マグマ発電とは その大きな可能性と将来性について

再生可能な自然エネルギーの1種として日本国内でも採用されている地熱発電。より高いエネルギー効率の地熱発電を目指して、「マグマ発電」とも呼ばれる新技術の実用化が目指されてされています。この記事では、マグマ発電とはどのような発電なのか?実現の可能性はどのくらいあるのか?について紹介します。

1. そもそもマグマとは

マグマという単語に対して、”火山噴火”とか”ドロドロに融けた石”などのイメージを持っている人は多いかと思います。マグマとは”地下に存在する溶融した岩石”として定義されています。戦前くらいまでの古い日本語では「岩漿(がんしょう)」と訳されていました。一方、ハワイや西之島などで見られているような、火山の火口から吹き出して地表を流れ出る融けた岩石は「溶岩(ようがん、lava、ラヴァ)」として区別されています[*1]。

マグマの温度はおよそ650~1,300 ℃で、岩石の組成などにより変化します。地球内部は深さが増すに従って温度が上昇しますが、上にのしかかる岩石の重量による圧力も高くなるため、地球内部のほとんどの岩石は融けておらず、固体の状態にあります。マグマは地表から深さ約100~200 kmの岩石の一部が融けることで発生し、地表へ向けて上昇していきます。マグマは岩石の鉱物粒子の隙間や断層のような割れ目を”湿らせる”ようにジワジワと発生、上昇していきます。そして、深さ30~3kmの間のいくつかの領域に留まって「マグマだまり」を形成します。

マグマだまりという言葉を聞くと、地底には真っ赤に輝くドロドロのマグマを蓄えた地底湖のようなものがあると想像される方も多いかもしれませんが、現実のマグマだまりはそのような派手なイメージのものではなく、40~50%以上が固体の鉱物粒子からなり、ほとんど流動しない”固めのお粥”のような状態であると考えられています。より深部から新しく生じた高温のマグマが供給された際に、マグマだまりの一部がサラサラと動きやすい状態となって火山噴火を引き起こすと考えられています[*2, 3]。

一方、大半のマグマはそのまま地底でゆっくりと冷えて固まって岩石になります。このようなマグマがゆっくり冷えて固まった岩石を「深成岩」と呼ぶ、などということは、小学校か中学校の理科の授業で習ったことでしょう。ぜひ教科書を紐解いてみて、思い出してみてください。

 

図1 火山の地下断面に示したマグマだまりと地熱・温泉資源のおおよその位置関係(文献[4]を元に著者が作成)。
この図は阿蘇カルデラの例を示したもので、各々の深さなどは火山や地域によって多少変化する。

 

さて、発電に話を戻しましょう。次の章では、既存の地熱発電のしくみと課題についてまとめます。

2. 既存の地熱発電と熱水の起源

地熱発電は地下に存在する熱水の熱エネルギーによって発生させた水蒸気を用いる発電方式です。発電で使う地熱資源となる熱水も、火山の周りに湧く温泉も、どちらも基本的には地表から染み込んだ雨水などの地下水がマグマの熱で温められて地表に湧き出したものが主成分で、これにマグマそのものから放出された二酸化炭素や硫黄化合物などの成分を多量に含んだ熱水である「マグマ水」が多少混ざったものとなります。このような地熱資源はマグマだまりよりも浅い位置に当たるおよそ深さ2 km付近までの場所にあり、温度は200~300 ℃程度です[*4]。

他の自然エネルギーと比べた際の地熱発電の一番のネックは、開発のコストとリスクにあります。太陽光発電のように空き地に置くだけで確実に発電可能なものと比べると、目には直接見えない地下の地熱資源の利用には、事前調査や試掘から発電所建設までに多額の費用がかかります。調査や試掘をしてはみたものの、採算の取れるほどの量の地熱資源が存在しないために発電所建設計画が頓挫する危険性も孕んでいます。また、日本の地熱資源は火山や温泉地帯の近くに存在するため、既存の温泉観光産業や国立公園などの自然環境への配慮も必要になります。

逆に、地熱発電のメリットは、一度発電所を建設して運用が軌道に乗れば、長期間利用可能であり、天候や燃料などに左右されにくい安定した電源として期待できる点にあります。大規模な火力発電所や原子力発電所は海岸付近に設置せざるを得ないのに対して、地熱発電所は内陸の山間部に設置されることが多く、地域活用型の安定した電源としての利用が可能です。また、採取した熱水を発電利用と並行して活用することで、温泉観光産業や温水を利用した農業や養殖漁業との協業も期待されています[*5]。
したがって、今後の地熱発電がさらに発展していくためには、何らかの方法で探査から運用までのコスト削減が必要になります。

そのために注目されているものの1つが”マグマ発電”です。これは、マグマだまり近傍の4~5kmまで掘削して、400~500 ℃の高温のマグマ水を地熱資源として直接利用することで発電効率の向上を目指すものです。火力発電など蒸気でタービンを回す発電方法では共通して、より高温の蒸気を用いることで発電効率が向上します。このようなマグマだまり近傍の極めて高温かつ深さ5 kmにも達する高圧環境では、水は臨界点を超えて液体と気体の区別ができない超臨界水の状態となっているため、日本では主に「超臨界地熱発電」と呼ばれています[*6]。

 

図2 超臨界地熱発電の概要(文献[*8]より引用)
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100145.html

 

3. アイスランドでの偶然の発見: 人類最初のマグマだまり掘削

最初に述べたように、マグマは「地下に存在する融けた岩石」のことであり、我々人類は地表を流れる溶岩は見たことはあるものの、マグマを直接見たり取ったりすることは長いことできていませんでした。つまり、冒頭で紹介したマグマの発生や上昇、マグマだまりの存在は、すべて間接証拠から考察されてきた描像です。間接証拠というのは、地表付近で採れるマグマが冷却・固化した岩石やマグマが噴出してできた地層を調べること、あるいは、天然の地震や人工的な爆発によって発生する振動や落雷等によって発生する電磁波などが地下を伝わる様子を観測して地下構造を推定すること(物理探査という)が挙げられます[*7]。

ところが2009年、アイスランドで偶然にも直接マグマだまりを掘り抜くことに成功したのです。アイスランドは北大西洋の火山島の国で、既存方式の地熱発電も発展した国として広く知られています。アイスランドの政府と地熱発電会社によって、同国のクラプラ地熱地帯にてアイスランド深部掘削計画(Iceland Deep Drilling Project: IDDP)という研究プロジェクトが実施され、深さ約4 kmまで掘削することを目指していました。この深さは物理探査によってマグマだまりが存在することが示唆されていた深さ約5 kmのすぐ近くであることから設定された目標でした。しかし目標の半分の2 km程度まで掘り進めたところ、より浅い位置にあった小規模なマグマだまりを掘り抜いてしまったのです。その温度は900 ℃にも達するものでした。これは、”本体”のマグマだまりから枝分かれしたものであると考えられており、このような小規模なマグマだまりは事前調査では捉えることができなかったのでした。マグマだまりに達した掘削坑からは400℃を超える蒸気が濛々と吹き上がりました。
youtubeで、その際の様子が確認できます。
https://www.youtube.com/watch?v=3d8hC71xGpc

この掘削坑は2012年まで研究に用いられ、実際に発電をするまでには至りませんでしたが、36メガワットの発電が可能なエネルギーが放出されていたと推定されています[*9, *10]。
日本の地熱発電所では最大でも13メガワット程度(大分県八丁原発電所内の合計[*11])ですから、小規模なマグマだまりでもその3倍以上の発電量を確保できる可能性が秘められているということになります。
アイスランドの事例を通して、マグマだまりに対する理解はまだまだ発展の余地があり、小規模なマグマだまりの存在やマグマだまり周辺の環境、そしてマグマそのものの性質について、より多くのことを知る必要があるということが示されました。そして、もし小規模でも浅い位置にあるマグマだまりを効率良く見つけることができれば、開発費用を抑えて高効率なマグマ発電が可能になるかもしれないという期待がアイスランドでは持ち上がっています。

4. マグマ発電へ向けた日本の取り組み

日本では未だマグマだまりやその近傍に達する掘削は達成されていません。現在、深さ4~5km付近に存在すると推定されているマグマから供給された超臨界水へ達する試掘を目指して研究開発が進められています。
それらは主に2つの事柄からなり、すなわち、(1)マグマだまり近傍における岩石や水の性質を調べること、(2)高温高圧や酸性度の高い超臨界水の存在する環境にも耐えて安定した掘削や地熱資源の採取のできる機材を造ることが挙げられます。

1つめの研究は、過去にマグマだまりやその近くで生じた岩石が数百万年スケールの長い地質学的な時間を経て地表付近に露出したもの(深成岩など)を実験室で調べることで行われています。一見すると地味な研究ですが、今後掘削を行うマグマだまり近傍の温度、圧力、熱水の組成などの環境を推定したり、また地下に存在する超臨界地熱資源の量を推定したりするにあたって極めて重要な基礎情報になります[*12, 13, 14]。
2つ目の研究については、高温高圧や酸性環境に耐えうる掘削技術や井戸を保護するセメント材などの開発が必要とされています[*15, 16]。
また、実験室内で人工的に高温高圧環境を模擬した研究も行われています。そのような環境中で岩石に水圧をかけて破砕し、超臨界水や蒸気の通り道となる割れ目を岩石中に作ることで、効率的に地熱資源を回収するための研究です[*17, 18]。

 

5. 今世紀後半のマグマ発電実用化を目指して

マグマだまり近傍の高温高圧を利用した”超臨界地熱発電”は、およそ30年後の2050年頃に実用化することが現段階での目標とされています[*8]。未だマグマだまり近傍の地質環境に対する科学的な理解も不十分で、掘削や利用への技術的な障壁も大きいですが、これからじっくりと時間をかけて研究や開発を進めることで、今世紀後半には新しい自然エネルギー産業としてマグマから放出される熱を今まで以上に活用した発電手法が発展するかもしれません。

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参照・引用を見る

[1] 地学団体研究会. (1996): 新版 地学事典, 平凡社, pp.1251, 1381.

[2] 岐阜大学教育学部地学教室のウェブサイトより:
http://chigaku.ed.gifu-u.ac.jp/chigakuhp/html/kyo/chisitsu/kakougan/rock-magma.html

[3] 東宮昭彦. (2016): マグマ溜まり: 噴火準備過程と噴火開始条件. 火山, 61, 281-294.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kazan/61/2/61_281/_article/-char/ja/

[4] 原子力規制委員会ウェブサイトより『阿蘇カルデラの火山性流体調査』p.517.
https://www.nsr.go.jp/data/000219505.pdf

[5] 資源エネルギー庁ウェブサイトより:
『地熱発電|再エネとは|なっとく!再生可能エネルギー』
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/geothermal/index.html

[6] 内閣府. (2016): エネルギー・環境イノベーション戦略(NESTI2050)資料本文, pp. 22-2
https://www8.cao.go.jp/cstp/nesti/honbun.pdf

[7] 産業技術総合研究所地質調査総合センターのウェブサイトより:
『岩石学的に見たマグマだまり』
https://gbank.gsj.jp/volcano/Act_Vol/usu/vr/doc/006.html

『地球物理学的にみた地下構造』
https://gbank.gsj.jp/volcano/Act_Vol/usu/vr/doc/005.html

[8] NEDO国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構ウェブサイトより『超臨界地熱発電技術研究開発』
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100145.html

[9] Friðleifsson, G. O. et al. (2020): The IDDP success story – Highlights. In Proceedings World Geothermal Congress 2020.
https://pangea.stanford.edu/ERE/db/WGC/papers/WGC/2020/37000.pdf

[10] Landsvirkjun – National Power Company of IcelandによるYouTube動画より: “Magma well at Krafla: Temperature World Record”
https://www.youtube.com/watch?v=3d8hC71xGpc

[11] 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構のウェブサイトより:
http://geothermal.jogmec.go.jp/information/geothermal/japan.html

[12] Watanabe, N., Numakura, T., Sakaguchi, K., Saishu, H., Okamoto, A., Ingebritsen, S. E., & Tsuchiya, N. (2017). Potentially exploitable supercritical geothermal resources in the ductile crust. Nature Geoscience, 10, 140-144.
https://doi.org/10.1038/ngeo2879

[13] Nohara, T., Uno, M., & Tsuchiya, N. (2019). Enhancement of Permeability Activated by Supercritical Fluid Flow through Granite. Geofluids, 2019.
https://doi.org/10.1155/2019/6053815

[14] 東北大学ウェブサイトより: 2017年プレスリリース・研究成果『超臨界地熱資源は従来予想以上に存在する可能性-次世代地熱発電”超臨界地熱発電”の実現に期待-』
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2017/01/press20170124-02.html

[15] 長縄成実. (2017): 超深度・超高温掘削プロジェクトとそれに伴う技術開発の変遷. 石油技術協会誌, 82, 324-331.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/japt/82/5/82_324/_article/-char/ja/

[16] NEDO国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構ウェブサイトより:『超臨界地熱発電技術研究開発 実施方針:2019年度版』
https://www.nedo.go.jp/content/100892068.pdf

[17] Watanabe, N., Sakaguchi, K., Goto, R., Miura, T., Yamane, K., Ishibashi, T., & Tsuchiya, N. (2019): Cloud-fracture networks as a means of accessing superhot geothermal energy. Scientific reports, 9, 1-11.
https://doi.org/10.1038/s41598-018-37634-z

[18] 東北大学ウェブサイトより: 2017年プレスリリース・研究成果『超高温地熱環境でのハイドロフラクチャリング -地熱エネルギー・フロンティアへのアクセス技術として期待-』
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2019/01/press-20190131-01-watanabe-web.html

 

Photo by Marc Szeglat on Unsplash

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