世界では4人に1人がトイレのない環境で生活 今こそトイレの役割に目を向けてみよう

世界では4人に1人がトイレのない環境で生活 今こそトイレの役割に目を向けてみよう

普段、なかなか目を向けることのない世界の人々のトイレ事情ですが、トイレはその国の文化レベルを表していると言っても過言ではありません。

例えば急速な経済発展を遂げた中国のトイレは、かつて仕切りがなく、溝の上にまたがって用を足す簡素なものでしたが、「トイレ革命が必要」との方針で、劇的に様変わりしています。
上海にある公衆トイレは、個室で水洗式の清潔なトイレにグレードアップしています。
替えの下着や薬、衛生用品などの無料提供もあり、今や地域住民と観光客でいつも満員なのだとか。*2

環境先進国スウェーデンには、使用することでエコに繋がるトイレがあります。
2つに仕切られた便器に用を足すと、大便と小便に分別収集します。回収されたし尿は、契約農家が無農薬肥料としてリサイクルしています。*3

一方、世界の20億人の人々は清潔なトイレを使用できず、6億7300万人の人々は道端や草むらなどの屋外で排泄しています。*1

世界中のすべての人に清潔なトイレを

日本では当たり前の清潔なトイレ。
衛生的なトイレは人々の健康を保ち、健全な暮らしを営むために大切な役割を果たしています。

しかし、世界の農村部に住む10人中7人は、衛生的なトイレを使用できない生活を送っています。*4
トイレを使えない人たちは、バケツやビニール袋に、もしくは屋外で排泄をしています。*1
衛生的なトイレがないことで、病気になり命を落としている人がたくさんいます。

屋外で排泄する人々は、世界人口の約1割。
女性は人目を気にして、人通りの少ない時間に屋外で排泄することが多いため、襲われる危険もはらんでいます。
このような現状を受けて2015年、国連で採択された持続可能な開発目標、SDGsに
「すべての人が安全に管理された衛生施設(トイレ)が利用できること」
という定義が加わりました。*5

図1「すべての人に、安全な衛生施設(トイレ)を」
出所)ユニセフHP「ユニセフの主な活動分野 水と衛生」
https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_act01_03_sanitation.html

排泄物が衛生的に処理され、他の世帯とトイレを共有していないことがこの条件の1つです。
また、屋外排泄をなくし、女性や弱い立場の人たちに注意を払うこともこのなかに挙げられています。*5

図2「世界の人々の衛生施設(トイレ)へのアクセス状況」
出所)ユニセフHP「すべての人に、安全な衛生施設(トイレ)を」https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_act01_03_sanitation.html

トイレの設置を禁じる慣習 *6

各国の政府やNGOは途上国にトイレを寄贈していますが、普及が進まないケースも少なくありません。
これらの地域では、トイレに行く行為自体にためらいを感じる人が多く、家の中や周辺にトイレを設置することを禁じる慣習が残っています。
すなわち、衛生観念よりも昔ながらの価値観が浸透しているため、寄贈されたトイレが使われないまま放置されているのです。

この状況を改善するためには、これまでの習慣を変えなければならない理由を理解できるよう、衛生教育を十分に行うことが鍵であるとされています。

5. WHO/UNICEF Joint Monitoring Programme (2019). Progress on household drinking water, sanitation and hygiene, 2000-2017. p.8. New York: UNICEF/WHO. Available at: washdata. org/reports (accessed 24 Jul 2019).

図3「最も改善が遅れている国は?」
出所)ウォーターエイド「知られざる衛生作業員の世界」p.5
https://www.wateraid.org/jp/sites/g/files/jkxoof266/files/2019-12/2019_WTD_report.pdf

清潔なトイレと水のために世界で活動するウォーターエイド *7

清潔な水、衛生的なトイレ、正しい衛生習慣。健康で尊厳ある暮らしに欠かせないこの3つを途上国に届ける国際NGO「ウォーターエイド」。
この団体は、世界で最も貧しく社会的に取り残されている人々の暮らしを改善するために活動しています。

ウォーターエイドの活動の軸になるのが「公平性」。
障害や特定のカーストなどによって取り残されがちな人々など、多くの人々に成果が届くよう水や衛生面のプロジェクトを実施しています。

くみ取り作業の過酷な労働環境 *8

図4「くみ取り作業などに従事する開発途上国の衛生作業員の過酷な状況を報告」
出所)ウェーターエイドHP「くみ取り作業などに従事する開発途上国の衛生作業員の過酷な状況を報告」
https://www.wateraid.org/jp/news/WTD-2019

ウォーターエイドは、途上国で排せつ物を処理する衛生作業員が、危険にさらされた環境下でトイレのくみ取り作業などに従事していることを報告しています。
作業員はコレラ、腸チフス、肝炎など様々な病気に感染し、アンモニアや一酸化炭素などの有毒ガスによって命を落とすこともあるのです。
2018年の公式統計データによると、インドでは5日に1人の作業員が作業中に死亡していると報告されています。*9

また、こうした仕事は社会で蔑まれることもある為、自分の仕事が周囲に知られないよう、夜に仕事をする作業員も少なくありません。
社会にとって欠かせない公共サービスを提供しているにもかかわらず、多くの作業員たちは疎外され、貧しく、社会から差別を受けています。

衛生作業員の生活の質を向上させるため、ILO(国際労働機関)、ウォーターエイド、世界銀行、WHO(世界保健機関)が共同で、非人道的な労働環境に対する注意を喚起し、改善を強く促しています。

汚染された飲み水 *10

現在、世界で排出される廃水の80%以上は、まったく処理されないまま川や海に流されています。
そして18億人の人々は、糞便によって汚染された水を利用しているのです。
劣悪な衛生状態による下痢性疾患で命を失う子どもの数は、1日800人を超えています。

飲み水とピロリ菌の関係

1994年に、WHOの関連機関である国際癌研究機関が「確実な発癌因子である」と認定した「ヘリコバクタ・ピロリ(HP)菌」。*11
胃がんとの関連性について指摘されている細菌です。
このピロリ菌は、除菌することで病気の発症を大きく抑えることができますが、現在、世界の約半分の人々がこの菌に感染していると言われています。*12_p.15

ピロリ菌の感染率は、アフリカ、南米、南アジア諸国で高い傾向にあります。
また、オセアニア、北米、西欧、北欧諸国では低く、先進国と途上国の感染率には乖離があります。 *12_p16

カザフスタンでは、川の水を飲料水にしている人々の間でピロリ菌の感染率が高いことが公表されています。また、マレーシアのピロリ菌感染者に共通している生活習慣は、以下の4点です。*12_p17

ピロリ菌感染者の共通した生活習慣

1、 井戸水を使う
2、 汲み取り式のトイレを使う
3、 飲料水の煮沸が頻繁でない
4、 手洗いの実践が少ない

この共通点からは、ピロリ菌感染と衛生面との関連性が見受けられます。ここで、日本人の感染状況を見てみましょう。

日本のピロリ菌感染率の推移 *12_p19、20

日本国内におけるピロリ菌感染率は、戦後と比較して大きく低下しています。
下の図からは、ピロリ菌感染率が上下水道の普及率の増加に逆相関していることがわかります。

まず、1950年以降の上水道の整備に伴ってピロリ菌感染率は劇的に減少しています。
しかし、上水道の普及率が100%に近づくにつれて、その減少率は頭打ちになっています。
その後、下水道の整備が進むと、感染率のさらなる減少が始まったと解釈できます。

図5「本邦の上下水道の普及率と HP 感染率」p.20
出所)慶應義塾大学保健管理センターHP「ヘリコバクタ・ピロリ菌の感染における 水系の役割」
http://www.hcc.keio.ac.jp/ja///research/asetts/files/37-2.pdf

これらの結果から、人々の生活圏の水源がピロリ菌に汚染されている場合があること、そしてピロリ菌感染者の糞便が水源の汚染要因のひとつになることが考えられています。

日本国内の下水道と汚水処理場、および上水道と浄水場の普及は、国内のピロリ菌による環境汚染を大きく改善しています。
このことが、発展途上国レベルだった国内のピロリ菌感染率を、先進国レベルにまで押し下げた一因になっていると言ってよいでしょう。

図6「指標:都市規模別上下水道普及率」
出所)国土交通省HP「指標:都市規模別上下水道普及率」
https://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/monitoring/system/contents/12/12-1-2.pdf

各国への支援協力 *13

ODAを通じて途上国への支援を行う日本。これらの活動は、広がりを見せています。

トイレから生まれた経済活動

日本のNPO「日本下水文化研究会」は、バングラデシュの村でエコロジカル・サニテーショントイレ、通称「エコサン・トイレ」の普及や技術協力を行ってきました。エコサン・トイレは排泄物を土壌改良剤として再利用するトイレです。
し尿分離型のエコサン・トイレで排便後、灰をかけて半年おくことで、排泄物が土壌改良剤に。これを商品化し、住民組織が経営を管理することで、組織の自立とエコサン・トイレの普及拡大を目指します。

公衆トイレのバイオガスから養豚運営を

フィリピンで最も貧しい島、サマール島にバイオガスプラントを使った公衆トイレを整備し、同時に住民への衛生教育も進めてきました。
さらに豚小屋を併設し、豚の排泄物から発生するバイオガスを燃料や液肥として利用。
養豚の収益からは女性たちの人件費も賄い、環境衛生の改善を生計向上プロジェクトの一環として実施しています。
運営管理も住民主体で行えるようになりました。

これらの例のように、途上国へ資金や技術を提供するだけではなく、現地で活動が持続できるように支援することも、先進国の重要な役割のひとつです。

世界トイレデー *14

持続可能な開発目標「SDGs」では、2030年までに世界が達成すべき目標を定めています。
その1つになっているのが「すべての人が平等にトイレを利用できること」。
国連は、トイレにまつわる問題を改善するため、毎年11月19日を「世界トイレデー」(World Toilet Day)と定めました。

国連は、タブーとして覆い隠されがちなトイレ事情について、トイレを使えない人々は、健康を維持し、子どもの命を守り、より良い未来に向けて働くために苦闘している、と述べています。

世界トイレデーは、地球規模で起きている衛生危機に対する意識を高め、行動を促すことを目指しています。
これらの問題を伝えるため、参加可能なイベントが毎年実施されています。*15

未来のトイレ事情

イギリスの科学者チームは、尿による発電が可能なエコトイレを開発しました。
尿中の化学物質を分解するバクテリアが、その際に放出するエネルギーを蓄える仕組みです。
化石燃料を使わず、廃棄物を有効利用した環境に優しい発電トイレの開発は、ビルゲイツ氏夫妻の慈善団体の支援のもと進められています。*16

東北大学と総合住生活企業のLIXILは、トイレのゼロ・エネルギー発電システムを開発しました。
トイレに給水する際の水流で発電するこのシステムは、わずかな水流で発電できるエコロジカルな発電技術として注目されています。
非常時には、この発電をトイレの照明に利用でき、また、平常時の省エネ効果も期待されています。*17

排泄物が飼料やエネルギーになり、途上国に住む人々の生活を支えています。
先進国によるエコロジー技術の開発と途上国の支援が、持続可能な世界の実現に寄与します。

地球、世界、経済、そして人々の生活やエネルギーが健全に循環することは、私たちが目指すべき社会の条件ではないでしょうか。

参照・引用を見る

*1

出所)ユニセフHP「世界トイレの日プロジェクト」

https://worldtoiletday.jp/

*2

出所)NHK  HP「日本のトイレ、世界のトイレ、すごいことになってます」

https://www.nhk.or.jp/gendai/kiji/093/

*3

出所)時事通信HP「世界トイレ気候 写真特集」

https://www.jiji.com/jc/d4?p=toi006-jlp00882570&d=d4_eco

*4

出所)ユニセフHP「すべての人に、安全な衛生施設(トイレ)」https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_act01_03_sanitation.html

*5

出所)ユニセフHP「ユニセフの主な活動分野 水と衛生」

https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_act01_03_sanitation.html

*6

出所)日経ナショナル ジオグラフィックHP「世界のすべての人にトイレを、写真12点」

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/112800453/?ST=m_news

*7

出所)ウォーターエイドHP

https://www.wateraid.org/jp/who-we-are

*8

出所)ウェーターエイドHP「くみ取り作業などに従事する開発途上国の衛生作業員の過酷な状況を報告」

https://www.wateraid.org/jp/news/WTD-2019

*9

原文で探していただいたのですね。申し訳ありませんでした。この内容はウォーターエイドの

出所)ウェーターエイドHP「くみ取り作業などに従事する開発途上国の衛生作業員の過酷な状況を報告」

https://www.wateraid.org/jp/news/WTD-2019

*10

出所)国連広報センターHP 「安全な水とトイレの 普及はなぜ大切か」

https://www.unic.or.jp/files/06_Rev1.pdf

*11

出所)杏林医師会HP「Helicobacter pyloriと胃癌」

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyorinmed/43/4/43_133/_pdf

*12

出所)慶應義塾大学保健管理センターHP「ヘリコバクタ・ピロリ菌の感染における 水系の役割」

http://www.hcc.keio.ac.jp/ja///research/asetts/files/37-2.pdf

*13

出所)外務省HP「ODAによる途上国のトイレ支援」

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kurashinoshitsu/bunkakai1/dai5/siryou2.pdf

*14

出所)国際連合広報センターHP「世界トイレデー  事務総長メッセージ」

https://www.unic.or.jp/news_press/messages_speeches/sg/21360/

*15

出所)ウォーターエイドHP「イベント」

https://www.wateraid.org/jp/get-involved/events

*16

出所)AFP BB NEWS HP「尿から電気、『発電するトイレ』を開発 英研究」

https://www.afpbb.com/articles/-/3041642?cx_amp=all&act=all

*17

出所)環境金融研究機構「LIXILと東北大学 トイレで『ゼロ・エネルギー発電』可能に 給水水流で発電、LED照明で非常時も使用(FGW)」

http://rief-jp.org/ct10/52254