ガラスは地球に優しい素材? 環境負荷削減とリサイクルに取り組む日本と世界の課題とは

ガラスびんや窓ガラスなどガラスを使用した製品はわたしたちの生活のなかでも身近な存在です。
天然素材からつくられるガラスはプラスチックなどと比較して環境に優しいイメージがありますが、製造時のCO2排出などの環境負荷もあります。

この記事では身近にあるガラス製品のなかで特にガラスびんのリサイクルやリユースについての利点と問題点、そして今後の課題を取りあげます。

身近にあるガラス製品とリサイクル
ガラスのリユースとリサイクル

ガラスは珪砂やソーダ灰、石灰石などの天然資源を溶解して成形することで製造します。そのため一度使用したガラスも細かく砕いてカレットと呼ばれる原料になり、再利用されます。
建材用ガラスや自動車用ガラスは砕いてカレットにすることで、道路や建物の建材としてリサイクルされています。

ガラスのリユース・リサイクルで特に身近なのがガラスびんです。
ガラスびんのリユースの歴史は古く、ガラスが普及し始めた明治時代には回収して洗浄し再利用するシステムが確立されていました。
何度も繰り返し使用できるガラスびんはリターナブルびんと呼ばれ、最も環境に優しい容器と言われています。

現在流通しているガラスびんは、リターナブルびんと一度しか使用できないワンウェイびんに分類されます。(図1)

図1 リターナブルびんとワンウェイびん
*出典1:資源・リサイクル促進センター「ごみはどうやって生まれかわるのかな」」
http://www.cjc.or.jp/j-school/c/c-1-1.html

次に示す図2はワンウェイびんとリターナブルびんの回収システムです。
使い捨てのワンウェイびんは色別に選別した後ににガラスびんの原料(カレット)となります。

図2 ガラスびんの主な回収システム
*出典2:日本容器リサイクル協会「びんto資源」p2
https://www.jcpra.or.jp/Portals/0/resource/gather/glassbin_bunbetu.pdf

リターナブルびんはワンウェイびんと比較して原料の調達から製造、回収、廃棄までを考慮するとエネルギー消費量が大幅に抑えられ、CO2削減につながります。
図3はリターナブル容器とワンウェイ容器のエネルギー消費量の比較です。

図3 エネルギー消費量の比較(容器1本あたり)
*出典3:東京壜容器協同組合「CO2の削減効果」
http://tobin-kumiai.com/co2/index.html

1日に1本の飲料容器を使い捨てからリターナブルびんに変更することで、1本あたり約100gのCO2排出を削減できると試算されています。これは冬のエアコンの設定温度を2度下げるのと同程度の効果です。

また、サマータイム導入によるCO2削減効果は年間40万トンなのに対し、すべての飲料容器をリターナブル瓶と変更した場合CO2は78万トン削減されるとと試算されています。
なおサマータイム(夏時間)とは、夏季の日の出が早い時間に1時間時計を進めることで明るい時間を有効に活用し照明需要を抑える施策です。

また、リターナブルびんは廃棄物の削減にも貢献します。
もし全ての飲料容器がリターナブルびんになれば飲料容器の固形廃棄物排出量が89.1%が削減されます。(図4)
廃棄物が削減されれば、限りある埋立地の延命にも効果があります。

図4 固形廃棄物排出比較
*出典4:にほんガラスびん協会 「リターナブルびん」
http://glassbottle.org/ecology/returnable/

ガラスの環境負荷とリサイクルの問題点

次にガラスのリサイクルや製造過程における環境負荷についてみていきましょう。

ワンウェイびんのリサイクルでは無色、茶色、その他の色に選別されます。(図5)
廃棄されたガラスは砕いてカレットを作るので、色が混ざったり異物の混入があるとリサイクルができません。
またびんのキャップなど異物が混入すると不良品の原因になります。

図5 ガラスびんの色選別
*出典5:ガラスびんリサイクル促進協議会「ガラスびんリサイクルの現状と課題」(2012)p7
https://www.3r-suishinkyogikai.jp/data/event/H23S4.pdf

そのため回収時の色分別の徹底や異物の排除は、ガラスのリサイクル率を上げることにつながります。
しかしガラスは他の廃棄物と比較して「重い、割れる、廉価である」といったデメリットによって住民団体による集団回収の中でも扱いが低いのが現状です。(図6)
またガラス製品自体の流通が減っていることや高齢化などにより集団回収を行うボランティアが減っていることも、ガラスびんの集団回収が減っている原因となっています。

図6 住民団体等による資源回収の状況
*出典4:日本容器リサイクル協会「びんto資源」p10
https://www.jcpra.or.jp/Portals/0/resource/gather/glassbin_bunbetu.pdf

正しい回収がされないことで、結果的にガラスの収集・選別・処理における工程が多くなりガラスが割れてしまうリスクも高まります。
リサイクルの過程で割れたガラスは色選別や異物除去が困難なので、リサイクルできなくなり最終的に埋め立てられる残渣(ざんさ)となります。
ガラスは他の廃棄物と比較して重量的なウェイトが高く、残渣が増えることは埋め立て量増加の要因にもなります。

次にガラスの製造から流通における環境負荷について見ていきましょう。
図7は一般に流通している各飲料容器のCO2発生量の比較です。
繰り返し使用できるリターナブルびんは環境に優しい一方で、使い捨てのワンウェイびんはペットボトルやアルミ缶よりも製造から廃棄にかかるまでのCO2発生量が多いことがわかります。

図7 飲料容器のCO2発生量の比較
*出典3:東京壜容器協同組合「CO2の削減効果」
http://tobin-kumiai.com/co2/index.html

またガラスはプラスチックなどの他の包装資材と比較して重量が大きく、物流効率が下がるので、CO2排出量増加の原因となります。
次の図8を見ても分かる通り、同製品をプラスチックで梱包した場合と比較してガラス製品を使用すると約10倍の重量となります。

図8 包装資材の物流時の割合
*出典6:東京都環境局 「温暖化対策へのプラスチックの貢献」(2009)p9
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/basic/conference/resource/tokyo/history_waste/index.files/kankyo3379.pdf

ガラスリサイクルの国内外の状況

次にガラスのリサイクルにおける海外と日本の状況についてそれぞれ見ていきましょう。

海外でのガラスリサイクル

環境先進国であるドイツでは、ガラスのリサイクルを含む廃棄物処理に、デュアルシステムと呼ばれる方式が導入されています。

デュアルシステムは自治体だけでなく企業によるごみ処理を並行して行う方法です。
デュアルシステムを担うデュアルシステムドイツ社(DSD社)は飲料メーカーや容器の製造元、輸入業者などの容器の製造に関する企業によって運営されています。

つまり容器のリサイクルはその容器の販売に関わる人たちの責任によって処理する仕組みとなっています。

図9 DSD社による分別収集・リサイクルの仕組み
*出典7:環境省「諸外国における容器包装の回収・リサイクルに関する状況」p3.7
https://www.env.go.jp/recycle/report/h16-02/mat03.pdf

ガラスびんの収集はDSD社によって行われ、市民は街頭に設置されたコンテナへ色別に排出します。
自治体のごみ回収は有料なのに対してDSD社のゴミ回収は無料であり、家計へのメリットがあるところも日本との違いです。

またドイツではワンウェイ飲料容器の強制デポジット制、リターナブル飲料容器の自主デポジット制度が導入されています。デポジットとは購入する際に決められた金額を支払い、容器をお店に返却する際に返金される仕組みです。
ドイツのリターナブルガラスびんは40〜50回のリユースに耐えられるように設計されています。

次に紹介するスウェーデンはガラスびんとアルミ缶、ペットボトルのリサイクル率が国際的に見て高い国です。
ガラスびん(330ml)のリサイクル率はなんと98%となっています。

図10 スウェーデンでのリサイクル率
*出典9:資源・リサイクル促進センター「スウェーデンのデポジット制度」(2014)
http://www.cjc.or.jp/j-school/c/c-8-5.html

スウェーデンでもドイツと同様に販売時のデポジット制度が導入されており、びんのリユースは法律によって義務付けられています。
ガラスびんのデポジット制度は世界の様々な国で導入されており、リユース率の向上に貢献しています。

国内でのガラスのリサイクル状況

日本では海外とは異なりリターナブルびんのリユースではなく、ワンウェイびんのリサイクルの比重が高くなっています。

図11はリターナブルびんとワンウェイびんの使用割合です。
日本ではリターナブルびんよりもワンウェイびんの方が多く使用されていることがわかります。

図11 使われているガラスびんの割合
*出典1:資源・リサイクル促進センター「ごみはどうやって生まれかわるのかな」
http://www.cjc.or.jp/j-school/c/c-1-1.html

次に日本のリターナブルびんのリユース回数にも注目してみましょう。

図12 リターナブルびんがリユースされる回数(2012)
*出典1:資源・リサイクル促進センター「ごみはどうやって生まれかわるのかな」
http://www.cjc.or.jp/j-school/c/c-1-1.html

図12によると日本のリターナルビンのリユース回数は平均9回、40〜50回リユースされるドイツと比較するとかなり少ないですね。日本は海外と比較してガラスびんリユースの意識が低いことや、回収システムが上手く機能していないことが窺えます。

さらにリサイクルにおいては「選別」ではなく「分別」に頼る方法となっています。
分別とは分けて捨てること、選別とは回収されたあとに廃棄施設の機械などによって分けることを指します。
つまり日本のガラスびんのリサイクルでは、ゴミを捨てる市民一人一人の分別意識に頼るアプローチとなっています。

次の図13はガラスびんのマテリアルフローです。

図13 ガラスびんのマテリアルフロー
*出典2:日本容器リサイクル協会「びんto資源」p17
https://www.jcpra.or.jp/Portals/0/resource/gather/glassbin_bunbetu.pdf

マテリアルフローを細かくみていくと、家庭、飲食店で捨てられるワンウェイびんのなかで資源回収できない空きびんは年間221千トンにものぼっていることがわかります。
さらに細かく割れていて色分けができていないことで回収後に残渣として捨てられるガラスは年間211千トンです。

日本のガラスリサイクルにおいてはそもそもびんの回収が不十分であるということと、残渣となって埋め立てられるガラスの量が多いことが課題といえるでしょう。

ガラスの環境負荷低減への取り組み 〜製造から廃棄まで〜

最後にガラスの製造から廃棄までの環境負荷低減の取り組みをご紹介します。

ガラスびんや板ガラスなどの製造は高温での融解が必要となるため、エネルギー消費も多くなっています。
日本のガラス産業では、製造・廃棄設備の集約や省エネ設備・自然エネルギーの導入などによりCO2排出削減に取り組んでいます。

図14 CO2排出量の推移
*出典10:ガラス産業連合会「ガラス環境白書」(2020)
http://www.gic.jp/hakusho/01.html

そのほかガラスを砕いたカレットを90%以上使用したエコロジーボトルの普及も進んでいます。
以下図15を見ても分かる通り、カレット使用率が高くなればなるほど燃料エネルギーを削減でき、CO2削減効果があります。
そのほか大気汚染物質であるNOxやSOxの削減は酸性雨や光化学スモッグなどの環境問題解決にも貢献します。

図15 カレット利用比率の大気系排出物量への影響
*出典11:日本ガラスびん協会「エコロジーボトル」
http://glassbottle.org/ecology/eco/

またガラスの欠点である重さを改良するため、ガラスびんの軽量化も進んでいます。

図16 牛乳びんの軽量化
*出典12:環境省「ガラス容器製造業における地球温暖化対策の取組」(2016)p11
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/seishi_wg/pdf/h28_001_09_01.pdf/

ガラスびんの軽量化は資源や廃棄物の削減だけでなく、製造時や輸送時におけるCO2排出削減のメリットがあります。
軽くて持ちやすくなることで、リターナブルびんの普及がすすむことも期待されます。

まとめ

ガラスは環境に優しい側面もありながら、製造過程におけるCO2排出や「重い、割れる、廉価である」のデメリットからリサイクルが進まないなどの課題もあります。

特にガラスびんに関してはリサイクルの前にリユースを優先することが重要ではないでしょうか。
そのためにはリターナブルびんの使用促進が鍵となるでしょう。

リターナブルびんは以下の図17のようなRマークがついています。

図17 リターナブルびんのシンボルマーク
*出典13:日本ガラスびん協会「リターナブルびん」
http://glassbottle.org/ecology/returnable/

ガラス製品を使う私たちができるアクションは、リターナブルびんの認証マークのついた商品を選択すること、廃棄の際はガラスびんを正しく色に分けて分別することです。
何度も繰り返し使用できるガラスをゴミに変えてしまわないように、私たち一人一人の意識や行動が大切です。

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参照・引用を見る
  1. 資源・リサイクル促進センター「ごみはどうやって生まれかわるのかな」」
    http://www.cjc.or.jp/j-school/c/c-1-1.html
  1. 日本容器リサイクル協会「びんto資源」p2
    https://www.jcpra.or.jp/Portals/0/resource/gather/glassbin_bunbetu.pdf
  1. 東京壜容器協同組合「CO2の削減効果」
    http://tobin-kumiai.com/co2/index.html
  1. にほんガラスびん協会 「リターナブルびん」
    http://glassbottle.org/ecology/returnable/
  1. ガラスびんリサイクル促進協議会「ガラスびんリサイクルの現状と課題」(2012)https://www.3r-suishinkyogikai.jp/data/event/H23S4.pdf
  2. 東京都環境局 「温暖化対策へのプラスチックの貢献」(2009)p9
    https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/basic/conference/resource/tokyo/history_waste/index.files/kankyo3379.pdf
  1. 環境省「諸外国における容器包装の回収・リサイクルに関する状況」7
    https://www.env.go.jp/recycle/report/h16-02/mat03.pdf
  1. 資源・リサイクル促進センター「ドイツの3R」
    http://www.cjc.or.jp/j-school/c/c-8-16.html
  1. 資源・リサイクル促進センター「スウェーデンのデポジット制度」(2014)
    http://www.cjc.or.jp/j-school/c/c-8-5.html
  1. ガラス産業連合会「ガラス環境白書」(2020)
    http://www.gic.jp/hakusho/01.html
  1. 日本ガラスびん協会「エコロジーボトル」
    http://glassbottle.org/ecology/eco/
  1. 環境省「ガラス容器製造業における地球温暖化対策の取組」(2016)p11
    https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/seishi_wg/pdf/h28_001_09_01.pdf/
  1. 日本ガラスびん協会「リターナブルびん」
    http://glassbottle.org/ecology/returnable/

 

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