レアメタルは、スマホ、パソコン、エアコン、車など私たちが日常的に使っている製品に使われています。
ハイテク製品には欠かせないレアメタルですが、文字通り希少な金属で、入手困難。
そこで注目を浴びているのが、都市鉱山です。
都市にある鉱山? その鉱山からレアメタルを「発掘」する?
それはどういう意味でしょうか。
レアメタルとは
まず、レアメタルとはどのようなものでしょうか。
~レアメタルの定義~
レアメタルには明確な定義はありませんが、一般的に以下のようなものを指します *1-1。
「地中埋蔵量が比較的少なかったり、採掘と精錬のコストが高いなどの理由で流通・使用量が少ない非鉄金属」
下の表1の元素表でレアメタルを確認してみましょう。
表1 元素表
出典:*2 経済産業省資源エネルギー庁(2018)「世界の産業を支える鉱物資源について知ろう」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/anzenhosho/koubutsusigen.html
レアメタルは表中の黄色に塗りつぶしてある元素です。
レアメタルのうち、赤く塗りつぶされた17元素のグループは、「レアアース」(希土類元素)と呼ばれています。
なお、本稿では、特に区別する必要がない場合にはレアアースも含めて「レアメタル」と総称することにしますが、必要に応じてレアメタルとレアアースを区別して用います。
~レアメタルの用途~
レアメタルは私たちの身の回りのさまざまな製品に使われています(以下の図1)
図1 私たちの身の回りにあるレアメタル
出典:*3 経済産業省(2014)非鉄金属課 鉱物資源課「レアメタル・レアアース(リサイクル優先5鉱種)の現状」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/haikibutsu_recycle/pdf/026_04_00.pdf
図1のうち、現在は特に次世代自動車のEV(電気自動車)普及にともなう需要が拡大しています *2。
レアメタルは、強度を増したり錆びにくくする構造材料への添加材、発光ダイオードや電池、永久磁石などの電子・磁石材料、光触媒やニューガラスなどの機能性材料など、その用途は多岐にわたります。
また、レアアースも強力な永久磁石や固体レーザー、カラーテレビの蛍光体に使用されています *1-2。
さらに、レアメタルは、地球温暖化対策にも役立つ金属です。
CO2を排出しない新エネルギーの技術革新を「エコイノベーション」と呼びますが、その技術にも今後、さまざまな種類のレアメタルが大量に使用されることが予想されています(以下の図2) *1-1。
図2 レアメタルとエコイノベーションの関係図
出典:*1-1 NIMS 国立研究開発法人物質・材料研究機構「レアメタル・レアアース特集>レアメタル問題」
https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/probrem/risk.html
以上のように、レアメタルは私たちの日常生活においても、産業においても、また地球環境保護においても非常に重要な役割を担っています。
レアメタルに関するリスク
貴重なレアメタルですが、このレアメタルをめぐっては、大きなリスクが2つあります。
枯渇リスクと偏在リスクです。
~枯渇リスク~
まず、枯渇リスクについてみていきましょう *1-3。
NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)は、レアメタルに限らず、2050年までに多くの種類の金属が現在の埋蔵量では足りなくなると予測しています。
中には埋蔵量の数倍の使用量が予想される金属もあります。
レアメタルに絞ってみていきます。
● 2050年に現有埋蔵量をほぼ使い切るもの
モリブデン(Mo), タングステン(W), コバルト(Co), 白金(Pt), パラジウム(Pd)
● 2050年までに現有埋蔵量の倍以上の使用量となるもの
ニッケル(Ni), マンガン(Mn), リチウム(Li), インジウム(In), ガリウム(Ga)
このうち、白金(Pt)を例にして詳しくみてみましょう。
2050年までの白金の消費量と埋蔵量・採掘量は下の図3のように予測されています。
図3 白金(Pt)の消費量(左)と埋蔵量・採掘量(右)
出典:*1-3 NIMS 国立研究開発法人物質・材料研究機構「レアメタル・レアアース特集>資源枯渇リスク」
https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/probrem/dryness.html
この図の左図は年間消費量(K ton)を表しています。
右図のバーの濃いブルーは既に採掘した量を、薄いブルーは今後、必要になる量を表しています。
また、黄線は現有埋蔵量を、赤線は埋蔵量ベース(現在は採掘が困難なものも含め、現時点で確認されている量)を表しています。
白金の場合、図3のように、2050年には現有埋蔵量を使い切り、埋蔵量ベースにまで到達することが予測されています。
でも、これは一例にすぎず、既にみたように、2050年には現有埋蔵量の倍以上の使用量になると推計されているレアメタルもあります。
このように、レアメタルの枯渇はもう目の前に迫っています。
~偏在リスク~
次に偏在リスクをみていきましょう *1-4。
この偏在リスクには2種類あります。
埋蔵資源の偏在と資源消費の偏在です。
まず、埋蔵資源の偏在リスクについてみたいと思います。
レアメタルの多くは全埋蔵量の半分以上を上位3カ国で占められています。
特にレアアースについては、中国がその供給量の90%以上を占めているといわれています(下の図4)。
図4 レアメタル・レアアースの国別偏在度
出典:*1-4 NIMS 国立研究開発法人物質・材料研究機構「レアメタル・レアアース特集>資源偏在リスク」
https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/probrem/uneven.html
この図の一番、左のバーの「RE」はレアアースを示しています。
図の情報を整理しましょう。
● 1カ国の生産シェアが75%以上の資源
レアアース(RE)、トリウム(Th)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)
● 3カ国の生産シェアが80%以上の資源
パラジウム(Pd)、テルル(Te)、バナジウム(V)、タンタル(Ta)、ベリリウム(Be)、ジルコニ
ウム(Zr)、タリウム(Tl)、ビスマス(Bi)
ちなみに、図4の右から11本目のバーはコバルト(Co)ですが、コンゴが埋蔵量の多くを占めています。コンゴにおけるコバルト採掘での過酷な児童労働が現在、国際的な問題になっています。
なお、日本には、天然レアメタル資源がほとんどありません。
したがって、ほぼすべてを輸入に頼っています(以下の図5)。
図5 レアメタルの輸入割合
出典:*2 経済産業省資源エネルギー庁(2018)「世界の産業を支える鉱物資源について知ろう」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/anzenhosho/koubutsusigen.html
次に、資源消費の偏在についてみていきたいと思います *1-4。
これまでみてきたように、埋蔵資源には大きな偏在が見られますが、資源の消費も偏在しています。
レアメタルを大量に消費している国は、主に工業が盛んな先進国や大国です。
特に、日本の消費量は、世界消費量の約半分を占めているといわれています *1-2。
それは、日本がハイテクを駆使する技術立国だからです。
したがって、レアメタルの調達は日本にとって生命線です。
ここで、世界全体のレアアースのトレードフロー(貿易の流れ)をみてみましょう。
図中、矢印の太さは貿易額の大きさを表します。
青の矢印と赤の矢印がありますが、赤の矢印は青の2倍の取引があることを意味します。
図は2種類あります。
図6は精製されたレアアースの金属(磁石のネオジム等やニッケル水素電池などに使われるレアアース金属)を表しています。
図7は化合物(パネルガラス研磨に使うセリア、LED蛍光体のレアアース酸化物など)です。
図6 レアアースの金属のトレードフロー(取引額ベース)
出典:*4 SusDi 一般社団法人 サステイナビリティ技術設計機構「資源・リサイクルテータ図面集>レアアースのトレードフロー2007と2017」
http://susdi.org/wp/data/post-149/
図中のアルファベットは国名の頭文字で、日本は「JP」です。
日本に向かう赤い大きな矢印の起点はベトナムです。
最大の輸出国はかつては中国でしたが、この図からわかるように、現在はベトナムです。
これは、ベトナムでの資源開発が進んだことと、中国の国内需要が増大したことによるものと考えられます *4。
図7 レアアース化合物のトレードフロー(取引額ベース)
出典:*4 SusDi 一般社団法人 サステイナビリティ技術設計機構「資源・リサイクルテータ図面集>レアアースのトレードフロー2007と2017」
http://susdi.org/wp/data/post-149/
次にレアアース化合物は、中国から日本への取引が大きいことがみてとれます。
2番目の流れはマレーシアから中国への取引です。
イタリアから日本への取引も、中国からアメリカへの流れもみられます。
でも、図6も図7も大きな流れが日本に向かっていることを示しています。
日本はこれほどレアメタルが必要なのです。
~レアメタルの問題に対する政策~
日本は、貴重なレアメタルの安定確保のために、以下の5つの政策を実施しています *2。
① 海外資源確保の推進
② 備蓄
③ 省資源・代替材料の開発
④ リサイクル
⑤ 海洋資源開発
図8 日本の鉱物資源政策
出典:*2 経済産業省資源エネルギー庁(2018)「世界の産業を支える鉱物資源について知ろう」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/anzenhosho/koubutsusigen.html
高い産業技術力を誇る日本は、こうした政策のうち、代替材料の開発とリサイクルに強みがあります。
そこで、ここからは、既に実用段階にあり、大きなポテンシャルを秘めた、レアメタルのリサイクルにフォーカスしたいと思います。
都市鉱山とは
レアメタルのリサイクルに欠かせないのが「都市鉱山」(urban mining)というコンセプトです *1-5。
~都市鉱山のコンセプト~
都市にはレアメタルを含んだ使用済みの工業製品が大量に眠っています。
都市鉱山とは、そうした工業製品を鉱山に見立てて、その鉱山に含まれた貴重な資源を積極的に取り出そうとする試みを指す概念です。
この都市鉱山には、天然鉱山からの採掘や精錬と比較して、以下のようなメリットがあります。
● 埋蔵量が把握できて、探す必要がない。
● 加工を経て使用されたものなので、一般に天然鉱石より高品質である。
● 省資源・省エネルギーの可能性が大きい。
● CO2 発生量が大幅に少なく、低炭素社会の実現に有益である *5。
~都市鉱山の具体例~
都市鉱山の具体例として、電子機器の基板をみてみましょう。
電子機器内の基板には様々な部品が使われていますが、それぞれの各部品の中には、レアメタルが含まれています(図9)。
図9 都市鉱山の例:電子機器の基板
出典:*1-5 NIMS 国立研究開発法人物質・材料研究機構「レアメタル・レアアース特集>都市鉱山」
https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/urban-mine/index.html
以上のような都市鉱山の資源は、「都市鉱石」と呼ばれています。
~世界有数の資源国に匹敵する日本の都市鉱山~
では、日本の都市鉱山には、どのくらいの蓄積量があるのでしょうか *1-6。
以下の図10は、「全世界のレアメタルの資源供給が停止し、日本の都市鉱山だけで現在の世界需要をまかなったら何年持つか」という仮定で計算した結果です。
図10 日本の都市鉱山蓄積量/世界の年間消費量のグラフ
出典:*1-6 NIMS 国立研究開発法人物質・材料研究機構「レアメタル・レアアース特集>各種データ」
https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/urban-mine/data.html
この図をみると、世界の2~3年の消費量に相当する蓄積がある金属が多いことがわかります。
特に蓄積量が多いのは、電池材料として期待されるリチウム(Li)と触媒や燃料電池電極に不可欠な白金族(PGM)です。
このように、日本の都市鉱山には貴重な都市鉱石が大量に眠っているのです。
そうした意味では、日本は世界有数の資源国に匹敵するといっていいでしょう。
都市鉱山からレアメタルを「採掘」するためには
では、これらの都市鉱石を「採掘」するには、どうしたらいいのでしょうか *1-7。
~レアメタルを「採掘」するための手順~
レアメタルを採掘するためには、天然鉱山の採掘と同じような手順が必要です(下の図11)。
図11 都市鉱山化と天然鉱山の採鉱プロセス比較
出典:*1-7 NIMS 国立研究開発法人物質・材料研究機構「レアメタル・レアアース特集>都市鉱山の開発」
https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/urban-mine/development.html
この図のように、レアメタルのリサイクルは、① 使用済みの製品を回収し、② 資源が取り出せるように解体し、③ 不必要なものを分離・除去し、④ 目的のレアメタルだけを抽出する、という手順をふみます。
~レアメタルの再生方法~
次に、採掘したレアメタルの従来の再生方法をみてみましょう。
それは、「抽出型」と呼ばれるものです(下の図12)。
図12 「抽出型」の概要
出典:*1-7 NIMS 国立研究開発法人物質・材料研究機構「レアメタル・レアアース特集>都市鉱山の開発」
https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/urban-mine/development.html
この「抽出型」はレアメタルを廃棄物からできるだけ高純度に抽出し、素材として再生させる方法です。
ただし、この方法にはデメリットもあります。
それは、コストが廃棄物に含まれる不純物の量や内容によって異なることと、不純物の処理もしなければならないということです。
そこで、現在では、微生物を活用したレアメタルの抽出技術も開発されています *5、*6。
これは従来の抽出方法に比べてより効率的で、環境への負荷も少ない方法です。
~レアメタル採掘を阻む4つの障害とそれらの対策~
レアメタル採掘には、4つの壁があるといわれています *1-7。
1. 分散の壁
レアメタルを含んだ製品は、個々の消費者の手元にあります。
つまり、分散しているため、それらを効果的に集めなければ、リサイクルが難しいという問題です。
この問題に関して、政府はリサイクルの仕組み構築するため、実証事業を始めています。
なお、使用済み携帯電話やパソコンの回収に関しては、後ほどお話ししたいと思います。
2. 廃棄物の壁
例えば、スマホなどの小型電子機器を想定してみましょう。
貴重なレアメタルを含んでいる製品であっても、他の多くの部分はプラスチックなどでできています。
したがって、そうした製品からレアメタルを取り出すためには、レアメタルを他の素材から分離するとともに、レアメタル以外の素材の処理も考えなければならないという問題があります。
3. コストの壁
例えば、小型電子機器1台に含まれているレアメタルの量は少なく、その価格も低いため、それより低いコストでリサイクルしなければならないという問題があります。
この問題を解決するために、、NIMSが民間企業2社と共同で開発した技術があります *1-8。
小型電子機器等破解装置(下の図13)と三次元ボールミル(下の図14)です。
図13 小型電子機器等破解装置 図14 三次元ボールミル
出典:*1-8 NIMS 国立研究開発法人物質・材料研究機構「レアメタル・レアアース特集>開発技術」
https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/urban-mine/ball-mill.html
これらの技術により、小型電子機器を粉々に破砕せずに、レアメタルが含まれた基板部分などが区別できるような状態で解体し、そこから半導体チップやメッキなどを効率よく分離することができるようになりました。
これらの装置は小型で設備投資を抑えることができるため、低コストを実現することができます。
また、資源を大量に集めなくても、少量ずつ処理することができるため、1の「分散の壁」の解決法としても有益です。
4. 時代の壁
この壁は従来のリサイクルの限界を指します。
これまでのリサイクル方式から脱却し、技術開発を進めて、以上のような壁を打開することが必要です。
~レアメタル採掘に関する先進的な事例~
ここでは、企業による先進的な取り組み事例を2例、ご紹介したいと思います。
図15 ハイブリッド自動車の使用済み駆動バッテリーからレアメタルをリサイクルし、再びバッテリー材料にする事例
出典:*8-1 一般社団法人 産業環境管理協会 資源・リサイクル促進センター「レアメタルリサイクル>ハイブリッド自動車の使用済み駆動バッテリーからレアメタルをリサイクルし、再びバッテリー材料へ(本田技研工業株式会社、日本重化学工業株式会社)」
http://www.cjc.or.jp/raremetal/advanced-business-model/honda-jmc
ひとつめの事例は、効率の良いプロセス方法を開発し、量産工程で、自動車の使用済み部品からレアアースを抽出するプロセスを世界で初めて確立したものです(上の図15)。
それだけでなく、そうしてリサイクルしたレアアースをさらにバッテリー材料にするという画期的なものです。
この技術は2012年に確立し、ハイブリッド車から使用済みニッケル水素バッテリーを集めるというレアアースのリサイクルを開始しました。
その後、2013年には、リサイクルした再生レアアースを電池メーカーに供給開始しています。
2つ目の事例は、ハードディスク(HDD)とエアコン・コンプレッサーのレアアース磁石分離・回収技術の開発です。
これまで、HDD中のレアアース磁石は手作業で分解した後、分離回収する必要がありました。
そのため、コスト高となって、回収されないという状況でした。
また、エアコン・コンプレッサー中のレアアース磁石は、分解に手間がかかる上に、強力な磁場のために安全に分離回収できませんでした。
このような理由から、レアアース磁石はHDDからもエアコン・コンプレッサーからもリサイクルされずに、低価格の「雑鉄」として処分されていました。
そこで、この事業ではHDDとエアコン・コンプレッサーのそれぞれに対して、手作業をしなくても分離する装置を開発しました(下の図16、図17)。
その結果、低コストが実現し、回収した磁石は磁石製造会社に売却し、磁石の原料として再利用されています。
図16 HDDからネオジム磁石を分離・回収するシステム
出典:*8-2 一般社団法人 産業環境管理協会 資源・リサイクル促進センター「レアメタルリサイクル>ハードディスク(HDD)とエアコン・コンプレッサーのレアアース磁石分離回収技術の開発と実証(株式会社日立製作所)」
http://www.cjc.or.jp/raremetal/advanced-business-model/hitachi-2
図17 エアコン・コンプレッサーからネオジム磁石を分離・回収するシステム
出典:*8-2 一般社団法人 産業環境管理協会 資源・リサイクル促進センター「レアメタルリサイクル>ハードディスク(HDD)とエアコン・コンプレッサーのレアアース磁石分離回収技術の開発と実証(株式会社日立製作所)」
http://www.cjc.or.jp/raremetal/advanced-business-model/hitachi-2
この他、企業による先進的な取り組みは既に多数あります *8。
~携帯電話とパソコンのリサイクル状況~
最後に、私たち個々の消費者の手元にある携帯電話とパソコンの回収状況についてみたいと思います。
まず、使用ずみの携帯電話は、製造メーカーと通信業者等で構成される「モバイル・リサイクル・ ネットワーク(MRN)」が、個人情報保護に取組みながら、携帯電話の販売店で、本体、充電器、電池を自主的に無償回収しています。
最近はその動きが家電量販店や中古情報機器販売店等にも拡大し、2011年には 「携帯電話リサイ クル推進協議会」が設立されました *7:p.97。
図18 使用済み携帯電話の年度別回収状況
出典:*9 CIAJ 一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(2018)「平成29年度 携帯電話・PHSにおけるリサイクルの取り組み状況について ~回収台数は増加・回収率は横ばい~」
https://www.ciaj.or.jp/pressrelease2018/3483.html
上の図18は携帯電話の回収状況を表していますが、2017年のリサイクル活動の認知率は57.2%、事業者全体の回収率(=「事業者全体の専売店等での回収台数」÷(「専売店等での機種変更」+「任意解約数」))は15.1%でした。
また、2018年に行われた調査によると、スマートフォン保有者は処分意向(回収に協力してもよいという回答)が50%である一方、非処分意向が29%に達しています *10:p.6。
このことから、携帯電話のリサイクルに関する消費者の取り組みにはまだ改善の余地が大いにあることがわかります。
次に、パソコンの回収状況はどうでしょうか。
2003年10月以降に販売された家庭系パソコンは原則と して無料で回収し、再資源化されることになっています。
現在、家庭系パソコンは、各メーカーと一般社団法人パソコン3R推進協会が郵便事業株式会社との連携によって、全国の郵便局を指定回収場所として、「エコゆうパック」による戸口回収を実施しています *7:p.98。
図19 使用済みパソコンの年度別回収状況
出典:*7 経済産業省(2018)「資源循環ハンドブック 2018 法制度と3R の動向」p.98
https://www.meti.go.jp/policy/recycle/main/data/pamphlet/pdf/handbook2018.pdf
上の図19は使用済みパソコンの回収状況を表していますが、最近は減少傾向であることがわかります。
回収されたパソコンの2018年における資源再利用率は、デスクトップ型本体が77.5%、ノートブック型が59.9%でした *11。
◆ おわりに
以上みてきたように、レアメタルは私たちの日常生活でも、日本の基幹産業においても、また環境保全上も非常に重要な役割を担う金属です。
そのレアメタルは都市鉱山という形でまだ大量に眠っています。
企業による先進的な取り組みが進む一方で、個々人の手元にある都市鉱石の再利用はまだ普及しているとはいいがたい状況です。
今後、効率的なリサイクルシステムが構築するのを待つばかりでなく、私たち消費者もレアメタルのリサイクルに関する高い意識をもち、回収に協力する姿勢が必要です。
参照・引用を見る
*1
NIMS 国立研究開発法人物質・材料研究機構「レアメタル・レアアース特集」ホーム
https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/index.html
*1-1
レアメタル問題
https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/probrem/risk.html
*1-2
レアメタルの基礎知識
https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/study/index.htm
*1-3
資源枯渇リスク
https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/probrem/dryness.html
*1-4
資源偏在リスク
https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/probrem/uneven.html
*1-5
都市鉱山
https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/urban-mine/index.html
*1-6
各種データ
https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/urban-mine/data.html
*1-7
都市鉱山の開発
https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/urban-mine/development.html
*1-8
開発技術
https://www.nims.go.jp/research/elements/rare-metal/urban-mine/ball-mill.html
*2
経済産業省資源エネルギー庁(2018)「世界の産業を支える鉱物資源について知ろう」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/anzenhosho/koubutsusigen.html
*3
経済産業省(2014)非鉄金属課 鉱物資源課「レアメタル・レアアース(リサイクル優先5鉱種)の現状」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/haikibutsu_recycle/pdf/026_04_00.pdf
*4
SusDi 一般社団法人 サステイナビリティ技術設計機構「資源・リサイクルテータ図面集>レアアースのトレードフロー2007と2017」
http://susdi.org/wp/data/post-149/
*5
国立研究開発法人科学技術振興機構(公立大学法人大阪府立大学 大学院工学研究科 物質・化学系専攻 化学工学分野 教授 小西 康裕)「微生物を活用する都市鉱山からの 微生物を活用する都市鉱山からの レアメタルの分散型リサイクル」
https://shingi.jst.go.jp/past_abst/abst/p/10/1035/osaka510.pdf
*6
芝浦工業大学 SIT 総合研究所 レアメタルバイオリサーチセンター 研究代表者 山下光雄 (芝浦工業大学工学部応用化学科)(2016)「微生物機能を用いたレアメタル回収技術開発研究 平成 23 年度~平成 27 年度私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 研究成果報告書」
https://www.shibaura-it.ac.jp/albums/abm.php?d=429&f=abm00001272.pdf&n=%E3%83%AC%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%81%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E6%88%90%E6%9E%9C%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8.pdf
*7
経済産業省(2018)「資源循環ハンドブック 2018 法制度と3R の動向」
https://www.meti.go.jp/policy/recycle/main/data/pamphlet/pdf/handbook2018.pdf
*8
一般社団法人 産業環境管理協会 資源・リサイクル促進センター「レアメタルリサイクル」
http://www.cjc.or.jp/raremetal/advanced-business-model
*8-1
ハイブリッド自動車の使用済み駆動バッテリーからレアメタルをリサイクルし、再びバッテリー材料へ(本田技研工業株式会社、日本重化学工業株式会社)
http://www.cjc.or.jp/raremetal/advanced-business-model/honda-jmc
*8-2
ハードディスク(HDD)とエアコン・コンプレッサーのレアアース磁石分離回収技術の開発と実証(株式会社日立製作所)
http://www.cjc.or.jp/raremetal/advanced-business-model/hitachi-2
*9
CIAJ 一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(2018)「平成29年度 携帯電話・PHSにおけるリサイクルの取り組み状況について ~回収台数は増加・回収率は横ばい~」
https://www.ciaj.or.jp/pressrelease2018/3483.html
*10
CIAJ 一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(2018)「携帯電話・PHS・スマートフォンの リサイクルに関する調査 結果報告書」
https://www.ciaj.or.jp/ciaj-wp/wp-content/uploads/2018/06/data1.pdf
*11
PC3R 一般社団法人 パソコン3R推進協会(2018)「使用済パソコンの回収および再資源化実績」
https://www.pc3r.jp/association/recycle_result.html
Photo by Jonathan Riley on Unsplash