バイオガスを利用した発電は、自然エネルギーの中でも実現性の高いものとして注目されています。当記事では、バイオガスを活用する意味や国内外の課題について解説し、今後バイオガスがどのような未来をもたらすのかについてお話しします。
バイオガスとは 概要と活用方法について
バイオガスとは、下水汚泥や生ゴミ、野菜くず、家畜の糞尿といった有機性の廃棄物を嫌気性発酵して生み出されるガスのことです。
主成分はメタンと二酸化炭素であり、メタンが可燃性の物質なので、火力発電やボイラーの燃料として使用することができます。*1
似た言葉にバイオマスという物がありますが、バイオマスは枯渇性資源でない生物由来の資源全般のことです。
バイオガスを生成する廃棄物系バイオマスの他、間伐材や籾殻などの未利用バイオマスや、海藻や植物油などの生産型バイオマスが存在します。*2
表1 バイオマス資源の種類
*出典:NEDO「再生可能エネルギー技術白書」(2014)p5
https://www.nedo.go.jp/content/100544819.pdf
バイオガスの生成に利用する廃棄物系バイオマス以外は、可燃性が高いペレットやチップ、バイオディーゼル燃料などに変換して使用するのが一般的です。
廃棄物系バイオマスを発酵させてメタンガスを生成し、その後、発酵残渣を農地利用などで還元させるまでの工程を行う施設をバイオガスプラントと呼びます。*3
バイオガスプラントシステムの流れ
バイオガスプラントシステムの基本的な流れは以下のようになります。*4
- 廃棄物の分別
- 廃棄物系バイオマスの嫌気性発酵
- バイオガスからメタンガスを分離
- バイオガスによる発電・熱利用と発酵残渣の農業利用
- 残渣排水の処理
図1 バイオガスプラント施設のイメージ
*出典:環境省「廃棄物系バイオマス利活用導入マニュアル」(2017)p4
https://www.env.go.jp/recycle/misc/guideline/1baiomass_donyumanual.pdf
まずは、廃棄物から廃棄物系バイオマスとして活用できるものを選別します。
廃棄物系バイオマスとして活用できないものについては焼却施設へと運ばれ、熱や蒸気を生成する燃料として使用することが可能です。
選別された廃棄物系バイオマスはバイオガス化施設に運搬され、嫌気性発酵によってバイオガスが生成されます。
生成したバイオガスからはメタンガスが分離され、発電や熱利用の燃料として扱うことが可能です。
さらに、発酵後の廃棄物系バイオマスである発酵残渣は飼料や堆肥として活用することが可能なので、無駄なく使用することができます。
発酵過程で水と混ざってしまった発酵残渣は残渣排水と呼び、そのまま農業利用することができません。
しかし、下水処理施設で処理を行うことで生まれる汚泥は焼却施設の燃料として扱うことが可能なので、ボイラーなどでの熱・蒸気利用に活用されます。
上記の工程を踏むことで、産業廃棄物のないクリーンな発電・熱利用が可能となるのです。
バイオガス利活用に至った背景
日本でバイオガスの利活用が本格的に検討されはじめた背景には、地球環境に対する以下のような懸念が世界規模で議題になり始めたことがあります。*5
- 化石燃料の枯渇
- 大気中のCO2増加による地球温暖化
上記の問題に対し、2002年にヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議」において、風力・太陽光をはじめとした自然エネルギーや、カーボンニュートラルな資源であるバイオマスを積極的に利活用することで解決を図ることが、世界的な目標として設定されました。
上記の合意に加え、日本政府は2005年に発効した「京都議定書」において6%のCO2削減を掲げたことにより、本格的にバイオマスの利活用に向けた技術開発をはじめています。*6
バイオマスは「カーボンニュートラル」な資源です。「カーボンニュートラル」とは、該当する資源が生産されるまでに使用されるCO2総量と、利用した際のCO2総量が同様となる資源のことです。*7
植物の光合成や動物の摂食によって消費されたCO2と資源として利用した際に排出されるCO2が同等であることから、実質的に資源の活用によるCO2の増減がないということです。そのため化石燃料の代替資源として活用すれば、CO2排出量を大幅に削減することが可能です。
以上のような特性があることから、バイオマスは数ある自然エネルギーと同様、未来のエネルギー資源として注目され、積極的な技術開発が行われるようになりました。
最終的には、廃棄物自体を削減していくこと(リデュース)が重要になりますが、循環型社会への移行のステップとして、廃棄物をバイオマスとして活用することは重要であると、「バイオマス・ニッポン総合戦略」でも触れられています。
バイオガスプラント・バイオガス発電に関する国内の取り組み
国内では既にバイオガスプラントの導入が始まっており、バイオガスを活用した発電が行われています。*8
特に導入が盛んだったのが、「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定された2002年です。
当時は、「食品リサイクル法」や「家畜排せつ物法」などといった、廃棄物の適正管理や再利用を促進する法律が施行されたこともあり、バイオガスによる発電よりも、廃棄物の飼料・堆肥としての再利用を主目的としてバイオガスプラント建設が行われていました。
発電された電力は、2003年に施工された「RPS法」によって個別売買をすることはできたものの、取引価格が1kWhあたり平均7~9円と安価だったので、電力を売買する目的で導入するメリットは少なかったといえるでしょう。*9
さらに、当時はバイオガスプラントの稼働に必要な原料の確保が難しかったので、本格的な普及には繋がらず、実証実験的なデータ収集の役割を担うに留まりました。
採算が取れるようなバイオガスプラント事業が展開できるようになったのは、2012年からです。
震災の影響から2012年に改正FIT法が施行されたことにより、自然エネルギーによって発電された電力が一定以上の価格で売買されるようになりました。
バイオマスを活用した発電も売電単価が大幅に上昇し、採算性の問題が解消されたため、バイオガスプラントの建築や整備が進んでいます。
2017年時点でのバイオガス発電の導入件数は、FIT制度を活用している設備で121件、導入出力は約38MWで、現在も増加傾向です。*10
バイオガスプラント・バイオガス発電の課題
2019年現在、バイオガスプラント・バイオガス発電の普及に際して、以下のような課題が露呈しています。*11
- 設備の低コスト化
- 残渣排水の利用方法
設備の低コスト化
まず、バイオガスプラントは、特殊な設備が必要である背景から、設備導入に際するコストが高いという問題があります。*12
バイオガスプラントの設備については、まだまだ国内での市場が小さいため、国内メーカーが機器開発を行うことが難しく、海外からの調達に頼っている状況です。
また、近年は建築資材が高騰していることもあり、設備導入費やランニングコストに対して大きな打撃を与えています。
現状でも、自治体からの補助金などの対策を行っていますが、今後も費用対効果の向上を目指し、施策を行うことが必要です。
残渣排水の利用方法
次に、残渣排水の利用方法についてです。*13
残渣排水については、北海道や東北などの畜産業が盛んな土地での草地や畑地での利用や、九州を中心とした水田での利用が行われていますが、他の地域では未だ液肥としての利用が進んでいません。
液肥利用が進まない原因としては、主に設備側と農家側の連携不足や、液肥に対する否定的イメージなどが挙げられます。
今後は液肥利用を促進するような技術開発や、関係者の連携体制の確立、液肥に対するイメージの払拭などを行い、主に水田での利用を勧めていくことが必要です。
バイオガスに関する他国の取り組み状況
バイオガスの利活用は、海外でも積極的に行われています。
特に、欧州ではバイオガスを活用した産業開発が盛んです。*14
欧州各国のバイオガス産業への参入が盛んな背景には、EU全体で2020年までに使用エネルギー総量の20%を自然エネルギーにすることを目標としていることや、生分解性のゴミを減らす法律の導入が進んでいることがあります。
欧州各国は天然ガスへの依存度が高いので、天然ガスの使用率を低減する意味でもバイオガスの利活用は重要です。*15
特にドイツでは、2009年の段階でバイオガスによる総発電量が12,562GWhにまで達しており、化石燃料の使用を大幅に削減することに成功しています。
表2 EU各国の2008年~2009年におけるバイオガスによる総発電量
*出典:NEDO「バイオガス・バロメータ2010(EU)」(2011)51P
https://www.nedo.go.jp/content/100120690.pdf
また、イギリスでは埋立地で生成されるバイオガスの活用が進んでおり、設置コストの安さから費用対効果が高いこともあり、自然エネルギーの中では海上風力発電に次ぐ発電量を誇っています。*16
上記の2国を中心に、欧州では今後もバイオガスの利活用が積極的に行われる見通しです。
バイオガスプラント・バイオガス発電の普及に向けた今後の展開
バイオガスプラント・バイオガス発電の普及に向け、日本では現状抱えている課題の解決と展開が行われていきます。
現在、日本におけるバイオガスプラント普及に対する課題は、以下の通りです。
- 設備の低コスト化
- 残渣排水の利用方法
上記に加え、今以上の熱利用・燃料利用の促進や、バイオガスの特性を活用できる制度の導入などが大きな課題となります。
課題解決のため、現在は設備導入に対するインセンティブの付与や規制の緩和、FIT制度とは別の支援制度の導入などが検討されている段階です。*17
今後はバイオガスプラントは主に制度面の改善をメインに行い、よりバイオガスプラントの導入を容易なものとしつつ、2030年までにバイオマス発電全体で602~728万kWの設備容量を目指すことになるでしょう。
参照・引用を見る
*1
出所)環境省「メタンガス化が何かを知るための情報サイト」
https://www.env.go.jp/recycle/waste/biomass/whatisbiogass.html
*2
出所)NEDO「再生可能エネルギー技術白書」(2014)p4
https://www.nedo.go.jp/content/100544819.pdf
*3
出所)環境省「メタンガス化が何かを知るための情報サイト」
https://www.env.go.jp/recycle/waste/biomass/whatisbiogass.html
*4
出所)環境省「廃棄物系バイオマス利活用導入マニュアル」(2017)p4
https://www.env.go.jp/recycle/misc/guideline/1baiomass_donyumanual.pdf
*5
出所)JARUS「バイオマスに関する基本情報 – バイオマスの背景」
http://www.jarus.or.jp/biomass/basis/background.html
*6
出所)内閣府「バイオマス・ニッポン総合戦略」(2006)p2
https://www.maff.go.jp/j/biomass/pdf/h18_senryaku.pdf
*7
出所)内閣府「バイオマス・ニッポン総合戦略」(2006)p1-2
https://www.maff.go.jp/j/biomass/pdf/h18_senryaku.pdf
*8
出所)農林水産省「日本におけるバイオガスの生産・利用の現状」(2019)p17
https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/project/attach/pdf/190331_31tosi1_02.pdf
*9
出所)農林水産省「日本におけるバイオガスの生産・利用の現状」(2019)p18
https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/project/attach/pdf/190331_31tosi1_02.pdf
*10
出所)経済産業省「バイオガス発電における現状と要望」(2017)p2
https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/031_05_00.pdf
*11
出所)農林水産省「日本におけるバイオガスの生産・利用の現状」(2019)p19-20
https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/project/attach/pdf/190331_31tosi1_02.pdf
*12
出所)農林水産省「日本におけるバイオガスの生産・利用の現状」(2019)p20
https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/project/attach/pdf/190331_31tosi1_02.pdf
*13
出所)農林水産省「日本におけるバイオガスの生産・利用の現状」(2019)p19
https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/project/attach/pdf/190331_31tosi1_02.pdf
*14
出所)NEDO「バイオガス・バロメータ2010(EU)」(2011)p46
https://www.nedo.go.jp/content/100120690.pdf
*15
出所)NEDO「バイオガス・バロメータ2010(EU)」(2011)p51-52
https://www.nedo.go.jp/content/100120690.pdf
*16
出所)NEDO「バイオガス・バロメータ2010(EU)」(2011)p56
https://www.nedo.go.jp/content/100120690.pdf
*17
出所)経済産業省「地域バイオマスFITからの自立化について」(2019)p4
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/014_05_00.pdf