自然電力は「青い地球を未来につなぐ。」という存在意義を掲げています。この目的を共にする、11人のチェンジメーカーたちがいま考えることを探求するシリーズ「The Blue Project」。第三回は、今年で設立30年を迎えたヘアーサロン「TWIGGY.」のオーナーであり美容のみならずさまざまな領域で活躍する松浦美穂さん。松浦さんが自然環境や仕事において大事にしているものはいったい何なのでしょうか。
呼吸をとりもどす
――松浦さんはどんなときに自然とのつながりを意識されますか?
朝起きた瞬間から、毎日ですよね。自宅の小さな庭で野菜をつくっているので、朝起きて水をやりにいくだけでも強く自然を感じます。もっとも、初めて自然を意識したのはロンドンへ移住した20代のころだった気がします。パンクをはじめとするカルチャーに憧れてロンドンへ行ったんですが、毎朝公園で散歩するようになり自然を意識するようになって。移住した当初は時間にも余裕があったので、朝起きてカフェに行こうとか公園に行こうとか、日常のなかに自然があることに気づけたんです。そこからアフリカやインドにも行くようになって、どんどん自然への関心が強まったように思います。
――家に菜園があると自然も身近に感じられそうですね。
家庭の中に自然はありますからね。オーガニックなものに興味をもち始めたのも、ロンドンの生活がきっかけでした。友達がものすごくストイックなヴィーガンで、わたしと正反対だったので惹かれてしまって。いまでは食材や調味料など家の中にあるものは基本的にオーガニックなものにしていて、家の中に自然の環境を取り入れようとしています。
――COVID-19によって自然を意識する人も増えていますが、松浦さんの場合はいかがですか ?
家の中に十分自然を取り入れていたのに、外にばかり求めていたんだなと気づかされました。時間的にも余裕ができたことで、ある意味ロンドンを初めて訪れたときと同じ気持ちに戻れました。忙しいとどうしても呼吸が浅くなってしまう。今回のCOVID-19を通じてもう一度深呼吸できる状態に戻れたのかなと。わたし自身のこれまでを振り返ってみても、大きなプロジェクトのオファーが来るタイミングで怪我や親族の死など大きな出来事が起きていた気がして、常に成功と挫折が背中合わせになっていました。だから自然や社会の変化に対しても単に怯えるというよりは新しいものを迎えて成長できるとよいのかなと思っています。
TWIGGY.では2年半前から自然電力のでんきを使っています。
中庸でいること
――気候変動などの問題も生じているなかで、今後人間は自然とどう向き合っていくべきでしょうか。
自然との付き合い方にわかりやすい答えはないわけで、なにか偏った方向に進むのではなく、中庸の精神を取り戻すことが重要ですよね。日本人はなにかと忖度できることがいい面でもあったけれど、そこから離れて中庸に生きていくことがわたしたちの未来には合っているのかなと思っています。
――中庸の考え方は、環境問題にどう対応するか考えるうえでも大きな意味がありそうですね。
正解がないなかでも自分のいる状況を理解し、楽しんでいけるといいですよね。東日本大震災のあとにさまざまなお坊さんに会って話を聞いていたんですが、曼荼羅を見ても人間の人生はある程度定まっていて、そのなかで役割を果たせるかどうかが問われている。自分の判断基準としては、わたしが何かすることで人の笑顔が増えるかどうかも大事なんです。髪を切ったことで「ありがとう」と喜ばれるだけでわたしの元気は100倍になりますし、つねに生かされている感覚がある。自分が人の役に立つことで感謝に限らず嬉しいや楽しい、幸せという感情を引き起こしていけたらいいですね。
――自然電力との関係も、そういう意識のなかで始まったものなんでしょうか。
自然と共存できる人間のあり方を探していくために、太陽光パネルを屋上に設置して再生可能エネルギーの自家消費を最初は考えていて。ただ、太陽光パネルの設置にかなりお金がかかることを知ってまわりの人に相談していくなかで、自然電力さんを紹介してもらいました。単に地球温暖化を防ぐことを目指すのではなくて、そのうえで人間に優しい世界や人間が環境を助けるとともに環境から助けられるような関係性をつくっていきたくて、まずは自分ができることから始めてみようと思いました。
TWIGGY.の屋上には菜園があり、夏は野菜が育てられることも。
愛を忘れないようにする
――再生可能エネルギーへシフトする人や企業も増えていますが、30年後の社会や人間は自然とどのような関係を結んでいると思いますか?
もちろん自動車が生ゴミを燃料に走っていたり、すべてが再生可能エネルギーで動いている社会が実現されていることも重要ですが、太陽や水など自然に感謝できる社会が続いていてほしいですよね。たしかに技術の発展によって解決できる問題はたくさんあるけれど、技術だけに着目しているとそこにあったはずの人間的な愛を忘れてしまう。わたしは自分がどれくらい人を愛せたかが人生の結果だと思っているので、いま自分が愛している人たちが30年後も幸せであってほしいなと思います。
――単に問題が解決された社会を想像することだけでなく、人間的な要素を忘れないことが大事なのだ、と。
愛を忘れてしまうなら、何でもAIや技術で置き換えればいいという話になってしまいますから。なんでもコントロールしようとしたり開発を進めたりするだけではなくて、自然とのシェアによってわたしたちが生かされていることを意識していきたい。これまでは単に人間が生活しやすい環境をつくることばかり進めていたけれど、環境にとっても気持ちのいい生活をつくっていけるような段階に来ている気がします。
――TWIGGY.に冠された「your sanctuary」という言葉は、そういう生活や環境ともつながるなと思いました。
みんなが帰ってこられる場所をつくりたいんですよね。その意識は30年前にTWIGGY.をオープンしたときからブレていません。もちろん自分の行動がブレるときはあると思うけれど、真ん中にあるものは変わっていない。とくに近年は社会の変化も激しくてブレてしまう人も多いと思うんですが、変わったとしても最終的に戻ってこられる場所でありたいんです。
松浦さんはラジオをはじめ多くのメディアで積極的に情報発信を行なっています。
帰ってこられる場所をつくる
――単に揺らがない芯をもつだけではなくて揺れ動くことを前提とするのは、先ほど仰っていた中庸の話ともつながりそうです。
アーユルヴェーダの精神にも近いかもしれませんね。アーユルヴェーダでは人が生まれつき「ドーシャ」というエネルギーをもっていて、ヴァータ(風)/ピッタ(火)/カパ(地)という3つの要素があると言われています。わたしが最初にロンドンで勉強したときはこの3つの要素が正三角形のようにバランスよく整っているといいと言われたのですが、その後インドでアーユルヴェーダを学んだ方と話したら、人は生まれもった性質によって異なる三角形を描いていて、それぞれがもっている性質に戻れることが重要なんだと言われて。何か整った正解を目指すのではなくて、本来の自分に帰っていけることが大事なのだと気づきました。
――なるほど。そうやって帰っていく場所としてのTWIGGY.があるのだと。
それはヘアカットにもつながっています。わたしはときにその人の個性や生き方をある意味で裏切るスタイルを提案することがあるのですが、そうすることで初めてその人がどんな人か、どこに帰る場所があるのか見えてくる。意識しないと人は自分のよさに気づけませんから。ヘアカットすることは、お互いのことをもっと知っていくための手段であって、トレンドだけをつくることではないんです。あなたが戻る場所をつくるために髪を切っているというか。
――お話を伺っていて、松浦さんの活動や理念は静的なものではなくてもっとダイナミズムがあるものなのだなと感じました。
ブレることを受け入れたいし、むしろその振れ幅が大きい人の方があるべき場所に戻っていきやすい気がしています。だから環境問題へのアクションひとつとっても、怖がって躊躇するのではなく、まずは楽しんで取り組めばいいと思うんです。自然と人間の関係性も、そういうふうに揺れ動くもの。自然が人間にショックを与えることもあるし、その逆もある。わたしたちも美容師だからパーマ液やカラー剤を流すことで自然に影響を与えてしまうけれど、同時に科学の力を借りて「サスティナブル」にもなりえることもたくさんある。いまはクリエイティブなやり方で自然と人間の共存の取り組みを進められるし、多くの人とコラボレーションしていけるわけですから。
*「The Blue Project」とは、「青い地球を未来につなぐ。」という存在意義を掲げる自然電力のプロジェクト。その目的を共にするチェンジメーカーたちと、いま考えることを探求していきます。
* 黄色い照明は、自然電力の活動に賛同するLittleSunのプロダクトです。