変わりつつ有る中国のエネルギー政策 今後も中国は「環境後進国」のままなのか

変わりつつ有る中国のエネルギー政策 今後も中国は「環境後進国」のままなのか
はじめに

中国といえば、世界の工場として著しい経済発展を成し遂げてきたイメージがすっかり定着しました。その一方で、化石燃料の大量使用に伴う環境問題を抱える「環境よりも経済優先の国」というイメージも、やはり定着している感があります。

しかし、経済状況や生活環境が十分に発展してきた2010年代頃からは、エネルギー政策の転換や環境対策への本格的な取り組みによって、状況は変わりつつあります。

経済発展の影響だけでなく、中国には日本や欧米とは大きく異なる政治体制や社会構造があります。これらの特徴がもたらしている、中国のエネルギー政策の方針や導入には、他の主要諸国と比較してどのような違いがあるでしょうか?

 

中国の化石燃料利用のこれまでと現状

中国には石炭の豊富な埋蔵量があり、その生産量は世界一です[1]。産出する石炭は国外への輸出だけでなく、中国国内における家庭での暖房から火力発電・製鉄などの工業的利用まで、広く用いられてきました。

しかし、ばい煙や硫黄酸化物、窒素酸化物などの排出対策が進んでおらず、2000年代頃を中心に深刻な大気汚染が発生していました。同時に、2006年には中国はアメリカを抜いて世界最大の二酸化炭素排出国となっています。

こうした大気汚染は中国国民の健康被害とともに、国外への越境した環境破壊となり批判の的となってきました。しかし、後述する通り、中国は2010年代からは環境負荷低減と二酸化炭素排出削減のために化石燃料への依存度を下げ、自然エネルギーの積極的な導入を行ってきました。2010年代にはエネルギー消費量は増加しつつも石炭消費量はほぼ横ばいとなりました(図1)[2]。

 

図1 中国の総エネルギーおよび石炭消費量の変遷(1978年~2018年)。2000年代中頃までは総エネルギー消費量と石炭消費量は同じようなトレンドを示すのに対して、それ以降の時代では総エネルギー消費量は伸び続けているのに対して石炭消費量は横ばいに近い。 文献[2]より引用。https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/newsletter/jp/7058/vol.30_%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%82%99%E3%83%BC%E8%BB%A2%E6%8F%9Brev.pdf

 

また、石炭火力発電所におけるばい煙や硫黄酸化物、窒素酸化物の排出規制や、よりエネルギー効率の高い石炭火力発電技術の導入を進めつつあります[3]。実際、中国のいくつかの都市では大気汚染が改善しつつあると報告されています[4][5]。一方で、北京や天津などの中国北東部では石炭ストーブのような家庭用暖房が未だに広く用いられており、特に冬の大気汚染には未だ大きく改善の余地があるとされています。また、自動車の排気ガスについても煤や有害物質の排出も、より一層の対策を施すべき課題として残されています[5]。

燃焼によって比較的大きな環境負荷をかける石炭に代わる化石燃料として、天然ガスは埋蔵量も豊富であることから広く注目されており、各国で普及が進められています。日本における火力発電では天然ガスは特に重要な位置を占めていて、ジェットエンジンと同様の内燃機関で天然ガスを燃焼させて発電させた後に、燃焼で発生した熱で水を沸騰させて蒸気による発電も行うコジェネレーション技術が普及しています。こういった天然ガス利用に関する技術は中国ではあまり普及しておらず、今後の課題とされています[6]。

 

中国における自然エネルギー普及

石炭などの化石燃料からの脱却を掲げて行動しつつある中国ですが、実はすでに自然エネルギー大国でもあります。水力、風力、太陽光など、さまざまな自然エネルギーが中国でもすでに普及しています。

まず、中国の水力発電容量は約240GWと世界最大となっています。例えば、長江中流域の湖北省の三峡ダムは、1993年に建設がスタートして2009年に完成し、世界最大の水力発電ダムとなりました。その巨大さから世界でも広く知られています。この他にも数多くの水力発電所が建設中ですが、中国国内で利用可能とされる水力発電資源のうち、既に60%程度は稼働済みとなっています。そして2035年までに、残りの約40%の開発も行われる予定となっています。

つまり、今後の中国において水力発電量は、倍増以下の伸び代しか無いということになります。また、巨大なダムを建設するには河川環境への負荷や周辺住民の移住といった問題も引き起こします。したがって、将来に渡って中国国内で自然エネルギーの比率を向上させていくには、太陽光発電や風力発電といった自然エネルギーの推進が必要とされています[2]。

図2 中国における電源別の発電容量(10 MW)と火力発電の割合(%)の2000年から2017年における変遷。2000年代後半から火力発電の割合が徐々に低下し、代わりに水力、風力、太陽光などの発電容量が増えている。 ([2]より引用)
https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/newsletter/jp/7058/vol.30_%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%82%99%E3%83%BC%E8%BB%A2%E6%8F%9Brev.pdf

 

2016年から2020年の中国における経済活動の指針となる「第13次五か年計画」では、太陽光発電の発電設備容量を110GW以上、風力発電の発電設備容量を210GW以上を達成するという目標が打ち立てられました。風力発電の開発は主に大型国有エネルギー企業が担当し、太陽光発電は主に商業銀行と政策銀行からの融資を受けた企業や一部では株式市場上場の形で資金を集めた大手民間企業によって運営がなされています。

近年の中国は資本主義社会が発達しているとは言え、日本や欧米などのような完全な自由経済の国とは異なります。そのため、中央政府の方針である五カ年計画に対して、その達成にはどのような形であっても全力で取り組まざるを得なくなります。

結果として、風力や太陽光の発電設備だけが過剰になり、せっかく生産した電気が送電系統に接続されず、使われることなく捨てられてしまう”棄電問題”が発生しています。風力発電の導入量の特に多い東北部や西部では、約20~40%程度の発電量が電力系統に流されずに稼働抑制されている状態にあります[7]。

 

今後の中国では、自然エネルギーの発電設備の増設よりも、いかにして送配電系統との接続を広げていくかといった新しい戦略が必要とされています。また、日本を含めて諸国で注目されている自然エネルギーであるバイオマス発電、ごみ燃焼発電、地熱発電などについては、政府や民間からの補助・投資が不十分であることから、中国ではあまり普及していません。

 

一方で第13次5カ年計画では、エネルギー政策として発電手法だけが取り上げられているわけではありません。特に注目されるものとして、新エネルギー自動車の普及とグリーン建材市場が重要な課題として挙げられています。新エネルギー自動車として、電気自動車(EV)が想定されています。

このために重要なプロジェクト・政策として、蓄電池の性能向上や充電施設の普及、また電気自動車購入への補助金の導入が行われています。中国政府としては、既存の自動車メーカーの技術力が圧倒しているガソリンエンジンやハイブリッドカーよりも、純粋な電気自動車への支援を行うことで新しい市場を切り開こうという戦略でした。

実際、中国内での新エネルギー自動車の販売台数は2020年には500万台を超えるとされており、自動車の面からも化石燃料への依存度を下げていこうという戦略が見て取れます。しかし現実的には、車体の値段や充電の手間などの観点から補助金無しでの電気自動車市場の拡大はかなり厳しい情勢が続いており、ハイブリッドカーの普及推進へ路線変更しつつあります[8]。

グリーン建材については、建物の暖房効率の向上が主に想定されており、特に寒さの厳しい東北部での導入が進むことで暖房に用いる燃料やエネルギーの消費が低減し、大気汚染や二酸化炭素の排出量の減少に大きく貢献できると期待されています[9]。

 

中国のエネルギー消費と将来の世界

自然エネルギーの普及を含めた環境問題への対策や二酸化炭素の排出量の削減には、政府による支援と民間企業の取り組みがうまく噛み合わさりながら進むことが需要です。日本や欧米のような民主主義・自由主義の社会と異なり、中国では中央政府の姿勢が特に重要になります。

圧倒的な経済成長を背景に環境対策や自然エネルギーへの転換にも積極的な姿勢を見せつつある一方、せっかく発電設備を増やした太陽光・風力による発電量を活用しきれなかったり、電気自動車普及の路線変更したりなど、紆余曲折はあるかもしれません。しかしITを中心に中国の技術が世界を席巻した現状を見ると、将来的には中国が技術力や導入実績において自然エネルギー活用の先進国となる可能性は十分にあるでしょう。

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参照・引用を見る

[1] 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構. (2019). 世界の石炭事情調査-2018年度中間報告. p.2 http://www.jogmec.go.jp/content/300361690.pdf

[2] 劉憲兵. (2019). 中国のエネルギー転換の現状と課題, The CLIMATE EDGE, 30, 公益財団法人地球環境戦略研究機関.

https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/newsletter/jp/7058/vol.30_%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%82%99%E3%83%BC%E8%BB%A2%E6%8F%9Brev.pdf

[3] 井上洋文. (2018). 中国石炭火力の現状と展望. エネルギー経済, 44, 86-91. 一般財団法人日本エネルギー経済研究所 https://eneken.ieej.or.jp/data/7822.pdf

[4] Karplus, V. J., Zhang, S., & Almond, D. (2018). Quantifying coal power plant responses to tighter SO2 emissions standards in China. Proceedings of the National Academy of Sciences, 115, 7004-7009.

https://doi.org/10.1073/pnas.1800605115

[5] 邱聖娟, & 吉田徳久. (2018). 中国の都市レベルの CO2 排出構造の分析と政策的評価. In 環境情報科学論文集, 32, pp. 19-24. 一般社団法人 環境情報科学センター.  https://doi.org/10.11492/ceispapers.ceis32.0_19

[6] 森永 正裕. (2018). 中国はどのようなエネルギー・ミックスを目指すのか. IDE スクエア — 世界を見る眼, pp. 1-9. 日本貿易振興機構アジア経済研究所.

http://hdl.handle.net/2344/00050473

[7] 王磊. (2018). 新常態下における中国の省エネ・削減政策と将来の展望. 地域経済経営ネットワーク研究センター年報, 7, 87-94.

https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/71084

[8] ロイター通信2020年1月13日の記事『中国が新エネ車政策の路線変更、メーカーの明暗分かれる』より

https://jp.reuters.com/article/ev-china-breakingviews-idJPKBN1Z60EU

[9] KPMG中国. (2016). 「第13次 5か年計画」 中国経済の構造改革 と世界経済との融合. pp. 38—42.

https://home.kpmg/cn/zh/home/insights/2017/09/the-13th-fyp-opportunity-analysis-for-chinese-and-foreign-business-jp.html