幸福には定義がありません。幸福は見えるものでもありません。
でも、「幸福」は私たち人間にとって特別な意味をもっています。
その幸福度を測る調査があります。
中でも注目を集めているのが「世界幸福度レポート」。
このレポートからわかるのはどのようなことでしょうか。
「世界幸福度レポート」を読み解き、SDGsとの関連にも目を向けましよう。
そして、他の調査もふまえ、「幸福」をキーワードにして日本の状況について考えてみたいと思います。
「世界幸福度レポート(World Happiness Report)」とは
幸福度は本当に測れるのでしょうか。
もし測れるとしたら、どのようにして測るのでしょうか。
まず、幸福度ランキングで有名な「世界幸福度レポート」とはどのようなものなのかみていきたいと思います *1:p1、*2。
このレポートは、国連の持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)による国際的な調査で、毎年、行われています。
データはアメリカのギャラップ社が収集したもので、それを基に、コロンビア大学やロンドンスクールオブエコノミクス(LSE)など英米の研究者チームが分析やとりまとめに協力しています。
対象は世界156か国。
その手法は、主観的な幸福度を調査し、それに以下の6つの因子を加味して順位付けし、ランキングを示すというものです。
6つの因子はこれからこのレポートを読み解く際の大切な手がかりになるものなので、丁寧にみていきたいと思います。
以下のそれぞれの因子の一番下にあるアスタリスク以下が原文 *1:p.17で、その上の説明は筆者によるものです。
1) 1人当たり国内総生産(GDP)
OECDによる実質GDP成長率“Economic Outlook No. 106(2019年11月版)”と世界銀行の世界経済見通し(最終更新:2019年6月4日)を基に割り出したもの。
* the GDP time series from 2018 to 2019 using country-specific forecasts of real GDP growth from the OECD Economic Outlook No. 106 (Edition November 2019) and the World Bank’s Global Economic Prospects (Last Updated: 06/04/2019)
2) 社会保障制度などの社会的支援
「困ったことがあったら、必要なときにいつでも助けてくれる親戚や友人がいますか? それともいませんか」
という質問に対する回答の全国平均値による。
*Social support is the national average of the binary responses (0=no, 1=yes) to the Gallup World Poll (GWP) question, “If you were in trouble, do you have relatives or friends you can count on to help you whenever you need them, or not?”
3) 健康寿命
世界保健機関(WHO)のデータによる。
*The time series of healthy life expectancy at birth are constructed based on data from the World Health Organization (WHO) Global Health Observatory data repository, with data available for 2005, 2010, 2015, and 2016.
4) 人生の自由度
「人生で何をするかを選択する際のあなたの自由度(自分の意思で決められるかどうか)に満足していますか、それとも不満足ですか?」
という質問に対する解答の全国平均値による。
*Freedom to make life choices is the national average of binary responses to the GWP question, “Are you satisfied or dissatisfied with your freedom to choose what you do with your life?”
5) 他者への寛容さ
「過去1か月間に慈善団体に寄付したことはありますか?」
という質問に対する回答の全国平均値を1人当たりGDPで調整したもの。
*Generosity is the residual of regressing the national average of GWP responses to the question, “Have you donated money to a charity in the past month?” on GDP per capita.
6) 国への信頼度
「政府内に腐敗が広まっているかどうか」
「企業内に腐敗が広まっているかどうか」
という2つの質問に対する回答の全国平均値による。
*Perceptions of corruption are the averageof binary answers to two GWP questions:“Is corruption widespread throughout the government or not?” and “Is corruption widespread within businesses or not?”
次に、主観的な幸福度調査に用いられているのは、キャントリルラダー(Cantril ladder)と呼ばれる「11件法」で、以下のような質問に答えるものです *3:p.283。
0 の段が最も低く、10 の段が最も高いはしごを想像してください。はしごの最も高いところは、あなたが考え得る最もよい生活を意味し、はしごの最も低いところは、あなたが考え得る最も悪い生活を意味しているとします。現在あなたはどの段にいると感じますか。(0 から 10 の 11 段階)
以上のような手法や因子の妥当性も考えながら、これ以降、このレポートの内容についてみていきたいと思います。
「世界幸福度レポート2020」からみえてくるもの
ここでは、2020年3月20日に公表された「世界幸福度レポート2020」の結果をみてみましょう。
~日本のランキングとその特徴~
まず、日本はこのレポートでどのような位置に置かれているのでしょうか。
残念ながら、日本は3年連続で順位を下げています。
2018年は156カ国中54位、2019年は同156カ国中58位、2020年は153各国中62位でした *2。
図1 「世界幸福度調査2020」のランキング53位-63位
出典:*1 World Happiness Report(2020) “World Happiness Report 2020” p.20
https://happiness-report.s3.amazonaws.com/2020/WHR20.pdf
図1は、 「世界幸福度調査2020」のランキングの一部で、62位の日本が含まれています。
バー内の項目は左から順に、
「 1人当たり国内総生産(GDP)」(濃いブルー)
「社会保障制度などの社会的支援」(薄いブルー)
「健康寿命」(黄色)
「人生の自由度」(薄いオレンジ)
「他者への寛容さ」(濃いオレンジ)
「国への信頼度」(ピンク)
「各因子の数値が最低の国(ディストピア)よりどれだけ良いか」(ラベンダー)
によって表されています。
この図から、日本は特に、「他者への寛容さ」が低いという特徴があることがみてとれます。
ピンクの左隣の濃いオレンジの部分がそれにあたりますが、よくよく見ないとその存在がわからないほどです。
では、この「他者への寛容さ」は幸福度にどのような影響を与えると考えられているのでしょうか。
このレポートでは、先ほどみた6因子が、ポジティブな感情、あるいはネガティブな感情に影響を与えるかどうかの分析結果も報告されています *2。
その結果をまとめると、以下のようになります。
1) ポジティブ感情にもネガティブ感情にも有意な影響を及ぼすもの
● 社会的支援
● 人生の自由度
2) ポジティブ感情にのみ有意な影響を及ぼすもの
● 他者への寛容さ
3) ネガティブ感情にのみ有意な影響を及ぼすもの
● 国への信頼度
4) ポジティブ感情にもネガティブ感情にも有意な影響を及ぼさないもの
● 1人当たりGDP
● 健康寿命
上の 4) は意外な気がしますが、ここでは「他者への寛容さ」にフォーカスしましょう。
今問題にしている因子「他者への寛容さ」は 2) の「ポジティブ感情にのみ有意な影響を及ぼすもの」に含まれます。
以上のような分析結果をみるかぎりでは、「他者への寛容さ」が日本人のポジティブ感情を押し下げているようにみえます。
ただ、この「他者への寛容さ」という因子の内容は、先ほどみたように、
「過去1か月間に慈善団体に寄付したことはありますか?」
という質問への回答の平均値を基にしたものです。
以下の図2は、日本を含む4カ国の個人寄付額とGDPに占める割合を比較したものです。
図2 個人寄付総額と名目GDPに占める割合 (2016年)
出典:*4 日本ファンドレイジング協会(2017)「インフォグラフィック<寄付白書2017」 p.11
https://jfra.jp/wp/wp-content/uploads/2017/12/2017kifuhakusho-infographic.pdf
この図からも、日本の寄付総額が少ないことが確認できます。
「世界幸福度レポート2020」の「他人への寛容さ」の回答にもこのような状況が反映されていると考えていいでしょう。
ただ、寄付行為が日常的なものかどうかは宗教や社会文化、社会制度によって異なります。
例えば、キリスト教徒が多い国であれば、寄付は日常的な行為でしょう。
キリスト教では旧約聖書での教えに従い、収入の最低10%は献金することが慣わしになっています。
日本でも人気のあったアメリカドラマ「大草原の小さな家」の中で、毎週日曜日、住民が教会に行くと、礼拝堂の中で献金箱が回ってくるシーンを記憶されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
寄付に対する社会通念上の捉え方は国によって異なり、さらに実際的なことをいえば、寄付を対象とした税制も異なります。
そのような文脈でこの因子を考えると、寄付文化が定着しているかどうかや、社会制度の多様さを考慮せずに、すべての国を同じ尺度で測ろうとするのには無理があるのではないかという疑問が湧いてきます。
~ランキング上位の国々とその特徴~
上の疑問に対する答を見出すためにも、ここで、ランキング上位の国々にはどのような特徴があるのか、日本とは何が異なるのか考えてみたいと思います。
下の図3は、このレポートのランキング トップ10までの国々と日本を比べたものです。
図3 「世界幸福度調査2020」のランキング トップ10位までと日本
出典:*1 World Happiness Report(2020) “World Happiness Report 2020” p.20
https://happiness-report.s3.amazonaws.com/2020/WHR20.pdf
トップテンまでの国々には、フィンランド、デンマーク、アイスランド、ノルウェー、スエーデンなど北欧の国々が多く含まれています。
このうち、フィンランドは3年連続でトップ。
他の国々も常連です *1:p.22。
ランキング上位の国々と日本を比べると、バーの左から4つめの因子「人生の自由度」(薄いオレンジ)まではあまり大きな差がないことがわかります。
でも、それより右の因子、「他者への寛容さ」(濃いオレンジ)と「国への信頼度」(ピンク) 、「最低の国(ディストピア)よりどれだけ良いか」(ラベンダー)には大きな差がみられます。
このうち、「最低の国(ディストピア)よりどれだけ良いか」(ラベンダー)は6つの各因子がディストピアよりどれだけいいかの総和なので、ここでは考慮に入れないことにします。
すると、日本とトップクラスの国々との差異は、特に「他者への寛容さ」(濃いオレンジ)と「国への信頼度」(ピンク)に集約されることになりますが、「国への信頼度」(ピンク)だけみれば、日本は第4位のアイスランドより良いスコアだということがみてとれます。
残るは、「他者への寛容さ」。
このように、ランキング上位の国々と比較しても、「他者への寛容さ」が日本のランキングを引き下げていることがわかります。
したがって、先ほどの「寄付に関して、すべての国を同じ尺度で測ろうとするのには無理があるのではないか」という疑問はそのまま残ります。
ただ、日本でも今後はクラウドファンディングが盛んになる可能性もあり、この因子は今後、デジタル時代の影響を受ける可能性もあります。
~感情に関わる世界の傾向~
次に、このレポートが示している、感情に関わる世界全体の傾向についてみたいと思います。
図4 ポジティブな感情の変化(2006年-2019年) 図5 ネガティブな感情の変化(2006年-2019年)
出典:*1 World Happiness Report(2020) “World Happiness Report 2020” p.25
https://happiness-report.s3.amazonaws.com/2020/WHR20.pdf
図4はポジティブな感情の変化、図5はネガティブな感情の変化を表しています。
期間はいずれも2006年から2019年までです。
いずれのグラフにも3本の折れ線がありますが、それはこの調査がウエイトバック集計という方法を用いて、各国の人口の隔たりを調整しているからです。
図中の濃いブルーの線は重みをつけて調整したもの、黄色い線は世界最大の人口をもつ5カ国(中国、インド、アメリカ、インドネシア、ブラジル)を除き重みづけをしたもの、そして薄いブルーの線は重みづけをしていないものです *1:pp.23-24。
これらの図をみると、ポジティブな感情は全体に減少しているようにみえますが、その変化は緩やかです。
一方、ネガティブな感情(心配や悲しみ、怒り)は急速に増加していることがわかります。
ネガティブな感情を抱いている人の割合は、2011年に、世界の成人人口の約22%だったのが、2019年には29.3%に増加しました。
つまり、1年にほぼ1%ずつ増加したことになります。
その要因は、政治の二極化、市民紛争、宗教紛争などの不安要素であると、このレポートは報告しています *1:p.24。
次回のレポート以降には、さらにコロナ禍の影響が加わることが予想されます。
そこに注目し、世界的な連帯や相互支援につなげていけたら、このレポートの意義も深まるでしょう。
~SDGsとの関連~
ここでは、SDGsと6因子を関連付け、SDGsと幸福との関係を考察した、このレポートの試みをみたいと思います。
図6 SDGsが幸福にどう関係するかの概念モデル
出典:*1 World Happiness Report(2020) “World Happiness Report 2020” p.124
https://happiness-report.s3.amazonaws.com/2020/WHR20.pdf
図6は、SDGsの目標を5つのグループに分け、世界幸福度レポートの6因子と関連づけて、SDGsが幸福にどう関わっているのかを表したものです。
図中右側、6因子からの6本のラインが集まっているオレンジの長方形の「SWB」とは、“shape well-being” *1:p.124(幸福の形)を表します。
左側の5つのSDGsグループは、上から順に、経済(目標4、8、9)、社会(目標1、5、10)、法律(目標16)、環境的持続可能性(目標2、6、7、11、12、13、14、15)、健康(目標3)です。
図7 SDGsの開発目標
出典:*5 国際連合広報センターHP(2018)「SDGsのロゴ」
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_logo/
右側の因子は、上から順に「1人当たり国内総生産(GDP)」、「社会保障制度などの社会的支援」、「他者への寛容さ」、「人生の自由度」、「国への信頼度」、 「健康寿命」です。
このように、SDGsの目標は幸福度に関連しているとこのレポートは述べています。
したがって、SDGと世界幸福度レポートの調査・ポリシーを組み合わせ、問題解決を図ることが、持続可能な発展を加速させることになるとレポートは結論づけています *1:pp.124-125。
国際的な他の幸福度調査
これまでみてきたことから、世界幸福度レポートは、SDGsとの関連で世界の持続可能な発展を考える資料としても、意味のあるものだといえるでしょう。
でも、「他者への寛容」因子にはやや疑問が残ります。
因子(指標)が変われば、違う結果が出るのではないでしょうか。
そこで、ここでは、幸福度に関する他の国際的な調査を2つご紹介し、それらから何がわかるのか考えてみたいと思います。
~「レガタム繁栄指数(Legatum prosperity index)」~
まず、イギリスのシンクタンク、レガタムによる「レガタム繁栄指数」をご紹介したいと思います。
この調査は12の尺度によって国の豊かさを算出しています *2。
以下の表1は、その2019年のランキングですが、尺度は表の上の丸いロゴによって表されています。
左から順に、「安全と安全保障」、「個人の自由」、「権力のガバナンス」、「社会関係資本」、「投資環境」、「企業環境」、「市場へのアクセスとインフラ」、「経済体制の質」、「住環境」、「健康」、「教育」、「自然環境」です *6。
表1 「レガタム繁栄指数2019」
出典:*6 レガタム研究所「レガタム繁栄指数2019(“Legatum prosperity index2019”)」
https://www.prosperity.com/rankings
このランキングでは、日本は167カ国中19位と、先ほどの「世界幸福度レポート2020」とは大分その位置が異なります。
この表をみると、日本は、健康度が2位、教育が7位とトップレベルなのに対して、左から4つ目の「社会関係資本(social capital)」は132位と極端に下位です。
この社会関係資本は「家族以外のネットワーク(社会的なつながり)」を意味し、地域社会への「人との信頼関係や結びつき」を示す概念で、世界銀行(World Bank)も経済支援を行う地域に対して構築しています。
具体的には、ボランティアや地域活動への参加を指しますが、こうした社会参加や連帯感、互助が豊かな地域に暮らしている高齢者は、健康度が高いという研究結果もあります *2。
したがって、この社会関係資本を充実させていくことが豊かな社会の実現のために有益だといえるでしょう。
~「より良い暮らし指標(Your Better Life Index)」~
次は、OECDの「より良い暮らし指標(Better Life Index:BLI)」です。
「より良い暮らし指標」 は、暮らしを11分野に分け、それらを指標にして、OECD38カ国間の比較をしています *7-1。
この調査では、2010年以降の幸福傾向の全体的な分析に加えて、健康、主観的幸福、社会的つながり、自然資本などを含むOECDベターライフイニシアチブの15の各側面から詳細な調査を行い、各国の状況を導き出しています *7-2。
以下の図8は、「より良い暮らし指標2020」の日本の幸福度を表しています。
図8 「より良い暮らし指標2020」による日本の幸福度
出典:*7-3 OECD「Better Life Index:日本の幸福度(2018年またはデータが利用可能な直近年)」
https://www.oecd.org/statistics/Better-Life-Initiative-country-note-Japan-in-Japanese.pdf
このグラフは、それぞれの幸福度指標について、他の OECD メンバー国と比べた相対的な日本の強みと弱みを示しています。
線が長い項目ほど他の国より幸福度が高いことを、線が短いほど幸福度が低いことを示しています。
ただし、アスタリスク*がついているのは、ネガティブな項目で、反転スコアです。
つまり、それらの項目については、線が長いほど幸福度が低く、短いほど幸福度が高いことを示しています。
不平等(上位層と下位層の格差、集団間の差異、一定の水準を下回る人々などは、ストライプで表示され、データがない場合は白く表示されています *7-3。
この図から、日本の幸福度が他のOECD諸国に比べて非常に高いのは、就職率、平均余命、科学分野の学生の技能、殺人件数であることがわかります。
一方、幸福度が極端に低いのは、住宅取得能力、休暇、社会的交流、投票率です。
不平等が目立つのは、過密率、低技能の学生、負の感情バランス、性別による仕事時間の差です。
次に、表2は将来の幸福に向けた日本のリソースを表しています。
表2 「より良い暮らし指標2020」による将来の幸福に向けた日本のリソース
❶=OECD 諸国において上位、❷=OECD 諸国において中位、❸=OECD 諸国において下位。「➚」 は改善傾向 にあること、「↔」は明確な変化がないこと、「➘」は悪化傾向にあること、「…」は 2010 年以降において傾向を 決定するために充分な時系列データがないことを示す。
出典:*7-3 OECD「Better Life Index:日本の幸福度(2018年またはデータが利用可能な直近年)」
https://www.oecd.org/statistics/Better-Life-Initiative-country-note-Japan-in-Japanese.pdf
この表は、③OECD諸国において下位にある3項目のうち、「絶滅危惧種のレッドリストインデックス」と「政府の金融純資産」は悪化傾向にあり、残りの「政治における男女平等」も明確な変化がないことを示しています。
したがって、今後、これらの問題に重点的に取り組む必要があるでしょう。
以上のように、この調査の指標は、これまでみてきた「世界幸福度ランキング」や「レガタム繁栄指数」に比べて、より実際的・具体的に問題点や改善点が把握できるという特徴があります。
ただ、少子高齢化の状況を考えると、表2の「人的資本」に「若年成人労働者の人口」に関する情報がほしいところです。
おわりに
本稿では、「世界幸福度レポート」を中心に、3つの国際的な幸福度調査をみてきました。
そのプロセスでわかったことは、指標(因子)によって、みえてくることが全く違うということです。
また、それらの指標に問題がないわけでもありません。
したがって、ランキングの位置に注目するばかりでなく、それぞれの調査の特質を把握したうえで、活用方法を考え、補完的に用いることが有益だと考えます。
例えば、日本に関してみると、今回、取り上げた3つの調査から、以下のような各側面がみえてきました。
「世界幸福度レポート2020」からわかったのは、「1人当たり国内総生産(GDP)」、「社会保障制度などの社会的支援」、「健康寿命」、「人生の自由度」はランキング上位の国々とあまり差がないことです。
「レガタム繁栄指数2019」からわかったのは、健康度と教育は世界トップレベルなのに対して、ボランティアや地域活動への参加を示す「社会関係資本(social capital)」は極端に下位にあり、改善が必要であることです。
そして、「より良い暮らし指標2020」からわかったのは、就職率、平均余命、科学分野の学生の技能、殺人件数においては他のOECD諸国に比べて幸福度が非常に高いのに対して、幸福度が極端に低いのは、住宅取得能力、休暇、社会的交流、投票率であることです。
また、不平等が目立つのは、過密率、低技能の学生、負の感情バランス、性別による仕事時間の差です。このように、それぞれの調査から補完的に現状を把握することができれば、今後の改善点を知る拠り所として活用することができます。
それが、こうした調査を用いる最大のメリットといえるのではないでしょうか。
参照・引用を見る
*1
World Happiness Report(2020) “World Happiness Report 2020”
https://happiness-report.s3.amazonaws.com/2020/WHR20.pdf
*2
産業精神保健機構(2020)「世界幸福度調査World Happiness Report2020の概要と関連質問紙提供について」
http://riomh.umin.jp/happy.html
*3
環境省「主観的幸福指標の把握」http://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/F_research/3Report_3.pdf
*4
日本ファンドレイジング協会(2017)「インフォグラフィック<寄付白書2017」https://jfra.jp/wp/wp-content/uploads/2017/12/2017kifuhakusho-infographic.pdf
*5
国際連合広報センターHP(2018)「SDGsのロゴ」https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_logo/
*6
レガタム研究所「レガタム繁栄指数2019(“Legatum prosperity index2019”)」https://www.prosperity.com/rankings
*7-1
OECD「より良い暮らし指標(Better Life Index:BLI)について」https://www.oecd.org/tokyo/statistics/aboutbli.htm
*7-2
OECD(2020)「最新版 元気ですか2020 幸福の測定 」https://www.oecd-ilibrary.org/economics/how-s-life/volume-/issue-_9870c393-en
*7-3
OECD(2020)「Better Life Index:日本の幸福度2020」https://www.oecd.org/statistics/Better-Life-Initiative-country-note-Japan-in-Japanese.pdf