廃プラ海洋汚染問題 植物性プラスチックは救世主となるのか

食品トレーやペットボトルなど、私たちの暮らしのなかでプラスチックを使わない日はありません。
丈夫で加工がしやすいプラスチックは生活をより便利にしますが、廃棄プラスチックによる海洋汚染をはじめとしたさまざまな問題を抱えています。

そこで近年注目が高まっているのが自然に優しい植物性プラスチックです。
この記事では植物性プラスチックの役割やメリット、そして現状での環境負荷に焦点を当てて本当に環境に優しいのかを解説します。

植物性プラスチックとは 〜メリットと導入の背景〜
植物性プラスチックの定義と役割

まずは植物性プラスチックの定義についてご紹介します。
植物性プラスチックとはバイオプラスチックとも呼ばれ、生分解性プラスチックとバイオマスプラスチックに分類されます。

図1 バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの関係
*出典1:明治大学「生分解性プラスチックと海洋プラスチック問題」(2019)
http://www.isc.meiji.ac.jp/~polymer/topics/topic5.html

廃棄後に微生物によって分解されるのが生分解性プラスチック、植物などの再生可能な原料を使用しているのがバイオマスプラスチックです。

生分解性プラスチックは通常のプラスチックと同様に使うことができ、廃棄後は水と二酸化炭素に分解されて自然界へ循環します。(図2)
生分解性プラスチックは農業用マルチフィルムや土木資材、生ゴミの回収袋などに使用され用途によっては廃棄物の回収も不要になります。
そのため焼却処理も不要となり、廃棄による温室効果ガス発生抑制にもつながっています。

図2 微生物による分解〜他の分解との違い
*出典2:日本バイオプラスチック協会「生分解性プラスチックを取り巻く環境」
http://www.jbpaweb.net/gp/

一方でバイオマスプラスチックは植物などのバイオマス資源が原料です。
焼却処分することとなってもバイオマスの持つカーボンニュートラル性により、大気中のCO2濃度に影響を与えません。
さらに石油ではなくバイオマスを原料とすることで石油自体の消費を減らします。
バイオマスプラスチックは衣類やカーシート、パソコンなどに使用されています。

生分解性プラスチックとバイオマスプラスチックは原料と生分解性により、図3のように分類されます。
図3の赤の点線で囲まれる部分が植物性プラスチック(バイオプラスチック)です。

図3 バイオプラスチック、生分解性プラスチック、バイオマスプラスチックの分類
*出典3:三菱総合研究所「生分解性プラスチックの課題と将来展望」(2019)
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20190408.html

植物性プラスチックが導入され循環システムが確立されることで、従来の石油由来のプラスチックに起因するさまざまな環境問題を改善することが期待されています。
具体的には石油の使用抑制による石油資源枯渇の問題、バイオマスプラスチックのカーボンニュートラル性によるCO2排出の削減、そして生分解性による海洋プラスチック問題の解決です。
なお生分解性に関しては現状では課題が残っており、最後の章で詳しくご紹介します。
プラスチックが抱える問題とは
植物性プラスチックが導入される背景には、従来の石油由来のプラスチックが抱えている深刻な問題があります。

世界のプラスチック生産量は1960年代から2019年までに約20倍にまで膨らみ、年間4億トンとなっています。
1950年代以降に生産されたプラスチックは合計83億トンを超えますが、リサイクル率は10%にも届きません。


図4 1950年から2015年までに世界で生産されたプラスチックのマテリアルフロー
*出典3:三菱総合研究所「生分解性プラスチックの課題と将来展望」(2019)
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20190408.html

このままのペースでプラスチックの生産、消費が進むと2050年にはプラスチックは250億トン以上生産され、120億トン以上のプラスチックが廃棄されることになります。

図5 プラスチック廃棄量の予測
*出典4:環境省「プラスチックを取り巻く国内外の状況」p7
https://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-03/y031203-s1r.pdf

プラスチックは生産から流通、消費から廃棄といったすべてのプロセスにおいてCO2を排出しています。
つまりプラスチックの生産量が増加するということは、CO2排出量が増加することを意味しています。

さらにプラスチックは廃棄されても自然に分解されないため、不法投棄やポイ捨ては環境汚染につながります。そして近年問題となっているマイクロプラスチック問題ではタイヤの摩耗や洗濯で剥がれ落ちる合成繊維、塗料、洗剤などに含まれる成分なども原因となっています。意図していなくても日常生活のなかで環境汚染を引き起こしているのです。

近年ポイ捨てや不法投棄などによって捨てられたプラスチックが世界中の河川や海で発見されています。
年間480~1270万トンのプラスチックが世界の河川から海洋に流れ込んでいるのです。
プラスチック使用拡大により2050年には海洋中のプラスチックのほうが魚よりも多くなると予測されています。

図6 プラスチック量の拡大、石油消費量
*出典4:環境省「プラスチックを取り巻く国内外の状況」 p8
https://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-03/y031203-s1r.pdf

植物性プラスチックの国内外の導入状況

次に植物性プラスチックの国内外での導入状況をご紹介します。

国内の導入状況

日本国内では一般の製品においては生分解性プラスチックは「グリーンプラ」、バイオマスプラスチックは「バイオマスプラ」と呼ばれています。
日本では石油由来のプラスチック製品と区別するために識別表示制度を制定しており、グリーンプラ識別表示制度は2000年、バイオマスプラ識別表示制度が2006年に発足しています。

図7 植物性プラスチック(バイオプラスチック)識別表示制度
*出典5:.環境省「バイオプラスチック概況」(2018)p3
http://www.env.go.jp/recycle/mat052212_1.pdf

次に日本国内での植物性プラスチックの出荷量の推移です。

図8 日本の植物性プラスチック(バイオプラスチック)の出荷量の推移
*出典5:.環境省「バイオプラスチック概況」(2018)p12
http://www.env.go.jp/recycle/mat052212_1.pdf

日本の植物性プラスチックは2010年から2019年にかけて約4倍に増加しています。
特に飲料用ペットボトルや各種フィルムなどに使用されるバイオペット、レジ袋や食品容器包装などに使用されるバイオポリエチレンなどが多数を占めています。

次の図9は植物性プラスチック導入によるCO2削減効果の試算結果です。
2017年の時点で約11万トンのCO2削減効果があると試算されています。

図9 2018年度のアンケート調査及び大口事業者へのヒアリング調査結果に基づく植物性プラスチック(バイオプラスチック)によるCO2削減効果の推移
*出典6:環境省「平成31年度バイオプラスチック導入に向けた調査及びロードマップ作成にかかる業務委託報告書」(2020)p48
http://www.env.go.jp/recycle/R01_100_MitsubishiUFJ.pdf

また日本では2020年7月からスーパーやコンビニエンスストアをはじめとした全ての小売店を対象に、プラスチック製のレジ袋を有料化しました。
レジ袋の有料化では、海洋生分解性プラスチックの配合が100%のものとバイオマス素材の配合率が25%以上のものは環境に配慮されているとみなされ、有料化の対象外としています。

植物性プラスチックをめぐる海外の流れ

次に世界での植物性プラスチックの導入状況についてみていきましょう。
図10は世界の植物性プラスチックの製造能力の推計です。
この予測では2024年には242万トンに拡大するとされています。

図10 世界の植物性プラスチック(バイオプラスチック)の製造能力(2018年-2024年)
*出典7:環境省「バイオプラスチックを取り巻く国内外の状況」p6
http://www.env.go.jp/recycle/mat052214.pdf

植物性プラスチックの生産拠点としては、南米とアジアが有力視されています。

図11 植物性プラスチック(バイオプラスチック)の生産拠点別割合見込み
*出典8:農林水産省「食品の容器包装リサイクルに関すると調査」p248
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syokuhin/s_yosan/pdf/25itaku4.pdf

環境問題への意識の高い欧州では、植物性プラスチック市場は急成長しています。
EUでは2025年までに少なくとも1000万トンの植物性プラスチックを含む再生プラスチックを導入すると宣言しています。欧州のプラスチック総生産量が4900万トンなので、約20%にあたります。
そのため石油由来のプラスチックや使い捨てプラスチックの規制が進んでいます。

フランスでは2015年に成立した法律により使い捨てプラスチックのレジ袋使用を禁止、2017年以降はレジ袋以外の使い捨てプラスチック袋の使用も禁止しています。
2018年からはストローやカトラリー、食品用トレイ、アイスクリーム用容器などのプラスチック食品容器を禁止しています。

オランダでは、植物性プラスチックの量を2015・2016年から2030年にかけて37万トンに増やすことを目標としています。(図12)

図12 オランダ政府のサーキュラーエコノミー推進のための行動計画
*出典7:環境省「バイオプラスチックを取り巻く国内外の状況」p22
http://www.env.go.jp/recycle/mat052214.pdf

植物性プラスチックは本当に環境に優しいのか

ご紹介してきたように植物性プラスチックはCO2排出を抑制し、さらに海洋プラスチック問題の解決に寄与します。
しかし植物性プラスチックにはさまざまな課題も存在しています。

まず分解されて自然に還る生分解性プラスチックですが、国内で流通しているものは分解できる環境が限られています。

次の図13を見ても分かる通り、生分解性プラスチックとして多く流通しているPLA(ポリ乳酸)はコンポストでの高温多湿な環境でのみ分解が可能となり、土壌環境や水環境では分解されません。

図13 各生分解性プラスチックがコンポスト、土壌環境、水環境で発現する生分解性
*出典3:三菱総合研究所「生分解性プラスチックの課題と将来展望」(2019)
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20190408.html

海洋プラスチック問題を解決するために水環境でも分解が可能な植物性プラスチックはPHBH(ポリヒドロキリブチレート/ヒドロキシヘキサノエート)などのごく一部に限られています。
もし現在流通している生分解性プラスチックが海洋に流出したら、石油由来のプラスチックと同様に分解に何十年もかかる上に、マイクロプラスチックとなって海の生物に悪影響を与えるでしょう。
海洋プラスチック問題の解決と直結する海中で分解できる生分解性プラスチックは大量生産に至っていないのが現状です。

日本国内においてはプラスチックの廃棄処理は熱回収を含む焼却処理が主流であるため、今後の植物性プラスチックの普及が進むにあたりコンポスト化のインフラを整えることも課題のひとつです。
コンポスト化とは堆肥化処理のことで、高温多湿の状態で微生物の力を使ってプラスチックを分解し肥料を作ることです。

また植物由来のバイオマスプラスチックの主原料はトウモロコシやサトウキビといった食用植物です。
そのため今後普及が拡大することで、発展途上国の食料不安に影響をもたらす可能性も考えられるでしょう。

2019年の時点で、世界の農地面積約48億ヘクタールに対して植物性プラスチックの製造に必要な土地は0.016%ですが、2024年には約0.02%に成長すると予測されています。(図14)
今後市場がより拡大していくと食料需要との競合の可能性もあります。

図14 各生分解性プラスチックがコンポスト、土壌環境、水環境で発現する生分解性
*出典7:環境省「バイオプラスチックを取り巻く国内外の状況」p15
http://www.env.go.jp/recycle/mat052214.pdf

さらにバイオマス原料生産のために森林や草原などを栽培地に転用することで、貯蔵炭素が放出されCO2排出量が増加します。
そのため植物性プラスチックの原料調達に関しては、森林伐採や不適切な土地利用などの環境へ負荷を与える方法を回避する必要があります。

植物性プラスチックは「環境に優しい」側面はもちろんありますが、現状としてコンポスト化や分別回収などのシステムが十分に構築されていないことや、生産から廃棄までの環境に与える負荷についての課題があることも事実です。
植物性プラスチックは持続可能な方法での生産、適切な使用、そして使用後の適切な処理をしてはじめて「環境に優しい」といえるのではないでしょうか。

まとめ

循環型社会を実現するための重要な役割を担う植物性プラスチックは、普及拡大の取り組みが急がれています。
一方で自然環境では分解ができないなどの課題も残っており、今度はより分解性能の高い植物性プラスチックの開発が望まれています。

プラスチックは私たちの生活のなかで大量に消費されています。
まずはその「消費量の多さ」に注目してプラスチックの使用自体を減らすことが先決です。
つまり植物性プラスチックへの転換には、使い捨てプラスチックの削減、リユースの推進が前提となるでしょう。

 

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参照・引用を見る
  1. 明治大学「生分解性プラスチックと海洋プラスチック問題」(2019)
    http://www.isc.meiji.ac.jp/~polymer/topics/topic5.html
  2. 日本バイオプラスチック協会「生分解性プラスチックを取り巻く環境」
    http://www.jbpaweb.net/gp/
  3. 三菱総合研究所「生分解性プラスチックの課題と将来展望」(2019)
    https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20190408.html
  4. 環境省「プラスチックを取り巻く国内外の状況」 https://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-03/y031203-s1r.pdf
  5. 環境省「バイオプラスチック概況」(2018)p3
    http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-02/y031202-5r.pdf
  6. 環境省「平成31年度バイオプラスチック導入に向けた調査及びトーロマップ作成にかかる業務委託報告書」(2020)p48
    http://www.env.go.jp/recycle/R01_100_MitsubishiUFJ.pdf
  7. 環境省「バイオプラスチックを取り巻く国内外の状況」p6
    http://www.env.go.jp/recycle/mat052214.pdf
  8. 農林水産省「食品の容器包装リサイクルに関すると調査」p248
    https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syokuhin/s_yosan/pdf/25itaku4.pdf

Photo by Brian Yurasits on Unsplash

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