ハリファ)の噴水や、ヤシの木型の人工島として有名なパーム・ジュメイラでも取り入れられました。

図11 パーム・ジュメイラ(Palm Jumeirah)航空写真 ©️Google

また、海水を淡水化して利用する実証実験を、南アフリカでNEDOなどが実施しています。

水資源の有効利用のために

水はそのまま長距離を運ぶのが難しい資源です。

よって、その場にある水をいかに人間が利用できるものに変換するか、いかに汚染を防止するか、という技術開発に頼るところも大きくなります。

人口の増加や気候変動という、すでに起きている現象を排除することが難しい中、国際的な協力は必須です。

また、食料を通じて大量の水を輸入している日本も、その先頭に立たなければなりません。
インフラ不足の地域への技術投入など、様々なアプローチを考える必要があります。

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参照・引用を見る

図1 「令和元年版 日本の水資源の現況」国土交通省
http://www.mlit.go.jp/common/001316355.pdf p1

図2 「Water Conflict Chronology」THE WORLD WATER、2020年1月取得
http://www.worldwater.org/conflict/map/

図3、4 「世界の水資源」国土交通省
http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/mizukokudo_mizsei_tk2_000020.html

図5、6 「令和元年版 日本の水資源の現況」国土交通省
http://www.mlit.go.jp/common/001315700.pdf p111

図7 「水資源問題の原因」国土交通省HP
http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/mizukokudo_mizsei_tk2_000021.html

図8 「平成22年版図で見る環境/循環型社会/生物多様性白書」環境省
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h22/pdf/1-4.pdf p112

図9 「日本の水収支」国土交通省HP
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/mizukokudo_mizsei_tk2_000012.html

図10 「 平成29年度 全国の地盤沈下地域の概況」環境省
https://www.env.go.jp/water/jiban/gaikyo/gaikyo29.pdf p9

図11 GoogleMapsより

*1「Water Conflict Chronology」THE WORLD WATER、2020年1月取得
http://www.worldwater.org/conflict/list/

*2-3 「令和元年版 日本の水資源の現況」国土交通省
http://www.mlit.go.jp/common/001315700.pdf p110

*4-7 「水資源問題の原因」国土交通省HP
http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/mizukokudo_mizsei_tk2_000021.html

*8 「平成22年版図で見る環境/循環型社会/生物多様性白書」環境省
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h22/pdf/1-4.pdf p112

 

Photo by JJ Badenhorst on Unsplash

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