SANUファウンダー・本間貴裕が構想する、自然環境をよりよくするための新たな生活様式 :The Blue Project #8

自然電力は「青い地球を未来につなぐ。」という存在意義を掲げています。この目的を共にする、11人のチェンジメーカーたちがいま考えることを探求するシリーズ「The Blue Project」。第八回は、「K5」や「Nui.」など話題のホテル/ホステルを数多く手掛けてきたSANUファウンダーの本間貴裕さん。自然と人間のつながりをつくるSANUの新たな事業を通じて、本間さんは自然にどう働きかけようとしているのでしょうか。

自然をストレスの“はけ口”にしない

――本間さんはどんなときに自然の存在を意識されますか?

生花や観葉植物がきれいだなと日々の生活のなかで小さな自然を感じるときもありますし、週末に裏磐梯や蓼科、千葉など地方に行けば山や海といった大きな自然を感じるときもありますね。

 

――COVID-19によって自然との向き合い方が変わった人も多いと思うのですが、本間さんの場合はいかがでしたか?

これまで一年の4分の1は海外で過ごしていたのですが、渡航が難しくなったことで日本のさまざまな地方に行くようになり、日本の自然の美しさに気づかされましたね。もはや海外に行かなくても日本だけで十分面白いと思えるようになった。くわえて、東京から出られなくなったことで、改めて東京の中だけで生きていくのは無理があると感じるようになりました。自分がSANUという人と自然の共生をテーマにしたブランドの事業を進めているからでもありますが、時間があれば意識的に自然の中へ入っていくようになりました。

 

――本間さんはさまざまな国に行かれていますが、海外と日本を比べてみて自然観の違いを感じることはあるでしょうか。

自然を大事にしようという姿勢は国を問わずみんながもっていると思いますが、欧米の人々があくまでも「資源」として自然を守ろうとしているのに対し、日本の場合は自然を擬人化しながら尊敬しているところが面白いですね。自然と人間の関係性を考えるうえで、その尊重のあり方はヒントになりそうな気がしています。

 

――具体的に、これから自然と人間の関係性はどう変わっていくべきだと思われますか?

自然を好きな人はたくさんいますが、都会のストレスのはけ口として自然が使われてしまうことも少なくありません。いままでの大型開発をベースにしたリゾートホテルの中には、その存在自体が自然を壊していってしまうものもありますよね。都会のストレスを自然の中で「消費」することによって発散する。そうではなくて、もっと身近なもの、生活の一部として自然に接していくことが重要だと思っています。もちろんペットボトルやプラスチックストローを使わないようにすることも重要ですが、まずは生活様式全般を見直していかなければいけません。

K5の廊下には柔らかい日差しが差し込みます。

よりよいインタラクションをつくる

――生活を見直そうと思っても、どんなことをすればわからない人も多そうです。本間さんは日ごろどんな判断基準をもって自然と接しているのでしょうか。

理想論ではありますが、活動を拡大すればするほど自然が回復するようなサイクルを生み出さなければ意味がないと思っています。これまでよりダメージが少ないだけではなく、プラスのインパクトをつくるビジネスモデルをつくらなければいけない。実際に、SANUでも間伐材をメインに使うことで森の活性化を行うなど、いままで以上に風や土、水が循環しやすくなるような取り組みをめざしています。いまは人間の活動が自然の消費につながっているけれど、自然とよりよいインタラクションが生まれる仕組みを資本主義のなかで達成していかなければいけません。

 

――本間さんをはじめさまざまな方が環境問題に取り組まれていますが、たとえば30年後の2050年に自然と人間の関係性はどう変わっていると思われますか?

写真家の石川直樹さんが以前書かれていたエピソードが象徴的で、彼がニュージーランドのマオリ族の森を訪れた際に、その森が美しいまま保たれているのは人間が足を踏み入れていないからではなくマオリ族の人々が森と良質なインタラクションを築いていたからだと言われたそうです。自然をリスペクトし仕組みを理解しながら知恵を発揮することで、森や海、川をより豊かにしていくような生活様式が構築されてほしいし、されるべきだと思っています。

SANUを立ち上げたことで長野や群馬などこれまで知らなかった自然の美しさに気づいたと語る本間さん。

街を変えるホテルの可能性

――本間さんは「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を」という理念を掲げ、Backpackers’ Japanでゲストハウスやホステルなど新たなスタイルの宿泊施設をつくってこられましたが、現在SANUで進められている取り組みはまさに自然と人間の関係性を変えていくものだといえそうです。

Backpackers’ Japanではクラフトマンシップのあるホテルをつくることで人と人をつなぐことをめざしていたのですが、10年取り組んできたなかで、人と人をつなぐためにはハブが必要だなと感じていました。それは音楽のときもあるし、お酒のときもある。でも、自然もかなり強力なハブになるんじゃないかと。たとえば一緒にきのこ狩りに行ったりスノーボードに行ったり山に登ったり、自然を媒介に人と人がつながることも多いですよね。なのでSANUとしてはまず人と自然の関係性をつくっていくことで、副次的に人と人のつながりを生み出していきたいと思っています。

 

――一方ではBackpackers’ JapanもSANUも宿泊施設にフォーカスしていますが、人と人のつながりを考えるうえで宿泊施設の面白さはどんなところにあるのでしょうか。

たとえば飲食店をつくるとそこにはおよそ半径数キロ以内の人々が集まると思うのですが、宿になった瞬間にそれが数千キロに広がるんですよね。海外の人も来るようになるし、はるかに多様な人々が集まる場所が生まれる。それにホテルが街にできるって象徴的なできごとで、街が一気に変わっていく可能性を秘めている。事実、K5のある日本橋兜町は今年の『TIME OUT』によるグローバルベストシティのなかで唯一日本から選出された街になりました。K5が今年2月にオープンし、レストランやワインバー、コーヒーショップなど多くのお店が増えて一気に街が変わっていったからだと思っています。ファッションやカルチャーの文脈にあるホテルができれば周りに同じ文脈のお店が増えていくように、たとえば自然にいいホテルができればその周りにも自然とのつながりを意識したお店がどんどん増えて街が変わっていくはずです。

K5は建物の中も外もたくさんの植物が置かれているのが特徴的です。

自然をよりよくするための仕組み

――セカンドホームや多拠点生活を提案するブランドは増えているように思いますが、SANUとの違いはどんなところにあるのでしょうか。

わたしたちSANUは多拠点生活を勧めたいわけではなく、都市に生活の拠点を置きながらもお気に入りの山や海に通い、自然と一緒に暮らしていく、自然と遊ぶことを提案したいんです。だから建物も自然にいいインパクトをもたらせる住居をゼロからつくることに挑戦しています。日常のなかで繰り返し自然に行くような生活様式を提案していくことが中心にあるんです。そのためにSANUとしては、セカンドホームをつくるブランドやホテルをつくるブランドではなく、人の生活様式を提案していくブランドとして多くの方に知られていきたいです。

 

――広がれば広がるほど自然にいいインパクトをもたらすような取り組みとは、実際にはどのようにつくっていくものなのでしょうか。

ちょうどいま建物の設計を進めているのですが、考えなければいけないことがたくさんあります。たとえば大規模な工事を行おうとすると開発許可が必要になって道路をつくらなければいけなくなるのですが、道路を敷けば自然の循環が途切れるのでべつの方法を考えなければいけない。建材についても輸送コストなどさまざまな観点から見たうえで本当に環境にいいのか検討しています。あるいは、建築のようなハードだけでなく体験やコミュニティといったソフトの面についても考えなければいけない。たとえばハワイに行って綺麗な海でサーフィンをするだけでもいい体験ですが、その帰りにビーチでローカルの人たちと一緒にゴミを拾うみたいな体験が入ることで一気に自然との関係性や思い出の深度が変わっていきますよね。

 

――技術や法制度などさまざまな条件が変動するなかで、最善の選択肢を選びつづける必要があるわけですね。

水や電気など何らかの資源を使う以上、どの観点から見ても「すべてプラスになる」ことはとても難しいと思いますが、事業全体を見て、総合的に自然にいいフィードバックをもたらす仕組みは必ずつくれると思っています。そのうえで、ぼくらのように自然へきちんとアプローチする企業の方がそうじゃない企業よりも数字としての結果を出さなければいけない。まずは人の意識を変えて、つぎに経済の流れを変える。そうなれば政治や法制度も変わっていくはずです。

 

――SANUの取り組みは射程の広いものになりそうですね。

SANUとしてはまずセカンドホームから取り組みますが、その後はホテルやマンションタイプの都市型レジデンスにも挑戦していきたいと思っています。住めば住むほど自然にいいインパクトを与えられるレジデンスで暮らし、月に数回は都市周辺のセカンドホームで身近な自然に触れ、そして年に1〜2回はアラスカやハワイ、知床などいままで見たことないような遠くて美しい自然に触れる。この3段階の行動すべてをデザインすることで、これからの自然との向き合い方をつくっていきたいんです。

 

 

*「The Blue Project」とは、「青い地球を未来につなぐ。」という存在意義を掲げる自然電力のプロジェクト。その目的を共にするチェンジメーカーたちと、いま考えることを探求していきます。

* 黄色い照明は、自然電力の活動に賛同するLittleSunのプロダクトです。

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本間貴裕 Takahiro Homma

SANUファウンダー・ブランドディレクター。福島県会津若松市出身。2010年にゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’ Japanを創業し、「ゲストハウスtoco.」「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」「K5」など6軒の宿をプロデュース、運営する。2019年代表を退任、新たに人と自然が共生する社会の実現を目指して作られたライフスタイルブランドとして福島弦と共にSANUを設立。

自然と未来が対話する。チェンジメーカーたちが今感じていること。
THE BLUE PROJECTの他インタビューはこちら。
▶︎「THE BLUE PROJECT特設ページ」


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