私たちの生活に欠かせないバッテリー その進化がもたらす環境に優しい社会

バッテリーは電化製品を始めスマートフォンや電気自動車の電源としてさまざまな場所で使用されているとても身近な存在です。
バッテリーの技術進化は私たちの生活をより便利にするだけでなく、環境に優しい社会の実現にも貢献します。
この記事ではバッテリーと地球環境との関係に焦点をあて、リチウムイオン電池や全固体電池などの技術概要についても紹介します。

バッテリーの種類と技術概要
バッテリーの種類

私たちの生活に欠かせないバッテリーは、暮らしの中のあらゆるシーンで使用されています。
図1に示すように、さまざまな種類の電池が生活の中にあふれています。


図1 暮らしの中で活躍する電池
*出典1:一般社団法人電池工業会「電池の活躍の場」
http://www.baj.or.jp/knowledge/stage.html

バッテリーは民生機器用、産業用、防災器具用、自動車用などの使い道に分類され、その活用は多岐に渡ります。
バッテリーの種類には、使い切りのバッテリーと充電すれば繰り返し使えるバッテリー、燃料電池、太陽電池などがあります。(図2)

「バッテリー=電池」は、以前は家電やおもちゃなどに使用される乾電池やボタン電池などの使い切りのタイプが身近な存在でした。

近年ではスマートフォンやタブレットなどのモバイル機器に利用される、素早く充電でき耐用年数の長いリチウムイオン電池の普及が進んでいます。

図2 電池の種類
*出典2:一般社団法人電池工業会「電池の種類」
http://www.baj.or.jp/knowledge/type.html

使い切りのバッテリーを一次電池、充電すれば使用できるバッテリーは二次電池とよばれそのなかでも多様な種類のバッテリーがあります。
一次電池はアルカリ乾電池やマンガン乾電池、アルカリボタン電池など、二次電池はリチウムイオン電池や自動車用バッテリーが分類されます。

電気自動車や蓄電システムなどに使用される繰り返し使用できる二次電池は、環境問題やエネルギー問題を解決する鍵として今後導入拡大が期待されています。

今回の記事では特に繰り返し使用できるバッテリーに焦点をあててご説明していきます。

リチウムイオン電池・全固体電池とは

次に近年普及が広がっているリチウムイオン電池と次世代バッテリーとして注目されている全固体電池についてご紹介していきます。
リチウムイオン電池と全個体電池はどちらも繰り返し利用できるバッテリー(二次電池)です。リチウムイオン電池は1990年代に日本で初めて実用化されたバッテリーで、動作原理は以下の図3のようになっています。


図3 リチウムイオン電池の動作原理
*出典3:科学技術振興機構「ノーベル化学賞受賞までの道のりと未来の産業革命-リチウムイオン電池の開発経緯とこれから」
https://scienceportal.jst.go.jp/columns/highlight/20191101_01.html

リチウムイオン電池は、正極と負極、セパレーター、その間にある電解液で構成されています。リチウムイオンが電解液を介して正極から負極を行き来することで、電気を貯めたり使ったりできます。

リチウムイオン電池は充放電を繰り返してもサイクル寿命が長いこと、メモリー効果がなく継ぎ足し充電が可能などの特徴があります。
サイクル寿命とは0%の状態から充電して100%にした後、その電気を使い切ってまた0%になるまでを1サイクルとして何回使用できるかでバッテリーの寿命を表すものです。メモリー効果とは、バッテリー残量が残った状態で充電すると充電後の使用可能量が減ってしまうことで、ニッカド電池やニッケル水素電池などの他の二次電池で見られる現象です。

リチウムイオン電池はメモリー効果がないので、
「バッテリーが減ったのでとりあえず少し充電する」
といったことも可能になり利便性が高いのが特徴です。

リチウムイオン電池はモバイル機器だけでなく、電気自動車や通信、産業、エネルギー分野にまで幅広く使用され、社会インフラともいえる活躍をしています。
この功績によって、日本人研究者吉野彰さんの「リチウムイオン電池の開発」は2019年にノーベル化学賞を受賞しました。

一方でリチウムイオン電池などのバッテリーで使用されている電解質は、発火や液漏れなどのリスクが指摘されています。
これらのリスクを解決するためにより安全性の高いバッテリーとして全固体電池の開発が進められています。

全固体電池は液体の電解質を全て固体化することで、性能はそのままに安全性を高めたバッテリーです。
全固体電池はリチウムイオンを使用していることもあり、全固体電池もリチウムイオン電池の一種とも考えられます。
次の図4はリチウムイオン電池と全固体電池を比較したものです。

図4 リチウムイオン電池の全固体電池の比較
*出典4:FOCUS NEDO「低炭素社会に向けたブレークスルーに挑む次世代蓄電池」(2018)p10
https://www.nedo.go.jp/content/100881592.pdf

リチウムイオン電池に使用されている有機化合物の電解液は可燃性で、電池の温度が上昇することで発火するリスクを抱えています。
これに対して全固体電池は電解質を固体電解質に置き換えることで、耐熱性が強く真空中でも使用できるという利点があります。


表1 従来技術と全固体電池との比較
*出典5:NEDO「究極の電池、全固体リチウム二次電池の実現に向けた新しい電極-電解質界面構築手法の開発」
https://www.nedo.go.jp/content/100081167.pdf

全固体電池は液漏れをカバーする必要がないので構造や形状の自由度が高く、柔軟なバッテリーとしての活躍が期待されています。
破損や分解によるガスの発生も少ないので厳しい使用環境でも対応でき、車用バッテリーにも適しています。

バッテリーの高性能化・大容量化がもたらすものとは

バッテリーは技術開発によって、高性能化・大容量化が進み、私たちの生活をますます便利にしています。

特に繰り返し使用できる蓄電池は、自然エネルギーをより多く導入する次世代のエネルギーシステムにおいても重要な鍵を握っています。
発電量が天候に左右される自然エネルギー大量導入に関しては、電気を蓄えることのできるバッテリーは必要不可欠といってもよいでしょう。

蓄電池は余剰エネルギーの貯蔵はもちろん、電力系統の安定化、被災時の非常電源、ピークカット・ピークシフトといったさまざまな役割を持っています。

ピークカットとは電力の需要ピークを抑えること、ピークシフトとは時間帯によるばらつきを抑えることを目的とし、電気をあまり使用しない時間帯に電気をためておき電気を多く使う時間帯に使用することです。

また日本国内で導入が進められるスマートコミュニティ構想では特定のエリア内でのエネルギーの自給自足のために、蓄電池は重要な構成要素のひとつです。
図5はスマートコミュニティの構成要素の一つ、スマートハウスの構成技術です。


図5 スマートハウスの構成技術
*出典6:横浜スマートコミュニティ「スマートセルプロジェクト」
http://smart-sumai.jp/sp/pdf/new/YSCell_Project_Panel.pdf

蓄電池は昼間太陽光が発電して余ったエネルギーを貯蔵し、ピークシフトや停電時の備えとなったり電力融通や需給変動を制御する役割を担っています。

そしてバッテリーは今後普及拡大が期待される電気自動車にも使用されています。
電気自動車が搭載するバッテリーは車を走らせるだけでなく、図5のようにスマートハウスの中では蓄電池の役割も果たします。

電気自動車は従来のガソリン車とは異なり走行中に温室効果ガスであるCO2を排出しない、ゼロエミッションヴィークル(排出ガスゼロの乗り物)と言われています。
またガソリン車はガソリンが持つエネルギーの20%しか使用できないのに対し、電気エネルギーは最大80%エネルギーを使用でき、エネルギー効率が非常に高いことも特徴です。


図6 ガソリン自動車と電気自動車の仕組み
*出典7:国立環境研究所「電気自動車は環境にやさしいの?」
https://www.nies.go.jp/social/traffic/pdf/7-all.pdf

電気自動車はエネルギーが熱となって捨てられる割合が低いため、エネルギーの有効利用が可能です。排熱の減少はヒートアイランド現象の緩和にもつながります。

図7は東京23区における人工排熱の構成比で、自動車などの交通排熱は約3割を占めています。


図7 東京23区における人工排熱
*出典8:環境省 大気環境・自動車対策報告書 「環境負荷削減技術によるCO2削減効果とヒートアイランド緩和効果」p35
https://www.env.go.jp/air/report/h22-05/03-1.pdf

そのため電気自動車は地球温暖化対策だけでなくヒートアイランド緩和にも効果が期待されています。(表2)
表2によると電気自動車とガソリン自動車を比較したCO2排出削減は74.6%、ヒートアイランド緩和効果は82.1%と大幅な削減効果があります。


表2 次世代自動車の地球温暖化対策をヒートアイランド緩和効果
*出典8:環境省 大気環境・自動車対策報告書 「環境負荷削減技術によるCO2削減効果とヒートアイランド緩和効果」p31
https://www.env.go.jp/air/report/h22-05/03-1.pdf

今後電気自動車への転換が進み約9割の車がEV化したと想定した場合、大手町や霞ヶ関などの都心エリアで0.4℃、東京23区平均で0.29℃の気温低下が試算されています。

しかし電気自動車の普及には、充電に長時間を要することや航続可能距離が短いなどの課題があります。
それらの課題をクリアするために大容量かつ急速充電が可能な新しいバッテリーの技術開発が期待されています。

さらに蓄電システムは導入コストが高いので、コスト低減の取り組みも需要な課題となっています。
蓄電池のコスト低減には本体製造にかかるコストだけでなく、設計や流通コストなどの削減も重要視されています。

家庭用蓄電池システムに関しては国内での普及を目指して、毎年目標価格を設定し大幅なコスト低減化に取り組んでいます。(図8)

図8 家庭用蓄電池システムの年度ごとの目標価格
*出典12:資源エネルギー庁「再生可能エネルギーの自立に向けた取り組みの加速化」(2018)p12
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/010_02_00.pdf

バッテリーが環境に与える影響 〜製造からリサイクルまで〜

ご紹介してきたようにバッテリーは次世代エネルギーシステムを支える重要な役割を担っており、環境に優しい社会の構築に貢献します。
一方でバッテリーは製造時にCO2を多く排出することや、廃棄が難しいなどの環境負荷に対する課題も残っています。
ここでは製造からリサイクルに至るまでバッテリーが環境に与える影響をみていきましょう。

次の図9はガソリン車とハイブリット車、電気自動車のLCAを比較したものです。

図9をみると、電気自動車に多く使用されるリチウムイオン電池のバッテリー製造や電気自動車の車両製造時には温室効果ガスが排出され、その量はガソリン車を上回っています。

図9 ライフサイクルCO2削減効果の比較
*出典9:環境省「ライフスタイルCO2削減費用対効果の比較」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/mlt_roadmap/comm/com02-03/mat03-5.pdf

LCAとはライフサイクルアセスメントのことで、製造から廃棄までのトータルでのCO2排出量を比較しています。
電気自動車は製造時のCO2排出量は多いですが、走行を含めたトータルで見るとCO2排出量は少ないことがわかります。

製造時のCO2排出を抑えるためにバッテリー製造工程における脱炭素の動きも進んでいます。ドイツの車メーカーでは車両製造において化石燃料を使用しないエネルギー源のみを用いることを表明しています。

また走行に使用する電気もCO2排出の少ない発電方法を選択することでCO2削減効果が高まります。
図10を見ても分かる通り、フランスは化石燃料を用いた発電が少ないため化石燃料を多く使用している中国と比較して電気自動車導入におけるCO2削減効果が高くなっています。

図10 電気自動車の導入効果
*出典7:国立環境研究所「電気自動車は環境にやさしいの?」
https://www.nies.go.jp/social/traffic/pdf/7-all.pdf

またリチウムイオン電池の製造にはリチウムやニッケル、コバルト、銅などが使用され、それらの鉱山資源の採掘には森林伐採などの環境破壊が伴うこともあります。
そしてバッテリーは上記のような特殊な材料や技術を使用することから廃棄、リサイクルが困難であるという課題もあります。

例えばガソリン車に搭載されている鉛蓄電池は鉛や硫酸を含むことから他の廃棄物と比較して処理が困難で、不法投棄による環境汚染のリスクもあります。
そのため使用済み自動車バッテリーの回収・リサイクルには環境の影響を考慮して、自主回収・再資源化が法律で定められています。

図11 自動車バッテリーの回収・リサイクルシステム
*出典10:資源エネルギー庁「自動車用バッテリーの回収・リサイクル推進のための方策について」(2005)p7
https://www.meti.go.jp/policy/recycle/main/data/report/pdf/0512_bat.pdf

近年普及が進んでいるリチウムイオン電池に関しても、再利用には高度な処理が必要であるため、焼却炉や電炉で焼却されているという現状があります。

図12 リチウムイオン電池の既存処理方法
*出典11:環境省「リチウムイオン電池の高度リサイクル」(2019)p4
https://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h28/pdf/3K152013.pdf

そのため焼却をせずに再利用できるリサイクル方法が研究されており、バッテリーの廃棄時のCO2排出削減とこれまで困難であった資源の再利用を目指しています。

このように、これから電気自動車などによって大量導入が予測されるバッテリーには環境に負荷を与えない製造・廃棄技術の開発が求められています。

まとめ

生活のあらゆるところで使用されているバッテリーは、私たちにとって必要不可欠な存在です。バッテリーは将来の低炭素社会の鍵となる役割を担っており、今後の技術開発が期待されています。

電気自動車に搭載される蓄電池は、2030年以降実用化を目指す革新型蓄電池の開発が進んでいます。革新型蓄電池はリチウムイオン電池はもちろん全固体電池と比較しても、エネルギー密度や安全性、耐久性の面での飛躍を可能にします。

図12 EVにおけるLIBから革新型蓄電池への飛躍
*出典4:FOCUS NEDO「低炭素社会に向けたブレークスルーに挑む次世代蓄電池」(2018)p12
https://www.nedo.go.jp/content/100881592.pdf

一方でバッテリーにはご紹介したように製造や廃棄における環境負荷などの課題も残っており、それらの解決も急がれます。
今後の技術開発によって、バッテリーは私たちの暮らしをより便利にそして環境に優しい社会へと導いてくれるでしょう。

 

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参照・引用を見る
  1. 一般社団法人電池工業会「電池の活躍の場」
    http://www.baj.or.jp/knowledge/stage.html
  1. 一般社団法人電池工業会「電池の種類」
    http://www.baj.or.jp/knowledge/type.html
  1. 科学技術振興機構「ノーベル化学賞受賞までの道のりと未来の産業革命-リチウムイオン電池の開発経緯とこれから」
    https://scienceportal.jst.go.jp/columns/highlight/20191101_01.html
  1. FOCUS NEDO「低炭素社会に向けたブレークスルーに挑む次世代蓄電池」(2018)p10
    https://www.nedo.go.jp/content/100881592.pdf
  1. NEDO「究極の電池、全固体リチウム二次電池の実現に向けた新しい電極-電解質界面構築手法の開発」
    https://www.nedo.go.jp/content/100081167.pdf
  1. 横浜スマートコミュニティ「スマートセルプロジェクト」
    http://smart-sumai.jp/sp/pdf/new/YSCell_Project_Panel.pdff
  1. 国立環境研究所「電気自動車は環境にやさしいの?」
    https://www.nies.go.jp/social/traffic/pdf/7-all.pdf
  1. 環境省 大気環境・自動車対策報告書 「環境負荷削減技術によるCO2削減効果とヒートアイランド緩和効果」p35
    https://www.env.go.jp/air/report/h22-05/03-1.pdf
  1. 環境省「ライフスタイルCO2削減費用対効果の比較」
    https://www.env.go.jp/earth/ondanka/mlt_roadmap/comm/com02-03/mat03-5.pdf
  1. 資源エネルギー庁「自動車用バッテリーの回収・リサイクル推進のための方策について」(2005)p7
    https://www.meti.go.jp/policy/recycle/main/data/report/pdf/0512_bat.pdf
  1. 環境省「リチウムイオン電池の高度リサイクル」(2019)p4
    https://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h28/pdf/3K152013.pdf
  1. 資源エネルギー庁「再生可能エネルギーの自立に向けた取り組みの加速化」(2018)p12
    https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/010_02_00.pdf

 

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