自然電力は「青い地球を未来につなぐ。」という存在意義を掲げています。この目的を共にする、11人のチェンジメーカーたちがいま考えることを探求するシリーズ「The Blue Project」。第五回は、NEAL’S YARD REMEDIESの代表取締役として長年にわたりオーガニック製品の文化を日本に紹介してきた梶原建二さん。梶原さんは、自然であることが一番美しいことだと語ります。
自分の健康は自分で守るもの
――梶原さんはどんなときに自然とのつながりを意識されますか?
日本で暮らしているとやはり四季の豊かさは強く感じますね。ただ、東京にいると建物や交通機関が秩序立って設計されていることが豊かさなのだと思いこんでしまう気がします。台風のように毎年生じる自然災害や四季の変化が当たり前のものではなくなったことで窮屈に感じられ、多くの人は自然の不便さのなかにこそ幸せを見出すようになっているのではないかと。
――梶原さんは10年ほどロンドンで暮らしていたと伺いましたが、イギリスと日本の差を感じることはありましたか?
ロンドンは四季の変化が少ないものの、自然と生活の距離が近いですね。都会にいてもあちこちに公園があって日常的に緑に触れられる。頻繁に自然と触れ合うからなのか、イギリスの人の自動車は泥で汚れていることが多いような気もします(笑)。土は汚れではなく都会の中でも生活のひとコマなんですね。
――COVID-19によって自然と社会の関係も変化していると言われますが、梶原さんは変化をどのように捉えているでしょうか。
もちろん働き方や事業の面では大きな変化がありましたが、自分自身の考え方はあまり変わっていません。もともとわたしは自分の健康を自分でケアすることが最も重要だと考えていて、それが幸せにもつながると思っています。COVID-19を巡っては科学的なデータがよく報じられていて、きちんとみんなが自分の健康と向き合うようになったのかどうかが見えづらい。一方的なウイルスへの対抗やワクチンの開発も重要ですが、それぞれが自分の健康を自分で守るものとして意識できることも重要でしょう。
――NEAL’S YARD REMEDIES(以下、ニールズヤード)のお客さんに変化は起きましたか?
多くのお客さんを見ていると、香りを一段と意識する方が増えたように感じます。常時マスクをつけるようになったことで、香りの大切さに気づいた人が増えたというか。単に商品を買うだけではなく香りやオーガニック製品について勉強したい人も増えていて、わたしたちが開いているオンラインスクールにも日本全国から新たに多くの方が参加してくださるようになりました。
ロンドンの暮らしから学ぶことは多かったと梶原さんは語ります。
つねにベターソリューションを探す
――自然と人間の関係は今後どう変えていくべきでしょうか。
近年はメディアで「SDGs」という言葉を見る機会が非常に増えていますが、最も重要なのは身近なところから解決できる課題を見つけることではないでしょうか。「不平等をなくす」といっても何をすればいいかわかりづらいですよね。その点、環境問題は最も身近で、わかりやすい課題だともいえる。ニールズヤードでは気候変動セミナーを開いているのですが、参加された方の多くが「こういうセミナーを受けたかったけど、どこに行けばいいのかわからなかった」と話していたのは印象的でした。アカデミアで論じられる気候変動はデータや理論の話が多くて素人からすると分かりづらい部分があり、アクティビストの方々が語るとかえって自分たちの振る舞いが間違って偽善的に思えてしまうこともある。まずは危機的な状況を煽ることではなくて、客観的な視点で状況を知ることが重要なのかなと。そのうえで、経済活動を続けながら環境問題の解決を進められるようなソリューションを選択していくべきだと思います。
――一方で、気候変動を巡るアクションは正解がなく判断が難しいようにも思います。梶原さんは普段どのように判断されていますか?
ベストソリューションは存在しないと思うので、ベターソリューションでいいと思うんです。人の住む場所、環境、条件が多様であるかぎり、すべてにおいてパーフェクトな選択は理論上存在するかもしれないけれど、リアルな世界にはほとんど存在しない。人生と同じですよね。ベストな答えを探しつづけながらも、つねによりよい状況につながる選択へチャレンジすることが重要だと思っています。自然電力さんとのつながりも社員との議論のなかで行き着きました。エネルギーの使い方を変えていけないか考えるなかで、理念のみならずコストなどさまざまな観点から検討を行なったうえで、ベターソリューションとしてたどり着いたものでした。
――30年後は人間と自然の関係性がどう変わっていると思われますか?
今後10〜20年は試練の時期が続くと思いますが、環境問題を解決するソリューションは必ず見つかると思っています。2050年の社会はクリーンなエネルギーと緑に溢れた社会になるはずで、とくに日本は世界的に見ても、ひとつの模範になりうるんじゃないでしょうか。日本の文化には「八百万の神」というように自然への敬意が染み込んでいますし、自然への尊敬や自分たちが生かされているという意識が強い。風力発電や太陽光発電は、まさに自然によって生かされているといえますよね。再生可能エネルギーは日本の精神とも調和していると思うんです。
インタビューはブラウンライスレストランで行なわれました。
美と自然は同じもの
――ニールズヤードさんがアプローチされている「美」と自然はどんな関係にあると思われますか?
美しいこととは、自然に生きることです。無理をせずその人らしく生きているときにこそ人は美しく見えるし、幸せに生きられる。美と自然は同じものだと思うんですよね。美しいから美しい生き方をしているように思えるのではなく、自然な生き方をしているからこそ美しく見える。だから極端にいえば、オーガニック化粧品を使うだけで美しくなれるとは思っていません。オーガニックなものを使うという選択をきっかけに、健康観が変わったり、植物やお花を生活に取り入れようと思ったりすることが重要なんです。化粧品を起点に意識が広がっていくことで、人は美しく見えるようになるんじゃないでしょうか。
――梶原さんはいつからそう考えていらっしゃるのでしょうか。
35年前、ニールズヤード創始者のロミー・フレイザーに初めて会ったとき、彼女がヒポクラテスの言葉をを引用しながら、医者に頼るのではなく自分が健康になろうと思ったときに初めて人は健康になれると語っていたことは印象的でした。たしかに病院に行けば病気や怪我は治療できるけれど、誰かに自分を委ねているとその人のなかで健康が育っていかない。そこから、人が健康になろうと思える選択をとっていくための製品をつくろうと考えるようになったんです。だからニールズヤードも「スキンケア」ではなく治療を意味する「レメディーズ(remedies)」をブランド名に冠しています。
NEAL’S YARD GREEN SQUAREはショップだけでなくサロンやスクールの機能ももっています
「オーガニック」はきっかけのひとつ
――多くの人々が環境問題を意識するようになった一方で、「SDGs」や「ESG」が商業的なトピックとして消費されているような印象も受けます。
Google Trendsを見ると、じつはSDGsという単語が盛んに取り上げられているのは日本くらいなんですよね。ほかの国では「オーガニック(organic)」という単語の方がよく言及されている。より身近な問題として捉えられているのだと思います。もちろんSDGsのような形でアイコン化されていくことは問題をわかりやすく伝えるうえで大いに有用ですが、一方では項目も多く、なかには観念的でわたしたちの生活から少し離れているように感じられるものもある。あくまでも重要なのは、身近なテーマをひとつでも見つけ出して深堀りしていくことではないでしょうか。
――ロンドンでは環境問題も異なったかたちで捉えられているのでしょうか。
イギリスでは2006年に経済学者のニコラス・スターン卿が「スターン報告」という気候変動に関する報告書を発表しているのですが、これを読むとイギリスの先進性を感じます。この報告書では気候変動のリスクだけではなく低炭素社会へ移行することの経済的な価値やライフスタイルを変える必要性についても論じられていて、イギリスはかなり早い段階から環境問題に取り組もうとしていたんだなと。
――梶原さんとしては、今後どのように自然と人間の関係性にアプローチしたいですか?
オーガニックな製品を販売するだけではなく、ライフスタイルを提案していきたいですね。化粧品はあくまでもきっかけのひとつで、そこから食品やモノ、考え方など、さまざまな選択肢を提示したいんです。そのために化粧品だけでなくカフェやスクールの運営も進めているので、ひとりでも多くの方に来ていただいて、どうすれば自然を生活のなかに取り入れていけるのか知っていただけたらなと考えています。
*「The Blue Project」とは、「青い地球を未来につなぐ。」という存在意義を掲げる自然電力のプロジェクト。その目的を共にするチェンジメーカーたちと、いま考えることを探求していきます。