貧しい家庭を支えるためなどの理由で、世界では多くの子供が児童労働者になっています。
児童労働は子どもたちの教育の機会を奪い、身体に見合わない重労働や危険な環境での労働によって心身の健康を損ねるだけでなく、命に関わる場合もあります。
どのようにすれば児童労働を減らすことができるのか、また、先進国と児童労働の関係についてみていきましょう。
児童労働の定義とその内訳および現状
児童労働というと、文字だけを見れば「子どもが働いている」ということです。
日本でもアルバイトをしている高校生がいるではないか、社会経験にもなるのに何がいけないのか、という話になるかもしれませんが、国際的にはそれを全否定しているわけではありません。
児童労働とその人数
国際労働機関(ILO)が問題視している「児童労働」の定義は、
「15歳未満の子供が義務教育を受けないで働いているような場合」
あるいは
「16歳以上で18歳未満ではあるが、有害・危険な労働をしている場合」
の2つを指します。
また、家庭内での無給の労働も、義務教育を妨げられるような場合は児童労働に当たります。
ILOの推計によると、世界で児童労働者になっている子供の数は1億5200万人です*1。
そして、半数近くにあたる7300万人が解体現場や有毒ガスの発生する場所での仕事など「危険な」労働に従事していると推計されています。
その内訳を見てみましょう(図1)。
図1 児童労働の年齢・性別・種類の内訳
(出所:「Global Estimates of Child Labour 2012-2016」ILO)
https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/—dgreports/—dcomm/documents/publication/wcms_575499.pdf p5
実は、児童労働の半数近くは「5歳から11歳」の子どもたちです。
そして全体の7割は農業分野です。
コーヒーや紅茶、タバコなどの大規模農場で雇われている場合や、自分の家庭でカカオやコットンなど、お金になる作物を育てて家計を助けている子供もいます。
金や希少金属などを手に入れるために鉱山で働く子供もいます。
そして工業や製造業では、縫製工場やスチール・アルミ容器、カーペット、サッカーボール、皮革製品など多種多様な工場で児童労働に従事する子供たちがいます。
サービス分野としては路上での物売りや靴磨き、家事手伝いといった仕事です。
また、人身売買によって性産業に従事させられたり、ドラッグの生産・取引といった仕事、借金を返済するための奴隷労働という、「最悪の形態」での労働を余儀なくされている子供たちも存在しています。
世界に蔓延する児童労働
また、児童労働を地域別に見ると、最も多いアフリカでは5人に1人の子ども(19.6%)が児童労働に従事しています(図2)。
図2 児童労働の多い地域
(出所:「Global Estimates of Child Labour 2012-2016」ILO)
https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/—dgreports/—dcomm/documents/publication/wcms_575499.pdf p5
例えばガーナでは、早くに親を亡くしたなどの理由でカカオ農園で働く子ども達がいます。
早朝から農園でカカオの収穫作業を手伝い、全身に痛みが走るような重さのカカオを頭に乗せて農園から運び出します。
また、「学校に行かせてあげる」と声をかけられ、騙されて農家で雇われるという例もあります。
そうして丸一日中、牛や馬の放牧、カカオやイモなどの収穫に加え、水汲みなどの家事まで手伝わされるという子どものケースが、NPO法人ACEのHPでは紹介されています*2。
他にも、コットンの大産地であるインドでは、少女の児童労働が多いです。
農薬や殺虫剤の健康被害に遭いながら、親の借金の返済などのために安い労働力として雇われています。賃金は1日100円にも満たないといいます。インドでは、1リットルのミネラルウォーターで約30円です。そして、この賃金から借金も返さなければならないと考えると、いかに低賃金かがわかります。
児童労働の背景
多くの子供が児童労働に従事している背景には、いくつかの要因があります。
まず挙げられるのは貧困です。
親の収入だけでは食べていけない、あるいは親が病気で働けないとなれば、5歳の子供であってもお金を得るために何かしら仕事をせざるを得ません。
また、児童労働を当然視する風習や、地域によっては女子教育を不要と考える風潮も存在します。
問題だと考えておらず、無関心ということもあります。
あるいは近くに学校がない、通うお金がないといった理由で、働くしか道がない環境に置かれている場合もあります。
そして、グローバル化による企業の競争が激化する中で、安い労働力が求められているという背景も長きにわたって存在しています。
安い原材料をアフリカなどに求めた結果、1990年代あたりから、数々のグローバル企業に対して児童労働を含む搾取があるとの指摘が相次ぎました。
先進国の企業活動が児童労働によって支えられているという側面が明らかになったのです。
「国連グローバル・コンパクト」と企業の責任
児童労働の解消に向けた国際的な取り組みはいくつかあります。
一つは2000年に発足した「国連グローバル・コンパクト」で、世界160を超える国から、9500以上の企業が署名しています*3。
持続可能な成長のために、「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」の4分野での原則を定め実現していこうというものです。
この中で児童労働について企業がなすべきことは、サプライチェーンに対する呼びかけと監視です。
地理的に離れていると何重もの下請け構造の中で児童労働が見えにくくなっているという難しさもありますが、各企業の取り組みは進んでいます。
例えばネスレは、西アフリカのカカオ生産地で家庭訪問から始まる大規模モニタリングを実施していて、これまでに1万8000人の児童労働を特定、学校へ通えるような支援を続けています*4。
この他、サントリーも、グループ企業のサプライヤーとなっている麦芽やホップの生産者、茶葉の生産者などを直接訪問して調査しています*5。
また、世界最大のサプライヤー情報共有プラットフォームであるSedexのアセスメントを受けているサプライヤーと積極取引をする、という企業も多く存在しています。
日本でも発覚する児童労働
実はILOのレポートによると、児童労働は途上国だけで起きているのではなく、先進国でも200万人の児童労働従事者がいると推計されています。
図3 児童労働者数と国の収入の関係
(出所:「Global Estimates of Child Labour 2012-2016」ILO)
https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/—dgreports/—dcomm/documents/publication/wcms_575499.pdf p33
世界の児童労働者のうち1.3%、200万人あまりは「High Income」とされている国に住んでいます(図3-b)。
先進国でも、所得格差によって児童労働に従事する子どもがいるという現状があります。
実際、日本でも子どもが児童労働で命を落とす事故が発生しています。
2012年には群馬県の解体工事現場で働いていた14歳の男子中学生が崩れた壁の下敷きとなって亡くなった事件がありました。多くの不登校中学生が小遣い目当てや仲間を求めてこの会社で働いていることが判明しています*6。
「職場体験」という名目でしたが、実際には5000円の日当で雇用していた現実があり、15歳(達した日以後の最初の3月31日が終了するまでの児童)の雇用を禁止した労働基準法違反の状態が長く続いていました。
また、2017年には東京都内の工場の屋根で太陽光パネルの洗浄作業をしていた15歳の少女が転落死するといった事故がありました*7。こちらも、 18歳未満の労働者に「高さ5メートルを超える以上の場所で、墜落により労働者が危害を受けるおそれのあるところにおける業務」をさせてはいけないという規則に違反しています。
認識が甘く、平気で子供に危険作業をさせる雇用者が存在しているということです。これらは氷山の一角でしょう。
そのような状況で、児童ポルノなどの犯罪が相次いでいることを見ると、そこで働かされていた子どもが存在するということは明らかです。
しかし、事件や事故を通じて児童労働をしている子どもの存在は明るみに出るものの、これらは氷山の一角でしかない可能性は高そうです。
児童労働解消に向けてできることはあるか
児童労働は、その実態を表からは把握しづらいという特徴があります。
企業のサプライチェーンで児童労働が発覚した場合は、その企業も「共犯」とする考え方が今は国際的に広がっています。
そのため、サプライチェーンのコンプライアンスや可能な範囲での調査が行われるようになりました。
とはいえ、児童労働が100%関わっていないことを証明するのは難しいでしょう。
また、日本での児童労働も、人数や仕事の内容などの実態は明らかになっていません。
こうした児童労働をなくすために、自力で詳細な調査を続け、国内外の子どもたちへ支援活動を続けているNPOなどが多数存在しす。認定NPOとしては「ACE」「国際子ども権利センター」「フリー・ザ・チルドレン・ジャパン」などがあります。
こうした団体の活動に、まずは興味を持つことが第一歩です。
また、海外の児童労働の問題を解決するのに寄与するには、フェアトレード認証など、各種団体の認証を受けている商品探しをしたいものです。
参照・引用を見る
図1-3 「Global Estimates of Child Labour 2012-2016」ILO
https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/—dgreports/—dcomm/documents/publication/wcms_575499.pdf p5、33
*1 「Global Estimates of Child Labour 2012-2016」ILO
https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/—dgreports/—dcomm/documents/publication/wcms_575499.pdf p5
*2 「児童労働とは」ACE
http://acejapan.org/childlabour
*3 United Nations Global Compact
https://www.unglobalcompact.org/what-is-gc
*4 「ネスレ 児童労働への取り組みを拡張、カカオの持続可能性プログラムを拡大」ネスレ
https://www.nestle.co.jp/media/news/20191211-corporate
*5 「サステナブル調達」サントリーグループ
https://www.suntory.co.jp/company/csr/activity/service/procurement/
*6 「中学生就労死亡事故事件をめぐる事実経過」足利市資料
https://www.city.ashikaga.tochigi.jp/uploaded/attachment/25885.pdf
*7 「バイト15歳少女、工場で転落死 太陽光パネルを点検」2017年12月16日 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASKDH4GXLKDHUJHB008.html