地球の温暖化や、将来的に海面が上昇し、海に沈む島が出てくるかもしれないといったニュースを耳にする度、どうすればそのような悲劇を回避できるのだろう、とは誰しも思うものです。
資源の少ない日本のエネルギー問題には課題も多く、2011年の東日本大震災による福島の原発事故以来、CO2を排出する発電電力が増加しています。
そこで、今の暮らしのなかで、環境保護に貢献ができ、家計にもやさしい「省エネ家電」にスポットをあててみました。
省エネ家電とは?
家電売り場などで目にする「省エネ家電」ですが、一体どのような製品のことをいうのでしょうか。
実は、ここに明確な基準はないのですが、いうなれば「消費電力やCO2の排出量が少なく、環境にやさしい家電」を省エネ家電と位置づけています。
それではここで、一般の住宅の電力消費のうち、家電製品が占める割合を見てみましょう。
図1「家庭における消費電力量のウエイト比較」
出典:資源エネルギー庁HP 「平成21年度 民生部門エネルギー消費実態調査および機器の使用に関する補足調査より、日本エネルギー経済研究所が試算」(エアコンは2009年の冷夏・暖冬の影響含む)https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/replacement/electric_power/
このグラフからは、大型家電や照明器具の電力消費が比較的大きな割合を占めていることがわかります。
ところで皆さんは、家電製品をどのタイミングで買い替えますか?「壊れるまで使い続ける」という人も少なくないかもしれません。内閣府の消費動向調査では、冷蔵庫の平均使用年数は、実に約13年との結果が出ています。*1
そこで、10年前と今の冷蔵庫を比較してみると、消費電力が約半分になっていることがわかります。液晶テレビも7年前との比較で約35%の電力カット。当然、電気代も比例します。
冷蔵庫
液晶テレビ
図 2「省エネ性能の推移」
出典:資源エネルギー庁HP「省エネ家電とは?」https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/replacement/svsys/
とはいえ、今の機器はまだ動いているし、どれだけ家計にプラスになるのかわからないまま新しい製品に買い替えることにはためらってしまう、という声も聞こえてきそうです。
省エネ家電、買い替えシミュレーション
そこで、今使っている家電製品を新しいものに替えたときの電気代と、年間のCO2排出量などの差がわかる環境省のサイト、その名も「しんきゅうさん」やエコ性能が高い製品の案内サイト、「省エネランキング」などお財布にも嬉しい情報を入手できるサイトをご紹介します。
◆新旧の家電比べ!「しんきゅうさん」
今、使っている家電と買い替えを考えている製品、それぞれの情報を入力するだけで、簡単に消費電力や電気代などの差が算出される優れモノです。
https://ondankataisaku.env.go.jp/shinkyusan/sp/
◆省エネ家電ランキング!
各メーカーの省エネ家電を、電気代や消費電力など、性能の高い順に紹介している「省エネランキング」も、ブックマークしておきたいサイトのひとつです。
https://ondankataisaku.env.go.jp/shinkyusan/ranking/
◆必見!家計のお助けサイト。家電の電気料金比較をグラフで表示
今、使っている家電と検討中の製品の、12年先までの電気料金の比較や、何年後に投資額を回収できるかを算出してくれるお役立ちサイト。家電の買い替えを考えるときの参考にしてください。
https://keisan.casio.jp/exec/system/1487900368
◆電気代の節約術から技術トレンドまで、豆知識が満載!
冷蔵庫やエアコンなど、消費電力の高い家電製品を中心に、電気代の節約術や家電を買い換えるときのポイント、そして最新家電の技術トレンドなどの豆知識がしっかり詰まった情報満載のサイトをご紹介します。
http://www.shouene-kaden2.net/learn/
それではここで、スマートなエコライフのためにも、省エネ家電についてもう少し掘り下げて見てみましょう。
省エネ家電セレクトの指南役、「統一 省エネラベル」
家電製品売り場で、星の並んだラベルを目にしたことのある人もいるかと思いますが、省エネ家電を選ぶときに、判断のものさしとなるのがこの「統一 省エネラベル」です。
このラベルから、一体どのような情報を得ることができるのでしょうか。
図 3「統一省エネラベル」、本文
出所)資源エネルギー庁のHP 「統一省エネラベルとは」https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/replacement/enelabel/
①年度
ラベルの内容が何年度のものかを表示している。
②フロンマーク
フロンガスを使っていない冷蔵庫には、このマークが表示されている。
③省エネラベル
「省エネ基準達成率」は、「目標年度」に記された年を100%とし、その製品のエコレベルがどのあたりにあるかを算出したもの。
この達成率が、すでに100%を満たしていれば、パーセンテージの横に「e」と入ったグリーンの省エネ性マークがつき、100%未満の場合はオレンジ色のマークがつく。
④年間の目安電気料金
おおよその年間電気料金。「新電力料金目安単価」から算出。
⑤多段階評価
省エネ性能を5段階の星の数で表示している。五つ星が最高ランク。
星の数の下にある矢印の位置が、省エネ基準の達成状況を示す。
※対象となる家電は、エアコン、冷蔵庫、冷凍庫、液晶テレビ、電気便座、照明器具(2018年4月1日現在)*2
日本ではこのように、省エネ家電を使うメリットを消費者に周知させることで、製品の普及を進めていますが、海外の状況はどうでしょうか。
世界の省エネ対策の現状は?
まずは、世界の温室効果ガスの排出量を見てみましょう。
図4「各国ならびに世界全体の人為起源二酸化炭素排出量の推移」
出典:国立環境研究所HP(2016)
https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/62/column2.html
先進国は、国の規模で排出量に差があるものの大きな変動はない状況ですが、どの国もさらなるCO2削減に向けて取り組んでいます。一方、成長が著しい発展途上国のCO2排出量が上昇しています。
先進国も過去には、酸性雨や大気汚染といった環境リスクと向き合い、今があるわけですが、成長とエコロジーの両立は可能でしょうか。
それではまず、発展途上国の状況を見てみましょう。
発展途上国の省エネラベリング導入状況
図 5「白物家電製品に関わる海外の省エネルギー動向調査」
出典:日本電機工業会HP「白物家電製品に関わる海外の省エネルギー動向調査」https://www.jema-net.or.jp/Japanese/info/news/pdf/130228_gaiyo.pdf
発展途上国でも、省エネ家電のラベリング制度を取り入れている国が多く、複数の段階に区分けしてエコレベルを示す多段階ラベルの採用が一般的となっています。
ただし、試験場が未整備でラベリングを取得するためのハードルが高い国があったり、導入状況が安定していないなど課題も少なくありません。
一方、メキシコやブラジル、マレーシアなど省エネ家電志向が高い国もあり、全体としてはラベリング制度の導入や制度の義務化が進んでいる状況です。*3
欧米の省エネ家電の状況は
次に、先進国の省エネラベルの導入状況ですが、やはり欧米にもそれぞれよく知られたエコラベル制度があります。
施 策 | 創設年 | 概 要 |
欧州委員会欧州エコデザイン指令 (Ecodesign Directive) | 2008年 | ・省エネ規制 ・消費電力の最低要求基準を設けており、EU圏内の対象製品は全て要件を満たす必要がある ・ 対象機器は家電、業務用機器、産業用機器など多岐に渡る(25品目) |
EPA(環境保護庁) | 1992年 | ・環境ラベリング制度 ・消費電力の要件を達成した製品はエネルギースターロゴを表示することが可能となり、省エネ性能の高い製品であることを消費者に訴求できる ・対象機器は家電、データ通信機器、建築関連製品など多岐に渡る(62品目) ・国際提携プログラムにより、製品によっては米国以外においても運用されて いる
|
図 6「 欧米における省エネ関連制度の概要」
出典:資源エネルギー庁HP 「海外の省エネ関連制度について 」(2019年7月22日)https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/television_receiver/pdf/002_01_00.pdf
EU共通の省エネラベルとは?
◇安定した電力事情と自然エネルギーの増加
まず、EU圏の家庭の電力消費はほぼ横ばいです。発電電力では、石炭火力発電の割合が高いことが指摘されていますが、その一方で自然エネルギー発電も大きく伸びています。
図 7 「最終エネルギー消費の推移と発電量の推移」
出典:経済産業省HP「海外における省エネルギー政策等動向調査 」日本エネルギー経済研究所調べ(2016年2月29日)p.47.
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000471.pdf
◇情報満載のエコラベル!
EU圏では、独自のエコラベルを発行している国もありますが、各国共通のラベリング制度が存在し、内容も充実しています。このEU共通のラベリング制度では、ウェブストアにも簡易ラベルの表示を義務づけ、消費者のエコ意識の向上に力を注いでいます。
また、EU共通の省エネラベルは総合的な省エネ評価のほかに、機器の使用水量や音のレベルなども記載されるなど、購入に役立つ情報が集約されていることも特徴のひとつです。
図8「欧州のラベリング制度」
出典: 資源エネルギー庁HP「小売事業者表示制度の現状と課題 」(2019年12月25日)pp.32-33.
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/kori_jigyosha/pdf/004_02_00.pdf
課題としては、それぞれの国によって所得水準や気候、ライフスタイルなどが異なるため、目標達成に向けた足並みが揃わないことがあげられています。*4
二種の米国エコラベルで、省エネ効果アップ
パリ協定において、急成長する発展途上国への優遇措置を不公平として、離脱を通告したアメリカですが(*5)ラベリング制度など省エネ対策には注力しています。また、アメリカの過半数の州では、電力会社に対して省エネ化の目標値を設定した、エネルギー供給者義務制度が導入されています。併せて、これらの州の多くではパフォーマンスインセンティブ制度を設け、目標が達成されると報酬が与えられる仕組みを取り入れています。このように、省エネ化で利益を生むことがビジネスになり、結果としてCO2の削減にも繋がっているのです。(*6)
図 9 「最終エネルギー消費の推移と発電量の推移」
出典:経済産業省HP 「海外における省エネルギー政策等動向調査 概要 」日本エネルギー経済研究所作成(2016年2月29日)p.3
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000471.pdf
◇上位25%の省エネ家電に表示。エネルギースター
図10「海外のラベリング制度等」
出典:資源エネルギー庁HP「小売事業者表示制度の現状と課題 」(2019年12月25日)p.37.
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/kori_jigyosha/pdf/004_02_00.pdf
アメリカの環境保護庁(EPA)のラベリング制度、エネルギースターはアメリカ国内で広く知られたロゴで、
省エネ効果の高い上位25%の製品に表示が可能です。また、このラベリング制度は、日本やスイス、カナダなど世界規模で展開しています。
◇七つの情報を網羅!「エネルギーガイド」
図11「海外のラベリング制度等」
出典:資源エネルギー庁HP「小売事業者表示制度の現状と課題 」(2019年12月25日)p.36
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/kori_jigyosha/pdf/004_02_00.pdf
①機器の特徴を記載
②メーカー、モデル、サイズ
③年間電気料金の目安
④類似モデルの年間電気料金の幅
⑤年間電気使用量の目安
⑥算出の前提
⑦エネルギースターに適合した製品には、このロゴを表示
※対象機器はエアコン、テレビ、冷蔵庫、ランプなど13機器。表示事項は機器に応じて異なる。
アメリカの連邦取引委員会とエネルギー省が管轄する「エネルギーガイド」は、メーカーに表示義務のあるラベリング制度です。このラベルには、年間電気料金のほか、類似モデルのおおよその電気料金なども表示され、消費者目線のエコラベルともいえるでしょう。
このように、複数のエコラベル制度があるアメリカですが、シェールガスをはじめとする資源が豊富なため電気料金も比較的安価で、先進国の中では省エネのインセンティブが低いとも言われています。*7
日本の省エネ技術は世界最高水準!
日本は世界でも、大変高い省エネ技術を持っている国であるといわれていますが、ここではその理由について少し深掘りしてみましょう。
前述の「統一 省エネラベル」のラベル上には、「省エネ達成率」のパーセンテージが表示されていますが、これは「トップランナー制度」といわれる仕組みから算出された数値です。
それではこのトップランナー制度とは、どのようなものなのでしょうか。
省エネ家電の牽引役!「トップランナー制度」とは
トップランナー制度とは、家電製品などの省エネルギー化のための仕組みです。日本のエネルギー消費は、1970年代の石油危機で減少した時期を除くと上昇の一途をたどってきましたが、この状況に歯止めをかけるために考えられた制度が「トップランナー制度」です。
この制度の基準値の決め方には、大きく分けて3つの方式があります。
1、最低基準値方式
対象製品のすべてが、最低基準値をクリアすることを求められる「最低基準値方式」。アメリカやEUをはじめ、世界ではこの方式が広く取り入れられている。
2、平均基準値方式
対象製品の平均値が、基準値をクリアしていることを求められる「平均基準値方式」。基準値に満たない製品があっても、基準値以上の製品とのバランスでフォローすることができる。
3、最高基準値方式(トップランナー制度)
基準値を設定する段階で、最高レベルの製品の値をベースとし、様々な要素を加味して基準値が定められている。また、平均基準値方式と同じく、対象製品の平均値が基準の値をクリアしていればよいとされているが、なかでもこの方式が最も厳しい制度ともいえる。
日本が取り入れている仕組みが、この「最高基準値方式」で、一般に「トップランナー制度」と呼ばれている。
日本のトップランナー制度
図12「トップランナー制度による規制の概要」
※出典:資源エネルギー庁HP「小売事業者表示制度の現状と課題 」(2019年12月25日)p.3.
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/kori_jigyosha/pdf/004_02_00.pdf
高いハードルから生まれる省エネ効果
トップランナー制度では、最高水準の製品のレベルを元に、目標年度(3〜10年後)に目指す値を基準値と定めます。この方式では、対象製品の平均値が基準値をクリアしていればよいとされ、基準に満たない製品があっても許容されますが、ハードルは低くありません。
それぞれの制度では基準値をどこに設定するかが異なっているわけですが、日本のように基準値を高いところに設定する方式は、よりよい商品や技術の開発につながります。その一方、メーカーの負担は小さくないため、一律の基準は設けず平均値で判断する形を取って、技術の向上と環境負荷の低減を目指しています。*8
このような制度やメーカーの努力が、CO2の削減に結びついていることがわかってきました。それでは、私たちには何ができるのでしょうか。
これからのライフスタイルのひとつ、「COOL CHOICE」とは?
環境省では、CO2を減らすための「製品への買い替え」や「サービスの利用」、「ライフスタイルの選択」を促す運動「COOL CHOICE」を勧めています。電力の選択も、この「サービスの利用」のひとつです。*9
省エネ家電とともに考えたい選択
*10
エコロジカルな家電を使うことは、地球環境に負荷をかけない行動のひとつですが、エネルギーの消費は避けられません。省エネ家電のセレクトと共に、環境に負荷をかけない「自然エネルギー」の選択は、視野に入れておきたいエコスタイルのひとつです。
太陽の光や風の力のように枯渇することのない自然のエネルギーに未来を託すことは、地球の未来を守るための、ある意味、先進的なエネルギーとも言えるでしょう。
福島の原発事故以来、私たちのエネルギーへの意識が変わりつつあります。また、温暖化対策のひとつとしても自然エネルギーが注目されていますが、ここには太古の昔から大地の恵みを受けてきた私たちが、根底に自然を敬う気持ちを持っていることも、理由のひとつなのかもしれません。
昔の商人が生み出した、「三方よし」というビジネスマインドがありますが、自然エネルギーこそ、「売り手よし」、「買い手よし」、そして「地球にもよい」三方よしの資源なのではないでしょうか。
参照・引用を見る
*1
内閣府「消費動向調査データ」による主要耐久消費財の買替え状況」から作成(2019年4月8日)https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031818088&fileKind=0
*2
出典:資源エネルギー庁のHP 「統一省エネラベルとは」をもとに作成https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/replacement/enelabel/
*3
出典:日本電機工業会「白物家電製品に関わる海外の省エネルギー動向調査」をもとに作成https://www.jema-net.or.jp/Japanese/info/news/pdf/130228_gaiyo.pdf
*4
出典:経済産業省HP「海外における省エネルギー政策等動向調査 pp.46−53.」日本エネルギー経済研究所調べ(2016年2月29日)をもとに作成
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000471.pdf
*5
出典:環境省HP「米国のパリ協定脱退表明を受けた我が国のステートメントの発出 参考資料2」pp.2-4. をもとに作成
https://www.env.go.jp/press/y0618-15/ref02r.pdf
*6
出典:経済産業省HP「平成29年度エネルギー小売事業者の省エネガイドライン検討会」(2017年11月21日)p.11 をもとに作成https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/energy_kouri/pdf/h29_02_gijiroku.pdf
*7
出典:経済産業省HP「海外における省エネルギー政策等動向調査 」日本エネルギー経済研究所調べ(2016年2月29日)pp.1-12. をもとに作成
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000471.pdf
*8
出典:資源エネルギー庁HP「トップランナー制度 p.6」(2015年3月)をもとに作成https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/data/toprunner2015j.pdf
*9
出典:環境省HP「COOL CHOICEとは」
https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/sp/about